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プロローグ
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しおりを挟むしかし、門まで向かっていく最中で彼は顔を覆ってしゃがみこんだ。
慌てて駆け寄ると、エヴァンの顔が日焼けしたように赤くなっていた。
日に弱く、再生力があって、冷たい青白い肌。
どこかで聞いたことがあるような、文字の羅列に想いを巡らせながらも、彼の手を取って玄関までまた引き返した。
「エヴァン、大丈夫……?」
彼は昨夜の怪我よりも辛そうに、荒く息をつきながら赤くなった顔を抑えていた。
肩で息をするその口元に鋭利に尖った牙が覗く。
「エヴァン……」
彼は苦しそうにしながら、どこか熱っぽい飢えたような瞳で俺を見あげた。
「俺に構うな、……離れていろ」
何かを堪えるようにして、今の今までほとんど表情を変えなかった顔が、苦渋に歪んだ。昨夜の怪我はまったくもって消えてしまっていたのに、そこまで辛いなんて。
今の太陽の光で……?
「エヴァン、変なこと言うけど……あなたはもしかして、ヴァンパイアなの?」
冷たい彼の手を優しく握りながら、そう問いかけてみた。
馬鹿馬鹿しいと笑われるという想像もしていたけれど、エヴァンは目を伏せて荒く息をつきながら肩を上下させた。
こんなに苦しそうなのに放って置くなんて、俺には無理だった。
「ねぇ、もしそうなら」
「やめろ……おまえを巻き込みたくない」
絞り出すような力ない声に、より一層気持ちが焦ってくる。
「血を飲んだら良くなったりとか、しないの……ほら、昨日の傷は良くなったわけだし。弱ってるから治らないとかそういうのだったり」
マンガや映画ではありきたりなそんな設定で話すくらいにしか、ヴァンパイアについては知らなかったが、それでもなにか力になれる糸口を見つけたくて話しかけていた。
「……血を飲まれたらヴァンパイアになるってのはちょっと困るけど、でも……でも、エヴァンが助かるならそれでもいいよ」
眼の前で倒れ込むエヴァンを見ていると、俺まで苦しくなってきて、ぎゅっと彼の冷たい手を握りながら語りかけた。
「なぜ」
抗うように頭を振って、力強い瞳が俺を見つめた。
「なぜそんなことまでする……? お前には関係ないだろう」
関係ないってのは、たしかにそうだ。けど……。
「エヴァンが、俺のタイプ……いや、その、仲良くなれたらって、助けたいって思うってのじゃ、理由にならないかな?」
素直な気持ちを口にして顔が熱くなった。こんなことを言ってさらに嫌がられるかもしれないけれど、彼が早く良くなってくれるなら、俺を利用してくれたっていいのにと思わずにはいられなかった。
エヴァンは、青い瞳でまっすぐと俺を見つめ、はぁと深い溜め息をついた。そしてゆっくりと体を起こすと、俺にもたれ掛かるようにして上体を起こした。
「しばらく、生身の人間から吸っていないから……加減できるかわからない」
苦しそうな息遣いで言葉を続ける。
「痛くはしない、殺すまで吸うこともない、それにヴァンパイアになることもない……ただ」
説明をしながらうっとりと、引き寄せられるように俺の首元に顔を寄せるエヴァン。熱い吐息が降りかかり、耳のすぐ近くで響く彼の低い声に心臓が高鳴った。
こんな状況なのにと、思いつつも、エヴァンの背中に手を回し、じっとされるがままで受け入れた。
血液を吸われるという未知の行為に対する不安と恐怖と同時に、このシチュエーションにたまらなく興奮している自分がいた。
「ただ……快楽でおかしくなるかもしれない」
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