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5-02 町の特色
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パルマの元研究所を後にしたクルム達は、デムテンの町に戻っていた。
元研究所から戻って来る途中には、自然が広がっていて、楽しそうに農作業をしている人達もいた。今も、クルム達は大きな通りに立っているが、人々は活気に満ち溢れていた。
「なんか、普通の町だな……」
町の界隈を眺めながら、シンクは率直に心に浮かんだ感想を漏らした。
「町って、荒れているところばっかりだと思ってた」
今までクルム達一行が旅をするようになって訪れた町は、オリエンス、ヴェルル、オーヴ、ダイバースの四か所だ。その内、シンクが穏やかに過ごせた町は一つもなかった。どの町も、何かしらの問題を抱えていたり、シエル教団による巡回の最中だったりと、慌ただしいものだった。
だから、デムテンのように穏やかな空気が漂う町は、記憶を失っているシンクにとっては珍しく映るのだろう。
「あはは、そんなことはないですよ。どの町も、それぞれの特徴があって、目を凝らしてみれば、本当はどこも素敵なんです。どうして素敵なのか分かりますか?」
「……」
クルムの問いに、シンクは黙り込んで考え始める。しかし、考えてもシンクの頭の中からは答えを見出すことが出来なかった。シンクが答えを求めるような瞳でクルムのことを見つめて来たので、優しく微笑みかけると、
「正解は、人の心がその町に現れるからです」
「心が現れる? 心なんて見えないだろ?」
シンクはクルムの言ったことを理解出来なくて、質問をぶつけた。
「シンク、そこの花を見てよ」
リッカが指さした方向に、シンクは顔を向ける。目線の先には、雑貨屋があり、その看板の横には花が咲いた鉢植えがあった。
「あの花がどうしたんだ?」
しかし、シンクにはリッカの言わんとしていることを察することが出来なかった。花が咲いていることと、人の心が現れることに何の関係があるのだろう、とシンクは疑問を抱く。
「ただ勝手に咲いているだけなら、花はそこまで綺麗に咲くことは出来ないわ。けれど、この雑貨屋の主人が、花を愛でるように大切に育てているから、人の目を惹くほど美しく咲くことが出来ているの。それが人の心が、目に見える形となって現れている証拠よ。でしょう、クルム?」
「はい、リッカの言う通りです。この町の――いや、どこの町でも細かいところを見れば、人々が何に関心を持っているのか、何を大切にしているのか気付くことが出来ますよ」
「あー、分かったような分からないような」
クルムとリッカの言葉を聞き、シンクは首を傾げながら、曖昧な言葉を口にする。シンクの仕草を見て、クルムとリッカは思わず微笑んだ。
「まぁ、子供には難しい話かもね」
「いつか僕がこんなことを言ってたなぁと、心の片隅にでも置いて頂けたら、それで十分ですよ」
未だ首を傾げるシンクに、これ以上考え込ませまいと言葉をかけたクルムは、改めてデムテンの町に目を向ける。
デムテンの中で恐らく一番商売が栄えている場所にクルム達はいるが、誰もが活気に満ち溢れていた。店側と客側が対等に笑いながら世間話をしたり、子供達も元気よく大通りを走り回っていた。
そして、隣国マーヴィに近い場所に位置しているからか、クルムのことを見て騒ぎ立てるような人もいない。
これは、デムテンという町で大きな事件が起こらずに、人々が平和に過ごせている証拠だろう。自然と人が上手く調和できている。
「本当にデムテンは平和な町だね。デムテンに研究所を構えるということは、パルマ博士は自然が好きだったの?」
リッカの質問に、クルムは首を横に振る。
「パルマ博士は人と関わると研究に支障が出るからと、静かに暮らせるデムテンを選んだと言っていました。自然が好きという話は、聞いたことないですね」
「そっか。人と関わることを避けたいなら、町の中には研究所を構えることはしないよね。デムテンにいること以外の手がかりは、クルムは持っていないんだよね?」
「はい」
クルムが申し訳なさそうに頭を下げる。
パルマの元研究所から町の大通りに出るまで、少なくともパルマがいると思われる新しい研究所を見つけることは出来なかった。
これ以上クルムも情報を持っていないとすると、新しい手段を用いなければならないだろう。
リッカはエインセルを取り出すと、
「しょうがない。私も世界政府の手続きついでに、デムテンの地図と、パルマ博士について情報を集めて来るよ」
「お願いしてもいいんですか、リッカ」
思ってもいなかったリッカの提案に、クルムは目を見開いて食いつく。
「パルマ博士に会えば、クルムの戦い方も変わるんだよね?」
クルムは今まで悪魔人と戦う度に、傷を増やして来た。正直、そんなクルムの姿をずっと見続けているのは、リッカにとっても心苦しいことだった。
もしも、パルマに出会うことで、クルムが傷付く可能性がゼロに近付くならば、リッカは持てる権利をいくらでも使う。
「変わります」
クルムは真っ直ぐにリッカを見つめながら、迷いなく二つ返事で答えた。
「なら任せてよ。といっても、世界政府がどこまでパルマ博士について把握しているかは分からないけどね」
もしもパルマ・ティーフォが有名な人物で大きな動きを見せているのなら、世界政府の情報網に引っかかるだろう。しかし、パルマがひっそりと自分の研究に打ち込んでいるなら、話はまた違って来る。
デムテン支部に行って鬼が出るか蛇が出るかは、実際に足を運んでみなければ分からない。
「僕達の方でもパルマ博士の情報を集めておきます」
「あまり派手な行動はしないでね」
「俺が付いているんだから、心配無用だ!」
リッカはクルムに釘をさすと、代わりにシンクが自信満々に答えた。どこからその自信が出て来るのだろうか。子供が故の純粋な心に、リッカは微笑みを零すと、
「頼りにしてるわ」
デムテンにある世界政府の建物を目指して走り始めた。
クルムは度がつくほどのお人好しだ。パルマについての情報を集める傍ら、もしも困っている人がいれば、自分が置かれている立場や状況を忘れて、迷いなく手を差し伸べる。そして、そのことが原因で自らの状況が更に悪くなろうとも、クルムは気にも留めない。
もう何日もクルムと旅をしていれば、クルムの性格は掴めて来るものだ。
「――私がしっかりしないと」
リッカはそう呟くと、クルムに余計な負担を与えないためにも、デムテン支部に向けて更に足を速めた。
パルマの元研究所を後にしたクルム達は、デムテンの町に戻っていた。
元研究所から戻って来る途中には、自然が広がっていて、楽しそうに農作業をしている人達もいた。今も、クルム達は大きな通りに立っているが、人々は活気に満ち溢れていた。
「なんか、普通の町だな……」
町の界隈を眺めながら、シンクは率直に心に浮かんだ感想を漏らした。
「町って、荒れているところばっかりだと思ってた」
今までクルム達一行が旅をするようになって訪れた町は、オリエンス、ヴェルル、オーヴ、ダイバースの四か所だ。その内、シンクが穏やかに過ごせた町は一つもなかった。どの町も、何かしらの問題を抱えていたり、シエル教団による巡回の最中だったりと、慌ただしいものだった。
だから、デムテンのように穏やかな空気が漂う町は、記憶を失っているシンクにとっては珍しく映るのだろう。
「あはは、そんなことはないですよ。どの町も、それぞれの特徴があって、目を凝らしてみれば、本当はどこも素敵なんです。どうして素敵なのか分かりますか?」
「……」
クルムの問いに、シンクは黙り込んで考え始める。しかし、考えてもシンクの頭の中からは答えを見出すことが出来なかった。シンクが答えを求めるような瞳でクルムのことを見つめて来たので、優しく微笑みかけると、
「正解は、人の心がその町に現れるからです」
「心が現れる? 心なんて見えないだろ?」
シンクはクルムの言ったことを理解出来なくて、質問をぶつけた。
「シンク、そこの花を見てよ」
リッカが指さした方向に、シンクは顔を向ける。目線の先には、雑貨屋があり、その看板の横には花が咲いた鉢植えがあった。
「あの花がどうしたんだ?」
しかし、シンクにはリッカの言わんとしていることを察することが出来なかった。花が咲いていることと、人の心が現れることに何の関係があるのだろう、とシンクは疑問を抱く。
「ただ勝手に咲いているだけなら、花はそこまで綺麗に咲くことは出来ないわ。けれど、この雑貨屋の主人が、花を愛でるように大切に育てているから、人の目を惹くほど美しく咲くことが出来ているの。それが人の心が、目に見える形となって現れている証拠よ。でしょう、クルム?」
「はい、リッカの言う通りです。この町の――いや、どこの町でも細かいところを見れば、人々が何に関心を持っているのか、何を大切にしているのか気付くことが出来ますよ」
「あー、分かったような分からないような」
クルムとリッカの言葉を聞き、シンクは首を傾げながら、曖昧な言葉を口にする。シンクの仕草を見て、クルムとリッカは思わず微笑んだ。
「まぁ、子供には難しい話かもね」
「いつか僕がこんなことを言ってたなぁと、心の片隅にでも置いて頂けたら、それで十分ですよ」
未だ首を傾げるシンクに、これ以上考え込ませまいと言葉をかけたクルムは、改めてデムテンの町に目を向ける。
デムテンの中で恐らく一番商売が栄えている場所にクルム達はいるが、誰もが活気に満ち溢れていた。店側と客側が対等に笑いながら世間話をしたり、子供達も元気よく大通りを走り回っていた。
そして、隣国マーヴィに近い場所に位置しているからか、クルムのことを見て騒ぎ立てるような人もいない。
これは、デムテンという町で大きな事件が起こらずに、人々が平和に過ごせている証拠だろう。自然と人が上手く調和できている。
「本当にデムテンは平和な町だね。デムテンに研究所を構えるということは、パルマ博士は自然が好きだったの?」
リッカの質問に、クルムは首を横に振る。
「パルマ博士は人と関わると研究に支障が出るからと、静かに暮らせるデムテンを選んだと言っていました。自然が好きという話は、聞いたことないですね」
「そっか。人と関わることを避けたいなら、町の中には研究所を構えることはしないよね。デムテンにいること以外の手がかりは、クルムは持っていないんだよね?」
「はい」
クルムが申し訳なさそうに頭を下げる。
パルマの元研究所から町の大通りに出るまで、少なくともパルマがいると思われる新しい研究所を見つけることは出来なかった。
これ以上クルムも情報を持っていないとすると、新しい手段を用いなければならないだろう。
リッカはエインセルを取り出すと、
「しょうがない。私も世界政府の手続きついでに、デムテンの地図と、パルマ博士について情報を集めて来るよ」
「お願いしてもいいんですか、リッカ」
思ってもいなかったリッカの提案に、クルムは目を見開いて食いつく。
「パルマ博士に会えば、クルムの戦い方も変わるんだよね?」
クルムは今まで悪魔人と戦う度に、傷を増やして来た。正直、そんなクルムの姿をずっと見続けているのは、リッカにとっても心苦しいことだった。
もしも、パルマに出会うことで、クルムが傷付く可能性がゼロに近付くならば、リッカは持てる権利をいくらでも使う。
「変わります」
クルムは真っ直ぐにリッカを見つめながら、迷いなく二つ返事で答えた。
「なら任せてよ。といっても、世界政府がどこまでパルマ博士について把握しているかは分からないけどね」
もしもパルマ・ティーフォが有名な人物で大きな動きを見せているのなら、世界政府の情報網に引っかかるだろう。しかし、パルマがひっそりと自分の研究に打ち込んでいるなら、話はまた違って来る。
デムテン支部に行って鬼が出るか蛇が出るかは、実際に足を運んでみなければ分からない。
「僕達の方でもパルマ博士の情報を集めておきます」
「あまり派手な行動はしないでね」
「俺が付いているんだから、心配無用だ!」
リッカはクルムに釘をさすと、代わりにシンクが自信満々に答えた。どこからその自信が出て来るのだろうか。子供が故の純粋な心に、リッカは微笑みを零すと、
「頼りにしてるわ」
デムテンにある世界政府の建物を目指して走り始めた。
クルムは度がつくほどのお人好しだ。パルマについての情報を集める傍ら、もしも困っている人がいれば、自分が置かれている立場や状況を忘れて、迷いなく手を差し伸べる。そして、そのことが原因で自らの状況が更に悪くなろうとも、クルムは気にも留めない。
もう何日もクルムと旅をしていれば、クルムの性格は掴めて来るものだ。
「――私がしっかりしないと」
リッカはそう呟くと、クルムに余計な負担を与えないためにも、デムテン支部に向けて更に足を速めた。
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