ハルくんは逃げ出したい。~男子校の姫になったらストーカー護衛からの溺愛が重すぎる!~

夜薙 実寿

文字の大きさ
46 / 101

第45話 二番手コンプレックス

 昔から、何をやっても一番にはなれなかった。

 家では妹が第一。オレはお兄ちゃんだから、ワガママを言ってはいけない。
 学力テストではどんなに頑張っても、いつも二位。秀才は天才には敵わない。
 水泳は早々に一位を取ることを諦めた。背も低くて手足の小さなオレでは、周りの成長からどんどん差をつけられていく一方で……ただ泳ぐのが楽しいから順位は気にしない、なんて自分に嘘を吐いた。
 恋愛面でも、いいなと思った子には大概他に好きな人が居て、図らずも恋のキューピッドに回ったりなんかして、いつも「いい人ね」と言われて終わっていた。

 高校生になって、まさかのお姫様に選ばれたけれど……姫としても、オレは二番手だ。棗先輩のカリスマには敵わない。

 この先もきっとオレは、そんな風に一生を過ごすのだろう。
 何をやっても決して一位は取れないし、誰かの一番にもなれない。
 いいさ、それはそれでそう悪くもない。分相応というものだ。
 ――そうやって誤魔化しても、心の奥底には常に冷ややかな諦観があった。

 だから、きっと嬉しかったんだ。

「貴方は私にとって、奈落に射す一筋の光なのです。貴方の存在が、私の生きる理由。貴方の幸せが、私の幸せ」

 そう言ってくれた、御影さんの言葉が。
 こんなオレでも、一番に想ってくれる人が居たんだって――初めて、知った。


   ◆◇◆


「ハルくん、お疲れ~! 迎えに来たよ」
「棗先輩」

 帰りのSHRが終わったタイミングで、棗先輩がオレのクラスに顔を出した。どうやら、待っていてくれたらしい。ユーリ姫様のご登場にクラスメイト達がそわそわと浮足立つ。

「ユーリ姫だ」
「ハル姫だけじゃなくユーリ姫まで毎日お目に掛かれるなんて、俺マジこのクラスで良かった……」
「でもユーリ姫、前みたいに休み時間の度に来ることはなくなったよな。もっと来てくれてもいいのに」

 周囲で囁き交わされる会話を拾って、棗先輩が割り込んだ。

「何言ってんの? 毎回だとハルくんの負担になっちゃうでしょ。ハルくんに迷惑を掛けるようなことはやめにしたの!」
「ゆ、ユーリ姫!」
「それって、愛じゃん!」
「尊……姫百合カップル尊過ぎる」
「ありがとうございます……っ!」
「うわっ! 田中が天に召されたぞ!」

 ワイワイと盛り上がる彼らを尻目に、教室を出た。上機嫌な棗先輩による腕組み姿勢は相変わらずだ。
 告白の正式な返事は納涼祭でということになったが、周囲への無用な混乱を避ける為、とりあえず偽恋人契約はそのままになっている。
 それでも、最初の頃のような破天荒なアピールはもう無い。宣言通り、棗先輩は彼なりにきちんとオレを気遣ってくれるようになっていた。それが嬉しくもあれど、何だかこそばゆくて落ち着かなかったり……。

「今日は納涼祭での衣装決めだっけ。楽しみだなぁ、ハルくんの浴衣姿♪」
「うっ……あんまり期待しないで下さい。棗先輩の方が絶対似合うんだから」
「いや、期待せずにはいられないでしょ。好きな人の浴衣姿だもん。大丈夫だよ、どんな出来栄えになったとしても、ハルくんってだけでボクには格別なんだから」

 熱を孕んだ眼差しで見つめられ、心臓が跳ね上がる。

「……っまた、そんな……」

 直視出来なくて、顔を背けた。好きバレしてからの棗先輩は、前よりも素直で甘くて、困る。
 思わず、後ろを歩く御影さんを横目で確認してしまう。そのくせ、目が合うと慌てて逸らした。御影さんの反応が気になるのに、知りたくない。この所オレは、そんな相反した気持ちに見舞われていた。

 ちゃんと棗先輩のことを考えるって決めたのに、また余所見をしてしまった自分が嫌になる。
 何でこんなに御影さんを気にしているのか自分でもさっぱり分からないけれど、ともかく先輩との偽恋人関係がこのまま本物になるか否かは、二か月後のオレの返答に掛かっている。
 それに、納涼祭では他にも成し遂げたい目標がある訳で……改めて、気をしっかり引き締めなくては。

 己が頬を軽く両手で叩いて気合を入れ直すと、オレは目的地である衣装室の扉をノックした。
 まずは、その目標に向けて出来ることから行動を開始する。

 「納涼祭に、ミドリちゃんが姫としてゲスト参加? あら、素敵ね。そうしましょう!」

 あまりにもあっさりと蝶野先輩が提案を受け入れたものだから、オレは面食らった。

「いいんですか!?」
「いいんじゃない? 元々今年は姫が一人少ないんだし。体育祭でもお客さんとして来てたミドリちゃんに、一緒に女装ダンスして欲しかったって在学生の声もあったみたいだし」

 やった! これで、〝ミドリさんの同級生を骨抜き見返し大作戦〟が無事決行出来るぞ!

「ハルくん、何かまた余計なお節介焼こうとしてるでしょ。……まぁ、ハルくんらしくていいけど」

 ぎくり。棗先輩は鋭い。
 蝶野先輩が己の顎を擦りながら唸った。

「ただ、そうなるとミドリちゃんの分の衣装も考えなくちゃね。ユリハルコンビはこれからも天使と悪魔モチーフでいこうって決めてたから、今回の浴衣デザインにも取り入れてるんだけど、そこにもう一人増やすとなると……やっぱり妖精かしら? でも、ティンカーベルみたいなトンボの羽よりも、蝶々の方が美しいわよね。ミドリちゃんは和風美人だし、蝶々の羽根とか絶対に映えるわ! 色はやっぱり緑で……いや、黒アゲハも良くない?」
「すみません、急にお願いしちゃって……大丈夫そうですか?」

 訊ねるも、蝶野先輩はぶつぶつと独り言を繰り出し続けていて返事がない。代わりに、被服部姫担当補佐の朝倉が応えた。

「大丈夫だと思います。蝶野先輩、こうなるとインスピレーションが無限に湧いて暫く自分の世界ゾーンに入ってしまわれるので……きっと、いいものが出来ますよ。僕も、頑張ってお手伝いしますね!」
「そっか……うん、ありがとう」

 微笑む朝倉に笑み返して、オレはまた何とも複雑な心境になる。
 どうにも御影さんと絡むとモヤモヤしてしまうけど……良い子なんだよなぁ、朝倉。
 此度の話し合いはそこで終了し、改めて後日にミドリさんも交えて衣装案を固めることとなった。
感想 12

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!