1 / 8
プロローグ「帰ってきたお姉ちゃん」①
しおりを挟む
「何処か遠い遠い……誰も知らないところに行きたいな」
それが私のお姉ちゃんの口癖だった。
お姉ちゃんは、なんでも出来るし、何をやらせても、私なんか遠く及ばない……。
私にとっての憧れであり、未来永劫超えられそうもない目標だった。
そんなお姉ちゃんがどうして、遠くに行きたいなんて言うんだろう?
子供の頃の私は、いつもそう思っては、お姉ちゃんに「どうして?」って問いかけたのだけど。
お姉ちゃんは、決まって曖昧な笑みを浮かべては、私のことを抱きしめてくれた。
あの頃のお姉ちゃんの……姉の思いは、未だに解らない。
けれど、どこか遠くに行きたいと言う願いなら、叶ったんじゃないかって気もする。
――だって、姉は……遠い異世界にいってしまったのだから。
私には姉がいた。
姉……山神結弦(ヤマガミユズル)は、ある日突然居なくなってしまった。
何の前触れも、何の痕跡もなく……。
そんな者など、始めから居なかったように……忽然と姿を消してしまった。
最後の便りは、メールでの何気ない一言。
「今駅だよ。これから帰るね」
それっきりだった。
姉がどうなったのかは、未だに家族である私達ですら、知れない。
私達、家族は……とても深い悲しみに包まれる事となった。
そりゃ、そうだよ……。
家族なんていて当たり前、それがある日突然、何の前触れもなく居なくなってしまったのだから。
文字通り、家の中にとても大きな穴が空いてしまったような。
そんな途方もない喪失感と、もう一度会いたい……そんな思いと共に、残された者はいつまでも待ち続ける事になる。
……姉は公式には、行方不明者扱いとなった。
警察も必死で探してくれたのだけど、かなり早い段階で、捜査も手詰まりになってしまった。
事故死とか病死なら、まだ遺体くらいは残るし、ケジメだって付けられるけど。
ある日プッツリと何の痕跡もなく、居なくなってしまうと言うのは、思いの外辛い。
唐突に帰ってくるんじゃないか。
朝寝坊したら、普通に起こしに来るんじゃないかって。
そして、早く起きろって、げんこつの一つでも食らって……。
そんな風に期待して、一人目を覚まし、空っぽの二段ベッドの姉の布団を見ては、ため息をつく。
これはもう毎朝の習慣になってる。
或いは何処か知らない所でひどい目にあって、助けを求めてるんじゃないかって。
そんな事も考えて、居ても立ってもいられなくなったりもする。
警察も大勢の捜査員を動員し、公開捜査に踏み切ってまで探してくれたのだけど、姉の行方はまったく解らず。
防犯カメラの映像や聞き込み調査でも、ほんの50m程度のカメラの死角、時間にして1-2分程度の間に、消えてしまったとしか思えない……そんな結果を伝えられた。
探偵だの霊能力者を雇って調べてもらっても、結果は同じで、学校帰りの最寄り駅から自宅までの1kmにも満たない道のりで、唐突に消えてしまったとしか思えない……警察と変わりない、結果報告が返ってきただけだった。
……やがて、時が経ち。
姉が居なくなって、3年目の冬がやってきた。
当時、小学生だった私も中学に上がり、13歳の誕生日を迎えて、あと2年もすれば姉の年に追いついてしまうようになった。
私も含めて、家族皆が少しづつ、姉の事を忘れて行こうとしていた。
思い出の中の人……お婆ちゃんがそうだったように、姉もそんな感じで……私の記憶の一部になる。
……そんな風に思い始めていたある日。
深夜遅くにお風呂に入って、姉の好きだった歌を口ずさんでいたら、唐突に輪唱が始まった。
何事と思う間もなく、お風呂場の壁からファンタジーっぽいコスプレをした姉がニューっと現れた。
「やほー、シズルちゃん元気だった?」
第一声は、いつもどおりの軽い調子で、聞き慣れた声で……。
挑戦的な太ツリ眉、長い黒髪を三つ編みに結って、前に持って来る……いつもどおりな髪型。
何もかもが、私の記憶の中のお姉ちゃんそのままで……。
「お、お姉ちゃん?! な、なんでっ! そのカッコは……な、なに?」
……3年間。
ずっと会いたかったのに……。
第一声は、意外と気の利かないセリフが口を突いて出た。
「ああ、このカッコ? カッコよくない? これは剣の勇者の最終形態コスチュームなのよ……素敵でしょ」
最終形態って……確かに、凄くキラキラした胸甲に、ゴッツイ大剣、ミニスカ風の何で出来てるか良く解らない、腰回りを覆った鎧。
ファンタジー剣士でSSRとか付いてそうな感じではある。
……いや、そうじゃなくて、そうじゃなくてさ!
お姉ちゃんが……帰ってきた?
ああ、もう嬉しいんだか、泣きたいんだか、良く解らないっ!
と言うか、そこでハタと気づいた。
お姉ちゃん……壁にお尻が半分めり込んでるっ!!
しかも、どう見ても壁を通り抜けてきたように見えた……。
……前々から、化物じみた所があったけど、これじゃ本物の化物……いや、お化けだっ!
お化けなんだけど、お姉ちゃんっ!
……怖いんだか怖くないんだか! ああ、もうっ! 何が何だか解んないよっ!
「うわうわうわ、あうあうあう……お姉ちゃん! ユズルお姉ちゃん! 背中! 背中とお尻がぁっ!」
私がそう言うと、振り返っててへぺろみたいな感じで舌を出すと、一歩前に出る。
「あちゃー、失敗したなぁ……。いきなり、ネタバレってしまったよ。感動の再会を台無しにしてしまって、スマヌ妹よ。まずは落ち着け、こう言うときは素数でも数えるといいよ」
とりあえず、深呼吸して素数を数える。
「1、2、3、5、7、11、13、15は違う……17っ!」
現実逃避とも言う。
指折り数えて、一生懸命計算する。
その次は、19、23、29、31……ああ、素数ってなんか気持ちいいよね。
「うんうん、相変わらず、お姉ちゃんの言うことはちゃんと聞いてくれて……偉いね! シズルちゃん!」
「そ、そう? だって……お姉ちゃんの言うことは、いつも正しいからっ!」
褒められて、思わずにへらーと頬が緩くなる。
ああ、なんだか良く解らないけど、これは間違いなく姉だ。
こんなやり取りで、確信できてしまう程度には、私は姉の妹なのだ。
それが私のお姉ちゃんの口癖だった。
お姉ちゃんは、なんでも出来るし、何をやらせても、私なんか遠く及ばない……。
私にとっての憧れであり、未来永劫超えられそうもない目標だった。
そんなお姉ちゃんがどうして、遠くに行きたいなんて言うんだろう?
子供の頃の私は、いつもそう思っては、お姉ちゃんに「どうして?」って問いかけたのだけど。
お姉ちゃんは、決まって曖昧な笑みを浮かべては、私のことを抱きしめてくれた。
あの頃のお姉ちゃんの……姉の思いは、未だに解らない。
けれど、どこか遠くに行きたいと言う願いなら、叶ったんじゃないかって気もする。
――だって、姉は……遠い異世界にいってしまったのだから。
私には姉がいた。
姉……山神結弦(ヤマガミユズル)は、ある日突然居なくなってしまった。
何の前触れも、何の痕跡もなく……。
そんな者など、始めから居なかったように……忽然と姿を消してしまった。
最後の便りは、メールでの何気ない一言。
「今駅だよ。これから帰るね」
それっきりだった。
姉がどうなったのかは、未だに家族である私達ですら、知れない。
私達、家族は……とても深い悲しみに包まれる事となった。
そりゃ、そうだよ……。
家族なんていて当たり前、それがある日突然、何の前触れもなく居なくなってしまったのだから。
文字通り、家の中にとても大きな穴が空いてしまったような。
そんな途方もない喪失感と、もう一度会いたい……そんな思いと共に、残された者はいつまでも待ち続ける事になる。
……姉は公式には、行方不明者扱いとなった。
警察も必死で探してくれたのだけど、かなり早い段階で、捜査も手詰まりになってしまった。
事故死とか病死なら、まだ遺体くらいは残るし、ケジメだって付けられるけど。
ある日プッツリと何の痕跡もなく、居なくなってしまうと言うのは、思いの外辛い。
唐突に帰ってくるんじゃないか。
朝寝坊したら、普通に起こしに来るんじゃないかって。
そして、早く起きろって、げんこつの一つでも食らって……。
そんな風に期待して、一人目を覚まし、空っぽの二段ベッドの姉の布団を見ては、ため息をつく。
これはもう毎朝の習慣になってる。
或いは何処か知らない所でひどい目にあって、助けを求めてるんじゃないかって。
そんな事も考えて、居ても立ってもいられなくなったりもする。
警察も大勢の捜査員を動員し、公開捜査に踏み切ってまで探してくれたのだけど、姉の行方はまったく解らず。
防犯カメラの映像や聞き込み調査でも、ほんの50m程度のカメラの死角、時間にして1-2分程度の間に、消えてしまったとしか思えない……そんな結果を伝えられた。
探偵だの霊能力者を雇って調べてもらっても、結果は同じで、学校帰りの最寄り駅から自宅までの1kmにも満たない道のりで、唐突に消えてしまったとしか思えない……警察と変わりない、結果報告が返ってきただけだった。
……やがて、時が経ち。
姉が居なくなって、3年目の冬がやってきた。
当時、小学生だった私も中学に上がり、13歳の誕生日を迎えて、あと2年もすれば姉の年に追いついてしまうようになった。
私も含めて、家族皆が少しづつ、姉の事を忘れて行こうとしていた。
思い出の中の人……お婆ちゃんがそうだったように、姉もそんな感じで……私の記憶の一部になる。
……そんな風に思い始めていたある日。
深夜遅くにお風呂に入って、姉の好きだった歌を口ずさんでいたら、唐突に輪唱が始まった。
何事と思う間もなく、お風呂場の壁からファンタジーっぽいコスプレをした姉がニューっと現れた。
「やほー、シズルちゃん元気だった?」
第一声は、いつもどおりの軽い調子で、聞き慣れた声で……。
挑戦的な太ツリ眉、長い黒髪を三つ編みに結って、前に持って来る……いつもどおりな髪型。
何もかもが、私の記憶の中のお姉ちゃんそのままで……。
「お、お姉ちゃん?! な、なんでっ! そのカッコは……な、なに?」
……3年間。
ずっと会いたかったのに……。
第一声は、意外と気の利かないセリフが口を突いて出た。
「ああ、このカッコ? カッコよくない? これは剣の勇者の最終形態コスチュームなのよ……素敵でしょ」
最終形態って……確かに、凄くキラキラした胸甲に、ゴッツイ大剣、ミニスカ風の何で出来てるか良く解らない、腰回りを覆った鎧。
ファンタジー剣士でSSRとか付いてそうな感じではある。
……いや、そうじゃなくて、そうじゃなくてさ!
お姉ちゃんが……帰ってきた?
ああ、もう嬉しいんだか、泣きたいんだか、良く解らないっ!
と言うか、そこでハタと気づいた。
お姉ちゃん……壁にお尻が半分めり込んでるっ!!
しかも、どう見ても壁を通り抜けてきたように見えた……。
……前々から、化物じみた所があったけど、これじゃ本物の化物……いや、お化けだっ!
お化けなんだけど、お姉ちゃんっ!
……怖いんだか怖くないんだか! ああ、もうっ! 何が何だか解んないよっ!
「うわうわうわ、あうあうあう……お姉ちゃん! ユズルお姉ちゃん! 背中! 背中とお尻がぁっ!」
私がそう言うと、振り返っててへぺろみたいな感じで舌を出すと、一歩前に出る。
「あちゃー、失敗したなぁ……。いきなり、ネタバレってしまったよ。感動の再会を台無しにしてしまって、スマヌ妹よ。まずは落ち着け、こう言うときは素数でも数えるといいよ」
とりあえず、深呼吸して素数を数える。
「1、2、3、5、7、11、13、15は違う……17っ!」
現実逃避とも言う。
指折り数えて、一生懸命計算する。
その次は、19、23、29、31……ああ、素数ってなんか気持ちいいよね。
「うんうん、相変わらず、お姉ちゃんの言うことはちゃんと聞いてくれて……偉いね! シズルちゃん!」
「そ、そう? だって……お姉ちゃんの言うことは、いつも正しいからっ!」
褒められて、思わずにへらーと頬が緩くなる。
ああ、なんだか良く解らないけど、これは間違いなく姉だ。
こんなやり取りで、確信できてしまう程度には、私は姉の妹なのだ。
0
あなたにおすすめの小説
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。
葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。
だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。
突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。
これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる