暗闇の記憶~90年代実録恐怖短編集~

MITT

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第一話「壁の中にいる何か」④

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「解った解った……一旦戻るよ!」
 
 灰峰ねーさんに、返事しながら徳重の姿を探すと、何やらヤンキー連中と話し込んでいるらしい。
 
 元ヤンらしく気が合うのだろう。
 
 ……正直、俺は徳重はあんまり好きになれなかった。
 オタク青年と元ヤン……相性が良いはずもない。
 
 見えるっても自称なだけ……本当にそうなのか?
 灰峰ねーさんがそう言ってるから、合わせてるだけなんじゃないかって気もする。
 
 でも、二人が揃って入りたがらないってのは、それなりの訳があるのだろう。
 
 実際、来る途中で、何かあっても俺らには何も出来ないから、そのつもりで……みたいな事言っていた。
 見えるからって、除霊とか出来る訳じゃないらしい。
 
 それにしても、徳重と話し込んでるヤンキーの一人の怯えっぷりがヤバイ。
 一瞬、こっちに目をやって、目があったのだけど、まるで信じられないものを見たような目付きだった。
 
 と……気がつくと、俺一人になってるっ!
 
 心配そうな様子の灰峰ねーさんに手を振ると、俺は廊下に戻ると辺りを見渡す。
 
 皆、すでにもと来た階段近くの街灯が差し込むところで固まってる。
 与志水……ライトと格闘中……やっぱり点かないらしい。
 
 とりあえず、ライターに点火しようとして……火が点かないことに気付く。
 
「あれ……なんか、火が点かない……」

 匂いを嗅ぐとちゃんとオイルの匂いはする。
 過熱気味だったけど、もうだいぶ冷めたから、それも問題ないはずだった。

 懸命に、フリントを擦るのだけど、火花が飛び散るだけで一向に火がつく様子もない。

「マジかよ……なぁ、仕切り直そうぜ……これ、さすがに明かりがないと無理じゃね?」

「まぁねぇ……ここ、足元ヤバイしね。それに老朽化がヤバイ……いきなり崩れても不思議じゃないっしょ」

 雨漏りとかで、あちこち崩れてるし、物理的にヤバイ……まさに、そんな感じ。
 
「もうちょっとしたら、明るくなるから、それから再挑戦しない? と言うか、私、喉が渇いた! コンビニにジュースでも買いに行こうよっ!」

「須磨さん、俺も同感……これは戦略的撤退。ビビって逃げ帰る訳じゃないし……さすがに明かり無しじゃ危ない。高藤もどう?」

「ん? ああ……そうだな。さすがに準備不足だよな。須磨さんもずっとこんな調子だし……つか、上……まだ人いるのか?」

「わかんね。さっきのヤンキー連中は三階に行ってたみたいだけど……」

 あんな勢いでなりふり構わず逃げ出すなんて、何があったのやら。
 いずれにせよで、全ての光源を失った状態で、夜間の廃墟探索の続行なんて、どう考えても問題ある。
 
 我々は、戦略的撤退を決断……一旦外へと脱出する。
 
 時刻は深夜2時半を回ったところ。
 
 丑三つ時……人通りも皆無。
 車通りすらもまばらになってきていた。
 
 どうも、後からもう一組、車で若者パーティが来たようなのだけど、ちょうどヤンキーグループが逃げ帰ってきた所に鉢合わせて、今日やばくね? とか言って帰っていったらしい。
 
 外から見ても、建物の中には、もう誰もいないように見える。
 
 さっき、俺がいた二階の窓もよく見える……けど、三階。
 ……視界の端、窓の中で人影が横切ったように見えた。
 
 まさか? 視線を戻してその窓をじっと見ても、何も見えない……。
 通りすがりの車のヘッドライトの明かりが中を照らしていく……。

 道路標識の影がちょうど人の頭みたいになって、流れていく。
 
 これを人影だと思った?
 いや、今の動きの感じ……生き物特有のライブ感があった。
 
 しかも、直接見たんじゃない……視界の端に見えたような気がしたってだけ。
 今のは……なんだ?

「おかえり……お早いお帰りで」

 灰峰ねーさんが、ニコニコ笑みを浮かべながら、ポンと頭を叩く。
 
「いやぁ……懐中電灯も電池切れになるし、ライターもこの通り……明かりが無くなったから、撤退してきた」

 ジッポーライターをフリントを擦るのだけど、火花ばかりで火が点かない。
 明かり代わりに使うようなものじゃないから、無理があったとしか言いようがなかった。
 
「ああ、それですぐに引き上げてきたんだ。でも、それで正解。電池売ってるとなると、コンビニでも探す? それとも夜明けまで近くで待つ? 今の時期なら、一時間もすれば、空が明るくなると思うけど」

「そうだねぇ……さすがに、明かり無しで夜の廃墟探検とかないわ」

「ついでに、ジュース買いに行こう!」

 須磨さん、余程喉乾いてるらしい。

「そうだね……。今日はちょっと蒸すし、結構歩いたから、須磨さんに賛成」

 なんとなく、灰峰ねーさんも徳重も一刻も早く、この場から離れたがってるってのが見て取れた。

 確かにこうやって外から見ると、隣の建物とかと違って、闇に沈み込むような……。
 そこだけ異界のような雰囲気すらあった。

「んじゃ、ちょっと歩くか……」

「確か……古淵駅の方にコンビニあったはず、そこ行くべ」

 徳重の提案で、それから、俺達は16号沿いを古淵方面へ向かってぷらぷらと歩く事にした。
 
 何故か皆、一様に早足……誰も何も言わなかったけど、後から聞いた話だと、一刻も早くここから逃げたいと言うのが、その時の俺達の共通した思いだったらしい。

 しばし歩くと、左手は鬱蒼とした森って感じで、外はまだ暗いんだけど。
 むしろ、雰囲気は軽くなってる……病院の中の妙な圧迫感に比べたら、開放感が凄い!

 当時は、誰も車なんて持ってないから、16号沿いと言っても、地理はいまいち解ってない。

 長年町田、相模原に住んでる連中は、通った事くらいはあるらしいのだけど、コンビニとガソリンスタンドがあるみたいな事を言ってる。

 今は古淵駅の周辺もイトーヨーカドーとか、イオンとかトイザらスやらが、あって実に賑やかなものだけど、90年代の頃の16号沿いって、本当に畑や緑地ばかりで、何もなかった。
 
 古淵駅にしたって、駅がポツーンとあって、ロープで囲った自転車置き場と、自販機がある程度であとはガラーンとなにもない空き地が広がるだけだったと言う……。 

「ああ、これか……徳重の言ってたガソリンスタンドって……思いっきり閉まってるし!」

 目的地のガソリンスタンドに到着したのは良いんだけど。
 まぁ、普通に閉まってたって落ち。

「すまん。ここでコンビニみたいなのがあって、買い物した記憶があったんだがなぁ……」

「これ、コンビニじゃなくて、雑貨店じゃん。まぁ、こんな時間にやってる訳がない。と言うか、自販機も置いて無いとか駄目じゃん……ここ!」
 
「結構、歩いて、これはないわ……徳重……お前、いい加減なこと言いやがって! 思いっきり無駄足じゃねぇか!」

 与志水が怒ってる……まぁ、あやふやな記憶で、適当に歩いた末なんだから、誰も悪くは言えない。

「すまん……と言うか、ここまで延々森しか無いとか、知らなかった。と言うか、もうちょっと行けば、古淵駅の近くに出るから、そこまで行けば……」

「古淵駅とか、本気で何もないよ? 俺は一旦戻ることを勧めるね」

 古淵駅周辺の事は、高校時代たまに使ってたから、一応知ってた。

 まぁ、本気でなにもないし、多分古淵駅まで行っちゃったら、そのまま流れ解散ってなりそうな雰囲気だった。

「ここまで、何もないとは酷い……ああ、もうっ! 喉が乾いたー! なんか飲みたーい!」

 須磨さんもぷんすかである。

「ははっ、結局、夜が明けるのが早そうだよな。……今の時期、三時台には明るくなるからね。もう一時間もしたら、普通に日が登ってくるよ」

 そう言って、周囲を見渡すと、夜明け前の青みがかった風景となっていた。
 もう、夜は終わりだと……告げていた。

 かくして、皆、なんとなくもと来た道を引き返す事に……。

「まだあれから、一時間くらいしか経ってないのか……。今は、夜明けが早いって知ってたけど、こんな早いのか。……って言うか、さすが新聞屋育ち、夜明けの時間は把握してんだね」

 灰峰姉さんと俺が、なんとなく先頭になる。

「当たり前だろ……灰峰ねーさん。と言うか、さっき相模外科の前で、やたら上見てたけど、何が見えてたん? 良いから教えてよ」

 さっきから、気になってたから、思い切って直球で聞いてみる。
 
「……ああ言うとこって、外から目立つとこに見張りと言うか、案内板役みたいなのがいるのよ。それがしきりにあっちいけって、ジェスチャーやってんのが見えたのよ。お前ら、三階まで行かなくて多分、正解……」

 後ろで話を聞いてたらしき徳重が思ったより、斜め上の回答を返す。
 なんじゃそりゃ……?

「い、行ってたらどうなってたんだ?」

「さぁな、俺に聞くなよ……まぁ、イイことはないんじゃないかな」

「ごめん、正直、私にも判らない。でも、私に言わせれば君ら、火薬庫で火遊びやってたようなもんだよ……。今度から私がヤバイっていう時は、必ず言う事聞いてくれ。って言うか、情けない話なんだけど、私も外から見ただけで、マジで怖くなっちゃってね。……どうしてもあの中に入る気にならなかったんだ。文字通り、足が竦んであるラインから先に進めなくてさ……見延君が顔見せた時、無事で良かったとか、心底思ったんだ」

 灰峰ねーさんが真面目な顔で答える。
 
 ……ねーさんがビビるって……どんだけだったんだ?
 でも、入る気にならなかった……か。
 
 実は、俺も上には行きたくないなーなんて事を思ってた。
 それに地下室にも。
 
 ……そういや、前にもこんな事あったなぁ。
 理由もなく、突然足が固まったと思ったら、目の前スレスレをトラックが通ってったとか。
 
「灰峰ねーさん、すっげぇビビってたもんな……。皆、良く無事に戻って来たなって俺も思ったよ。……ホントは、何も起きないってのが一番なんだぜ?」

 徳重……馴れ馴れしくバンバンと俺の肩を叩く。
 他の連中は俺のことをあんまり年下扱いしないのだけど、どうもこの男は人をやたらと年下扱いしたがる。
 けど、この男なりに俺のことを心配してたのは、伝わってくる。
 一方的に嫌ってたけど、ちょっと悪いことしたかも……くらいは思う。
 
「そいや、徳重さん、あのヤンキーと話し込んでたけど、何があったって?」

「ああ、なんでも、いきなり後ろから突き飛ばされたとか言ってたよ。で、後ろ見たら誰もいないもんで、悲鳴あげて逃げたんだとよ。なんか今日は先に来てた連中も、ちょっと勘のいい奴が、なんかヤベェって逃げ帰ったりしてたみたいなんだよなぁ……ここって、たまにそう言うことがあるんだってよ」

「実際、一組ビビって逃げてたしね……。でも、前来た時は、全然平気だったんだよ……。実際、私も建物の中を全部回って、屋上まで行ったし、地下にも行ってるんだよ……。結局、ホームレスのおっちゃんがいただけで、あんま騒ぐなよって怒られたって、それくらいかな。噂ほどじゃない……そう思ってたんだけど、認識が甘かったって思い知ったよ」

 ……灰峰ねーさん。
 何気に、全周コンプしてたのか……いい度胸してるよ。

「いや、真面目な話。前来た時はぜんぜんチョロかったんだよ。そのホームレスのおっさんとかもいたし、今日と違って人もいっぱいいてさ。でも、いつものホームレスのおっさんすら、今日は居なかったらしい……大抵、地下か二階にいるんだけど、出会わなかったか?」

 ……少なくとも他の人間なんて、一切出食わしてない。
 住み着いてるって、正気かよ……あんな所で……。

「ホームレスのオッサンとかしらねーし。なにそれ? そんな同じ場所でヤバイ日、平気な日ってあるの? 意味わかんねーよ」

 同じ土曜の深夜に行っても、平気な日だとただのヤンチャスポット。
 ヤバイ日だと、ガチホラースポット化して、住み着いてるホームレスも寄り付かないとか……そんなのあり得るのだろうか?
 
 いかんせん比較できないから、俺にはなんとも言えない。
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