暗闇の記憶~90年代実録恐怖短編集~

MITT

文字の大きさ
16 / 36

第三話「赤いコートの女の子」⑥

しおりを挟む
 先程のガードから少し行ったところ、スバルのディーラー前で須磨さん達とバッタリ出会った。
 さすがに、無視して行くほど、俺らも鬼じゃない。

「やぁ、須磨さん。そっちも買い出しかい?」

 姉さんがにこやかに、須磨さんに話しかける。
 この二人は、基本的にとっても仲良しだった。

「あはは、ちょっと小角ちゃんが急な入り用になりまして……ちょっとお買い物に……。でも、与志水が付いてくるって言って、困ってたみたいだったから、私が同行したのだよ! まぁ、私ってば気遣いの出来るいい女だからね」

「なるほどね……あの男も相変わらず、デリカシーってもんがないねぇ……。コンビニならこの先に道なりに行けばあるよ。公衆電話もあるから、そこが最寄りって事になるかな。でも、24時間営業じゃないから、もうすぐ閉まるってさ。だから、急いだほうがいいね」

 ……二人の会話の意味がいまいち良く解らんけど。
 ここは、黙っておくのが吉だろう。
 
 もともと人付き合いは苦手だったけど、この連中と付き合うようになってから、俺も空気を読むくらいは出来るようになったんだ。
 
 会話の内容的に、これは間違いなく女子の間だけで通じる……そんなたぐいの話。
 今は、空気に徹するべし……それだけは、理解できた。
 
「……いやはや、須磨さんに借りようと思ったんだけどね。今日は、持ってないって言ってたし、灰姉も全然、戻ってこないし……どこまで行ってたの? つか、見延さぁ……あのアパートってなんか、空気おかしくない? アタシ、ちょっと気持ち悪くなって……」

 小角ちゃん……この子も見えるって話を聞いてる。
 ただ、虚言癖があるというのは、それなりに長い付き合いで解ってるから、どこまで本当かはよく解らなかった。

 どこまで話すべきか……迷ってると、灰峰姉さんが任せろとばかりに頷く。

「ああ、小角ちゃんは解るんだっけね。けど、今夜はそう言う夜なんだ……意味は解るね? それにこの辺りはなんと言うか、闇が濃い……独り歩きはオススメできないね」

「ああ、やっぱりそうなんだ。ここに来るまでもガードのとことか、なんだか凄かったよ。今日来たのは、失敗だったかなぁ……スト2もアタシじゃ、皆に全然勝てないし……。お酒も飲ませてくれないし……霞でも連れてくればよかった」

 おぅ、何の予備知識もなしに、あのガード周りがヤバイって悟ったのか。

 割とホラ吹きなのは知ってるけど、この件に関してはどうやら彼女は本物らしい。

 ちなみに、霞って子は、霞ちゃんと言う同じく女子高生メンバーの一人で、中学の頃からのこの子の相方的ポジションの子。
 
 メガネっ子で、小角ちゃんに輪をかけて騒々しい……自称見える子のオカルトマニアで、公民館で降霊会とかいう怪しげな儀式に参加させられたりしたこともあった。

「地味に、あいつらレベル高いからねぇ……ハンデ位、付けてあげればいいのに。と言うか、君、高校生なんだし、お酒飲ませないのは当たり前。それにいくら友人だからって、男の部屋に泊まるとかどうかと思うよ? もし帰るなら、見延に車でも出させるよ……それくらい当然だよね?」

 当然と来たか……まぁ、さすがにこれは断れないな。
 なお、須磨さんと灰峰姉さんの二人は泊まる気満々だって知ってるのだけど、どうやら自分達のことは棚に上げるつもりらしい。
 
 どうも、俺はこの二人に異性として見られていないような気がする。
 もっとも、俺もこの二人をなるべく、異性として意識しないようにしてたから、時々気が利かないとか怒られてた。

 ちなみに、与志水あたりは、灰峰姉さんに告って、すげなくフラレたりしてるのだけど……。
 この手の集まりに、恋愛感情を持ち込むと大抵ロクでもない結果になるってのは、相場が決まってる。
 
 むしろ、反面教師にすべきだと常々、自分に言い聞かせている。
 まぁ、たまにあるラッキースケベイベントやらは、役得ってヤツだろーと思ってる。
 
「そ、そうかなぁ……? 皆居るから、別に問題ないでしょ。一人だけで行く気なんてサラサラ無いし、見延もそんな度胸あるような奴じゃないしねー」

「俺も、小角ちゃんは別に好みじゃないからなぁ……」

「そう? こないだ……思いっきり、パンツガン見してたでしょ。気づいてないと思った?」

 ……。
 なんちゅー爆弾投げ込むかな……この娘は!

「……ああ、うん。俺が悪かった……だから、あまり人聞き悪いこと言わないで欲しいなぁ。つか、見えたら、見ちゃう……そんなもんなんだよ。好き嫌いとか関係ねーしっ! だから、無闇に見せんな!」

「す、好きで見せたりしないよっ! でも、ここで帰るのもなんか寂しいから、今日は見延のとこに泊まっていくよ……そもそも、山久の家に泊まったりとかしてるしねー」

「ははは、見延くんも男の子だからねぇ。でも、いくらお酒入ったからって、あんなミニスカで暴れるほうが悪いと思うけどね。と言うか、泊まり連絡っ事なら、早く行かないとコンビニ閉まっちゃうよ? コミュニティーストアがあるんだけど、閉店時間は店主の気まぐれって、割とフリーダムみたいなんだ。あそこ以外だとコンビニって他にある? バス通りにデイリーがあったのは解ったけど……」

「デイリーも24時間はやってないね。町田街道をこのままもっと進めばセブンがある。そっちは24時間営業……ただ、結構歩くよ。むしろ、鎌倉街道の近くだからねぇ……」

 最近は、コンビニの24時間営業するしないなんてのが、社会問題になってたりするのだけど、この時代はむしろ、コンビニ=24時間営業と言う訳ではなかった。
 
 個人営業の店では、早いところだと8時、9時には店じまいなんてところもあったし、24時間営業なんてやってるのは大手のセブンイレブンやローソン、ファミマと言った御三家コンビニくらいで、その他多くのオレンジマートやらは、夜になると閉まるのがむしろ、当たり前だった。
 
 セブンイレブンも文字通り、11時には閉まるとか、そんな営業形態も珍しくなく、ガソリンスタンドも24時間営業してるほうが珍しかった。
 
 むしろ、営業時間や年中無休ぶりに関しては、新聞屋の方が上だろうとか、そんな話をしてたものだ。
 GWやら正月休みとか、なにそれ? ってのが我が家の常識だったからな。
 
「そこまで歩くのは、ちょっとめんどいね。んじゃ、急いでいってくるから、先戻ってて。ちゃんとピンポンしたら開けてくれるよね? でも、ピンポン鳴らしたら、夜だしうるさくないかな?」

 小角ちゃんが至って常識的な事を言う。

「あのアパート、むしろ夜のほうが騒々しいから、チャイムとか誰も気にしないよ。まぁ、ごゆっくりどうぞ!」

「ああ、お店の人しか住んでないんだっけ! おまけに防音がしっかりしてるから、多少騒いでも平気。やっぱ、いいとこだなぁ……じゃ、小角ちゃん、急ごうか!」

「はーいっ!」

 須磨さんと小角ちゃんが手を繋いで歩き出す。
 二人と別れると、再び灰峰姉さんと二人きりになった。
 
「まったく、小角ちゃんは賑やかな子だねぇ……。と言うか、女性って、野郎にパンツ見られてるとか、解るもんなのかね?」

「まぁ、相手がどこ見てるかってのは、何となく解るもんだよ。もっとも、私の場合はあんまり色気のある格好しないし、ご覧の通り胸も貧しいし、お尻もか細いからねぇ……。須磨さんみたいに何かとスゴイのって、むしろ憧れるよ」

 ちなみに、須磨さんは背も高いし、胸もお尻もデカイ。

 服装も、ゆるふわ風のワンピースやらロングスカートとか、女子力溢れる感じのを好む。
 
 灰峰姉さんは、女子にしては背もある方だけど、割と体育会系女子だったとかで、筋トレやってたりで、腕とかむしろ逞しいし、服装も割と年中黒デニムで、Tシャツやらタンクトップも大抵黒……。
 
 なにかと漢らしい言動で、とにかく女子にはモテる。
 野郎には興味がないと言いつつ、面倒見のいい姉御肌で、男ウケも悪くない。
 
 かく言う俺も舎弟感覚で、ここ数年は割とよく彼女と行動を共にしている。
 免許取って店の車借りて、二人きりで一緒に夜のドライブとかもしたりしてたもんだ。
 
 傍から見ると彼氏彼女みたいに見えるとか言われたりもするけれど、お互い恋愛感情は持ってないし、そのつもりもなかった。
 
「そう卑下しなさんな。けどまぁ、女子なのにエロ漫画とか描いてるとか、コミケでも驚かれてたよね」

「……前にファンレターくれた子が来てくれたんだけどね。なんか実際に会ったら、予想と違ったみたいで、気まずそうな感じで帰って行って、悪い事したかなぁって……」

「ああ、見てたから知ってる。最初、俺と間違えてたみたいで、引くくらいの勢いで、サインとか迫られて参ったよ……灰紫先生は、割と大人気みたいだからね」

「ここでペンネームで呼ぶなよ。ジョニー・バイデン少佐……けど、このパチもん臭いダサさがたまらんね。はっはっは!」

「やめてくれ……そのペンネームはエロ漫画用の一発屋用なんだってば!」

 ……俺の黒歴史的なペンネームで呼ぶ、灰峰姉さん。
 
 当時の俺の絵師としての実力はまさにゴミレベル。
 
 仲間内で出したコピー本に寄稿した事もあったのだけど。
 紆余曲折があって、皆で申し込んだコミケの健全本ブースはまんまと落ちて、灰峰姉さんがこっそり確保してたエロ漫画向けのブースの方が取れちゃって、急遽、有志何人かで、不健全なエロ同人誌を描く羽目になったのだった。
 
 なお、結構売れて、何人かは第二弾を作ろうとか言う話になってる。
 もはや、黒歴史以外何物でもない。

「……ふふっ、図らずも君の性的嗜好ってものも垣間見てしまったよ。くれぐれも犯罪にだけは走らないでくれよ?」

「だぁっ! か、勘弁してください……姉さん!」

 しょうもない雑談を交えつつ、旭興荘に帰り着く。

 今夜は闇が深い……灰峰姉さんもそんな事を言ってたけど、確かに納得が行く。
 
 店の軽ワゴンを置いてる駐車場も真っ暗で、何も見えないし、この旭興荘も部屋の明かりと廊下の明かり、どれも切れてたりする訳でもないのに、妙に薄暗い感じがする。
 
 仕事で車を使うから、前々から毎日のように、真夜中にここに来てたので、夜の旭興荘は見慣れてはいるのだけど……それだけに、いつもと雰囲気が違うような気がしてくる……。
 
「どうしたんだい? 立ち止まって」

 灰峰姉さんが唐突に立ち止まった事で訝しげにしてる。

「い、いや、なんでもないよ……さっさと戻ろう」
 
 まぁ、ここは自分の家なのだから、そんなしょうもない事を考えてても仕方がない。

 俺も顔を上げる。

 ――違和感。

 階段の上で一瞬、何かが動いた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/25:『さむいごご』の章を追加。2026/2/2の朝頃より公開開始予定。 2026/1/24:『うるさいりんじん』の章を追加。2026/1/31の朝頃より公開開始予定。 2026/1/23:『でんとう』の章を追加。2026/1/30の朝頃より公開開始予定。 2026/1/22:『たんじょうび』の章を追加。2026/1/29の朝頃より公開開始予定。 2026/1/21:『てがた』の章を追加。2026/1/28の朝頃より公開開始予定。 2026/1/20:『ものおと』の章を追加。2026/1/27の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/19:『みずのおと』の章を追加。2026/1/26の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

私の居場所を見つけてください。

葉方萌生
ホラー
“「25」×モキュメンタリーホラー” 25周年アニバーサリーカップ参加作品です。 小学校教師をとしてはたらく25歳の藤島みよ子は、恋人に振られ、学年主任の先生からいびりのターゲットにされていることで心身ともに疲弊する日々を送っている。みよ子は心霊系YouTuber”ヤミコ”として動画配信をすることが唯一の趣味だった。 ある日、ヤミコの元へとある廃病院についてのお便りが寄せられる。 廃病院の名前は「清葉病院」。産婦人科として母の実家のある岩手県某市霜月町で開業していたが、25年前に閉鎖された。 みよ子は自分の生まれ故郷でもある霜月町にあった清葉病院に惹かれ、廃墟探索を試みる。 が、そこで怪異にさらされるとともに、自分の出生に関する秘密に気づいてしまい……。 25年前に閉業した病院、25年前の母親の日記、25歳のみよ子。 自分は何者なのか、自分は本当に存在する人間なのか、生きてきて当たり前だったはずの事実がじわりと歪んでいく。 アイデンティティを探る25日間の物語。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

処理中です...