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28.イザベラとマリウスの話
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28.イザベラとマリウスの話
イザベラはマリウスを操って、怯むことなく、大変な数の灰色の鬼たちを蹴散らして進んでいった。彼らは次々と現れ、そのたびに彼女は剣でなぎ払い、突き刺したが、数は一向に減ることはなく増えていくように思われた。ただイザベラにとってよかったと思えたのは彼らはサフソルムたちの後をつけることはせず、あくまで自分に向かってくるということであった。
雄叫びと、こっちへ来なさいよ! という声を何度かあげながらイザベラは走り続けていたが、ふとマリウスの走る速さが遅くなり、息も苦しそうにしていることに気が付いた。
イザベラ自身も腕をふるっているのが少々堪えてきたのも確かだった。
そろそろあれを出すころか。彼女は首元をまさぐり、かけていた紐を手でたぐった。
そして羽根に手が触れるはずのところで何もないのに気が付いた。「嘘!」
目で確かめている暇はなかった。次々と襲ってくる鬼から目を離すことはできなかった。
くくりつけたはずの羽根を確かめるために手で紐を何度も回して探った。しかし何度触っても見つけることはできなかった。
「どうして!」汗が吹き出てきた。走るしかなかった。「マリウス! とまらないで! まだ走るのよ!」
イザベラの忠実な仲間は当然いうことを聞いて走り続けていた。しかし健脚なマリウスもこの大変な道が続いたため限界が近かったのだ。――マリウスの脚が何かに引っかかり、体が前に崩れた。イザベラが叫び、目の前に地面が近づくのが見えた。
だが見えたのはそれだけではなかった。
マリウスの優しい瞳にも、イザベラの勝気な瞳にも地面になぜか黒い穴がぽっかりと開いているのが映った。それがどんどん迫ってきて、マリウスとイザベラは一瞬の間にそこへ落ちた。
イザベラはその弾みで馬の背から外れた。彼女は叫びながら、マリウスも声にならない声をあげながら、どんどん落ちた。
そして特別に衝撃を感じることもなく、どこかに上手く着地をした。
上から落ちてきたのは一人と一頭だけだった。
落ちた先は完全に暗闇で何かを見ることはできなかったけれども、埃が舞っていて、匂いで周りが土だとか岩だとかでできているのが分かった。
自分たち以外に生き物の気配は感じられなかった。
イザベラは地面にぺたんと座り込んだまま、は! と大きく息を吐いた。手を伸ばし、すぐ隣に愛馬がいるのを確かめた。だが大きなマリウスが横に倒れこんでいるのに気が付いた。
「マリウス! どうしたの、しっかりしなさい!」
イザベラはマリウスが荒い息遣いをしているのに気が付いた。足元からぞわぞわと寒気がのぼってきた。「マリウス!」手で探って、マリウスの顔の辺りまで近づいた。「どうしたの!」
もう少しで気がどうかなるところだったが、大きな顔に自分の顔を近づけてみるとマリウスは鼻を鳴らし、喉の奥からはいななくような短い声を出し、そして口をむにゃむにゃ、くちゃくちゃとさせた。その後は穏やかに整った、生暖かい寝息が何度もイザベラの顔にあたった。
全身から力が抜けた。イザベラは座ったまま、マリウスの背のほうに時間をかけて移動した。真っ暗ななかでマリウスの背に自分の背中を預けてしばらくじっとしていたが、やがて彼女にも睡魔が襲ってきて、仲良い二人は揃って眠りこんだ。
イザベラはマリウスを操って、怯むことなく、大変な数の灰色の鬼たちを蹴散らして進んでいった。彼らは次々と現れ、そのたびに彼女は剣でなぎ払い、突き刺したが、数は一向に減ることはなく増えていくように思われた。ただイザベラにとってよかったと思えたのは彼らはサフソルムたちの後をつけることはせず、あくまで自分に向かってくるということであった。
雄叫びと、こっちへ来なさいよ! という声を何度かあげながらイザベラは走り続けていたが、ふとマリウスの走る速さが遅くなり、息も苦しそうにしていることに気が付いた。
イザベラ自身も腕をふるっているのが少々堪えてきたのも確かだった。
そろそろあれを出すころか。彼女は首元をまさぐり、かけていた紐を手でたぐった。
そして羽根に手が触れるはずのところで何もないのに気が付いた。「嘘!」
目で確かめている暇はなかった。次々と襲ってくる鬼から目を離すことはできなかった。
くくりつけたはずの羽根を確かめるために手で紐を何度も回して探った。しかし何度触っても見つけることはできなかった。
「どうして!」汗が吹き出てきた。走るしかなかった。「マリウス! とまらないで! まだ走るのよ!」
イザベラの忠実な仲間は当然いうことを聞いて走り続けていた。しかし健脚なマリウスもこの大変な道が続いたため限界が近かったのだ。――マリウスの脚が何かに引っかかり、体が前に崩れた。イザベラが叫び、目の前に地面が近づくのが見えた。
だが見えたのはそれだけではなかった。
マリウスの優しい瞳にも、イザベラの勝気な瞳にも地面になぜか黒い穴がぽっかりと開いているのが映った。それがどんどん迫ってきて、マリウスとイザベラは一瞬の間にそこへ落ちた。
イザベラはその弾みで馬の背から外れた。彼女は叫びながら、マリウスも声にならない声をあげながら、どんどん落ちた。
そして特別に衝撃を感じることもなく、どこかに上手く着地をした。
上から落ちてきたのは一人と一頭だけだった。
落ちた先は完全に暗闇で何かを見ることはできなかったけれども、埃が舞っていて、匂いで周りが土だとか岩だとかでできているのが分かった。
自分たち以外に生き物の気配は感じられなかった。
イザベラは地面にぺたんと座り込んだまま、は! と大きく息を吐いた。手を伸ばし、すぐ隣に愛馬がいるのを確かめた。だが大きなマリウスが横に倒れこんでいるのに気が付いた。
「マリウス! どうしたの、しっかりしなさい!」
イザベラはマリウスが荒い息遣いをしているのに気が付いた。足元からぞわぞわと寒気がのぼってきた。「マリウス!」手で探って、マリウスの顔の辺りまで近づいた。「どうしたの!」
もう少しで気がどうかなるところだったが、大きな顔に自分の顔を近づけてみるとマリウスは鼻を鳴らし、喉の奥からはいななくような短い声を出し、そして口をむにゃむにゃ、くちゃくちゃとさせた。その後は穏やかに整った、生暖かい寝息が何度もイザベラの顔にあたった。
全身から力が抜けた。イザベラは座ったまま、マリウスの背のほうに時間をかけて移動した。真っ暗ななかでマリウスの背に自分の背中を預けてしばらくじっとしていたが、やがて彼女にも睡魔が襲ってきて、仲良い二人は揃って眠りこんだ。
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