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84.マグナスの話
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84.マグナスの話
マグナスは海岸沿いを飛び回って探した後で、今度は大きな森のある山へと向かった。誰かに聞いてみるのがいちばんだったが、あいにく誰にも出会うことができなかった。地上に降りて森のなかを歩いていくと、木の間からは鳥や虫たちの鳴き声が絶え間なく聞こえてきた。やがて丸くて大きな池があるのを見つけた。湖面には暖かな日の光が当たってきらきらと輝いていた。辺りを熱心に見回した後、また湖を眺めてみた。ちゃぷんと魚が顔を出し、また潜っていった。彼が少し困った顔をしたときに、不意に後ろから羽音が聞こえて「フォッフォー」と声がした。
それがずいぶん唐突で何だか可笑しさを伴った声だったのでマグナスは少し笑みを浮かべて振り返った。木の枝に三羽の鳩がいた。
「何かお悩みかね?」
「人を探している」マグナスが答えた。
「ああ、そうじゃろう、そうじゃろう」
別の鳩が話した。「いやいや、そうではない。おまえさんは自分の顔に悪い相が出ておると思うかね?」
マグナスは肩をすくめた。「さあ。分からない。むしろ今なら悪い相はでていない気がする」
三羽はこそこそと話し合った。やがて一羽がごほんと咳払いをした。「ここまで飛んでくるのには本当に大変じゃった」
「わしら、そんなに若いというわけでもないのに、こんなにたくさんの距離を飛んできて」
「なかなか誰にも出会わなくてのぅ」
「客人をやっと見つけたと思うたのじゃが」
「もうこの客人で良しとするかね?」
鳩たちは再びこそこそと話をしてから、またこちらを向いた。
「大きな地震があったのじゃ」
マグナスは頷いた。鳩たちが交互に話を続けた。「わしらはここいらには住んではおらんのじゃが、それでも揺れてな。棚から手紙がいくつも落ちた。わしらは落ちたものを全て拾い上げて棚に戻したのじゃが、一つだけどうしても収まらなかった。棚一つに手紙が一通ずつ、きちんと入っておるはずなのに、一通の手紙だけが残ったのじゃ」
「わしらは相談をし、この一通をどこかの客人に手渡すことにした」
「わしらはエメラルドの噴水に集まって水を飲んだ後、いざ風の向くままに出発せんとしたところに、床に白い大きな羽根が落ちているのに気が付いた」
「誰かがついさっきまでそこにおったのかもしれぬ……」
「白い羽根といえば、誰かね?」
「白鳥、鷺、カモメにライチョウ、シロアジサシ、白いクジャクに白いフクロウ。どんな種類にも白い羽根がでることがある。だから誰の羽根かは分からんかった」
「床に残されていた一通はその誰かさんの思し召しであろうか」
三羽はそういうとパタパタとマグナスの元まで飛んできて、両肩と頭の上にそれぞれとまり、くるくると巻かれた手紙と一枚の白い羽根を手渡した。
「何か問題はあるかね?」一羽の鳩が尋ねたがマグナスは首を横にふった。
マグナスは鳩たちをとまらせたまま、手紙を開いた。「あなたは愛されてきました。美しい花に蝶が吸い寄せられるように、きれいな小鳥たちが歌をうたわずにはいられないように、あなたが愛されてきたという事実を止めることはできないのです。同時にあなたは自由でもあります……」
マグナスは軽くて白い、大きな羽根を目の前にもってきて、ゆっくりと指先でまわしながら眺めた。そしてもう一度手紙を読んで、肉球の印が押されているところ、――フサフサモフモフを愛するものよ、貴殿に感謝する――にもしっかりと目を通し、笑顔になった。
「ありがとう。これをもらって何か、気持ちが晴れたよ。今日はいろんなことが起きる日に違いない」
「後々まで覚えている一日じゃ。そんな日が長い一生にはときどきあるものじゃからな、フォッ!」
マグナスは海岸沿いを飛び回って探した後で、今度は大きな森のある山へと向かった。誰かに聞いてみるのがいちばんだったが、あいにく誰にも出会うことができなかった。地上に降りて森のなかを歩いていくと、木の間からは鳥や虫たちの鳴き声が絶え間なく聞こえてきた。やがて丸くて大きな池があるのを見つけた。湖面には暖かな日の光が当たってきらきらと輝いていた。辺りを熱心に見回した後、また湖を眺めてみた。ちゃぷんと魚が顔を出し、また潜っていった。彼が少し困った顔をしたときに、不意に後ろから羽音が聞こえて「フォッフォー」と声がした。
それがずいぶん唐突で何だか可笑しさを伴った声だったのでマグナスは少し笑みを浮かべて振り返った。木の枝に三羽の鳩がいた。
「何かお悩みかね?」
「人を探している」マグナスが答えた。
「ああ、そうじゃろう、そうじゃろう」
別の鳩が話した。「いやいや、そうではない。おまえさんは自分の顔に悪い相が出ておると思うかね?」
マグナスは肩をすくめた。「さあ。分からない。むしろ今なら悪い相はでていない気がする」
三羽はこそこそと話し合った。やがて一羽がごほんと咳払いをした。「ここまで飛んでくるのには本当に大変じゃった」
「わしら、そんなに若いというわけでもないのに、こんなにたくさんの距離を飛んできて」
「なかなか誰にも出会わなくてのぅ」
「客人をやっと見つけたと思うたのじゃが」
「もうこの客人で良しとするかね?」
鳩たちは再びこそこそと話をしてから、またこちらを向いた。
「大きな地震があったのじゃ」
マグナスは頷いた。鳩たちが交互に話を続けた。「わしらはここいらには住んではおらんのじゃが、それでも揺れてな。棚から手紙がいくつも落ちた。わしらは落ちたものを全て拾い上げて棚に戻したのじゃが、一つだけどうしても収まらなかった。棚一つに手紙が一通ずつ、きちんと入っておるはずなのに、一通の手紙だけが残ったのじゃ」
「わしらは相談をし、この一通をどこかの客人に手渡すことにした」
「わしらはエメラルドの噴水に集まって水を飲んだ後、いざ風の向くままに出発せんとしたところに、床に白い大きな羽根が落ちているのに気が付いた」
「誰かがついさっきまでそこにおったのかもしれぬ……」
「白い羽根といえば、誰かね?」
「白鳥、鷺、カモメにライチョウ、シロアジサシ、白いクジャクに白いフクロウ。どんな種類にも白い羽根がでることがある。だから誰の羽根かは分からんかった」
「床に残されていた一通はその誰かさんの思し召しであろうか」
三羽はそういうとパタパタとマグナスの元まで飛んできて、両肩と頭の上にそれぞれとまり、くるくると巻かれた手紙と一枚の白い羽根を手渡した。
「何か問題はあるかね?」一羽の鳩が尋ねたがマグナスは首を横にふった。
マグナスは鳩たちをとまらせたまま、手紙を開いた。「あなたは愛されてきました。美しい花に蝶が吸い寄せられるように、きれいな小鳥たちが歌をうたわずにはいられないように、あなたが愛されてきたという事実を止めることはできないのです。同時にあなたは自由でもあります……」
マグナスは軽くて白い、大きな羽根を目の前にもってきて、ゆっくりと指先でまわしながら眺めた。そしてもう一度手紙を読んで、肉球の印が押されているところ、――フサフサモフモフを愛するものよ、貴殿に感謝する――にもしっかりと目を通し、笑顔になった。
「ありがとう。これをもらって何か、気持ちが晴れたよ。今日はいろんなことが起きる日に違いない」
「後々まで覚えている一日じゃ。そんな日が長い一生にはときどきあるものじゃからな、フォッ!」
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