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第6章 肝試し大会編
第百二十七話 「戦いの行方」
しおりを挟む地下遺跡――『ロストリメイン』。
過去に立ち入ったことのある、攻略難度の高いそのエリアでは、全身が石で出来た甲冑騎士のモンスターがいた。
奴らは何と言っても防御力が秀でていて、ライムの全力の体当たりですらほとんどダメージにはなっていなかった。
最後には騎士同士を衝突させて粉砕するという、強引な作戦で勝つことはできたのだが、今でも苦戦した記憶が脳裏に焼き付いている。
おまけにこちらが知らない”スキル”も使用してきて、身をもって難易度の高いエリアの恐ろしさを思い知らされたものだ。
ただでさえ堅い体をさらに頑丈にし、体の大きさに合わせて重量を極限まで増す、『硬化』と『加重』を合わせた技。
己を守り敵を砕く、攻防一体の絶技。
そのスキルの名は……
【超重硬化】。
「キュルルルゥ!!!」
僕のオーダーを聞いた分裂ライムは、どこか楽し気な声を空の上で響かせた。
膨張して体も膨らんでいるので、一層大きな鳴き声が僕たちの耳を打つ。
その姿を見上げている周囲のテイマーたちは、みんな揃って呆然とした顔をしていた。
それは真下にいるオーランも例外ではない。
そんな風に体が硬直していたせいだろうか、奴は僕が仕掛けた次なる攻撃を、回避することができなかった。
突如、ライムの水色の体が鋼色に輝く。
次いで放物線を描いてゆっくり飛んでいた分裂ライムが、急速に真下へ落下し始めた。
やがてゴルドレオが放った一筋の雷撃と、激しく衝突を繰り広げる。
「――ッ!?」
こちらが【自爆遊戯】を仕掛けてくると先読みして、分裂体を破壊するために放った【サンダーボルト】だったのだろうが、それは鋼色のライムにぶつかってあっけなく散ってしまった。
その光景を見上げてオーランは目を見張る。
急降下してくる巨大な分裂ライムを前に、まるで反応することができていなかった。
次の瞬間、オーランとゴルドレオが待つ地面に、『ズシンッ!』と硬化分裂ライムが落下した。
そこから土煙が吹き荒れる。
衝撃は地面を伝って僕たちの足元までやってきて、まるで地震が起きたかのような感覚を覚えた。
各々が驚きを見せる中、僕は視界が不明瞭な土煙の渦中で、じっと前方を見据える。
(まだ……終わりじゃない!)
【分裂】と【膨張】と【超重硬化】を使い、ここまでの大技を実現させた。
しかし、これで終わりではない。
おそらくまだ奴らは戦闘不能にはなっていないだろう。
土煙の向こう、分裂ライムが落下した辺りから、変わらぬ殺気が感じられる。
だから僕は気を緩めることなく、最後の攻撃に移ろうとした。
他人の従魔をひどい目に遭わせた罰のため。
僕の相棒を再三にわたって侮辱した仕返しのため。
何よりも、幼馴染であるファナの居場所を聞き出すために。
僕は心を”悪魔”にしてでも、この戦いに勝ってみせる!
すかさず僕は右手を前に突きだす。
いまだに土煙が視界を悪くする中、鋼色に光る膨張分裂ライムを見据えて、僕は躊躇するということを完全に捨て去った。
【超重硬化】に続いて、二度目のオーダーを続けざまに放つ。
「【自爆遊戯】!」
瞬間、鋼色の分裂ライムが、眩い閃光を放って大爆発を起こした。
一層の土煙が爆風に乗ってやってくる。
戦闘を見守っていたクロリアたちもそれを受け、小さな悲鳴を漏らしていた。
辺りが熱気に包まれる中、僕は頭の上に本物のライムを乗せながら、目を細めて前方を窺う。
先ほどのような強烈な殺気は感じない。
さすがにここまでやれば、奴も少なからずのダメージを負ったようだ。
落下と爆発の二連撃。
ライムの新しい技は、思いのほか上手くいったようだな。
膨張させた分裂ライムを、相手のもとまでどう到達させるか、それが長らくの課題になっていた。
爆弾は近くで起動させなければ意味がない。
そこで僕は以前に戦った石の甲冑騎士からヒントと魔石を得て、ライムに【超重硬化】を覚えさせたのだ。
これならば敵の上空に分裂ライムを抛った時点で、攻撃をヒットさせられる可能性が非常に高まる。
現にオーラン・ガルドは、分裂ライムを爆発前に破壊しようとしてきて、その隙をついて硬化ライムを直撃させることに成功した。
(これなら……)
確かな手ごたえを覚えて、心中で勝利を確信する。
我ながら鬼のような連撃を人間相手に酷使して、罪悪感が湧いてくるが、どうしても勝ちたい戦いだったので致し方あるまい。
それに金級の冒険者相手ならばこれくらいしなければ倒せていなかったと思う。
なんて言い訳がましい思いを抱きながら、密かに安堵の息を零していると……
突如、土煙を割って、オーランが疾走してきた。
「なっ――!?」
咄嗟に僕は木剣を盾のようにして構える。
そこに奴が突き出してきた手刀が刺さり、僕は後方へと押しやられた。
その衝撃で頭上のライムが地面に落ちる。
思わず僕も倒れ込みそうになりながら驚愕した。
あれを食らってまだ立ち上がることができるなんて。
見ると奴の顔には血が滲んでおり、茶色の毛に纏われた服は至る所が裂け、土に汚れていた。
すでに【サンダーエンチャント】も切れて、確かにダメージは入っているようだが、惜しいことに決定打にはなっていない。
土煙が晴れた向こう側を見てみると、ゴルドレオだけがその場に倒れていた。
ライムも分裂を使い過ぎたため疲弊しているので、これ以上相棒に戦わせるわけにはいかない。
こうなったら、僕がこの手で奴を……
「せ……やあぁぁぁぁぁ!!!」
「ウラァァァァァ!!!」
二人のテイマーが咆哮する。
互いの従魔が倒れる中、残された力は自身の肉体のみ。
木剣を振る僕と、手刀を放つオーラン。
従魔が混じらない、なんとも珍しいただの人間同士の喧嘩になっていた。
喧嘩なんて大嫌いで、ほとんど縁のないものだったけれど。
今この時だけは、絶対に負けられない。
「や……あぁぁぁぁぁ!!!」
僕は木剣を振りかぶる。
「オラァァァァァ!!!」
対してオーランは拳を握りしめる。
互いに前へ踏み出すと、目一杯の力を込めて一撃を放った。
「「あああぁぁぁぁぁ!!!」」
目の前の敵を倒す。
ただその思いだけで打ち出された木剣と拳。
全身全霊を尽くして放たれたその一撃が、唸りを上げて衝突しようとした。
その寸前――
「はいはいそこまでぇ~」
「「――ッ!?」」
突如として、何者かが僕たちの間に割って入ってきた。
ピンク色のショートヘア。細身の女性の体。白シャツに黒のベストというきっちりとした服装。
彼女は僕たちの気迫とは打って変わり、調子はずれな声を上げていつの間にか眼前に佇んでいた。
そして、ほとんど僕たちの方を見ることもなく――
左手で僕の手を掴み、右手に持っていた黒のボードで、オーランの拳を難なく受け止めてみせた。
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