18 / 101
第18話 ミニスカートで交流会
ご丁寧に長髪のウィッグまで用意された女装グッズを見下ろして、オレは唖然と言葉を失った。
「やはり、姫といえば女装かなと!」
「姫の歓迎会も兼ねてるから、正式なコスチュームじゃないとね!」
「他校生に見られても平気なように、制服にしました! 俺らも制服だし、これならメイド服とかナース服とかよりはコスプレ感がなくて、姫も恥ずかしくないですよね!?」
いや、恥ずかしいが!? 学園外で女装って……一般の人達にもめっちゃ見られるじゃん!?
喉元まで出かかった叫びを何とか堪えたのは、皆が例の期待に満ちたキラキラの眼差しで見つめてくるからだった。
これは……断りにくい! 断ったら、空気読めない奴みたいになってしまう。
「で、でも……身体動かすのに、スカートはちょっと」
「大丈夫です! ちゃんとスカートの下に穿く用のスパッツも用意致しました!」
「これならパンチラしません!」
ぬぉおおお、何で無駄に根回しいいんだよ!? 苦し紛れの言い訳すらも封じられ、オレにはもう成す術もない。いつもなら盛大にノーを唱えて邪魔してくる御影さんも、先程のオレの命令のせいか、もの言いたげなのを我慢して押し黙っている。
これはもう……覚悟を決めるしかない。
「分かった……ちょっと、トイレとかで着替えてくる」
苦虫を噛み潰すような気分で告げると、クラスメイト達から盛大な歓声が上がった。
既に学校を出てしまっていたので、マナーが悪いとは思いつつ、着替えは駅のトイレで済ませた。案の定御影さんは個室の前まで付いて来ようとしたが、「ついでに用も足すから、音聞かれたくないから!」と主張して、何とかトイレ外でステイさせることに成功した。
紺色のブレザー。アイボリーのニットベスト。赤チェックのミニスカートと、揃いのリボンと、よくある定番の女子高生風の制服だった。
仕上げに長髪のウィッグを着けて、いざ外に出ようとしたら、ふと水泳部でのことを思い出して足が竦んだ。
また、ああいう目で見られるんじゃないかと、怖くなる。
――いいや、大丈夫だ。
怯懦を祓うように、目を瞑って、深呼吸した。
パンチラ対策してくれるということは、少なくともクラスの皆にはオレの尊厳を守る気があるということだから。水泳部の先輩方とは違う。
そう自分に言い聞かせ、鼓動が落ち着くのを待ってから、瞼と同時に扉を開けた。
擦れ違い様、入口付近の男性にギョッとされてしまった。男性はトイレの性別表記とオレを見比べて、二度見してくる。……うぅ、すみません。変態じゃないんです。オレだって仕方なくなんです。通報しないでください。
「姫、可愛い~!」
「とてもお似合いです!」
「可憐だ……」
「さすが陽様です」
御影さんまで一緒になって、賛辞の嵐を浴びせてくる。いや、褒められても全くもって嬉しくはない! むしろ、やっぱり恥ずかしい。
灰色ブレザーで緑チェックの皆と並ぶと、オレだけまるで他校生のようで、ガッツリ浮いている。大勢の男を侍らす逆ハーレム悪女の図みたいで、変な誤解を産みそうだ。周囲の一般の方々の視線が痛い。
でも、これも仕事……仕事だから!
無料化された学費を筆頭に受け取った報酬の数々を思って、何とか耐え忍ぶ。改めて、姫職って大変だな……と、遠い目になった。
◆◇◆
目的地であるスポーツアミューズメントパークは、学校の最寄りから電車で二駅だった。
「すげぇ、色々ある! まず、何からやる?」
「やっぱ、定番のボウリングじゃね?」
「姫、ボウリングは大丈夫ですか?」
「うん、まぁ……上手くはないけど」
「よし、じゃ決定!」
早速、ボウリング施設の受付に向かおうとして、皆の視線がふと御影さんに向いた。
「そういや、執事さんはどうします?」
「バカ、執事じゃなくてボディガードだろ」
「見た目執事さんじゃん」
「私のことはお気になさらず。あくまで陽様の付き添いですので。皆様でお楽しみくださいませ」
やんわりと辞退の意を示した御影さんだったが、周りからはこんな声が上がった。
「いやいや、折角来たんですから、執事さんもやりましょうよ! 見てるだけじゃつまらないでしょ!」
「ですが……」
窺うように御影さんがオレを見る。オレはクラスメイト達の方に同調してみせた。
「いいんじゃないか? 折角だし、御影さんも是非参加してください」
正直、オレのことばかり見ていられるよりも、遊興に耽っていてくれた方が、こちらとしても気が楽だ。
「よろしいのですか? 陽様がそう仰るのなら……」
球は、吸い込まれるように真っ直ぐ突き進み、速度と力の過不足も無く、見事に全てのピンを綺麗に薙ぎ払った。
「ストライーク!」
「出た! またもや!」
「ちょ、これまでパーフェクトじゃん!?」
痛快な球捌きに沸き立つ一同の中心に居るのは、御影さんだった。白手袋をぴしりと引っ張って身嗜みを整える彼には、まるで気負った様子すら見られない。
「執事さん、上手すぎじゃね!?」
「マジかっけぇ!」
「恐縮致します」
歓声を浴びる御影さんを、オレはあんぐりと口を開けて眺めていた。
護衛人なんてやるくらいだから、運動神経は良いのだろうとは思っていたけれど、これ程とは。
対するオレの方は散々な結果になっていた。元々大して上手くはない方だったけど、今日は更にスカートが気になり過ぎてあまり大きな動きが出来ない。加えて、渡されたのが「はい! 姫はやっぱり一番軽い球ですよね!」……だったもんだから、全く威力が出ないのだ。
投じた球がヘロヘロと失速してガーターに向かうのを見届けて肩を落とすオレに、クラスメイト達は慰めの言葉をくれた。
「姫、どんまい!」
「非力なの可愛い!」
「守ってあげたい!」
……放っとけ。
「姫、俺が投球フォームを教えましょうか!?」
「手取り足取り腰取りってか!? ……あ、いや何でもありません。申し訳ありません」
下卑た冗談を飛ばしたクラスメイトを、御影さんが凍てつく針のような眼差しで黙らせた。……やれやれだ。
結局、ボウリングステージは御影さんが三百点のパーフェクトゲームでトップを取って終わった。
「やはり、姫といえば女装かなと!」
「姫の歓迎会も兼ねてるから、正式なコスチュームじゃないとね!」
「他校生に見られても平気なように、制服にしました! 俺らも制服だし、これならメイド服とかナース服とかよりはコスプレ感がなくて、姫も恥ずかしくないですよね!?」
いや、恥ずかしいが!? 学園外で女装って……一般の人達にもめっちゃ見られるじゃん!?
喉元まで出かかった叫びを何とか堪えたのは、皆が例の期待に満ちたキラキラの眼差しで見つめてくるからだった。
これは……断りにくい! 断ったら、空気読めない奴みたいになってしまう。
「で、でも……身体動かすのに、スカートはちょっと」
「大丈夫です! ちゃんとスカートの下に穿く用のスパッツも用意致しました!」
「これならパンチラしません!」
ぬぉおおお、何で無駄に根回しいいんだよ!? 苦し紛れの言い訳すらも封じられ、オレにはもう成す術もない。いつもなら盛大にノーを唱えて邪魔してくる御影さんも、先程のオレの命令のせいか、もの言いたげなのを我慢して押し黙っている。
これはもう……覚悟を決めるしかない。
「分かった……ちょっと、トイレとかで着替えてくる」
苦虫を噛み潰すような気分で告げると、クラスメイト達から盛大な歓声が上がった。
既に学校を出てしまっていたので、マナーが悪いとは思いつつ、着替えは駅のトイレで済ませた。案の定御影さんは個室の前まで付いて来ようとしたが、「ついでに用も足すから、音聞かれたくないから!」と主張して、何とかトイレ外でステイさせることに成功した。
紺色のブレザー。アイボリーのニットベスト。赤チェックのミニスカートと、揃いのリボンと、よくある定番の女子高生風の制服だった。
仕上げに長髪のウィッグを着けて、いざ外に出ようとしたら、ふと水泳部でのことを思い出して足が竦んだ。
また、ああいう目で見られるんじゃないかと、怖くなる。
――いいや、大丈夫だ。
怯懦を祓うように、目を瞑って、深呼吸した。
パンチラ対策してくれるということは、少なくともクラスの皆にはオレの尊厳を守る気があるということだから。水泳部の先輩方とは違う。
そう自分に言い聞かせ、鼓動が落ち着くのを待ってから、瞼と同時に扉を開けた。
擦れ違い様、入口付近の男性にギョッとされてしまった。男性はトイレの性別表記とオレを見比べて、二度見してくる。……うぅ、すみません。変態じゃないんです。オレだって仕方なくなんです。通報しないでください。
「姫、可愛い~!」
「とてもお似合いです!」
「可憐だ……」
「さすが陽様です」
御影さんまで一緒になって、賛辞の嵐を浴びせてくる。いや、褒められても全くもって嬉しくはない! むしろ、やっぱり恥ずかしい。
灰色ブレザーで緑チェックの皆と並ぶと、オレだけまるで他校生のようで、ガッツリ浮いている。大勢の男を侍らす逆ハーレム悪女の図みたいで、変な誤解を産みそうだ。周囲の一般の方々の視線が痛い。
でも、これも仕事……仕事だから!
無料化された学費を筆頭に受け取った報酬の数々を思って、何とか耐え忍ぶ。改めて、姫職って大変だな……と、遠い目になった。
◆◇◆
目的地であるスポーツアミューズメントパークは、学校の最寄りから電車で二駅だった。
「すげぇ、色々ある! まず、何からやる?」
「やっぱ、定番のボウリングじゃね?」
「姫、ボウリングは大丈夫ですか?」
「うん、まぁ……上手くはないけど」
「よし、じゃ決定!」
早速、ボウリング施設の受付に向かおうとして、皆の視線がふと御影さんに向いた。
「そういや、執事さんはどうします?」
「バカ、執事じゃなくてボディガードだろ」
「見た目執事さんじゃん」
「私のことはお気になさらず。あくまで陽様の付き添いですので。皆様でお楽しみくださいませ」
やんわりと辞退の意を示した御影さんだったが、周りからはこんな声が上がった。
「いやいや、折角来たんですから、執事さんもやりましょうよ! 見てるだけじゃつまらないでしょ!」
「ですが……」
窺うように御影さんがオレを見る。オレはクラスメイト達の方に同調してみせた。
「いいんじゃないか? 折角だし、御影さんも是非参加してください」
正直、オレのことばかり見ていられるよりも、遊興に耽っていてくれた方が、こちらとしても気が楽だ。
「よろしいのですか? 陽様がそう仰るのなら……」
球は、吸い込まれるように真っ直ぐ突き進み、速度と力の過不足も無く、見事に全てのピンを綺麗に薙ぎ払った。
「ストライーク!」
「出た! またもや!」
「ちょ、これまでパーフェクトじゃん!?」
痛快な球捌きに沸き立つ一同の中心に居るのは、御影さんだった。白手袋をぴしりと引っ張って身嗜みを整える彼には、まるで気負った様子すら見られない。
「執事さん、上手すぎじゃね!?」
「マジかっけぇ!」
「恐縮致します」
歓声を浴びる御影さんを、オレはあんぐりと口を開けて眺めていた。
護衛人なんてやるくらいだから、運動神経は良いのだろうとは思っていたけれど、これ程とは。
対するオレの方は散々な結果になっていた。元々大して上手くはない方だったけど、今日は更にスカートが気になり過ぎてあまり大きな動きが出来ない。加えて、渡されたのが「はい! 姫はやっぱり一番軽い球ですよね!」……だったもんだから、全く威力が出ないのだ。
投じた球がヘロヘロと失速してガーターに向かうのを見届けて肩を落とすオレに、クラスメイト達は慰めの言葉をくれた。
「姫、どんまい!」
「非力なの可愛い!」
「守ってあげたい!」
……放っとけ。
「姫、俺が投球フォームを教えましょうか!?」
「手取り足取り腰取りってか!? ……あ、いや何でもありません。申し訳ありません」
下卑た冗談を飛ばしたクラスメイトを、御影さんが凍てつく針のような眼差しで黙らせた。……やれやれだ。
結局、ボウリングステージは御影さんが三百点のパーフェクトゲームでトップを取って終わった。
あなたにおすすめの小説
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。