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第37話 悪魔の契約
「おめでとうございます! ハル姫、ユーリ姫!」
「姫百合カップル、成立おめでとうございます!」
「皆、ありがとう~! ボク達、幸せになりま~す♪」
周囲からの盛大な祝辞に、棗先輩が弾けんばかりの笑顔で応えた。腕を組まれたオレは、反応に困って愛想笑いを浮かべていた。
「後片付けなんて、俺らでやっておきますから! お疲れでしょうし、姫君方はお先にお上がりください!」
「あ、そう? じゃあ、お言葉に甘えて♪ 行こっか、ハルくん!」
「は、はぁ……」
棗先輩に連れられて、そのままグラウンドを後にする。
あれから、体育祭は赤組の優勝で幕を閉じた。しかし、後半はほぼ記憶に無い。
ミドリさんとは約束通りお昼を一緒に食べて別れたけれど、上の空でどんなやり取りをしたのかも覚えていない。
棗先輩の衝撃の告白を受けて、周囲はオレ達を両想いだと囃し立てた。
誤解を主張すれば、全校生徒の前で先輩を振るようなことになってしまう。それはさすがに申し訳なくて、流されるままに気が付けばオレ達はカップル認定されてしまっていた。
「やったね♪ 赤組も優勝したし、うちのクラスがMVPも取ったし♪ 何やかんや応援ダンスも成功だったし、ハルくんもお疲れ様♪」
鼻歌でも歌い出しそうな程にめちゃくちゃ上機嫌な棗先輩に、胸が痛む。
困った……今更そうじゃないとは言い出しにくい。だけど、このままでは騙すようで先輩にも失礼だ。
姫寮へと向かう道すがら、護衛の二人はともかく他の生徒達の目が無くなったことを確認すると、オレは意を決して切り出した。
「あの……棗先輩」
「うん?」
急に立ち止まったオレに、棗先輩が小首を傾げて振り向いた。オレは言葉を続ける。
「ごめんなさい! オレ……そういうつもりじゃなかったんです。棗先輩のことは好きだけど、友達としてというか、その……だから、先輩の好意には」
「知ってる」
「応えられ……え? 知ってる?」
思い掛けない返答に、虚を衝かれた。棗先輩は何てこともない風にさらりと言ってのける。
「うん、ハルくんにそういう気が無いのは知ってる。これまでの様子から、そんなの分かるし」
「え、じゃあ何で……」
「だって、あの方が盛り上がるでしょ? それに、ああすれば虫除け対策になるかと思ってさ」
「盛り上が……虫除け対策?」
棗先輩はこくりと頷いた。それから、溜息交じりに語る。
「ボクくらいの超絶美少年になるとさ、性別関係なく言い寄ってくる奴らが後を絶たないんだよね。それが正直鬱陶しくってさ。揃いも揃って凡庸なくせに、どうして自分にワンチャンあるなんて思えるんだろうね。身の程を弁えろって感じ」
「は、はぁ……」
「でも、ああして大々的に相思相愛宣言をしちゃえば、奴らも現実を知って大人しくなるでしょ? それに、相手が同じ姫なら、皆納得して文句も言えない。現に、百合だなんだって皆大喜びだったでしょ?」
ぐらりと眩暈がした。つまり、何だ? オレのことが好きって言ったのも、嘘!?
え、全然そんな風に見えなかったぞ……演技上手すぎるだろ!
愕然としていると、横から御影さんが割って入ってきた。
「お待ちください。それでは、棗様は陽様を利用したということでしょうか。お二人が本気なら口出しをすることもないと黙っておりましたが、それは聞き捨てなりません」
「御影さん……」
「相変わらず、ハルくんの下僕は煩いね。言っとくけど、これはハルくんにとっても悪い話じゃないと思うけど?」
やれやれと肩を竦めて、棗先輩は聞き分けの悪い子に言い聞かせるように説いた。
「虫除け効果はハルくんにも同等に与えられる。ボクと付き合ってるってことにしといた方が、大切なご主人様がどこの馬の骨とも分からないような輩に狙われることもなくなって、安全だよ」
「…………」
それは響いたようで、御影さんは思案するように黙り込んでしまった。困惑するオレに、棗先輩は改めて向き直り、
「という訳で、ボクと偽恋人契約しない?」
と、持ちかけてきた。
「偽恋人契約……」
「そ。難しく考えなくてもいいよ。皆の前で恋人のフリをしてくれればいい。そうすれば、ボクもハルくんもwin-winって訳。最も、周囲はもう完全にそう思い込んでいるから、今更拒否する意味も無いと思うけどね。ハルくんが違うと主張しても、ここの連中の頭は皆お花畑だから、照れてるんだなって思われて終わりだよ」
「うっ……」
どうやら、まんまと嵌められたようだ。
言葉を失くしたオレ達を嘲笑うように、棗先輩は狡猾な笑みを浮かべる。艶やかで蠱惑的な、悪戯っ子の笑み。
――悪魔の契約だ。
だけど、確かに断る理由も無いような気もした。
「分かり、ました……オレに上手く出来るかは分かりませんけど」
「OK。契約成立……だね。改めて、これからよろしくね、ハルくん」
そう言って、今度は無邪気に微笑んでみせた棗先輩は、一見天使のように可憐だった。
「姫百合カップル、成立おめでとうございます!」
「皆、ありがとう~! ボク達、幸せになりま~す♪」
周囲からの盛大な祝辞に、棗先輩が弾けんばかりの笑顔で応えた。腕を組まれたオレは、反応に困って愛想笑いを浮かべていた。
「後片付けなんて、俺らでやっておきますから! お疲れでしょうし、姫君方はお先にお上がりください!」
「あ、そう? じゃあ、お言葉に甘えて♪ 行こっか、ハルくん!」
「は、はぁ……」
棗先輩に連れられて、そのままグラウンドを後にする。
あれから、体育祭は赤組の優勝で幕を閉じた。しかし、後半はほぼ記憶に無い。
ミドリさんとは約束通りお昼を一緒に食べて別れたけれど、上の空でどんなやり取りをしたのかも覚えていない。
棗先輩の衝撃の告白を受けて、周囲はオレ達を両想いだと囃し立てた。
誤解を主張すれば、全校生徒の前で先輩を振るようなことになってしまう。それはさすがに申し訳なくて、流されるままに気が付けばオレ達はカップル認定されてしまっていた。
「やったね♪ 赤組も優勝したし、うちのクラスがMVPも取ったし♪ 何やかんや応援ダンスも成功だったし、ハルくんもお疲れ様♪」
鼻歌でも歌い出しそうな程にめちゃくちゃ上機嫌な棗先輩に、胸が痛む。
困った……今更そうじゃないとは言い出しにくい。だけど、このままでは騙すようで先輩にも失礼だ。
姫寮へと向かう道すがら、護衛の二人はともかく他の生徒達の目が無くなったことを確認すると、オレは意を決して切り出した。
「あの……棗先輩」
「うん?」
急に立ち止まったオレに、棗先輩が小首を傾げて振り向いた。オレは言葉を続ける。
「ごめんなさい! オレ……そういうつもりじゃなかったんです。棗先輩のことは好きだけど、友達としてというか、その……だから、先輩の好意には」
「知ってる」
「応えられ……え? 知ってる?」
思い掛けない返答に、虚を衝かれた。棗先輩は何てこともない風にさらりと言ってのける。
「うん、ハルくんにそういう気が無いのは知ってる。これまでの様子から、そんなの分かるし」
「え、じゃあ何で……」
「だって、あの方が盛り上がるでしょ? それに、ああすれば虫除け対策になるかと思ってさ」
「盛り上が……虫除け対策?」
棗先輩はこくりと頷いた。それから、溜息交じりに語る。
「ボクくらいの超絶美少年になるとさ、性別関係なく言い寄ってくる奴らが後を絶たないんだよね。それが正直鬱陶しくってさ。揃いも揃って凡庸なくせに、どうして自分にワンチャンあるなんて思えるんだろうね。身の程を弁えろって感じ」
「は、はぁ……」
「でも、ああして大々的に相思相愛宣言をしちゃえば、奴らも現実を知って大人しくなるでしょ? それに、相手が同じ姫なら、皆納得して文句も言えない。現に、百合だなんだって皆大喜びだったでしょ?」
ぐらりと眩暈がした。つまり、何だ? オレのことが好きって言ったのも、嘘!?
え、全然そんな風に見えなかったぞ……演技上手すぎるだろ!
愕然としていると、横から御影さんが割って入ってきた。
「お待ちください。それでは、棗様は陽様を利用したということでしょうか。お二人が本気なら口出しをすることもないと黙っておりましたが、それは聞き捨てなりません」
「御影さん……」
「相変わらず、ハルくんの下僕は煩いね。言っとくけど、これはハルくんにとっても悪い話じゃないと思うけど?」
やれやれと肩を竦めて、棗先輩は聞き分けの悪い子に言い聞かせるように説いた。
「虫除け効果はハルくんにも同等に与えられる。ボクと付き合ってるってことにしといた方が、大切なご主人様がどこの馬の骨とも分からないような輩に狙われることもなくなって、安全だよ」
「…………」
それは響いたようで、御影さんは思案するように黙り込んでしまった。困惑するオレに、棗先輩は改めて向き直り、
「という訳で、ボクと偽恋人契約しない?」
と、持ちかけてきた。
「偽恋人契約……」
「そ。難しく考えなくてもいいよ。皆の前で恋人のフリをしてくれればいい。そうすれば、ボクもハルくんもwin-winって訳。最も、周囲はもう完全にそう思い込んでいるから、今更拒否する意味も無いと思うけどね。ハルくんが違うと主張しても、ここの連中の頭は皆お花畑だから、照れてるんだなって思われて終わりだよ」
「うっ……」
どうやら、まんまと嵌められたようだ。
言葉を失くしたオレ達を嘲笑うように、棗先輩は狡猾な笑みを浮かべる。艶やかで蠱惑的な、悪戯っ子の笑み。
――悪魔の契約だ。
だけど、確かに断る理由も無いような気もした。
「分かり、ました……オレに上手く出来るかは分かりませんけど」
「OK。契約成立……だね。改めて、これからよろしくね、ハルくん」
そう言って、今度は無邪気に微笑んでみせた棗先輩は、一見天使のように可憐だった。
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