暗闇の記憶~90年代実録恐怖短編集~

MITT

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第一話「壁の中にいる何か」②

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「んじゃ、行ってみるか……散歩がてらに」

 与志水がそう言って、なんとなく行き先が決まる。 
 そんな訳で、ご近所心霊スポットへゴー! と言う流れに……はっきり言って、ほとんど意味はない。
 
 やたら軽いノリで、ワイワイ、ゾロゾロと夜の街を歩く。
 道順は、一般的に知られてる鎌倉街道沿いの道ではなく、町田駅の裏にある都営団地を抜けていく裏道。
 
 町田駅南口……今は、ヨドバシカメラとかあって、賑やかなところなんだけど。
 
 当時の町田駅南口方面は、いわゆる色街だった。
 案内所とかあったり、タチンボが所々にいたり、用心棒のやーさんとかがウロウロしてるような所。
 
 まぁ、都営住宅まではさすがに、その手合は入ってこないから、道をハズレなければ問題はない。
 懐中電灯もしっかりあって、途中団地の窓を照らしたりと悪ふざけしながら、夜道を征く。
 
 時刻は深夜1時過ぎ。
 季節は……初夏。
 6月の梅雨の合間の星空の見える夜。
 
 暑くもなく寒くもなかったと記憶してる。
 
 無駄にハイテンションな調子で、クソやかましくも傍迷惑な若者たちが集団で練り歩く。

 夜の街のあの非日常感。
 
 車なんかだとあっという間だけど、歩きで集団……ともなると、やたら気が大きくなるもんだ。
 
 まぁ、それだけですっげぇ楽しいってのは何となく解ると思う。
 若気の至りって言葉がぴったりだ。
 
 やがて、噂の廃病院「相模外科」前にたどり着く。
 
 ……思い切り16号沿い。
 近隣随一の幹線道路……街灯でめっちゃ明るいし、道の端に路駐のヤン車とかも止まってて、むしろ騒々しい。
 
 そんな中、所々崩壊してるような廃墟がドーン!
 
「なんだこりゃ?」
 
 ……と言うのが正直な感想。
 廃屋や廃墟探検……俺だって、それくらい経験はある。
 
 小中と住んでた八王子は、あちこちに防空壕の跡や廃墟もあったし、里山も残ってたからね。
 兄貴や弟と探検とかしたもんだ。
 
 でも、こんな騒々しい二桁国道沿いに廃墟がドーンとあるのは、なかなかインパクトある。
 
 与志水、徳重、灰峰ねーさんはすでに突撃経験者。
 連中の話だと、全然怖くなかったって言ってたけど……。
 
 なんと言うか……第一印象は思った以上に怖えっ!
 
 でも、一行の最年少で一番行く気満々だった俺が、真っ先にビビるってのもどうかと思ったので、その辺はおくびにも出さない。
 
 他の連中だって、ノリノリだったしね……とか思ってたんだけど。
 
 ……現場に着くなり、経験者の三人が揃いも揃って、やけに大人しい。
 テンション高いのは、高藤や須磨さんと言った初訪問組だけ。
 
「ここが相模外科……なかなか雰囲気あるね……」

 ひとまず、灰峰ねーさんに聞いてみる。
 ちなみに、彼女はいつも飄々としてるのだけど、ちょっと様子がおかしい。
 
「ん……ああ、見延君。これはちょっとやばいかな。悪いけど、今回、私は行かない……外で待ってる事にするよ……ごめん、勘弁してくれ」

 後日、これは彼女なりの警告だったのだと、理解するのだけど。
 その時、俺はそこまで理解はしてなかった。
 
「灰峰ねーさん、行かないって言ってるんだけど……皆は、どうするね?」

「……って言うか、ここってこんな静かだっけ? なんか前と雰囲気違わね? 徳重……お前、どう思う?」

 与志水……B'zとオサレシューズに拘りを持つオタク兄さん。
 お調子者で、ここに来るまで、一番ハイテンションではしゃぎまわってたのだけど……一気に大人しくなった。

「いや、こりゃヤバイかも……いつもは、夜中でも10人以上は人がいて、女の子の悲鳴とか聞こえて来たりするんだけど……ちょっと静か過ぎる……様子がおかしい。ねーさん、ちょっといいか?」

 徳重もちょっとビビってる風で、灰峰ねーさんと何か話し込んでる。
 
 その様子は、なんとも深刻な様子で、如何にも問題ありと言われているようなものだった。

 ……俺は、初めてなんで、どう変なのかよく解らん。
 須磨さん、高藤も行く気満々。
 
 高藤は、気を練るとか言い出して、独特の呼吸法みたいなのを始めて、須磨さんが見よう見まねで同じような感じで深呼吸してたりする。
 
 この二人はお気楽そう……まぁ、いつもと違うとか言われても、どう違うのかわからん以上、ここで帰るとか無いわな。
 
 ……時刻はまもなく深夜2時。
 万年渋滞と言われる16号も流石にこの時間ともなると車もポツポツとしか通らない……。
 
「俺、ここ初めてなんだけど……前に来た時って、もっと早かったんじゃない? 日付変わる前だったとか」

 なんともノリが悪い三人へ告げる。

「まぁ……確かに、前に来た時は、もっと早い時間で日付変わる前だったけどな……」

 与志水がバツが悪そうに応える。

「……深夜の街って、日付変わると一気に人減るもんだよ。むしろ、人がいる方が珍しいからね。仕事してて、人を見るとむしろ警戒するよ……」

「そりゃそーだ。駅前だって、終電なくなると人なんて居なくなるしな……こんな深夜じゃ、もう皆帰ったんじゃないかな」

 高藤と俺が一番行く気満々。
 人がいるいないとか、関係ないと思う。
 
 最悪、俺と高藤だけで突入もありだなーとか思い始める。
 
 と言うか、ぶっちゃけ、第一印象は結構キテたけど……こんだけ人数がいると、別に怖い気もしなくなってくる。
 目の前は国道16号……車もビュンビュン通るし、街灯も明々と照らしてて、昼間のように明るい。
 
 ぶっちゃけ駅からここまでの裏道のほうがよっぽど怖い。
 街灯まばらだったし、お地蔵さんとかお寺の墓場だの……一人じゃちょっとビビるロケーションだった。
 
 ちなみに、当時の俺は心霊現象とか全く信じてなかった。
 何せ、見たこともないし、感じたこともない。
 
 実は、俺……新聞屋の倅。
 深夜の街で新聞配達とかも普通にやってたからね。
 
 自殺の名所みたいなマンションで新聞配ったり、親父と一緒に、深夜の街を車で新聞配達とかやってたりしたもんだ。
 
 それに、俺はやたら夜目が効く。
 明かり無しで星や月明りだけで、河原や山道を平然と歩ける程度には、暗闇を見通せる事が出来た。
 
 ……これは特殊能力でもなんでもない。
 夜型生活を数年単位で送ってるうちに身についた、ちょっとした体質ってところだ。
 
 人間、闇を怖がるのは何故か?
 
 その闇の中に何かが潜んでいると思うから。

 想像力が恐怖を生むのだ。
 俺は、暗闇を見通せる上に、人の気配にやたら敏感。
 
 そこに何もいないのが解るのならば、暗闇など恐れるに足りない。
 
 だからこそ、闇への恐怖心が薄かった。

「まぁ、良く解んないけど、廃墟なんてこんなもんだろ。俺、こう言うとこに夜中に来るのって、初めてでさ! ビビってねぇで行こうよっ!」

 何故か腰が引けてしまった仲間達を煽る俺。

「あ、あれ……懐中電灯……ちょっと、電池怪しい……かも」

 ……一応、事前に与志水が懐中電灯持ってるって事は確認してた。
 なのだけど、その明かりは露骨にショボい。

「与志水さん、ここに来て、そりゃないわー。なにそれー」

「いや、来る前にちゃんと点くかどうか、試したぞ! って言うか、団地のとこで人んち照らしたりしたじゃんかよっ!」

「そいや、そーだな。どうせ接触不良とかなんじゃない? ちょっと貸してみ!」

 マグライトミニ……単4二本とか実にショボい。
 今時の100m先を照らすようなLED懐中電灯と違って、当時の懐中電灯は、豆電球。
 10m先を照らせる程度のしょぼいーヤツ。
 
 アルカリ電池だと、普通、薄暗くなってから、徐々に暗くなってやがて点かなくなるんだけど。
 ちょっと、今の時点でいきなり頼りない。
 
 電池入れ直してもやっぱり薄暗い……いつ消えるか解らない程には、消耗してる感じに見えた。

「これは……とても持ちそうにないね。いきなり消えたりとかしそうだ……」

「……さすがに、明かりなしじゃ、無理だよ。皆、今日のところは帰らないかい? 今日はあまりオススメできない」

 さっきから、しきりに病院の窓や上の方を気にしてる灰峰ねーさんは撤退を主張し始める。
 でも、せっかく面白くなってきたのに、ここで撤退とかありえん。
 
「なら、このライター明かり代わりにして行くべ! 今日オイル入れたばっかだから、余裕で持つだろ」

 当時、喫煙者だった俺が持っていたライターは、100円ライターとかではなく、ジッポーライター。
 オイル燃やして、火を灯す奴だから、明かり代わりにはなる。
 
 今の時代だと、未成年者の喫煙とかアレだけど、当時は高校卒業してたら、別にいいんじゃね? みたいな調子だった。
 
「……見延……お前、先頭な?」

 高藤がポンと俺の肩を叩く。
 
「まぁ、そうなるな。いいだろう、任せな!」

 結局、突撃班は俺、高藤、須磨さん、与志水の四人。
 
 徳重と灰峰ねーさんの二人は病院前で待機となった。
 
 構造とか良く解らんけど、とりあえず適当に歩くと言うことで、俺を先頭にずんずん進む。
 
 まずは一階をざっと歩く。
 
 両端に階段があるそうなので、正面入口から入って右側を目指す。
 左側は階段の途中にブロックが置かれてたり壁にヒビ入ってたりで、ちょっと危ないって話なので、スルー。
 
 須磨さん、初っ端からビビりまくりで、俺の両肩をがっつり掴んで、へばりつき状態。
 
「須磨さん、近いよ?」

「だって、明かり持ってるの見延君じゃない! この手は離さないからね! 絶対! でも、ライターの炎だけとか、影がゆらめいて、一瞬人影みたいに見えて、超怖いんだけどさー!」

 誰かビビってるヤツがいると、むしろ冷静になるもんだなぁ……とくだらない事を考えつつ前進。

「だーからー、須磨さん! 足さわんなっての! さっきから、何?」

 須磨さん近すぎるせいか、背中にボヨンボヨンと何かが当たってるし、膝裏に須磨さんの膝が入りそうになって、膝カックンになりそうになる。

「触ってないよー! 怖いこと言うなー!」

 須磨さん、いつもニコニコ、ゆるふわ系女子なんだけど。

 やたらと、付き合いが良い。
 家も歩いて帰れる程度には近いんだけど、基本親も家を開けがちで、土曜の夜は朝帰りが定番になってるんだとか。
 
「いやいや、むしろ、ちゃんと足元見てくれよ……瓦礫とか落ちてて、物理的に危ない……ここ、違う意味でヤバイ。あとさっきから、膝裏ガンガン蹴られてるし! とにかく、近すぎるって!」

「蹴ってないよ? ……あ、でも蹴ってるかも! ごめんねー」

 はっきり言って、須磨さんの方が背がデカいので、なかなか微妙な構図。
 ……役得とでも思っておくかなー。
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