【連載版】魔王さまのヒミツ♡ ~バレたら即・下剋上?!クール魔王の素顔は泣き虫チキンな箱入り息子~

黒木  鳴

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毒に苛まれた意識が呼び起こした苦い記憶にジェラルドは自嘲する。

『本当に強ければ他者と比べる必要なんてないのにね』

脳裏に先日のディートリッヒの声が響いた。

「……まったくです」

荒い呼吸に言葉が混じる。

「本当……どいつもこいつも、バカばっかりだ」

自分も、ゼットも、イグナーも……。

自らの力を過信し、自分が強いと思っている愚かな若造に過ぎない。
井の中の蛙が大海を知らずに粋がってるだけ。

そのことをジェラルドは既にはっきりと思い知らされた。

それはレイに負けたことだけじゃない。
例えレイがあそこまで圧倒的な強さを持っておらず、彼を……殺してしまっていたとしても魔王になる未来などありはしなかった。

あの頃の自分なんてディートリッヒに八つ裂きにされておしまいだろう。
現にレイが泣いて止めなければ確実に自分は殺されていた。

結果的に半殺しにされたが、とてもそんな程度では済まされないことをしでかした自覚はあるし、きっと一生根に持たれるのは想像に難くない。
自業自得だが。

結局、ディートリッヒの魔王時代を知らないジェラルドは彼のこともどこかで甘くみていたのだ。

要は彼の言葉通りに “自らの力を過信した愚かな若造” だった。

くだらない策を弄したうえ大切な相手を殺めようとし、傷つけ、傷つけさせ……その心に消えない傷を刻み込んだ、どうしようもない愚か者だ。



無様に壁に手を付きながらなんとか目的の部屋までたどり着いた時には半身が爛れたように青く変色していた。

「ジェラルド様?!」

扉を守っていた衛兵がその姿に驚きの声をあげる。

「レイ様はご無事、ですか?」

「は、特に異常は……」

異変がなかったことを告げつつも、別の者が室内に確認を取る。
クロノスに制されながらも開かれた扉のすき間から何事かと顔を覗かせたレイの目が零れそうなほど大きく見開かれた。

「ジェラルド?!一体なにがっ……!!?」

「危険ですレイ様どうかお下がりください。誰かっ毒に詳しい者を!ララを呼べっ!!」

「僕は平気だ!毒は効かない」

留める手を振り払いレイはジェラルドへと駆け寄った。
歩くのも辛そうな彼を一先ずソファへと先導する。

やがてララが普段はさせない足音を響かせて慌ただしくやって来た。

「坊ちゃまになにかあったのですか?!」

取り乱した彼女はスカートをたくし上げたまま叫ぶ。常時は隙なく着こなしているメイド服を走りやすさを優先し、さらには幼いときの「坊ちゃま」呼びになっていることからも彼女の動揺が窺えた。

「ララ、ジェラルドを診てあげてっ」

「…………」

ただ急いできて欲しいとだけ言われたのだろう。
レイになにかあったのかと焦燥も露わに駆けつけたララはソファのジェラルドを目にしてスンと表情を消した。

彼女はわりとジェラルドが嫌いだ。
その理由は言わずもがな。

それでも大好きな坊ちゃんに涙目で懇願されて断れるわけもない。

渋々心に折り合いをつけると、対レイ用の笑顔を浮かべた。
彼女もまた雇い主に似て相手に対する表情と温度差が激しい。(※メイドとして嫌いな相手にも最低限の取り繕いの笑顔は浮かべている点は雇い主とは異なる。レイに対する甘さは共に天元突破)

「お任せをレイ様。このララ、レイ様のお望みを叶えてみせますわ」

「ありがとうララ!!」

キラキラした瞳を向けられて気をよくしたララはジェラルドの前で膝をついた。

変色した肌に手を当て、状態を見る。

「この毒でよくもまあ動けましたね」

呆れながらも関心しつつ自らの手の甲を爪先で薄く傷つけ、滲んだ血に触れつつ短い詠唱を唱える。
たちまちジェラルドの肌の色が引いていく。
元通りとはいかぬまでも爛れはだいぶ収まった。

自身も毒爪を擁するララが毒の扱いに秀でているのだ。

「完全に影響が抜けるまでは数日かかります。ですがジェラルド様の生命力なら明日には動くことも可能でしょうし、いずれ完治致しますわ」

ララの言葉にレイはほっと息をつき、荒い呼吸が収まったジェラルドが礼をのべる。
ジェラルドの礼など欲しくもないララはレイのお礼だけ受け取った。

治療を見守っていたクロノスが水の入ったグラスを差し出しつつ口を開く。

「それで……一体なにがあられたのです?」

「そうだよ!ジェラルドがこんな負傷するなんてなにが……?」

まだ激しい疲労感を感じる体を起こしつつジェラルドは語り出した。

不穏な動きをしているゼットのこと、ディードリッヒの不在を彼らが狙ってくる可能性が高く警戒していたこと、それからついさっきのイグナーとの一戦。

「そんな…………じゃあ、ジェラルドは、僕のせいで……」

「あなたは悪くありません」

「でも……!」

反論しようとしたレイは目に涙を溜め、キュッと唇を噛みしめる。
身体の横で握りしめられた手がフルフルと震えていた。

「クロノス、ララ、他のみんなも。悪いけど席を外して欲しい」

普段の彼らしからぬ落ち着いた静かな声だった。

「ですがレイ様……」

「命令だ」

当然のように反論しようとしたクロノスだが、顔を上げたレイの瞳の強さに折れた。
はぁ、と一つ溜息を吐いたあとで姿勢を正す。

「わかりました。部屋の前で待機致します」

それは譲らないと主張する彼の言葉にコクリと頷いた。
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