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第90話 姫と騎士
文芸部と漫画同好会の合同ブースは閑散としていた。壁やパーティションには有名な文人の生涯やら漫画の歴史やらの記された展示がされているが、見ている者は誰一人として居ない。部員側も店番というか受付係がぽつりと一人、椅子で本を読みながら時間を潰しているという有様だった。
だもんだから、オレが顔を出すとめちゃくちゃ驚かれた。
「姫!? まさか、このような僻地に!?」
「僻地って……合同冊子出してるって聞いて。一部貰えますか?」
「勿論ございますよ! こちらです!」
興奮した様子で、机に並べられた中綴じ本を手で示す眼鏡の部員君。文芸部か漫画同好会か、どちらに属しているのかは分からないが、如何にもな文学少年といった風体だ。
値札を見て、ぴったりの小銭を出そうとしたところ、その眼鏡君に突っぱねられてしまった。
「いやいや! 姫からお金なんて受け取れませんよ! こんなもの無料でいいんで! どうぞどうぞ!」
「え、そんな、駄目ですよ! 皆さんが心血注いで生み出した大切な作品でしょう!? ちゃんと対価払わせてくださいよ!」
「なんと! 我々などの創作物に興味を持っていただけるだけでも有難いのに、なんという温かいお言葉! 天使ですか!? 女神ですか!? 様々な娯楽の溢れる今日日、紙の本になど……ましてやアマチュアの作品になど、誰も見向きもしないというのに! あああっ、ありがたや~!」
「ちょ、ちょっと! 顔上げて下さいって!」
もはや五体投地で拝み出した眼鏡君を慌てて止めて、何とかお金を押し付けた。そうして、冊子を受け取る。
それを手にブースを出ると、野次馬達が興味を持ったようだった。
「姫がオタク部の本買ってるぞ」
「マジか。姫にそんな趣味が?!」
「何が書いてあるんだ?」
「ちょっと気になるかも」
「買っちゃう?」
そうして、忽ち賑わい出す頒布所。感涙しながら対応する眼鏡君を後目に、オレと東雲はその場を後にした。
「何か、集客の役に立てたみたいで、良かった」
「そうだな……本、好きなのか?」
戦利品ゲットで上機嫌なオレに、東雲が訊いた。
「うん。元々読む方だったけど、姫寮のオレの部屋にさ、でっかい本棚があって。歴代の姫が少しずつ足していったのか、いっぱい小説があって、面白いんだよ。特に、海外製の冒険ファンタジーにハマってさ。東雲にも今度貸そっか?」
「ああ、頼む」
予想外に快い返事に、オレは思わずキョトンと見つめてしまった。バツが悪そうに東雲が眉間の皺を深める。
「……何だよ」
「や、ごめん。振っといてアレだけど、東雲が本とか読んでるイメージあんま無かったからさ」
「まぁ、そうだな。普段、教科書以外で活字なんて読まねえな」
「やっぱり? 無理してオレに合わせなくても……」
「でも……日向が好きなものには、興味あるから」
「!」
真っ直ぐに言われて、目を瞬いた。遅れて、嬉しさが込み上げてくる。
「ありがとう!」
破顔で返すと、東雲は照れ臭くなったのか、そっぽを向いてしまった。その耳が赤く染まっている。
誤魔化すように彼が話題を変えた。
「で? 次はどこに行きたいんだ?」
「あ、美術部のトリックアート展が凄いらしくて! あと、二年三組の手作り遊園地! コーヒーカップとかミニコースターとか、本当に動くんだってさ!」
「分かった。ここから近いのは美術部の方だな」
「東雲は? 行きたい所あったら……」
「俺は別に。日向に合わせる」
「またそういう……オレに遠慮しなくていいんだからな?」
全く、御影さんといい、東雲といい……オレの周りはオレを優先しすぎる。
ともあれ、オレ達は目的地を順に巡った。途中、気になる出し物も立ち寄りつつ、色々見て回った。
美術部のトリックアート展は期待通り本格的だったし、工学部のロボット対決も凄かった。被服部では朝倉も居て、普段見ない他の部員達の作品も見せてもらった。
オレの存在に気付いた人々は遠巻きに囁き交わしたり視線を送ってきたが、当初のように囲まれることもなかった。――隣で眼光鋭く見張っている番犬ならぬ東雲が居たからだ。
普通にしているだけである種の迫力がある彼を降そうとする勇気のある者はそうそう居ない。時折、無謀にも突撃してくる輩はあったが、東雲は睥睨一つで追い払ってしまった。
「御影さんは執事って感じだけど、東雲は何だか騎士って感じだよな」
「は?」
「ううん、何でもない。東雲が居てくれて良かった!」
「! ……日向」
手を後ろで組んで悪戯っぽく笑いかけるオレ。冗談めかして言ったが、感謝の気持ちは本物だ。東雲がまたぞろ照れたように顔を背ける仕草が何とも微笑ましい。
「っと……二年三組、混んでるなぁ」
ところで、オレ達は次なるお目当て、手作り遊園地へと向かっているところだった。しかし、そこには思いの外長蛇の列が出来ていた。
「やっぱ、口コミいいから人気なんだな。どうしよう……もうあんまり時間無いよな」
「日向が行けば先頭譲ってくれそうだけどな」
「ダメだよ、そんなの! ちゃんと並んでる人に申し訳ないだろ! ……仕方ない。文化祭は今日だけじゃないし、ここは明日に回そう」
とはいえ、まだあと少し時間はある。同じことを考えたようで、東雲が提案した。
「あと一個くらい寄ってくか? 隣のお化け屋敷とかはすぐに入れそうだが」
「三・四組でテーマパーク繋がりなのかな? じゃあ、折角だし寄ってこっか」
すると、今度は東雲の方からオレをじっと見てきた。
「何?」
「いや、あんた、怖いの苦手そうな雰囲気あったから……平気なのか?」
「むっ、そりゃまぁ、得意って訳でもないけど、別に苦手って訳でもないよ」
オレだって男なんだから、それくらい! ……平気なはずだ、たぶん。これまで、あまりホラーに触れてこなかったから、どうか知らないけど。
「じゃあ、行くか」
東雲の鶴の一声で、お化け屋敷への入場が決定した。
だもんだから、オレが顔を出すとめちゃくちゃ驚かれた。
「姫!? まさか、このような僻地に!?」
「僻地って……合同冊子出してるって聞いて。一部貰えますか?」
「勿論ございますよ! こちらです!」
興奮した様子で、机に並べられた中綴じ本を手で示す眼鏡の部員君。文芸部か漫画同好会か、どちらに属しているのかは分からないが、如何にもな文学少年といった風体だ。
値札を見て、ぴったりの小銭を出そうとしたところ、その眼鏡君に突っぱねられてしまった。
「いやいや! 姫からお金なんて受け取れませんよ! こんなもの無料でいいんで! どうぞどうぞ!」
「え、そんな、駄目ですよ! 皆さんが心血注いで生み出した大切な作品でしょう!? ちゃんと対価払わせてくださいよ!」
「なんと! 我々などの創作物に興味を持っていただけるだけでも有難いのに、なんという温かいお言葉! 天使ですか!? 女神ですか!? 様々な娯楽の溢れる今日日、紙の本になど……ましてやアマチュアの作品になど、誰も見向きもしないというのに! あああっ、ありがたや~!」
「ちょ、ちょっと! 顔上げて下さいって!」
もはや五体投地で拝み出した眼鏡君を慌てて止めて、何とかお金を押し付けた。そうして、冊子を受け取る。
それを手にブースを出ると、野次馬達が興味を持ったようだった。
「姫がオタク部の本買ってるぞ」
「マジか。姫にそんな趣味が?!」
「何が書いてあるんだ?」
「ちょっと気になるかも」
「買っちゃう?」
そうして、忽ち賑わい出す頒布所。感涙しながら対応する眼鏡君を後目に、オレと東雲はその場を後にした。
「何か、集客の役に立てたみたいで、良かった」
「そうだな……本、好きなのか?」
戦利品ゲットで上機嫌なオレに、東雲が訊いた。
「うん。元々読む方だったけど、姫寮のオレの部屋にさ、でっかい本棚があって。歴代の姫が少しずつ足していったのか、いっぱい小説があって、面白いんだよ。特に、海外製の冒険ファンタジーにハマってさ。東雲にも今度貸そっか?」
「ああ、頼む」
予想外に快い返事に、オレは思わずキョトンと見つめてしまった。バツが悪そうに東雲が眉間の皺を深める。
「……何だよ」
「や、ごめん。振っといてアレだけど、東雲が本とか読んでるイメージあんま無かったからさ」
「まぁ、そうだな。普段、教科書以外で活字なんて読まねえな」
「やっぱり? 無理してオレに合わせなくても……」
「でも……日向が好きなものには、興味あるから」
「!」
真っ直ぐに言われて、目を瞬いた。遅れて、嬉しさが込み上げてくる。
「ありがとう!」
破顔で返すと、東雲は照れ臭くなったのか、そっぽを向いてしまった。その耳が赤く染まっている。
誤魔化すように彼が話題を変えた。
「で? 次はどこに行きたいんだ?」
「あ、美術部のトリックアート展が凄いらしくて! あと、二年三組の手作り遊園地! コーヒーカップとかミニコースターとか、本当に動くんだってさ!」
「分かった。ここから近いのは美術部の方だな」
「東雲は? 行きたい所あったら……」
「俺は別に。日向に合わせる」
「またそういう……オレに遠慮しなくていいんだからな?」
全く、御影さんといい、東雲といい……オレの周りはオレを優先しすぎる。
ともあれ、オレ達は目的地を順に巡った。途中、気になる出し物も立ち寄りつつ、色々見て回った。
美術部のトリックアート展は期待通り本格的だったし、工学部のロボット対決も凄かった。被服部では朝倉も居て、普段見ない他の部員達の作品も見せてもらった。
オレの存在に気付いた人々は遠巻きに囁き交わしたり視線を送ってきたが、当初のように囲まれることもなかった。――隣で眼光鋭く見張っている番犬ならぬ東雲が居たからだ。
普通にしているだけである種の迫力がある彼を降そうとする勇気のある者はそうそう居ない。時折、無謀にも突撃してくる輩はあったが、東雲は睥睨一つで追い払ってしまった。
「御影さんは執事って感じだけど、東雲は何だか騎士って感じだよな」
「は?」
「ううん、何でもない。東雲が居てくれて良かった!」
「! ……日向」
手を後ろで組んで悪戯っぽく笑いかけるオレ。冗談めかして言ったが、感謝の気持ちは本物だ。東雲がまたぞろ照れたように顔を背ける仕草が何とも微笑ましい。
「っと……二年三組、混んでるなぁ」
ところで、オレ達は次なるお目当て、手作り遊園地へと向かっているところだった。しかし、そこには思いの外長蛇の列が出来ていた。
「やっぱ、口コミいいから人気なんだな。どうしよう……もうあんまり時間無いよな」
「日向が行けば先頭譲ってくれそうだけどな」
「ダメだよ、そんなの! ちゃんと並んでる人に申し訳ないだろ! ……仕方ない。文化祭は今日だけじゃないし、ここは明日に回そう」
とはいえ、まだあと少し時間はある。同じことを考えたようで、東雲が提案した。
「あと一個くらい寄ってくか? 隣のお化け屋敷とかはすぐに入れそうだが」
「三・四組でテーマパーク繋がりなのかな? じゃあ、折角だし寄ってこっか」
すると、今度は東雲の方からオレをじっと見てきた。
「何?」
「いや、あんた、怖いの苦手そうな雰囲気あったから……平気なのか?」
「むっ、そりゃまぁ、得意って訳でもないけど、別に苦手って訳でもないよ」
オレだって男なんだから、それくらい! ……平気なはずだ、たぶん。これまで、あまりホラーに触れてこなかったから、どうか知らないけど。
「じゃあ、行くか」
東雲の鶴の一声で、お化け屋敷への入場が決定した。
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