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第41話 予定外の告白
強引に押し付けられ、弾力で離れる。一瞬の接吻。驚いて固まっていると、今一度熱が唇に戻ってきた。今度は先程よりも優しく慎重に……触れて擦れて、途端、電流が走ったような感覚に襲われた。
上擦った吐息が漏れる。羞恥する間も無く、未だ動けずにいるオレの口唇を割って、次の瞬間、ぬるりと濡れた肉厚の舌が
「ッ陽様!」
突如、肩を掴まれ、引き剥がされた。遠のいていく熱。余韻で惚けた頭で、事態の把握を図る。視界に映るのは、御影さんの背中。オレを庇うように前に立ち、棗先輩と向かい合っている。
――今、何が起きた?
「棗様、どういうおつもりですか?」
低く唸るように御影さんが質した。その冷たい声音に、思わずぞくりとする。
棗先輩の方を見ると、彼は己が唇を舌で拭いながら、開き直ったように微笑った。
「ハルくんに本当のキスってものを教えてあげただけだけど?」
「何を勝手なっ! これは陽様に対する立派な暴行です! いくら陽様のご友人でも許される行為ではありません!」
「許す許さないはお前が決めることじゃなくて、ハルくんが決めることでしょ? ……ハルくんは、嫌だった?」
「えっ」
棗先輩がオレを見た。どこか切実な眼差しに、困惑する。
「イヤっていうか……」
何が何だか分からない。まだ実感も湧かない。
ただ気まずくて、目線を外した。
「えっと、こういうのは、そもそも好きな人とするものであって……揶揄うにしても、やりすぎじゃ……」
そうだ。本当にキスをするなんて……いくら何でも、恋人のフリの範疇を越えている。
揶揄うつもりでしたのなら、酷いんじゃないか?
そう思うと、じわりと胸の奥に痛みが滲んできた。――直後、
「揶揄ってなんかない」
聞こえてきたのは、予想外な言葉だった。
反射的に顔を上げると、棗先輩の視線とかち合った。そこには、いつもの悪戯気な色は無く、真剣そのものの瞳で――。
「そうだよ。好きな人だから、したんだよ」
「……え?」
「だから……っボクは、ハルくんが好きだ。フリとかじゃなくて、本気で」
頭の中が真っ白になった。棗先輩の顔が、見る見る真っ赤に染まっていく。
「……という、ドッキリ?」
「ドッキリとかでもなくて!」
試しに聞いてみたら即否定された。
え? じゃあ……え? えっ!?
「くそっ、まだ言うつもりじゃなかったのに! ボク、カッコ悪い……」
両手で顔を押さえて、嘆息する先輩。唖然と見守っていると、彼はゆっくりと手を下ろし、こちらを窺う瞳と再び目が合った。決まり悪そうな、申し訳なさそうな表情。
「まぁ、でも……いきなりキスしたのは悪かったよ。ハルくんがそいつとキス……っていうか、人工呼吸したのを見て複雑な気持ちになって、その後ハルくんがそいつのことばっかり意識してるもんだからさ……正直、妬いた」
「っ……」
――妬いた? オレに?
っていうか、好きって、本当に!?
「だから、ボクのことも見て欲しくて、した! ごめん……」
「ま、待ってください、先輩! だって、オレ、その……男ですよ?」
「知ってる。でも、しょうがないじゃん。好きになっちゃったものは」
言葉に詰まった。先輩がオレを見つめる。一切の揶揄も含まない、ひたむきな視線――気圧される。
「何で……オレなんかのことを?」
戸惑いの末、出てきた疑問はそれだった。
「ハルくんだけだったんだ。ボクとちゃんと向き合おうとしてくれたのは」
先輩は困ったように微笑って言った。
「ボク、こんな性格だから、対等な友人関係を築けたことがなくてさ。周りの奴らはボクを神か何かのように崇めるか、逆に嫌って遠ざけるかのどっちかで、いつも独りぼっちだったんだ。……だけど、ハルくんだけは違った。ボクがどんなに意地悪しても、ハルくんだけはボクを見限らずに居てくれた。ボクのことを知りたいって、真正面からぶつかってきてくれた」
「嬉しかった」――その言葉に、ハッとした。
「孤高を気取って、独りでも平気だって自分に言い聞かせてきたけど、そんなことはなかった。ハルくんが当たり前のように傍に居てくれるようになって、初めてボクは自分がこれまで寂しかったんだって、気付けたんだ。ハルくんのお蔭で、ボクは寂しくなくなった。だから、これからもハルくんと一緒に居たい。……出来れば、一番近くで」
紅いカラコンの瞳が、熱に浮かされたように潤む。嘘じゃない。――確信した。
これは、先輩の本音だ。
喉の奥が、ぎゅっとなる。嬉しい。先輩が、そんな風に想っていてくれたなんて。
でも、どう応えればいい? オレは……。
「あの……先輩」
「ストップ」
「へっ?」
突然の制止に、オレは面食らった。棗先輩は鹿爪らしい顔をして、こう続けた。
「返事はまだくれなくていいから。どうせフラれるのは分かってるから。だから、偽恋人契約なんて持ち掛けて、時間稼ぎをしようとしたんだ。そうすれば、ダンスの練習が無くなっても毎日ハルくんに会う口実が作れるし、その内にハルくんがボクのことを意識してくれるようになればいいなって」
「えっと?」
「虫除け効果っていうのも、本当はボクじゃなくて、ハルくんに期待してたんだよ。ハルくんに悪い虫が付かないようにって……つまり、だから、まだ待って。ボクにチャンスを頂戴。一ヶ月……いや、二か月!」
ピースサインよろしく、二本指を立てて、先輩は眼前に突きつけてきた。
「どうせ、これから暫くは中間だ期末だってテスト期間で忙しくなるし、ハルくんも他のこと考えてる余裕なくなるだろうから、全てのテストが終わった夏休み直前……納涼祭の夜に、改めて返事を聞かせて」
――納涼祭の夜に。
「……わ、分かりました」
怒涛の勢いに、押されて頷いていた。
先輩は興奮を鎮めるように、ふんっと鼻息を一つ、首肯を返す。
「それじゃあ、そういうことで。今後ともよろしく」
そう告げた先輩の顔は未だ赤くて、いつもの余裕は欠片も見られなくて……改めて、本気なんだと思い知らされると、オレはまともに先輩と目を合わせられなくなって、俯いた。
今は青々とした桜並木が、風に揺られて葉をざわめかせた。
上擦った吐息が漏れる。羞恥する間も無く、未だ動けずにいるオレの口唇を割って、次の瞬間、ぬるりと濡れた肉厚の舌が
「ッ陽様!」
突如、肩を掴まれ、引き剥がされた。遠のいていく熱。余韻で惚けた頭で、事態の把握を図る。視界に映るのは、御影さんの背中。オレを庇うように前に立ち、棗先輩と向かい合っている。
――今、何が起きた?
「棗様、どういうおつもりですか?」
低く唸るように御影さんが質した。その冷たい声音に、思わずぞくりとする。
棗先輩の方を見ると、彼は己が唇を舌で拭いながら、開き直ったように微笑った。
「ハルくんに本当のキスってものを教えてあげただけだけど?」
「何を勝手なっ! これは陽様に対する立派な暴行です! いくら陽様のご友人でも許される行為ではありません!」
「許す許さないはお前が決めることじゃなくて、ハルくんが決めることでしょ? ……ハルくんは、嫌だった?」
「えっ」
棗先輩がオレを見た。どこか切実な眼差しに、困惑する。
「イヤっていうか……」
何が何だか分からない。まだ実感も湧かない。
ただ気まずくて、目線を外した。
「えっと、こういうのは、そもそも好きな人とするものであって……揶揄うにしても、やりすぎじゃ……」
そうだ。本当にキスをするなんて……いくら何でも、恋人のフリの範疇を越えている。
揶揄うつもりでしたのなら、酷いんじゃないか?
そう思うと、じわりと胸の奥に痛みが滲んできた。――直後、
「揶揄ってなんかない」
聞こえてきたのは、予想外な言葉だった。
反射的に顔を上げると、棗先輩の視線とかち合った。そこには、いつもの悪戯気な色は無く、真剣そのものの瞳で――。
「そうだよ。好きな人だから、したんだよ」
「……え?」
「だから……っボクは、ハルくんが好きだ。フリとかじゃなくて、本気で」
頭の中が真っ白になった。棗先輩の顔が、見る見る真っ赤に染まっていく。
「……という、ドッキリ?」
「ドッキリとかでもなくて!」
試しに聞いてみたら即否定された。
え? じゃあ……え? えっ!?
「くそっ、まだ言うつもりじゃなかったのに! ボク、カッコ悪い……」
両手で顔を押さえて、嘆息する先輩。唖然と見守っていると、彼はゆっくりと手を下ろし、こちらを窺う瞳と再び目が合った。決まり悪そうな、申し訳なさそうな表情。
「まぁ、でも……いきなりキスしたのは悪かったよ。ハルくんがそいつとキス……っていうか、人工呼吸したのを見て複雑な気持ちになって、その後ハルくんがそいつのことばっかり意識してるもんだからさ……正直、妬いた」
「っ……」
――妬いた? オレに?
っていうか、好きって、本当に!?
「だから、ボクのことも見て欲しくて、した! ごめん……」
「ま、待ってください、先輩! だって、オレ、その……男ですよ?」
「知ってる。でも、しょうがないじゃん。好きになっちゃったものは」
言葉に詰まった。先輩がオレを見つめる。一切の揶揄も含まない、ひたむきな視線――気圧される。
「何で……オレなんかのことを?」
戸惑いの末、出てきた疑問はそれだった。
「ハルくんだけだったんだ。ボクとちゃんと向き合おうとしてくれたのは」
先輩は困ったように微笑って言った。
「ボク、こんな性格だから、対等な友人関係を築けたことがなくてさ。周りの奴らはボクを神か何かのように崇めるか、逆に嫌って遠ざけるかのどっちかで、いつも独りぼっちだったんだ。……だけど、ハルくんだけは違った。ボクがどんなに意地悪しても、ハルくんだけはボクを見限らずに居てくれた。ボクのことを知りたいって、真正面からぶつかってきてくれた」
「嬉しかった」――その言葉に、ハッとした。
「孤高を気取って、独りでも平気だって自分に言い聞かせてきたけど、そんなことはなかった。ハルくんが当たり前のように傍に居てくれるようになって、初めてボクは自分がこれまで寂しかったんだって、気付けたんだ。ハルくんのお蔭で、ボクは寂しくなくなった。だから、これからもハルくんと一緒に居たい。……出来れば、一番近くで」
紅いカラコンの瞳が、熱に浮かされたように潤む。嘘じゃない。――確信した。
これは、先輩の本音だ。
喉の奥が、ぎゅっとなる。嬉しい。先輩が、そんな風に想っていてくれたなんて。
でも、どう応えればいい? オレは……。
「あの……先輩」
「ストップ」
「へっ?」
突然の制止に、オレは面食らった。棗先輩は鹿爪らしい顔をして、こう続けた。
「返事はまだくれなくていいから。どうせフラれるのは分かってるから。だから、偽恋人契約なんて持ち掛けて、時間稼ぎをしようとしたんだ。そうすれば、ダンスの練習が無くなっても毎日ハルくんに会う口実が作れるし、その内にハルくんがボクのことを意識してくれるようになればいいなって」
「えっと?」
「虫除け効果っていうのも、本当はボクじゃなくて、ハルくんに期待してたんだよ。ハルくんに悪い虫が付かないようにって……つまり、だから、まだ待って。ボクにチャンスを頂戴。一ヶ月……いや、二か月!」
ピースサインよろしく、二本指を立てて、先輩は眼前に突きつけてきた。
「どうせ、これから暫くは中間だ期末だってテスト期間で忙しくなるし、ハルくんも他のこと考えてる余裕なくなるだろうから、全てのテストが終わった夏休み直前……納涼祭の夜に、改めて返事を聞かせて」
――納涼祭の夜に。
「……わ、分かりました」
怒涛の勢いに、押されて頷いていた。
先輩は興奮を鎮めるように、ふんっと鼻息を一つ、首肯を返す。
「それじゃあ、そういうことで。今後ともよろしく」
そう告げた先輩の顔は未だ赤くて、いつもの余裕は欠片も見られなくて……改めて、本気なんだと思い知らされると、オレはまともに先輩と目を合わせられなくなって、俯いた。
今は青々とした桜並木が、風に揺られて葉をざわめかせた。
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