ハルくんは逃げ出したい。~男子校の姫になったらストーカー護衛からの溺愛が重すぎる!~

夜薙 実寿

文字の大きさ
85 / 101

第82話 仲良し大作戦!

「ハル姫!」
「お戻りになられたぞ!」

 教室の扉を開くと、クラスメイト達に囲まれた。鬼気迫る表情の彼らに、思わず気圧される。
 
「お、おぉ……ただい、ま?」
「ハル姫! 大丈夫でしたか!? その……」

 声のボリュームを落とし、ちらりとオレの背後を見遣る同級生。それに続いて皆が一斉に窺ったのは、後から入室してきた東雲さんだった。クラスメイト達の怯えた目――視線を受けると、東雲さんは全てを察したように、ふいと顔を背けてすたすた自分の席へと向かった。
 まるで、自分とは関わらない方が良い、とでも言いたげに――。

「っ、」

 口を開くも、オレが何か言うよりも先に、教室前方の扉が開かれた。

「ほら、何やってるー。お前ら席に着けー。ホームルームを始めるぞー」
 
 現れた担任教師の気だるげな号令で、皆が慌てて解散する。オレも言葉を呑んで倣ったが、吐き出せなかったそれが喉の奥に引っ掛かってモヤモヤした。
 ――皆、東雲さんのこと怖がってる。
 先刻聞いた噂を思い出した。
 
『前の学校で暴力事件を起こして……』
四季折うちの前理事長の孫だって』
『コネ入学』
『前の学校での問題も金の力で揉み消して……』
 
 東雲さんのことだから、きっと何か事情があったんだろうと思う。
 けど、皆はまだ東雲さんがどんな人かを知らない。あんな不穏な噂がある上に当人の外見が厳ついものだから、怖がるのも無理はないけれど……。
 どうすれば、皆の誤解を解ける?

「それじゃあ早速、東雲の自己紹介から」
「そういうのいいんで」

 担任の振りを、東雲さんはスッパリ拒絶した。しかも、舌打ちプラス顔を歪める効果付きで。たぶん、緊張とか遠慮から来てるんだと思うけど、東雲さん、それは……。

「そ、そうかぁ、東雲は照れ屋さんだなぁ」

 担任も何とか笑ってフォローしようとしてるけど、さすがに顔が引きつっている。クラスメイト達の間には、言うまでもなく怖気た空気が広がっていた。
 あああ、やっぱり。駄目だ、東雲さん、不器用過ぎる!

 やきもきしている内に、担任はさっさと話の機先を変えてしまった。
 始業式で学園長から長々聞いたのと同じような話(夏休みを有意義に過ごせたかとか、新学期からは新たに気を引き締めて四季折の生徒として模範的な行動を取るように云々かんぬん)をしてから、二学期の時間割やスケジュールに関する話題となり……。

「という訳で、月末に控えた文化祭の実行委員を二人選出する。誰か、やりたい奴いるかー?」
「!」

 これだ――!
 内心膝を叩くと、オレは勢いよく挙手した。

「はい! オレやります!」
「おぉ、日向! いいのか? 日向は姫としての仕事もあるだろう?」
「大丈夫です! やりたいんです! やらせてください!」
「そこまで言うなら……」

 オレの意外な熱意に、担任は若干引いている。
 
「え? 姫が実行委員?」
「じゃあ俺も立候補しようかな」
「あ、抜け駆けすんな! そんなら、おれも!」

 我も我もと上がり始めた声を制するように、オレは続けた。

「それで、パートナーには東雲さんを推薦します!」

 どよめきが湧いた。ギョッと目を剥いて東雲さんが振り返る。困惑気味に口を開いたのは、担任が先だった。

「しっしかし、東雲はまだ転校してきたばかりで……」
「だからこそです! 行事を通じて皆と協力し合うことで、より早くこの学園にもクラスにも馴染めるようになるんじゃないかと!」
「それは一理あるが……肝心な当人の意志はどうなんだ?」

 担任が確認すると、クラスメイト達の視線が一斉に東雲さんに向いた。東雲さんは尻込みした様子で、眉間の皺を深く刻む。
 
「俺は……」

 気乗りしなさそうな声。このままでは、断られるのは明白だ。
 
「東雲さん、駄目……ですか?」
 
 祈るような気分で、見つめて懇願する。東雲さんはぐっと息を呑んで動揺を示すと、次には手で顔を覆ってそっぽを向き、盛大に溜息を吐いた。

「分かった……やる」

 やればいいんだろ、とどこか捨て鉢な一言で、もう一人の実行委員が決定したのだった。


   ◆◇◆
 
 
 ホームルームを終えて、昼休みが訪れた。

「東雲さん! 一緒にお昼ご飯しませんか!?」

 早速誘いを掛けると、東雲さんは気後れした様子を見せた。
 負けないぞ! 多少強引に行かないと、この人はすぐに身を引いてしまいそうだからな。

「食堂の場所とか、お勧めメニューも教えますよ! それか、購買でも!」
「……いや、弁当あるから」
「そうなんですね! じゃあオレが購買でパン買うんで、中庭とかで食べるのはどうですか!?」

 またぞろ溜息を吐いて頭を抱える東雲さん。

「……分かった。あんたに任せる」

 そうして、連れ出した先の中庭で、東雲さんが広げた弁当にオレの目は奪われていた。ご飯に卵焼き、から揚げにタコさんウインナーなどの入ったオーソドックスなものだったが、家庭的で何だか懐かしい。

「わっ、美味しそうですね! 親御さんが?」

 確か、東雲さんは母子家庭だったはず。お母さんが作ったのかな、と思って聞いたら、

「いや、俺が」
「東雲さんが!? 自分で作ったんですか!?」

 思わず、大きな声が出てしまった。東雲さんは気恥ずかしそうに頭を掻いて言う。
 
「うちの母親は家事をしないタイプだからな。代わりに小さい頃からやってたら、自然と」
「凄いですね! あ、でも確かに店長が休憩の時は東雲さんがキッチンやってましたもんね」

 感情表現は不器用な割に、手先は意外と器用らしい。これなら、文化祭でも活躍してくれそうだし、きっと皆にも――。

「で、あんた、また何かお節介なこと考えてるだろ」

 ぎくり。突然の追及に、あからさまに動揺してしまった。

「えっ? な、なん」
「てっきり気まずさで距離を置かれるかと思ってたら、やけに絡んでくるし……大方、俺とクラスの奴等との仲を取り持とうとしてるんだろ」

 あ、バレバレですね……これはもう、腹を括るしかない。

「だって、東雲さんは良い人なのに……皆怖がってるのが、何か悔しくて」

 だから、実行委員に推薦した。世話焼きな彼なら役割を十二分にこなしてくれるだろうし、作業を通して皆とも打ち解けられるだろうと踏んだのだ。
 昼食に誘ったのも、オレが積極的に仲良くしてるのを周囲に見せることで、東雲さんは怖い人じゃないんだって皆にも知って欲しかったからだ。
 ……色々、無理やりしちゃったのは、申し訳ないけれど。

 叱られる子供みたいに目を伏せて言い訳を述べるオレに、東雲さんは小さく息を吐いた。

「相変わらず、お人好しだな」

 呆れたように、苦笑する。だけどその瞳は、至極優しい色を湛えていた。夕焼けの、茜に染まりきらない穏やかな橙色――。

「怖がられるのには慣れてるから、あんたが気にする必要はないのに」
「そんな……っ」

 ごほん、とここで咳払いをしたのは、ずっと寡黙に傍に控えていた御影さんだった。
感想 12

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。