ジュネ

るの

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ジュネ

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人に愛された癒しの神がいた。神が人に吐息を吹きかけると傷口が塞がり疫病が立ち去った。人は季節ごとに果実を差し出した。感謝の意を込めて。

ある日神のもとに魔女が現れた。美しい白い髪が風に泳ぐ。神の心も見透かすような瞳で彼の目を見つめる。口元に笑みを浮かべ何も言わずに手を差し出した。神は魔女の手を握る。そして二人は子を授かった。

赤子の名はジュネ。水色の髪。水色の瞳。肌も少しばかり青白かった。神は赤子の手首に爪を立てた。赤い血が伝う。しかし傷口はすぐ塞がった。神の血は金色だ。ジュネは神の血を強く引いていたが人間だった。

ジュネが五つのとき、母である魔女に従い怪我をした少年に触れた。すると少年の傷が治り、ジュネの手の甲に美しい花の模様が浮かび上がった。それが嬉しくて、ジュネは母と共に町を歩き、苦しんでる人の元を訪ねた。病に倒れている老人、痩せ細った少年、左腕を失った青年...。彼らに触れるたびに花が増えてゆき、人々の苦しみは打ち払われた。人は神のことを忘れジュネを愛し、果物は彼女に与えられるようになった。

蔦を巻くようにジュネの腕まで花の模様が伸びた頃、神は自身の娘に語りかけた。

ジュネよ。お前は神と魔女の血を引く人の子。その腕に巻かれた痣は呪い。お前の中にはわたしの血も流れているため寿命では死ぬまい。しかしその痣が体を埋め尽くせば、命の灯火は消えるであろう。それでもお前は人の命を助けねばならぬ。わたしの血をもって生まれた意味を忘れるでないぞ。

半身に花が咲き乱れた頃、魔女は娘に語りかけた。

ああ愛しいジュネや。腕が痛むかね。人の痛みを誰よりも知った可愛い我が子。苦しみながらも人を救う姿は健気で儚く美しい。その綺麗な半身と醜く腐りかけた半身がなんとも愛おしい。神と魔女の血を引く呪われた私の娘。笑顔を忘れてしまったのかい。痛みを顔に出しては人が恐れてしまう。さあ笑えないなら表情を殺して。今日も花を体に咲かせておいでなさい。

首に蔦が手をかけた頃、神と魔女が語りかけた。

ジュネや、もうすぐお前の役目は果たされる。お前は人を助け続けた。爛れた指に驚き悲鳴をあげた人でさえお前は助けた。痛みで立っていられない体で町をまわり病で苦しんでいる人のもとを訪ねて回った。あともう少し。あともう少し。

頬に、耳に。かつて輝いていた水色の瞳にも、漆黒の花が覆っている。ジュネの全身が花に覆われた。

ジュネは死の病に襲われた少女に会いに行った。醜いジュネを見て泣き声を上げた。少女の母は、すぐに終わるから目を瞑っていなさいと諭した。しかし少女は泣き止まない。

「死んじゃうよ!死んじゃうよ!」

少女が叫んだ。

「私を治したら、ジュネ様が死んじゃうよ!」

ジュネは驚き差し出そうとした手を止めた。盲目になった彼女には少女の表情は見えない。しばらく沈黙した後、ジュネの口元に笑みが浮かぶ。

「私のことはいいのよ」

「どうして?」

「あなたの両親は、あなたに生きろと言っている。それだけで生きる意味があるわ」

「でも」

少女が言葉を続ける前に、ジュネは少女に優しく触れた。

「どうか、健やかに」

ジュネはその元を去り、誰もいない平原で眠りについた。

その後、人の病は再び神が癒した。人はジュネを忘れ、果実は神に捧げられた。

しかし毎節、ひとつだけの果実と一輪の花が平原に落とされていた。

死ぬために生まれてきた少女に生きて欲しいと願った、たったひとりの人の贈り物。
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