【連載版】魔王さまのヒミツ♡ ~バレたら即・下剋上?!クール魔王の素顔は泣き虫チキンな箱入り息子~

黒木  鳴

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さらりと揺れる髪が光を弾き輝く。
そして宝石のごとく大きな瞳の縁にも光るものがあった。

「ううぅぅぅ~!!魔王もうやだぁぁぁ~~!!下剋上こわいよぉぉぉーーー!!!」

涙を浮かべ、えぐえぐと喚く青年。

頭上を飛ぶ使い魔のコウモリに羽でヨシヨシされつつ泣きじゃくっているのはあの魔王だった。
王の間では玉座から無感動な視線を周囲へと投げかけていた麗しき魔王。

…………なんのことはない、無感動に見えたのは必死に表情を押し殺していたためだ。

「も、やだぁぁぁ!!」

「大丈夫ですよレイ様。あなたは私がお守りします」

泣きじゃくるレイの手を掬い上げ、ジェラルドはそっとその指先へと口付けた。その仕草は実に優雅で、相手がなにも知らないうら若き乙女ならイチコロで恋に堕ちていただろう。

だけどレイは目を吊り上げて男を睨みつけた。

「なにが大丈夫だっ!そもそも僕を魔王に仕立てあげたのお前じゃんっっ!!」

「ああ、そんな怒った顔も可愛いですね」

「いや聞けし!!……流れるように頬を包むな、口説き文句を吐き出すな!ちょっ、近い!!や、やめっ……」

「おや、てっきりその可愛らしい唇を塞いで欲しいのかと」

「ちがーう!!わっ、ほんと近い、近いっ」

「その辺にしていただけますか、ジェラルド様」

指をさして喚くレイに顔を近づけるジェラルド。
わたわたと焦るレイが次第に押され、2人の唇の距離が5cmほどになったところで白い手袋ごしの手が差し込まれた。

「お戯れはほどほどに。閣下がご覧になられたら大変なことになりますよ」

ストイックな印象の美丈夫はヴェルツナー家に忠誠を誓う騎士だ。
危ういところを助けられたレイは「クロノス……」と感極まった声で彼の名を呼び、反対にジェラルドはチッと低く舌打ちをした。

そんな空気をものともせず、カートを押してきたメイドが満面の笑顔をレイへと向ける。

「レイ様、お茶とケーキをお持ちしました。新作のチョコケーキですよ」

「新作ケーキ!」

メイドのララの言葉にレイの表情がぱっと華やぐ。
先程までの泣き顔はどこへやら、幼いこどものように瞳は目の前に用意されるケーキにくぎ付けだ。

「いただきまーす。……おいひぃ」

ほにゃりと幸せそうに緩む表情に部屋にいる面々の頬も緩む。

プライベート空間でもあるここではクロノスやララだけでなく、護衛にメイド、諸々の使用人に至るまで長くヴェルツナー家に仕える者ばかり。
幼少の頃から大事に大事に見守ってきた坊ちゃま愛が強い彼らは総じてレイに甘いのだ。

2個目のケーキをおかわりしたところで部屋に一人の男が入ってきた。

二十代後半に見える男はケーキを頬張るレイへ甘く蕩けそうな笑みを向ける。
愛しくて仕方がない、そんな感情を瑠璃色の瞳に惜しげもなく宿し、ソファへと歩み寄る。

「よくも押し付けてくれやがったな」

優美な美貌から漏れたとは思えない口調。
ツイ、と顔を横へ向けた彼の表情は一変していた。

レイへと向けてた甘く蕩けそうな笑みとは別物の凍てついた表情と声を受けても、怯むことなくジェラルドは完璧に作られた笑顔を返す。

「申し訳ありません、ヴェルツナー卿。レイ様が心配だったあまりつい」

無表情の下に泣き顔を隠し退出したレイの後を追うために、最低限の仕事だけしてその他を全て丸投げにしたジェラルドは悪びれもせずそう返す。
ヴェルツナー卿と呼ばれた男の額に青筋が浮かんだ。

「ご、ごめん父さん。僕が中途半端に退出したから…………」

険悪な雰囲気にフォークをわたわたと揺らしながらレイが声をあげる。
途端に男はにっこりと甘い笑みを取り戻した。

「気にすることはないよ。私が苛立っているのはこの若造にだけだから。君はなにも悪いことなんてない。パパはいつだってレイくんの味方だからね」

さぁ、この胸に飛び込んでおいで!とばかりに両腕を広げる男は先程までとはまるで別人。
温度差で風邪をひきそうな対応差だった。

そして彼らの口から出た言葉の通り、この男はレイの父親だ。

どう見ても二十代後半の貴公子にしか見えない彼こそ、かつての魔王としてこの魔界に君臨していたディードリッヒ・ヴェルツナー。

親子ということもありディードリッヒとレイの容姿はよく似ている。

パッと見は兄弟のようにも見える彼らだが…………彼らをよく知る者からすればその印象は全く異なる。

コロコロと表情が変わるレイは年齢のわりに少し幼い感じはするものの、一目で愛された育ったのだろうなと感じる素直さがある(魔王としての外向けの表情は別にして)。

一方、ディートリッヒはある意味とても吸血鬼らしい。
その優美な美貌に浮かぶ甘い笑みも、酷薄な冷笑もどこまでも効果的だ。
虜になれば堕落させられ、敵対すれば命取りになる。そんな退廃的な妖しさがその全身からは発せられている。

(この2人を似てるという奴らは見る目がないな)

若作りの食えない元・魔王を前にするたびにジェラルドはいつもそう痛感している。

(そもそも “可愛い” で出来てるレイ様と違って “可愛げ” なんてものがまるでない)

「なにかな?」

「いいえ?なんでも」

にっこりと作り物の笑みを浮かべ合う彼らを眺める周囲は思った。

(このお二方、わりと似てるよな……)

(性格的にはジェラルド様の方が閣下と血のつながりがありそう)

(これ同族嫌悪ってやつでは?)

笑顔で睨みあう腹黒×2と無言で見守る使用人たち。

そんな中、レイだけはよくわかってなさそうに首をかしげつつ2個目のケーキを完食していた。
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