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しおりを挟む必死の弁明の末、なんとか誤解は解けた。
はぁー。
大きく息を吐き出し、ぐったりと頭を垂れる。
レイヴァンの肩口に頭を預ければ、ふわりと甘く爽やかなフレグランスが香った。その香りに癒されるように軽くぐりぐりと頭を擦り付ければ、彼の手がそっと髪を撫でてくれる。
俺が彼の髪を撫でるのはたまにあるけど、逆ははじめてかも知れない。
柔らかな香りと体温、髪を撫でる手の心地良さに身を預ける。
ぶっちゃけ俺のライフは激減している。
急速に癒しが必要だ。
とんでもない疑惑で俺のライフをごっそり削ったのもレイヴァンだけどね……。
引っぱられるという程ではない、だけどくいっと髪を引かれ「ん?」と顔を上げれば、ほんの少し視線を彷徨わせ唇をもごもごと動かしたレイヴァンがためらいがちに口を開いた。
「どうして急に……?」
「……?」
「その、えっと……ディープ、キス……ですか?その、なんで……」
薄っすらと目元を染めてもじもじと問いかける可愛い彼の疑問に率直に答えるならば、答えは「したかったから」なのだけど。
「君が誘惑をするから」
親指の腹でそっと唇を撫で、しれっと他人の所為にした。
いやうん、でも嘘じゃないし。
「ゆ、誘惑?!」
驚き、反射的に身をのけぞらせるレイヴァンの腰をぐっと掴んで引き寄せる。
開いた距離を詰め、もう片方の手で彼の手を取ると自分の左胸へと当てた。
「どうやら、君や私が思っている以上に、私の心臓はとっくに君のモノみたいだ。ついでに、私の理性は随分と脆いらしい。それなのにあんな風に煽る君がいけない」
「……っ!」
「正直、あの場で手を出さなかった理性を褒めてもらいたいぐらいだよ」
冗談めかしてにこりと笑うも、レイヴァンは真っ赤になって口をパクパクさせている。クッソ可愛い。
それに、欲望を灯された心と頭に、ふっと思いついちゃったんだよね。
チラリと視線を流して傍らを見れば、レイヴァンの視線もそれを追った。
座席に放りだされているのは先ほど蓋を開けたままの掌に収まるぐらいの小箱。
四つに仕切られた一つが空白で、濃い茶褐色の中で赤いハートが一際目を惹く。
どうやら俺は自分で思っていた以上にロマンチストでもあったようだ。
「私の心臓を君に」
重ねた掌の下でトクトクと鼓動を刻む俺の心臓。
「君の心臓を私に」
重ねた手をそっと放し、その掌をレイヴァンの心臓に。
トクトクよりもやや早めのリズムを刻む彼の鼓動を感じながら、すでに鼻先が触れそうな顔をさらに近づけクスリと笑った。
「知っている?人の細胞は日々生まれ変わり、今日食べたモノが体を作る」
チュッと重ねるだけの可愛いキス。
ほんの微かに、甘く芳しい洋酒とチョコの香りがした。
「オリフェリアの心臓が、溶け合って、混ざり合って……やがていつしか君になる。ロマンチェックだろう?」
薄っすらと笑えば、ぼふんっ!と湯気を立てる勢いでレイヴァンの顔が真っ赤に染まった。
ちょっ……大丈夫?!
クサすぎましたか?!ごめんなさい。
あわあわする俺の腕の中で真っ赤な顔を隠すように胸元にぐりぐり懐いていたレイヴァンがそろっと顔をあげた。まだだいぶ頬は赤い。
「もういっこ……ありますよ?」
赤いハートをチラリと指してそんなことを言うものだから……。
「煽っちゃダメだ、ってそう言っただろう?」
蠱惑的に輝くそれを摘み上げ、イケナイ唇にそっとそれを押し当てた俺は悪くないと思う。
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