ハルくんは逃げ出したい。~男子校の姫になったらストーカー護衛からの溺愛が重すぎる!~

夜薙 実寿

文字の大きさ
33 / 101

第33話 誰かのせい

「ユーリちゃんの衣装の肩紐、まるで鋭利な刃物で切り口を入れられていたみたいな痕跡があったわ。アナタがやったのね? ミドリちゃん」

 えっ?

「……何のことだか」
「とぼけても無駄よ。その件はともかく、そっちは現行犯でしょう」

 蝶野先輩が、合図を送るように御影さんの方を見た。御影さんは頷き返し、言葉を継ぐ。

「二回目のダンス披露の際、この方が不審な動きをしていたので後をけたところ、校庭の散水コントローラーを弄ろうとしたのでお止め致しました。どうやら、スプリンクラーを作動させるつもりだったようです」
「何だって? そんなことしたら校庭中水浸しになって、体育祭どころじゃなくなるぞ」

 オレ達だけじゃなくて、一般の観客達までびしょ濡れコースだろう。

「衣装を脱がせて恥をかかせるつもりだったのに、ユーリちゃんが気にせず踊り続けたから、別の手段で邪魔をしようとしたのかしら。それとも、初めからスプリンクラーも使う計画だったの?」

 ミドリさんは何も答えない。誰からも目を逸らしたまま、放心状態で地面を眺めている。蝶野先輩が深く溜め息を吐いた。

「アナタが衣装を見たいって言ったから、姫時代を懐かしんでいるんだと思って、衣装室に案内してしまった……アタシの判断ミスね。目を離した隙に、ユーリちゃんの衣装に細工をしたんでしょう? どうして、そんなことをしたの?」
「…………」
「ミドリちゃん!」

 ここで、棗先輩が嘆息混じりに口を挟んだ。 やれやれと、呆れたように肩を竦めて。

「そんなの、わかりきったことじゃん。どうせ、ボクへの逆恨みでしょ? くだらない」
「逆恨み……?」

 突如、ミドリさんの様子が変わった。

「違う! 逆恨みなんかじゃない! これは、正当な復讐だ!」

 声を荒げ、棗先輩を睨む。その瞳に宿る、怒りの炎。見詰めた相手を燃やし尽くしてしまいそうな程に、苛烈な熱量。先まで抜け殻だったのが突然魂が戻って来たような豹変っぷりに、オレは息を呑んだ。

「小学校の頃の僕は、パッとしなかった。自分の女顔がコンプレックスで、俯いて顔を隠すばかりで、ずっとこそこそと日陰の中で生きてきた。四季折に入ったのも親の意向で、別に姫になれるなんて期待もしていなかった。そんな自信も無かったし……実際、選ばれたのは別の子だった」

 語り出すミドリさん。その視線は、今度は何もない虚空へと向かった。まるでそこに、己の過去の映像でも見えているかのように。

「だけど、思いがけず転機がやって来た。最初に選ばれた子が、何故だか姫を辞退して転校したらしい。空席になった姫の座に、まさかの僕が選ばれることになった。……僕を見出してくれたのは、蝶野先輩でしたね。僕は、嬉しかった」
「ミドリちゃん……」

 名指しされた蝶野先輩が、複雑そうな表情かおをする。対してミドリさんは、暗色の瞳をキラキラと輝かせた。

「姫になったら、世界が変わったんだ。皆、僕を可愛いって褒めてくれる。ずっと光の当たらない場所に居た僕に、スポットライトが当たったんだ。空っぽだった自信が、埋まっていくように感じた。……でも、それは最初の内だけだった」

 不意に、失せる光。再びそこに宿ったのは、怒りの炎だった。

「最初の姫が居なくなった理由は、すぐに分かった。……お前だ、棗 夕莉。意地悪な先輩による理不尽な扱いに耐えられなくなって、辞めてったんだ。僕も、それを身をもって体験させられる羽目になった」

 無視、イヤミ、悪口、非協力、妨害……それらの被害を一つ一つ、ミドリさんは溜まった鬱憤を吐き出すように訴えた。オレもいくつか身に覚えがある。同じように心を病み、悩まされたから、彼の気持ちは少し分かる気もした。

 ――それで結局、ミドリさんは前任と同じように、姫を辞めてしまった。

「高等部になってもそいつと一緒だなんて耐えられなくて、僕は別の高校に行くことにした。だけど、そのせいで……僕は不幸になった」

 今の学校で、ミドリさんはいじめに遭っているのだという。

「この顔が女みたいだって、弄られて馬鹿にされて……おかしいだろ、四季折では逆にそれがステータスだったのに! あのまま四季折に居れば、姫で居れば、僕はこんな思いをすることはなかった! 再び自信を失うこともなかったんだ! お前のせいだ!」

 びしりと、突きつけられる人差し指。棗先輩は微動だにせず、表情一つ変えなかった。

「お前が僕を追い出したりしなければ、こんなことにはならなかった! 全部、お前のせいだ!」

 それを聞いて、オレは――。

「違う」

 思わず、言葉が口を衝いて出た。何かを言おうとしていた棗先輩が、驚いたようにオレの方を見る。オレは、ミドリさんを見据えたまま、続けた。

「そんなの、間違ってる! やっぱり、逆恨みじゃんか!」
「なにっ!?」
「そりゃ、棗先輩も悪いよ!? オレだって、散々意地悪されて心折れかけたことあるし! ミドリさんの気持ちも、少しは分かる」

 でも……でもさ。

「だからって、全部人のせいにするのは違うだろ!? 最終的に姫を辞めたのも、別の高校に行ったのも、自分の判断じゃん! もう少し四季折で姫として頑張るって選択肢もあった訳じゃん? 棗先輩とちゃんと向き合って、話し合うことだって出来ただろ? それをしなかったのは、あんただ」

 この人は、まるで過去のオレだ。
 オレも、最初は棗先輩のことを知ろうともせずに、分かり合えない相手だと勝手に決めつけて遠ざけていた。……だからだろうか、無性に腹が立った。

「新しい学校で酷い目に遭ったのも同情するけど、だったら、そのいじめっ子達にこそ立ち向かうべきだろ!? こうやって、過去に切り捨てた相手に陰湿な嫌がらせしてる暇があったらさ! 現状をもっと良くする為に闘えよ!」

 ミドリさんは、ぐっと声を詰まらせた。痛い所を突いたらしい。

「そんな簡単に……っ」
「勿論、簡単な問題じゃないのは分かってる。もし、相談する相手が居ないとかなら、オレが話し相手になるからさ。オレにも出来ることは限られてるけど、友達くらいにはなれるし、友達を馬鹿にする奴に、文句言うくらいは出来る!」
「な……っ」

 ――また四季折の皆に会いたくなって。

 ミドリさんが語ったあの言葉は、本音だったんだと思う。今の学校に居場所が作れなくて、自分に優しくしてくれた四季折この学校の人達に、無意識に助けを求めて来たんじゃないか。
 きっと、誰かのせいにしなければいられないくらい、辛かったんだろう。棗先輩を恨むことで、壊れそうな心を繋ぎ止めていたのかもしれない。
 だったら、突き放すんじゃなくて……。

「友達になろう! ミドリさん」
感想 12

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。