ハルくんは逃げ出したい。~男子校の姫になったらストーカー護衛からの溺愛が重すぎる!~

夜薙 実寿

文字の大きさ
17 / 101

第17話 戸惑いと不信感

 電光版に表示された数字は、〝36.7℃〟だった。

「まだ少し高いようですが、如何なさいますか?」

 気遣わしげな眼差しで、御影さんがオレの額に手を伸ばしてくる。オレは反射的に身を竦ませて、顔を横に逸らしてしまった。
 ハッとして、取り繕うように笑う。

「っへ、平熱の範疇だから、平気平気! 今日は普通に学校、行きますよ!」
「……そうですか。畏まりました」

 わざとらしかったかな。……思わず避けてしまった。
 御影さんもオレの態度を変に思ったかもしれないけれど、とりあえず口では何も言ってこなかった。
 今日もオレを心配して朝食を運んできてくれた御影さん。感謝しなきゃいけないところなのに、どうにも気まずさが薄墨のように心を灰色に染めていた。
 原因は言うまでもない、昨日のだ。本棚の奥に隠された、御影さんの秘密。あんなものを見させられて、平常心でいる方が無理だ。

 ――御影さんは、オレのストーカーだった。

 隠し扉で繋がった隣の彼の部屋には、大量のオレの隠し撮り写真。どうやら御影さんは、過去のオレへの恩義から、これまでずっとオレのことを密かに陰から見守っていたらしい。
 この学園でオレの護衛人として再会を果たしたのも、偶然でも運命でもなければ、彼が仕組んだ必然だったという訳だ。……その事実を、オレはどう受け止めたらいいのか分からずにいる。

 正直言って、怖い。めちゃくちゃ怖い。あの狂信的な部屋の様子もそうだけれど、何より御影さん本人がそのことを全く悪びれた様子がないのが一番怖い。つまり、彼にとってはあれが普通で、何もおかしいことではないと認識している証左だ。
 いや、おかしいだろ!? 盗撮とか、犯罪だって!! ‪御影さんあんた‬も他の人には「無許可での撮影はご遠慮ください」って言ってたじゃん!! オレ、許可してないよ!?
 ……って、ツッコミたいところだけど、それもまた怖くて出来ない。

 そんなこんなで、昨日あの後もその問題には触れず、なぁなぁな態度で終わらせてしまった。でも、もうまともに顔も見られない。信頼が最も重要な関係性なのに、それが失われたとなっては当然このままではいられないだろう。
 解雇? 護衛人交代? ……でも、昨日互いに「改めてよろしく」ってしたばっかりなんだよな。そうだよ、正にその直後だったんだよ! 晴天の霹靂へきれきだよ!

 ――嬉しかったのにな。

 ちくり、心にトゲが刺さる。
 危ない所を助けてくれて、気遣ってくれて、オレはここに居ていいんだって、思わせてくれたのに……何だか裏切られたような気分だった。
 かといって、その時の彼の態度に嘘があった訳でもないので、憎むことも突き放すことも出来ずにいる。

「はぁ……」

 漏らした溜息は、酷く重く長く、尾を引いた。


   ◆◇◆


「交流会?」

 登校後、オレはクラスメイト達に囲まれながら、教室で首を傾げていた。
 昨日病欠したオレに、皆が心配の声を掛けてくれたのだ。その内に出てきたのが、その話題だった。

「そう、明日は休みだし、クラスの有志で集まって、今日の放課後どっか遊びに行かないかって」
「うちのクラスには姫も居るし、姫の歓迎会も兼ねて、クラス交流会したいなって話してたんですよ!」
「でも、姫が昨日体調を崩されてお休みだったので、今日も無理だったら延期するか~って話になってたんですけど……こうして、無事快方に向かわれたようなので!」
「どうですか!? 今日の放課後!!」
「何かご用事が無ければ、是非!!」

 ずずいと期待に輝かせた瞳で、皆が見てくる。オレはちょっと気圧されつつも、答えた。

「そうだな。行こうかな」
「!」
「やったー!! 決定ーッ!!」
「姫キターーーーーーッ!!」

 途端に湧き上がる面々の中、御影さんだけが浮かない様子だ。

「よろしいのですか? 陽様」

 その表情は心配そうで、また「危険では?」と言いたげだったけれど、オレはやはり目を逸らして曖昧に微笑わらった。

「うん、折角だし……オレも、クラスの皆と仲良くなりたいしさ」

 そう、オレはクラスの友達作りをまだ諦めてはいない。それに何より、このままではまた悶々と考え事をしてしまいそうだったので、気分転換に遊びにいくのは魅力的な提案に思えた。

「てことで、御影さん。先日みたいに、やたらに妨害してくるのはやめてくださいね!」

 どうせ付いてくるだろうが、一応、それだけは忠告しておく。御影さんは渋々といったていで了承の意を示した。
 その後の授業はつつが無く進行し、すぐにお楽しみの放課後が訪れた。

「待ってました!」
「よっしゃ、行くかぁ!」

 集まった人数は十数人程。さすがにクラス全員とはいかなかったようだ。
 向かう場所は話し合いの下、近場のスポーツアミューズメントパークになった。ボウリングやカラオケ、その他身体を使った屋内ゲームなどが楽しめるらしい。
 校舎を後にし、皆で纏まって移動する段になって、幹事が思い出したように鞄から何やら袋を取り出して、こちらに差し出してきた。

「あ、そうだ、姫は是非これを着てください!」
「……これは?」

 受け取った袋の中身を確認すると、どうやら服であるらしかった。赤チェック柄の布を広げてみると、それは……。

「スカート?」

 女物の制服一式だった。
感想 12

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。