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1日目

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ジリリリリ……

目覚ましの音が鳴り響き、青葉健一は目を覚ました。

「くっそ、寒気がする……」

何だって男に押し倒されにゃならんのだ。

「保健室は2度といかねぇ。」

正面を見ると、やはり見覚えのある画面が出てくる。


『青葉健一(18) 身長174㎝ 体重63kg 中の上 6』


「そういや、まだ教室で昼飯食ってねえな。」

弁当がないから選択肢からは外していたが、もしかすると正解の選択なのかもしれない。

『母さんに呼ばれたので、朝食を食べる。』

「健一、ご飯よー。」

文字が出るのと同時に母さんの声が聞こえた。



「なぁ、母さん。弁当作ってくんない?」

「何言ってるの、今から作れるわけないでしょ。」

「お、おにぎりとかでいいからさ。お願い!」

具材は梅干し位しかないわよ、と渋々おにぎりを作ってくれた。

昼食としては足りないが、食べたことにはなるだろうと健一はおにぎりを持って学校に向かった。

最初の曲がり角は警察に通報して右に曲がる。
この選択はこれが正解だろう。


『眠いので保健室に行く→星野の好感度アップイベント
 教室に行く→智文の好感度アップイベント』

「これも、もう決まってんな。」

何より今は次の選択肢までいかないと何も進まない。
健一は教室へ向かった。

『智文の好感度が5上がりました。』

選択肢から表示が変わった。

授業中も表示を見ないように、今回も机に寝て昼休みまで過ごすことにした。


昼休みになり、表示が変わる。

『食堂に行く→岳の好感度アップイベント
 教室で食べる→好感度アップイベント』

健一は迷わず教室に残る。

「よし、おにぎり食うか。」

「あれ、珍しいな。健一も弁当?」

珍しいやつに声をかけらるもんだと顔をあげると、画面の文字も変わった。

『仁和正和(18) 身長170㎝ 体重62㎏ 眼鏡男子』

「おー、たまにはな。」

今までの事もあり、健一は正和に対して会話をする気はないと態度でわかるように顔を反らす。
普段ですらあまり喋る仲ではないのでこれで十分だろうと健一は思った。

しかし正和は特に気にせずに健一の席に自分のお弁当を置いて正面に座ってきた。

「僕も弁当なんだ。けど、いつも作りすぎちゃうんだ。」

健一も良ければ食べない?と差し出される。
おにぎりでは物足りないと思っていた健一にとっては魅力的な話だが、岳のこともある。

「いや、悪いんだけど俺は人から貰った物は食えないんだ。」

「何その忍者みたいな理由。」

正和が笑いながらお弁当を引っ込めてくれたことに健一はホッとし、正和との些細な会話を楽しんだ。

「健一の手って大きいよね。僕と身長あんま変わらないのに。」

「そうか?4㎝の差はでかいぞ。」

周りには他のクラスメイトもいるし、変なことは起こらないだろうと健一の気が緩んだ瞬間、耳を疑う言葉が聞こえた。

「でも、アレは僕の方が大きいと思うな。」

「は、はぁ?アレって何だよ。」

「健一の好きなアレだよ。」

正和の声がゆっくり聞こえる気がした。
目の前が揺れる、先ほどまで聞こえていたはずのクラスメイトの話し声も気づけば聞こえなくなっていた。

「催眠術って本当に出来るもんなんだね。」

「さい……みん……じゅつ……」

「完全に言うこと聞いて貰うことは難しいみたいだけどね、認識変えるくらいは簡単なんだよ。」

正和が何を話してるのか、理解が出来ない。
あたまのなかがふわふわする。

「ね、おにぎりだけだとお腹減ってるでしょ、健一の大好物のこれ、食べていいよ。」

「お、おう……助かる……」

フラフラと健一は正和の足元にしゃがみこみ、ズボンを下ろす。

「美味しい?」

「ピチャ……ペロ……苦……い……」

健一の言葉に正和は眉をしかめて、健一の頭を抑えより深く口の中に入れる。

「おかしいなぁ。もっとほら、口をすぼめて。好きでしょ?」

「すき……?……くっ……んっ……ふぅ……」

激しく頭を動かされ、息の出来ない苦しさに健一は我に返った。

「んー!んんー!!」

「あ、激しくしすぎちゃったか。でももう……くっ……」

健一は口の中の液体をすぐに吐き出した。

「おえ……ゲホッ……ハァ……ハァ」

「あー、まだやっぱりダメか。」

「お前、教室で……何させてんだ……」

助けを求めようとクラスメイトを見るも、みんな無言で空を見つめている。

「大丈夫だよ、健一ももうじきみんなと一緒になれるから。」

「誰が……なるか!」

頭を撫でようとしてきた正和をはね除け、健一は教室を飛び出した。

『正和の好感度が12上がりました。』

「くっそ……何がどうなってんだよ……」

昨日まではみんな普通だったはずだった。
なのに、薬やら催眠術やら何なんだ。

「しかも男同士だぞ……」

別にそれが悪い訳じゃないが、確率的にこの状況は異常ではないか。

「はっ、俺が一番おかしいのかもな。」

健一は重たい体を引きずって、屋上から飛び降りた。
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