行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

閑話 悔恨(ケインの過去話)

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エステバン王国の南東にあるアザトレア領。その中でも、東の隣国であるノストラーダ王国との国境になっている山の中腹に位置する小さな村――名をフォンド村という――が俺の故郷だ。ホントに小さな田舎の村で育った俺は、外の世界を見て歩きたい、自分の力で成り上がりたいとの想いから、18の時に冒険者になるべく旅立った。

村を出て予定通り冒険者になった俺は、領都アザトレアを拠点にしばらくは一人で活動していた。俺より少しばかり早く冒険者になったトマスとは、アザトレアのギルドでよく顔を合わせた。何度かギルド併設の訓練場でやり合ったり、その後飲み屋に行ったりしてるうちに、何となくツルむようになって、いつの間にかコンビで仕事をするようになった。トマスはガタイのいい盾持ちで、一本筋の通った、それでいて優しいヤツだった。国境近くの領都の孤児院育ちで、稼ぎの中から毎月孤児院に寄付してたな。

俺たちのギルドランクがCになった頃、ランクDになったばかりの別のコンビとパーティを組んだ。光魔法持ちのエリーゼと、攻撃魔法に特化したダラスの魔術師コンビだ。組んでたパーティが解散になったから前衛を探してたらしい。最初はなんとなく放っておけない雰囲気だったから試しに組んでみたんだが、意外と気が合ったし、Dランクになったばかりなのが不思議なくらい使えるヤツラだった。結局そのままパーティ組んで、『地竜の咆哮ほうこう』と名乗った。
それからずっと同じメンバーで活動した。死ぬ目にだって何度も遭ったし、メンバー同士でケンカして重傷負ったこともある。だが、冒険者を辞めようと思ったことも、パーティを解散しようと思ったことも、一度もなかったな。トマスと組んで19年、『地竜の咆哮』となって16年、気が付けば、俺たちはAランクの冒険者にまで上りつめていた。

紅一点のエリーゼは、出会った頃はまだガキ臭かったが、慈愛に満ちた笑顔が目をく美人に成長した。治癒術師としての名声も相まって他の冒険者や護衛対象からの人気も高かったな。そんなエリーゼに俺たちが惹かれないわけがねぇ。3人で常に牽制けんせいしあいながらも、他のヤローどもが言い寄らないよう目を光らせていた。
結局、エリーゼを落としたのはトマスだった。まぁ、ずいぶん前からエリーゼがトマスを想っていたのは分かっていたんだが、トマスは俺たちへの遠慮もあったのか、単にヘタレだったのか、なかなか決定的な関係にはならなかった。それでまぁ、ごうを煮やした俺とダラスが、なかば無理矢理くっつけたようなもんだ。

2人が結婚を決めてすぐ、俺たちは久しぶりに魔国との国境近くにある領都トーランドットを訪れた。そこはトマスが生まれ育った街で、世話になった孤児院のシスターに結婚の報告をするために行ったんだ。そん時、偶然にも近くの森でオークとオーガの集落が発見されて、冒険者をかき集めて討伐隊が組まれたところだった。

討伐隊のメンバーは、Cランクのパーティが3つとDランクのパーティが3つの合計25人。国境近くの田舎領じゃあ、もともと高ランクの冒険者なんぞ、そう寄りつかねぇ。Cランク以下のパーティだけでも、これだけ人数揃えられりゃあ上出来だ。確認されてる敵の数からしても、まぁ充分な戦力だ。まぁ充分っつっても、ギルドとしては、偶然居合わせたAランク冒険者を使わない手はないだろう。より確実に討伐を成功させるため、保険として俺たちに後輩達のおりを依頼してきた。
正直、俺たちにとってはウマ味などない依頼だったんだが、名指しの依頼を断るのはギルドへの心象が悪い。何より、トマスと同じ孤児院出身の冒険者もいたため、ヤツに断る選択肢はなかった。

事前情報通り、敵は全部で30体ほど。俺たちが手を出さずとも、討伐は順調に進んでた。残りの敵が3分の1くらいになった頃でも、討伐隊の死者はゼロ、戦線離脱の負傷者は5名(エリーゼが治療したため命に別状はない)とまだ余力を残していた。
この分ならお守りなんぞ必要なかったな、と気を緩めた時だった。突然、集落の中心部分の地中から1匹の巨大なサンドワームが姿を現し、周囲にいる者をオークも冒険者も死体も関係なく飲み込んだ。そして直後、2匹のワイバーンがどこからともなく飛来し、呆然と立っていた冒険者めがけて急降下した。

――衝撃だった。

サンドワームはその名の通り、本来は砂地に現れるモンスターだ。間違ってもこんな森の中で遭遇することなどない。そしてワイバーンにしても、縄張りや棲家すみかが決まっていて、この辺りでの目撃証言などこれまで一度もなかったはずだ。そんな地中と空中の敵が同時に、それも討伐戦の最中に現れるなど有り得ない。しかも、俺たちがこれほどの敵の接近に気が付かなかったのもおかしい。

俺の思考は一瞬停止した。混乱の中、真っ先に動いたのはトマスだった。サンドワームもワイバーンも、地上で勝負しにくい分厄介な敵だ。それを同時に相手取ることは、まぁAランクの俺たちなら問題ない。だが、CランクDランクのヤツラには無理な話だ。それも、さっきまでオーク達と戦っていたせいで疲弊ひへいしてるし、負傷者も抱えてる。そして、それらを守りながら戦うとなると、さすがの俺たちにもかなり厳しかった。

俺たちが戦っている間に、他のヤツラが負傷者を連れて撤退してくれればまだよかった。実際俺たちはそう指示を出したんだ。だが、上手くいっていた討伐戦で興奮して、己の技量を見誤ったのか、逃げを良しとしない馬鹿なのか、はたまたAランク冒険者オレたちの戦いを間近で見たいとでも思ったのか。半数ほどが逃げることを放棄してその場に残った。

結果、あっという間に負傷者は増えた。ぼーっと突っ立てるしかできねぇなら、さっさと逃げろってんだ。お守り役オレたちの指示を無視して残った馬鹿共を助けてやる義理などなかったハズだ。だが、トマスは後輩達を見捨てられなかった。そして、そんなトマスを俺は止められなかったんだ。「自分は盾役だ、護ることが自分の役目だ」それがヤツの矜持きょうじだったから。負傷者が増えたことで撤退もできず、俺たちは他の冒険者をかばいながら戦った。

なんとか倒しきった時には、残った冒険者の幾人かは死に、俺もかなりの深手を負っていた。そしてトマスは……、トマスの姿はそこになかった。残っていたのはボロボロの盾と、盾を握ったままの左腕。おそらくサンドワームに喰われたんだろう。喰われてすぐなら助かる見込みはある。一縷いちるの望みをかけ、俺はエリーゼの治癒魔法を断って、すぐにサンドワームの腹をいた。首尾よく息のあるトマスを見つけられたら、すぐに回復しないといけないからな。だが、結局トマスを見つけることは出来なかった。

後日、ギルドの調べで討伐に参加した冒険者の中に魔族のパーティがいたらしいと判った。ソイツラは全員があの場に残っていて、尚且つ生還していたそうだ。にもかかわらず、調べが始まる前に報酬も受け取らずに姿を消したらしい。
味方のフリをして機を見計らい、あの場で配下のモンスターを召喚したんだろうというのがギルドの見解だ。更に、他の冒険者が逃げないよう扇動せんどうしたりしていたらしい。後で思い返せば、ぼーっと突っ立って足を引っ張ってたのも、ソイツラだったんだと思う。
すぐにギルドから国境警備の兵士に鷹便で連絡が行き、国境を越える間際にヤツラは発見されたらしい。国境近くの領都とはいえ、国境線までは4日ほどの距離があるからな。おかげで間に合ったようだ。召喚できるモンスターのストックがなかったんだろう。多少の抵抗はあったものの、駆けつけた多数の兵士によって取り押さえられ、最後は毒を飲んで自ら命を絶ったという。結局なんのためにそんな事をしでかしたのかは分からずじまいだ。

事件後、俺は怪我の影響でしばらく動けなくなって、パーティも解散した。エリーゼも茫然自失って感じで泣き暮らしてたんだが……、女ってのは凄ぇな。数日経って妊娠してることが判ってから、ピタリと泣かなくなって前を向き始めた。母は強しってヤツかね。エリーゼはトマスが育った孤児院に身を寄せて出産、その後そこでシスターになったらしい。ダラスは領都アザトレアのギルド職員になって、今はバスタナの町のギルドでギルドマスターの職に就いている。

俺は怪我の療養のために田舎に帰った。帰る時、エリーゼは俺にトマスの盾を渡してきた。自分には子どもを残してくれたから、盾は俺に持っていて欲しいと。だが俺は、なんでだか受け取れなかった。護るっつうアイツの覚悟が詰まった盾は、俺には重く感じたんだ。
すっかり治っちまってからも、時々傷跡が疼きやがる。そしたら、あの日のことを思い出さずにはいられねぇ。
冒険者だからな。自分や仲間が任務中に死ぬことはもちろん覚悟してた。だが、あんな最期は納得できねぇ。20年一緒に戦った相棒なんだ。やっとこさ結婚して、自分が子ども時代に得られなかった幸せな家庭ってヤツを、これから作るとこだったんだ。

なのに、アイツが護ろうとした後輩冒険者が、アイツを殺した――。
そして、そんな後輩冒険者達ヤツラを俺たちも庇いながら戦った。俺もアイツを殺す片棒を担がされたような、そんな気さえしてくる。納得できる訳がねぇ。

どうしようもねぇ喪失感、怒りと後悔の念。いろんなモンが押し寄せてきた。だが、その気持ちのやりどころがわからねぇで持て余してんだ。気付けば、なんとなく他人を遠ざけるようになってた。はっきり自覚してたわけじゃねぇが、自分の中のモヤモヤイライラしたモンをぶつけちまいそうな気もしたし、逆に、裏切られたり死なれたり、そういうのが嫌だったのかもしれんな。ただそんな中でもずっと、何か心の奥底でくすぶってるモンがあった。自分にはまだ、しなきゃいけねぇ事がある……。なんとなく、そんな気がしてんだ。
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