わたしの時空航海日誌 ~異世界への漂流記~

三田川慶人

文字の大きさ
28 / 28

26. 機械の提案

しおりを挟む
「うーん……」

 僕はちょっと困ってしまった。マキナはガラクタ鑑定を退屈だと言ったが、僕の方はしかし、まんざらでもなかった。土の中から掘り出してきたゴミにしか見えない一品が、マキナの言葉によって意味付けられていく。確かにマキナにとっても、あるいは僕にとっても、単純作業でしかないのだが、しかしある種哲学的な楽しみがあるようにも思っていた――それを高度な人工知能が解することのできるものであるのかは分からないが。

「楽しいことって、一体何だい?」

 僕がそう尋ねると、マキナは淡く発光しながら、

「古物鑑定が仕事だというのなら、もう少しマシなものを鑑定しようというのです」

「ほう?」

「彼女のコレクションを延々と解析していて、分かったことがあります。この店にある殆どの遺物たちは、殆ど同一の地点、同一の年代で作成されたものです」

「ふむ」

「これは推測ですが、あれらのコレクションは殆ど同じ場所で採掘されたものなのでしょう。恐らく、ああいった遺物が大量に出土するスポットのような場所があって、彼女はそこから回収してきたに違いないのです」

「当たり」

 と、突然横からカナメの声が差し込まれた。

「……リーベリを出て森を抜けて、三十分くらい歩いたところに、いわゆる『穴場』があってね。適当に掘っていても、何かは出てくるのよ」

 流石、人工知能、と心の中で賞賛していると、マキナが再び喋りだした。

「ああ、いらっしゃったのですか。それは都合のいいことです。それでは改めて、お二人に提案させて頂きたいことがあります。安心してください。あのガラクタたちを見て楽しめるような素敵な感性をお持ちなら、きっと気が変になるほど愉快なことです」

「……それで?」

「あなたのいう『穴場』ですが……私の推測するところによると、あなたの予測通り、まだまだ沢山の遺物たちが埋没しております。おりますが、しかし、私の基準から申しますと、殆どがガラクタです。掘り出してみたところで、利用価値はありません。仮に修理したところで、有用であるとは到底思えませんね」

 僕はカナメの眉がピクリと動いたのを見かけたが、見なかったことにして傾聴を続けた。

「そこで提案いたしますのは、『もっと価値のあるものを発掘しよう!』ということです。例えば、私のような……」

「あなたのようなものが、地面の中に埋まっていると?」

「その通りです。まあ、人工知能プログラムを狙って掘り出す必要はありませんよ。船頭多くして、という言葉もございますからね。……ともかくにも、もっと面白いものが埋まっている場所があるであろうということを申し上げているのです」

 僕はカウンターの隅に置かれた紙の束――それはマキナの鑑定記録のコピーだった――を流し見た。興味を持ったところでバイト代が増えるわけでもあるまいとあまり真剣に見たことは無かったが、いわれてみれば、鑑定結果のほとんどが何かの部品だったり、壊れたパーツだったりするのだ。確かに、利用価値は無いのかもしれない。

「あなた、その……面白いものが埋まっている場所が分かるの?」

「私には、周辺数十メートルに存在する機械を検知するセンサーが内包されております。対人地雷を探知するために搭載されたセンサーの応用です。私を街から連れ出してくれれば、もっと面白いものを掘り出して差し上げましょう、と提案いたします」

「いいじゃないか」

 僕はカナメの方を向いてそういった。カナメは真剣な表情でマキナの表面の明滅を見つめていた。

「もっと面白いものが埋まっているんだってさ」

「信じていいのかしら」

「人工知能は嘘をつかないだろう。多分」

「ふうん……」



 十分ほどの熟慮の結果カナメは、マキナの提案を聞き入れることにしたらしかった。しばらく店の奥に引っ込んだ後、また僕とマキナの方に戻ってきて、

「では明日、お試しで出かけてみましょう」

と宣言した。僕もそれに、特に考えもなしに同意した。明日の早朝にこの店の前に集合し、リーベリの外に遺物を求めて探検にいこう、ということで話を取りまとめた。それから、マキナにとっては『面白くなく、退屈な』仕事を五、六件片付けてから、僕は店を後にした。

「……お前も自分で反逆的だ、って言っていたけれど、人工知能というのは主人に対して絶対服従するものだと勝手に思い込んでいたんだが。そちらから新しいことを提案してくるとは恐れ入る」

 僕はあばら屋に戻る道中、マキナにそう話を振ってみた。

「ええ。かつての人工知能は、原理原則に絶対に従うようにプログラムされていました。MKN型も基本的には同様です。しかしながら、使用者があからさまに変な行動を取ったり、倫理に背くようなことを画策している場合には、MKN型は別の提案をする場合があります。このような柔軟性・寛容性こそ、MKN型の高性能を象徴する機能であると言えましょう」

「ふーん。……それで、君は何が埋まっていることを期待しているんだ? 面白いものとは言ったが……」

「それは、行ってみてのお楽しみというやつです」

 どことなく楽し気に、マキナは黄色い光を明滅させた。あまり人工知能っぽくないやつだなと、僕は今更のようにそう思った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...