24 / 95
24.ジョンの話
しおりを挟む
24.
「だが」とサフソルムは話を続けた。「こんなにたくさんの数が集まっているのを見たことがない。昨晩のイザベラを襲った者も彼らだろうが、傷つけられたのをお気に召さなかったのか。そうはいっても、彼らがこうやって自分たちでまとまって行動することを思いつくとは。果たして、これをマグナスに伝えられる術があるといいのだが」
アリステアがいった。「お屋敷にいる限り、ぼくは大丈夫だと思うけど」
「ふむ。あちらはあちらでマグナスに任せるしかないということか。オレさまたちも、残念ながらここで休んでいる暇はないようだな」
ぼくが落胆の表情を浮かべるのをネコは全く見ていないようだった。
「歌うたい、あの女を起こせ」
「ぼくが? けっこう寝てるよ。起こすときに襲われたらどうするのさ」
しかし結局ぼくがイザベラを起こした。剣を振り回されそうな気がしたので、マリウスのほうにまわって、馬の首に手を置いた。馬は気に入らなかったのか、鼻息を荒くし、頭をブルブルとふり、足踏みまでした。
「ちょっと、何やってんのよ」イザベラは無事に目覚め、半身を起こした。「マリウスにさわらないで」
「悪い。出発だよ」
「冗談。寝ぼけてるんじゃない?」
「寝ぼけてない。昨日、きみを襲った奴らにつけられたっていうんだ」
イザベラの顔つきが変わった。すぐさまサフソルムのそばによって、その視線の先にある、月明りに照らし出された山のふもとを見た。
「どうするの?」イザベラが聞いた。
「荷物をまとめたら出発だ。こちらへの匂いを嗅ぎつけない保証はない」サフソルムはそういった。ぼくらはすぐさま荷物をまとめ、サフソルムの後について再び歩き出した。列はこれまでよりも早く進んだ。ひどく明るい月明りが辺りを照らしていた。木々の間から明るい光がもれて、無数の葉が足元に濃い影を落としていた。
どれだけかの距離を誰もが無言で進んでいたが、イザベラが不意に声をあげた。「近くで気配がするわ」
「気配がわかるなんて」ぼくは思わずいった。「きみってすごいよ、ほんとに」
「もう追いついてきたか」サフソルムがいった。
「こんなところじゃ戦えない」イザベラが真剣な口調でいった。「私、気になっていたのよ」
誰も返事をしなかったので、イザベラは続けた。「あの二人。マグナスと美女よ。二人きりにするなんて」
ネコとぼくは驚き、呆気にとられて彼女を見た。
「私、戻るわ。……いえ、そうじゃないの。間違った。私、灰色のやつらを食い止める。あんたたちは先を行きなさい」
ネコが何か、言葉になっていない声をだした。だがすぐに我を取り戻した。「自分を買い被りすぎではないか? たった一人で何ができる」
「大丈夫よ。夜に襲われたときだって、十分対応できた。マリウスと一気に駆け下る。やつらをなぎ倒しながら。それに」とイザベラは自分の首元を服の上から軽くたたいた。「あの黒い羽根があるもの。いざとなったらあれを見せてやればいいのよ」
ぼくは口をはさんだ。「ぼくたちといてくれたらいいじゃないか。きみがここを離れるってことはマグナスとの約束を守らないってことだ」
「いいえ」イザベラはきっぱりといった。「ここじゃ戦えないっていったでしょ? 広いところまで行って戦って、そのあとは屋敷まで戻るわ。問題はむしろ、屋敷に到着して、私に気が付いて入れてもらえるかってことよね」
アリステアがいった。「ママは耳がいいから気が付くよ」
イザベラは得意げな笑みを浮かべた。「そういうことよ。ジョン、サフソルム。そうだわ、もう一度アリステアのママに来られないか頼んでみる。私がこういう頼みごとをするなんて、まずないんだけど。そして目的地でまた一緒に会いましょう」
よくわからないが、――よくわからないのはこれで何回目か。数えてもいないし、数える気もないが――、自分はイザベラやサフソルムがいうところの、所詮歌うたいだったし、サフソルムは所詮ネコだったし、アリステアは所詮子供だった。気持ちの盛り上がった女戦士を落ち着かせるための説得なんて、この場の誰もができっこなかった。
マリウスの背からぼくやアリステアの荷物が外され、そこに女戦士があがるとおごそかに自分の剣を抜いた。
「幸運を」イザベラは、――いまからの戦いに胸が躍るのか、それともマグナスのマリオンに対する何らかの思いの邪魔をしにいくことに喜びを感じているのかはわからなかったが――、わくわくする気持ちを抑えるような低い声でそういった。
やあ! という掛け声で馬とじゃじゃ馬のような人とが走り出していった。
「だが」とサフソルムは話を続けた。「こんなにたくさんの数が集まっているのを見たことがない。昨晩のイザベラを襲った者も彼らだろうが、傷つけられたのをお気に召さなかったのか。そうはいっても、彼らがこうやって自分たちでまとまって行動することを思いつくとは。果たして、これをマグナスに伝えられる術があるといいのだが」
アリステアがいった。「お屋敷にいる限り、ぼくは大丈夫だと思うけど」
「ふむ。あちらはあちらでマグナスに任せるしかないということか。オレさまたちも、残念ながらここで休んでいる暇はないようだな」
ぼくが落胆の表情を浮かべるのをネコは全く見ていないようだった。
「歌うたい、あの女を起こせ」
「ぼくが? けっこう寝てるよ。起こすときに襲われたらどうするのさ」
しかし結局ぼくがイザベラを起こした。剣を振り回されそうな気がしたので、マリウスのほうにまわって、馬の首に手を置いた。馬は気に入らなかったのか、鼻息を荒くし、頭をブルブルとふり、足踏みまでした。
「ちょっと、何やってんのよ」イザベラは無事に目覚め、半身を起こした。「マリウスにさわらないで」
「悪い。出発だよ」
「冗談。寝ぼけてるんじゃない?」
「寝ぼけてない。昨日、きみを襲った奴らにつけられたっていうんだ」
イザベラの顔つきが変わった。すぐさまサフソルムのそばによって、その視線の先にある、月明りに照らし出された山のふもとを見た。
「どうするの?」イザベラが聞いた。
「荷物をまとめたら出発だ。こちらへの匂いを嗅ぎつけない保証はない」サフソルムはそういった。ぼくらはすぐさま荷物をまとめ、サフソルムの後について再び歩き出した。列はこれまでよりも早く進んだ。ひどく明るい月明りが辺りを照らしていた。木々の間から明るい光がもれて、無数の葉が足元に濃い影を落としていた。
どれだけかの距離を誰もが無言で進んでいたが、イザベラが不意に声をあげた。「近くで気配がするわ」
「気配がわかるなんて」ぼくは思わずいった。「きみってすごいよ、ほんとに」
「もう追いついてきたか」サフソルムがいった。
「こんなところじゃ戦えない」イザベラが真剣な口調でいった。「私、気になっていたのよ」
誰も返事をしなかったので、イザベラは続けた。「あの二人。マグナスと美女よ。二人きりにするなんて」
ネコとぼくは驚き、呆気にとられて彼女を見た。
「私、戻るわ。……いえ、そうじゃないの。間違った。私、灰色のやつらを食い止める。あんたたちは先を行きなさい」
ネコが何か、言葉になっていない声をだした。だがすぐに我を取り戻した。「自分を買い被りすぎではないか? たった一人で何ができる」
「大丈夫よ。夜に襲われたときだって、十分対応できた。マリウスと一気に駆け下る。やつらをなぎ倒しながら。それに」とイザベラは自分の首元を服の上から軽くたたいた。「あの黒い羽根があるもの。いざとなったらあれを見せてやればいいのよ」
ぼくは口をはさんだ。「ぼくたちといてくれたらいいじゃないか。きみがここを離れるってことはマグナスとの約束を守らないってことだ」
「いいえ」イザベラはきっぱりといった。「ここじゃ戦えないっていったでしょ? 広いところまで行って戦って、そのあとは屋敷まで戻るわ。問題はむしろ、屋敷に到着して、私に気が付いて入れてもらえるかってことよね」
アリステアがいった。「ママは耳がいいから気が付くよ」
イザベラは得意げな笑みを浮かべた。「そういうことよ。ジョン、サフソルム。そうだわ、もう一度アリステアのママに来られないか頼んでみる。私がこういう頼みごとをするなんて、まずないんだけど。そして目的地でまた一緒に会いましょう」
よくわからないが、――よくわからないのはこれで何回目か。数えてもいないし、数える気もないが――、自分はイザベラやサフソルムがいうところの、所詮歌うたいだったし、サフソルムは所詮ネコだったし、アリステアは所詮子供だった。気持ちの盛り上がった女戦士を落ち着かせるための説得なんて、この場の誰もができっこなかった。
マリウスの背からぼくやアリステアの荷物が外され、そこに女戦士があがるとおごそかに自分の剣を抜いた。
「幸運を」イザベラは、――いまからの戦いに胸が躍るのか、それともマグナスのマリオンに対する何らかの思いの邪魔をしにいくことに喜びを感じているのかはわからなかったが――、わくわくする気持ちを抑えるような低い声でそういった。
やあ! という掛け声で馬とじゃじゃ馬のような人とが走り出していった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる