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第42話 望まぬ遭遇
「で、何で僕が恋愛相談なんて聞かされる羽目になるんだ……」
「ごめん。でも、こんなこと話せるの、ミドリさんしか居なくって」
放課後の喫茶店。向かい合って抹茶ラテを啜るミドリさんは、オレが話を切り出すと何とも渋い顔をした。
この頃は放課後と言えば毎日棗先輩と過ごしていたが、今日の今日であんなやり取りをしたすぐ後に顔を合わせるのは互いに気まずかろうということで、棗先輩の方から本日のお部屋訪問のキャンセルを伝えられていた。
その為、放課後が空いた訳だが、一人で部屋に居ても悶々と考え事をしてしまってテスト勉強どころではなかったので、気分転換に外出することにした。その際、ミドリさんとも改めて話をしたかったので、オレから誘ったのだ。
ミドリさんとは、あれからメッセージアプリでのやり取りを続けていたが、実際に会うのは体育祭以来だ。突然のお誘いにも関わらず、まさかこうして来てくれるとは。学校の人達とは相変わらず上手くいっていないみたいだけど、その辺のことはミドリさんがあまり話したがらないものだから、気が付いたらオレの方のお悩み相談みたいになってしまっていた。
ちなみに、他校生のミドリさんにはネタバラシをしても良いと棗先輩から許可を頂いていたので、偽恋人契約のことは既に話してある。ので、彼はこんなことを言った。
「そんなの、棗 夕莉にでも聞かせればいいじゃないか。体育祭でのアレはデモンストレーションで、本当は恋人関係な訳じゃないんだろう?」
「いっいや、それは、ちょっと……」
しどろもどろに言葉を濁すオレの反応でピンと来てしまったらしく、ミドリさんは切れ長な目を瞠った。
「まさか、その告白をしてきた相手ってのが、あの棗 夕莉!?」
「わーっ! もうちょっと声のボリュームを抑えて!」
慌てて止めに掛かる。思わず周囲に視線を巡らせた。何事かとこちらを見ていた近くの席の人達と目が合うや、すぐに逸らされた。ちなみに、話の邪魔をしないようにと気を利かせた御影さんがどこか離れた所から見守っているらしいのだけど、少なくともオレからは見つけられなかった。どこに居るんだ、あの人。
ミドリさんは衝撃冷めやらぬといったていで、茫然と呟いた。
「いや、驚いた。あの冷血自己中悪魔が、人を愛する心を持ってたなんて……」
「そこまで言う?」
「でも、そうだな。確かにアイツ、体育祭の時から既に君に骨抜きにされてた感あったよな」
「えっ!? そ、そう?」
確かに、最近素直というか、優しくなってたけど……まさか、棗先輩がオレのことを、なんて、思いもしなかった。
借り物競争で〝好きな人〟のお題でその気も無いのに先輩を連れ出したのって、今思えばオレ、大分無神経だったんじゃないか。御影さんとの人工呼吸? の件もそうだけど、知らない間にオレ、先輩のこといっぱい傷付けてたんじゃないか?
そう思ったら、胸がつきんと痛んだ。
「で、どう返事をすればいいのか迷っている、と」
「うーん……返事はまだいいって言われたから、ちゃんとじっくり考えようと思うんだけど。その前に、これからどんな顔をして会えばいいのかっていう……」
「そんなの、普通にしてればいいだろ。変に避けたりしたら傷付くだろうし。まぁ、アイツがフラれてざまぁな所は見てみたい気もするけど」
「……相変わらず、棗先輩に手厳しいな」
「当然だろ、僕はまだアイツを許した訳じゃないし。ていうか、恋愛経験はおろかまともな人間関係を築けたこともない僕に、そんな相談をするなんて、端から間違ってるだろ」
自虐的な笑いを漏らして、ミドリさんは肩を竦めてみせた。どう返すべきか困って、オレは苦笑した。
オレだって、恋愛経験なんて無い。クラスメイトに憧れというか、うっすら淡い恋心のようなものを抱いたことはあるものの、いつも相手には「いい人ね」と言われて終わり、恋愛対象として見られた試しがないのだ。
そして、それだって異性が相手だった。同性から恋愛的な好意を寄せられたことなんて、当然これが初めてだ。けど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。棗先輩が女の子みたいに可愛らしい容姿をしているせいもあるかもしれないけれど、キスに関しても別段嫌悪感は無かった。
――キス。
またあの感触を思い出して、オレは口元を押さえた。動揺で鼓動が跳ねる。
そうだ。棗先輩ともキス、したんだよな……。いや、御影さんとのアレは結局普通に人工呼吸だったみたいだけど。でも、唇を重ねるという点では同じだし……オレのファーストキスって、どっちなんだ!?
「あれ? 姫川じゃん」
不意に、聞き慣れない声がした。
見ると、通路から同い年くらいの三人組男子がこちらに向かってくるところだった。紺色のブレザー……これって、確かミドリさんと同じ学校の……。
ハッとして、ミドリさんの方を窺った。その表情に、更に息を呑む。血の気の失せた、青白い顔。まるで恐ろしいものを目撃したかのように、見開かれた瞳。
「奇遇じゃん。こんな所で何してるんだよ、姫川」
そうだ。メッセージのやり取りで聞いたことがある。ミドリさんのフルネームは、姫川 翠。それを知っている、この人達は……。
ミドリさんをいじめている、学校の人達だ。
「ごめん。でも、こんなこと話せるの、ミドリさんしか居なくって」
放課後の喫茶店。向かい合って抹茶ラテを啜るミドリさんは、オレが話を切り出すと何とも渋い顔をした。
この頃は放課後と言えば毎日棗先輩と過ごしていたが、今日の今日であんなやり取りをしたすぐ後に顔を合わせるのは互いに気まずかろうということで、棗先輩の方から本日のお部屋訪問のキャンセルを伝えられていた。
その為、放課後が空いた訳だが、一人で部屋に居ても悶々と考え事をしてしまってテスト勉強どころではなかったので、気分転換に外出することにした。その際、ミドリさんとも改めて話をしたかったので、オレから誘ったのだ。
ミドリさんとは、あれからメッセージアプリでのやり取りを続けていたが、実際に会うのは体育祭以来だ。突然のお誘いにも関わらず、まさかこうして来てくれるとは。学校の人達とは相変わらず上手くいっていないみたいだけど、その辺のことはミドリさんがあまり話したがらないものだから、気が付いたらオレの方のお悩み相談みたいになってしまっていた。
ちなみに、他校生のミドリさんにはネタバラシをしても良いと棗先輩から許可を頂いていたので、偽恋人契約のことは既に話してある。ので、彼はこんなことを言った。
「そんなの、棗 夕莉にでも聞かせればいいじゃないか。体育祭でのアレはデモンストレーションで、本当は恋人関係な訳じゃないんだろう?」
「いっいや、それは、ちょっと……」
しどろもどろに言葉を濁すオレの反応でピンと来てしまったらしく、ミドリさんは切れ長な目を瞠った。
「まさか、その告白をしてきた相手ってのが、あの棗 夕莉!?」
「わーっ! もうちょっと声のボリュームを抑えて!」
慌てて止めに掛かる。思わず周囲に視線を巡らせた。何事かとこちらを見ていた近くの席の人達と目が合うや、すぐに逸らされた。ちなみに、話の邪魔をしないようにと気を利かせた御影さんがどこか離れた所から見守っているらしいのだけど、少なくともオレからは見つけられなかった。どこに居るんだ、あの人。
ミドリさんは衝撃冷めやらぬといったていで、茫然と呟いた。
「いや、驚いた。あの冷血自己中悪魔が、人を愛する心を持ってたなんて……」
「そこまで言う?」
「でも、そうだな。確かにアイツ、体育祭の時から既に君に骨抜きにされてた感あったよな」
「えっ!? そ、そう?」
確かに、最近素直というか、優しくなってたけど……まさか、棗先輩がオレのことを、なんて、思いもしなかった。
借り物競争で〝好きな人〟のお題でその気も無いのに先輩を連れ出したのって、今思えばオレ、大分無神経だったんじゃないか。御影さんとの人工呼吸? の件もそうだけど、知らない間にオレ、先輩のこといっぱい傷付けてたんじゃないか?
そう思ったら、胸がつきんと痛んだ。
「で、どう返事をすればいいのか迷っている、と」
「うーん……返事はまだいいって言われたから、ちゃんとじっくり考えようと思うんだけど。その前に、これからどんな顔をして会えばいいのかっていう……」
「そんなの、普通にしてればいいだろ。変に避けたりしたら傷付くだろうし。まぁ、アイツがフラれてざまぁな所は見てみたい気もするけど」
「……相変わらず、棗先輩に手厳しいな」
「当然だろ、僕はまだアイツを許した訳じゃないし。ていうか、恋愛経験はおろかまともな人間関係を築けたこともない僕に、そんな相談をするなんて、端から間違ってるだろ」
自虐的な笑いを漏らして、ミドリさんは肩を竦めてみせた。どう返すべきか困って、オレは苦笑した。
オレだって、恋愛経験なんて無い。クラスメイトに憧れというか、うっすら淡い恋心のようなものを抱いたことはあるものの、いつも相手には「いい人ね」と言われて終わり、恋愛対象として見られた試しがないのだ。
そして、それだって異性が相手だった。同性から恋愛的な好意を寄せられたことなんて、当然これが初めてだ。けど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。棗先輩が女の子みたいに可愛らしい容姿をしているせいもあるかもしれないけれど、キスに関しても別段嫌悪感は無かった。
――キス。
またあの感触を思い出して、オレは口元を押さえた。動揺で鼓動が跳ねる。
そうだ。棗先輩ともキス、したんだよな……。いや、御影さんとのアレは結局普通に人工呼吸だったみたいだけど。でも、唇を重ねるという点では同じだし……オレのファーストキスって、どっちなんだ!?
「あれ? 姫川じゃん」
不意に、聞き慣れない声がした。
見ると、通路から同い年くらいの三人組男子がこちらに向かってくるところだった。紺色のブレザー……これって、確かミドリさんと同じ学校の……。
ハッとして、ミドリさんの方を窺った。その表情に、更に息を呑む。血の気の失せた、青白い顔。まるで恐ろしいものを目撃したかのように、見開かれた瞳。
「奇遇じゃん。こんな所で何してるんだよ、姫川」
そうだ。メッセージのやり取りで聞いたことがある。ミドリさんのフルネームは、姫川 翠。それを知っている、この人達は……。
ミドリさんをいじめている、学校の人達だ。
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