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しおりを挟むふに、と唇に触れる柔らかい感触。
その感触に恥ずかしさがこみ上げ、顔に熱が込み上げるのを感じた。
ほんの一瞬だけ重ねたそれを離し俯けば、大きな手に頬を包まれ顔を上げさせられる。
アイスブルーの瞳から逃れる様に身じろぐが……それよりも早く後頭部を掴まれた。
再び唇に感じる柔らかな感触。
それを感じた次の瞬間には熱い舌が無遠慮に咥内を暴れまわっていた。
その熱さと感触に怯むも後頭部に回った手が逃げ道をくれない。上顎を舐められる未知の感覚に仰け反った背中も腰を支える手に阻まれ、ただただ体中を駆け巡る熱と震えに耐えることしかできない。
どのくらいそうしていただろう?
いつしか縋りつくように握りしめていた胸元の上を銀の糸が伝う。
はぁはぁと荒い自らの呼吸音がいやに耳に響いた。震える体は力が入らなくて、凭れ掛かるようにコテリと頭を預ける。
なにより……顔があげられない。
もはや顔と言わず、全身を巡る熱は先程の比ではないほど。
「……誘惑のプロフェッショナルこわい……」
耳まで真っ赤なのを感じながら両手に顔を埋めたレイは呟いた。
悪魔こわい……。
全身の血液が逆流するような羞恥に震えつつ慄いた。
「あなたねぇ……」
いきなりキスなどしてきて先に煽ったのはどっちだというのか……。
だけど目の前の天然小悪魔はなにもわかってなさそうな顔でキョトンとしている。本人に誘惑してる自覚ないのが厄介だ。
いっそジェラルドの方が「……誘惑のプロフェッショナルこわい……」と言いたい気分だった。
なんだか癪なので、ちょっぴり反撃してみることにした。
「まぁ、いいです。これ以上手を出したら本気で襲いそうですし」
「?!」
問題発言にレイは目を剥く。
まじまじと見れば……にっこりと綺麗な笑みを返された。
本能的に危険を感じ、力の入らない体に鞭を打って生まれたての小鹿のようなぎこちなさでぞりぞりとソファをお尻で這う。
一瞬で距離を詰められた。
ひぃ!と体を揺らせば、その反応を愉しそうに見降ろされるのが腹立たしい。
怯えた姿を楽しむなんて……流石は悪魔。
「今後はむやみに誰かの血を吸ってはいけませんよ?」
そう言ってジェラルドが先程咲かせた赤い痕を指でツツゥと撫でる。
「でないと…………嫉妬のあまり “お仕置き” してしまうかもしれません」
「し、しない!気をつける!!」
意味深に声を潜められた “お仕置き” の言葉に首振り人形のごとくコクコクと頷いた。
本能が全力で警報を告げていた。
素直に宣言するレイにジェラルドが「おや、残念」とわざとらしく呟く。首筋をなぞる手つきが艶めかしくて僅かな電流でも流されたように背筋がゾクゾクする。
プルプルしながら悪魔の誘惑テクに慄くレイはその様がジェラルドの嗜虐心を刺激しているなど思いもしない。
要はどっちもどっち。
「おねだりは私だけにしてくださいね」
チョン、とレイの唇を指で突きつつ美しい悪魔は微笑む。
相手を堕落させるような甘い甘い笑みを浮かべて。
そのくせ焦がれて已まない抑えきれない熱をその瞳に浮かべて。
誘惑する者の声音で、誘惑されきった融けた眼差しで。
「私の血なら、全てあなたにあげてもかまわない」
脳を焦がすような甘いその言葉と共に晒された首筋。
立て続けに血を摂取したから飢えてはいない。
…………飢えては、いないけれど……レイは細いながらも男らしいその首筋から視線を離すことができなかった。
ジェラルドの甘い血の味を知っている。
薄い腹の奥からグルグルと沸き立つような感情が湧き上がる。
本能が “欲しい” そうレイを急き立てていた。
劣情にも似たその感情にコクリと小さく喉がなった。
湧き上がるそれをほんの僅か抑え込み「ダメ」と唇を尖らせた。
「僕のことはお前が守るんだろ?だからその血を飲み干してお前を食い殺したりもしない。傀儡の眷属もいらない。お前は、お前の意思で僕のそばに居て僕を守れ」
あと……と桜色の唇が躊躇いがちに開かれる。
「昔みたいに “レイ” って呼んで欲しい。口調も。…………人前じゃないときだけでいいから」
どこか拗ねた色を含ませたその至上の命令に、ジェラルドは喜色を綻ばせレイを強く抱きしめた。
「仰せのままに」
躊躇いなく紡がれたその応えにレイも口元を緩めて両腕を伸ばす。
首に腕を回すように絡みつき、舌で首筋に残る印をなぞる。はじめての吸血の際にレイが無意識に刻み込んだ印だ。
愛撫するように舌でそれを舐め上げ、唇から淫らに牙を零れだす。
冷たく鋭い牙が首筋に触れる感覚を感じながら、ジェラルドは腕の中の愛しい支配者へと身を委ねた。
「ならば、この血のかわりに……私の愛は全てあなたに捧ぐことをお赦しください」
その後……吸血鬼は吸血をする際に相手の感情が流れ込む(思考や記憶が伝わるのではなく、色のようなもので大まかな感情が伝わる)ことを知ったジェラルドが、気持ちが伝わっていないどころか筒抜けだった事実に頭を抱え悶絶し……、仄暗い笑みを浮かべた彼にレイが悪戯をされたり。
なんだかんだでめでたく両想いになった二人に、面白くないディートリッヒやララからチクチクとジェラルドへの嫌みが増えたり。
周囲の魔族たちがやたらと従順になり、ヴォルフやルノアから尻尾ブンブンされ、イザークからは無言の熱視線を、かつての態度と180度方向転換したゼットに追い回され…………いつ本性がバレるかとヒヤヒヤしながら過ごすことになったりした。
「僕がんばったのになんでっ??」
「魔王として認められた以上に信奉者が増えちゃったねぇ。危ないからくれぐれも演技がバレないようにね」
「バレたら下剋上でなく襲われかねません。性的に。絶対に誰かと二人きりにはならないように!」
「襲われる?!!やだこわい!」
「この腹黒悪魔にも気をつけなきゃダメだよ。レイくんに変なことしたら殺すからな」
「クロノスを側から離しませんように。なにかあったら大声をあげてくださいね!すぐ駆けつけますわ!!」
「おやおや、恋人同士の関係に口を出すのは無粋では?」
クールで寡黙なはずの魔王サマの執務室は今日も何故かとっても賑やか。
「ううぅぅぅ~!!魔王もうやだぁぁぁ~~!!魔界こわいよぉぉぉーーー!!!」
鳴き声混じりの叫びが執務室に木霊した。
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