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しおりを挟む「うぐ…ぅう……うう…」
涙の止まらない私に
ジャスティンが話をしてくれた。
シヴァはある日、
城の騎士団に入隊したいと
やって来たという
そう言う彼は、
身なりが汚い割には仕草に品があって
なんか訳ありか…
なんて思ったらしい。
下級隊員から始めるも、
めきめきと上達していって
今の分隊長まで登りつめたそうだ。
彼と二人で呑んだ時に
酔っぱらったジャスティンが
脱ぎ始めたのを
この国では
酒の席では脱ぐのが礼儀だと勘違いして
彼も脱いだ時に
あの刺青を見て
クラウン王国の
次期国王だと気づいたそうだ
彼は国王になるために
様々な厳しい修行に耐えていたのだが、
最初で最後の
ワガママの旅に出ていたそうだ。
その先が
この騎士団だったのは
ジャスティンの一生の誇りらしい。
次、戻ったら即位するという
約束のため
長い旅を終えて残ったのだろう。
軍事国家の
悲しく辛い
国の王は
優しい彼にとって
一生堪えねばならない
苦痛になるはずだと思うと
胸が締め付けられる。
「うう…うぐぅう…シヴァ…ぅう…」
彼を思って泣き続ける
私にジャスティンは
「もう、他の男の事で泣くな」
そう言うと
そっと胸は貸してくれる。
シヴァの分隊は
言っていた通り
ロジャーが
しばらく面倒を見る事になった。
隊員達も歩きながら涙していて、
シヴァが
いかに慕われていたのかが分かる。
もうまもなく魔王の森へと足を踏み入れる。
シヴァの思いを糧に皆
強く勇ましく戦ってくれるはずだ。
「あ!そうだ!これをお前に」
とジャスティンが
差し出されたのは小さな小瓶だった。
「おや?それは媚薬落としの薬ではないか」
興味を示したのは大賢人スワロフだ。
シヴァに
お別れの言葉を言われていないので
少し前まで
すねていたが機嫌が戻ったらしい。
「媚薬落としの薬?何に使うの?」
泣き腫らした目はまぶたが重く、
良く見えていないが、
目を細めて見てみる。
「またサキュバスの呪いが再発したらコレを飲め!発作が治まるかもしんないから。見つけるのに一晩かかったんだぞ」
どうやらコレを求めに
クラウン王国を訪ねた様だ。
確かに
魔族だらけの
魔王の森、
いちいち私が
ああなっていたら進むもんも進まない。
「ほんとに効くのそれ~?」
とテンションだだ下がりの金髪ウェーブが聞いた。
「…かもしれないってだけだけど、
一応持っててくれ」
渡された小瓶は見たことがない色をしていて、あきらかにまずそう。
折角ジャスティンがくれたし
気休めにでもなれば
良いと思って受け取った。
ーーーーー
ーーー
ー…
この世の物とは思えない木々が生えているココは
目的地の魔王の森
私達はやっとここまでたどり着いたのだ。
ごくり
と生唾を飲み込み
その怪しげな森へと踏み出していく。
しばらく歩くと
ザワザワ…
と木々が大きく揺れたと思えば
すぐにモクモクと霧が充満してきた。
「…ナニコレ臭いっ」
何かが腐ったような臭いが
強烈で呼吸が苦しくなる。
「…ゲホッ…ゲホッ…」
霧が晴れたと思えば
目の前にナニかが表れた。
「ようこそ。魔王の森へ」
その声は聞き覚えがある。
コツンコツンと靴を慣らしながらナニかが近づいてくる。
「誰だっ!?」
身構えるジャスティンと騎士団達。
異様な雰囲気に、
恐怖からぷるぷると
私は足が震えてしまう。
「探していたのは、俺だろう?」
ゆらりとゆっくり姿を現すソレは
魔王だった。
「邪魔な小バエは消しておいた」
魔王の指さす
私達の後方、
援護してくれるはずの下級隊員達の姿はない。
私と
幹部3名、
従者2名の6人だけとなってしまった。
私は魔力の使えない
ただの足手まとい、
実質5名で
この目の前の魔王に
挑まなくてはならない。
「ふぅ…いきなりラスボス戦ってなんて優しい魔王さんだろーなっ!」
そういうロジャーは
父から受け取った日本刀を抜刀して、
その隣のアダムが
「それで魔王が倒されてくれればハッピーエンドなんですけどね!」
瞬時に
魔王へと走り出して
大きく剣を振りかぶる。
バキッンっ!!
魔王でなければ
まっ二つに割れていたはずの
良い一振りのハズなのに、
魔王はその気合いのこもった一発を
自らの頭で受け止める。
鈍い音はしたものの、
魔王には届いていない。
彼は無詠唱で
薄いシールドを張っている様だ
それからは総力戦
ジャスティンが
持って来た魔戦車を発動させ、
砲台から大きな玉が発せられる。
それを魔王は受け止めると
手の中に吸収していく。
「山1つ吹き飛ばせるんだそ?これ。」
と顔を歪ませるジャスティン
すかさず
マリアンヌが拳を魔王に向ける。
バキバキ…
ひび割れるシールド、
魔王は少し驚くも、
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる
割れたシールドはすぐに元に戻ってしまう。
「…では、私の番だ」
長い詠唱を終えて
スワロフが渾身の大奥義を繰り出す。
空から降り注ぐ
無数の光の矢が魔王を襲う。
姿が見えなくなってしまう程だった。
立ち上がった砂埃が薄くなっていくと
うっすら魔王のシルエットが見えてくる。
彼は立ち上がったまま、
こちらを見ていてなんともない。
「こんなものなのか?城の騎士団よ」
砂埃を軽く払いながら
ニヤニヤと
気味の悪い笑みを浮かべる魔王。
手をこちら側に差し伸べると
ヒラリとナニかをした。
今の受けたばかりの
スワロフの大奥義をこちらにやり返す。
さすがのスワロフ、
これを読んでいたのだろう
シールドが皆を囲む。
「…10年かけて生み出した技なのだが、すぐに真似されるなんて…自信なくすぞ」
と
いつも余裕のある顔付きのスワロフが
今は奥歯を噛み締めて悔しそうに言った
バキンっ!
と皆を囲むスワロフのシールドが
割れてしまい、
光の矢が私に当たりそうになる。
「危ないっ!咲っ!!」
そうジャスティンの声が聞こえたと思うと、
覆いかぶさってくれて私を守ってくれた。
「…ジャン、血が…」
彼の背中は
その衝撃に服が破け
血がダラダラと垂れている。
私は足手まとい…
何も出来ない悔しさと
この人が魔王として
人を傷つけたという
事実に
頭の血管が切れてしまいそうなる
「…あき…ひと…辞めて。もう辞めて…」
その小さな声を魔王は聞き逃さない
「…なぜだ?その男が傷を負ったからか?咲」
表現を崩さないままそう言った。
ギリッと魔王を睨み付ける
「…あんた!いい加減にしなさいよ!何が魔王だっつーの!!ただの売れないバンドマンでしょ?…人を傷つけて…カイト攫って…エマさらって…私を捨てて…………あんたなんてダイッッッキライ!!!」
腹の底からでた声だった。
地割れを起こすかと思う位響いた。
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「咲さん、魔王と知り合い?」
戦闘で自慢の髪型が崩れているロジャーがフルフルと震えながら魔王を指さす。
「まって!後で話す!」
ロジャーの
質問は皆が思っていたことだろう
これだけ大声叫んだのだ、
聞いていない人はいない。
知られてもいい覚悟な上で怒鳴った。
「…つーか!!!その話し方なに?全然似合わないんですけど?てか、カイトは?エマは?…従者の二人は?…聞きたい事山程あるんだけど?ちょっとこっち…こ…よ…」
バタン……
言い切らないうちに
地面に近くなって記憶が途絶えた。
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