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第17話 戸惑いと不信感
電光版に表示された数字は、〝36.7℃〟だった。
「まだ少し高いようですが、如何なさいますか?」
気遣わしげな眼差しで、御影さんがオレの額に手を伸ばしてくる。オレは反射的に身を竦ませて、顔を横に逸らしてしまった。
ハッとして、取り繕うように笑う。
「っへ、平熱の範疇だから、平気平気! 今日は普通に学校、行きますよ!」
「……そうですか。畏まりました」
わざとらしかったかな。……思わず避けてしまった。
御影さんもオレの態度を変に思ったかもしれないけれど、とりあえず口では何も言ってこなかった。
今日もオレを心配して朝食を運んできてくれた御影さん。感謝しなきゃいけないところなのに、どうにも気まずさが薄墨のように心を灰色に染めていた。
原因は言うまでもない、昨日のアレだ。本棚の奥に隠された、御影さんの秘密。あんなものを見させられて、平常心でいる方が無理だ。
――御影さんは、オレのストーカーだった。
隠し扉で繋がった隣の彼の部屋には、大量のオレの隠し撮り写真。どうやら御影さんは、過去のオレへの恩義から、これまでずっとオレのことを密かに陰から見守っていたらしい。
この学園でオレの護衛人として再会を果たしたのも、偶然でも運命でもなければ、彼が仕組んだ必然だったという訳だ。……その事実を、オレはどう受け止めたらいいのか分からずにいる。
正直言って、怖い。めちゃくちゃ怖い。あの狂信的な部屋の様子もそうだけれど、何より御影さん本人がそのことを全く悪びれた様子がないのが一番怖い。つまり、彼にとってはあれが普通で、何もおかしいことではないと認識している証左だ。
いや、おかしいだろ!? 盗撮とか、犯罪だって!! 御影さんも他の人には「無許可での撮影はご遠慮ください」って言ってたじゃん!! オレ、許可してないよ!?
……って、ツッコミたいところだけど、それもまた怖くて出来ない。
そんなこんなで、昨日あの後もその問題には触れず、なぁなぁな態度で終わらせてしまった。でも、もうまともに顔も見られない。信頼が最も重要な関係性なのに、それが失われたとなっては当然このままではいられないだろう。
解雇? 護衛人交代? ……でも、昨日互いに「改めてよろしく」ってしたばっかりなんだよな。そうだよ、正にその直後だったんだよ! 晴天の霹靂だよ!
――嬉しかったのにな。
ちくり、心にトゲが刺さる。
危ない所を助けてくれて、気遣ってくれて、オレはここに居ていいんだって、思わせてくれたのに……何だか裏切られたような気分だった。
かといって、その時の彼の態度に嘘があった訳でもないので、憎むことも突き放すことも出来ずにいる。
「はぁ……」
漏らした溜息は、酷く重く長く、尾を引いた。
◆◇◆
「交流会?」
登校後、オレはクラスメイト達に囲まれながら、教室で首を傾げていた。
昨日病欠したオレに、皆が心配の声を掛けてくれたのだ。その内に出てきたのが、その話題だった。
「そう、明日は休みだし、クラスの有志で集まって、今日の放課後どっか遊びに行かないかって」
「うちのクラスには姫も居るし、姫の歓迎会も兼ねて、クラス交流会したいなって話してたんですよ!」
「でも、姫が昨日体調を崩されてお休みだったので、今日も無理だったら延期するか~って話になってたんですけど……こうして、無事快方に向かわれたようなので!」
「どうですか!? 今日の放課後!!」
「何かご用事が無ければ、是非!!」
ずずいと期待に輝かせた瞳で、皆が見てくる。オレはちょっと気圧されつつも、答えた。
「そうだな。行こうかな」
「!」
「やったー!! 決定ーッ!!」
「姫キターーーーーーッ!!」
途端に湧き上がる面々の中、御影さんだけが浮かない様子だ。
「よろしいのですか? 陽様」
その表情は心配そうで、また「危険では?」と言いたげだったけれど、オレはやはり目を逸らして曖昧に微笑った。
「うん、折角だし……オレも、クラスの皆と仲良くなりたいしさ」
そう、オレはクラスの友達作りをまだ諦めてはいない。それに何より、このままではまた悶々と考え事をしてしまいそうだったので、気分転換に遊びにいくのは魅力的な提案に思えた。
「てことで、御影さん。先日みたいに、やたらに妨害してくるのはやめてくださいね!」
どうせ付いてくるだろうが、一応、それだけは忠告しておく。御影さんは渋々といったていで了承の意を示した。
その後の授業は恙無く進行し、すぐにお楽しみの放課後が訪れた。
「待ってました!」
「よっしゃ、行くかぁ!」
集まった人数は十数人程。さすがにクラス全員とはいかなかったようだ。
向かう場所は話し合いの下、近場のスポーツアミューズメントパークになった。ボウリングやカラオケ、その他身体を使った屋内ゲームなどが楽しめるらしい。
校舎を後にし、皆で纏まって移動する段になって、幹事が思い出したように鞄から何やら袋を取り出して、こちらに差し出してきた。
「あ、そうだ、姫は是非これを着てください!」
「……これは?」
受け取った袋の中身を確認すると、どうやら服であるらしかった。赤チェック柄の布を広げてみると、それは……。
「スカート?」
女物の制服一式だった。
「まだ少し高いようですが、如何なさいますか?」
気遣わしげな眼差しで、御影さんがオレの額に手を伸ばしてくる。オレは反射的に身を竦ませて、顔を横に逸らしてしまった。
ハッとして、取り繕うように笑う。
「っへ、平熱の範疇だから、平気平気! 今日は普通に学校、行きますよ!」
「……そうですか。畏まりました」
わざとらしかったかな。……思わず避けてしまった。
御影さんもオレの態度を変に思ったかもしれないけれど、とりあえず口では何も言ってこなかった。
今日もオレを心配して朝食を運んできてくれた御影さん。感謝しなきゃいけないところなのに、どうにも気まずさが薄墨のように心を灰色に染めていた。
原因は言うまでもない、昨日のアレだ。本棚の奥に隠された、御影さんの秘密。あんなものを見させられて、平常心でいる方が無理だ。
――御影さんは、オレのストーカーだった。
隠し扉で繋がった隣の彼の部屋には、大量のオレの隠し撮り写真。どうやら御影さんは、過去のオレへの恩義から、これまでずっとオレのことを密かに陰から見守っていたらしい。
この学園でオレの護衛人として再会を果たしたのも、偶然でも運命でもなければ、彼が仕組んだ必然だったという訳だ。……その事実を、オレはどう受け止めたらいいのか分からずにいる。
正直言って、怖い。めちゃくちゃ怖い。あの狂信的な部屋の様子もそうだけれど、何より御影さん本人がそのことを全く悪びれた様子がないのが一番怖い。つまり、彼にとってはあれが普通で、何もおかしいことではないと認識している証左だ。
いや、おかしいだろ!? 盗撮とか、犯罪だって!! 御影さんも他の人には「無許可での撮影はご遠慮ください」って言ってたじゃん!! オレ、許可してないよ!?
……って、ツッコミたいところだけど、それもまた怖くて出来ない。
そんなこんなで、昨日あの後もその問題には触れず、なぁなぁな態度で終わらせてしまった。でも、もうまともに顔も見られない。信頼が最も重要な関係性なのに、それが失われたとなっては当然このままではいられないだろう。
解雇? 護衛人交代? ……でも、昨日互いに「改めてよろしく」ってしたばっかりなんだよな。そうだよ、正にその直後だったんだよ! 晴天の霹靂だよ!
――嬉しかったのにな。
ちくり、心にトゲが刺さる。
危ない所を助けてくれて、気遣ってくれて、オレはここに居ていいんだって、思わせてくれたのに……何だか裏切られたような気分だった。
かといって、その時の彼の態度に嘘があった訳でもないので、憎むことも突き放すことも出来ずにいる。
「はぁ……」
漏らした溜息は、酷く重く長く、尾を引いた。
◆◇◆
「交流会?」
登校後、オレはクラスメイト達に囲まれながら、教室で首を傾げていた。
昨日病欠したオレに、皆が心配の声を掛けてくれたのだ。その内に出てきたのが、その話題だった。
「そう、明日は休みだし、クラスの有志で集まって、今日の放課後どっか遊びに行かないかって」
「うちのクラスには姫も居るし、姫の歓迎会も兼ねて、クラス交流会したいなって話してたんですよ!」
「でも、姫が昨日体調を崩されてお休みだったので、今日も無理だったら延期するか~って話になってたんですけど……こうして、無事快方に向かわれたようなので!」
「どうですか!? 今日の放課後!!」
「何かご用事が無ければ、是非!!」
ずずいと期待に輝かせた瞳で、皆が見てくる。オレはちょっと気圧されつつも、答えた。
「そうだな。行こうかな」
「!」
「やったー!! 決定ーッ!!」
「姫キターーーーーーッ!!」
途端に湧き上がる面々の中、御影さんだけが浮かない様子だ。
「よろしいのですか? 陽様」
その表情は心配そうで、また「危険では?」と言いたげだったけれど、オレはやはり目を逸らして曖昧に微笑った。
「うん、折角だし……オレも、クラスの皆と仲良くなりたいしさ」
そう、オレはクラスの友達作りをまだ諦めてはいない。それに何より、このままではまた悶々と考え事をしてしまいそうだったので、気分転換に遊びにいくのは魅力的な提案に思えた。
「てことで、御影さん。先日みたいに、やたらに妨害してくるのはやめてくださいね!」
どうせ付いてくるだろうが、一応、それだけは忠告しておく。御影さんは渋々といったていで了承の意を示した。
その後の授業は恙無く進行し、すぐにお楽しみの放課後が訪れた。
「待ってました!」
「よっしゃ、行くかぁ!」
集まった人数は十数人程。さすがにクラス全員とはいかなかったようだ。
向かう場所は話し合いの下、近場のスポーツアミューズメントパークになった。ボウリングやカラオケ、その他身体を使った屋内ゲームなどが楽しめるらしい。
校舎を後にし、皆で纏まって移動する段になって、幹事が思い出したように鞄から何やら袋を取り出して、こちらに差し出してきた。
「あ、そうだ、姫は是非これを着てください!」
「……これは?」
受け取った袋の中身を確認すると、どうやら服であるらしかった。赤チェック柄の布を広げてみると、それは……。
「スカート?」
女物の制服一式だった。
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