ハルくんは逃げ出したい。~男子校の姫になったらストーカー護衛からの溺愛が重すぎる!~

夜薙 実寿

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第50話 休日お忍びデート!?

 隠し扉の先から現れたのは、金髪にサングラスのイカついファッションの男性だった。派手な龍の柄シャツに黒のインナー、ラフなジーンズ。重たいシルバーアクセサリー。一見するとカタギじゃなさそうな不穏な空気を纏ったその人が御影さんだとは、すぐには気付かなかった。

「だ、誰かと思った……」
「驚かせてしまって、すみません」

 そう言いつつも、彼は俺の反応を楽しんでいるようだった。

「ミドリさんの時みたいな眼鏡変装じゃないんですね」
「ええ、あれだと学内の方には私だと分かってしまうでしょうしね。気配を消す分にはいいのですが、今回はハル様と一緒に行動をするので、かえって近寄り難い雰囲気にした方が虫除けになるかと」
「はぁ……」

 でも、何か金髪だと初めて会った頃を思い出すな。庭で倒れてた御影さんを拾って手当てした日。あの時はもっと白に近い金って感じだったけど。
 確かにこれなら雰囲気違い過ぎて、学校の人達にもバレなさそうだ。

「……でも、何でオレまた女装なんですか?」

 己の恰好を今一度見下ろして、困惑を示した。今日はプライベートなお出かけだというのに、オレの服装はフェミニンな水色花柄ワンピースだった。上に白いサマーニットを合わせて、足元は白いスニーカー。いつものふわふわウィッグまでしっかり装着済みで、私服風とはいえ、これだと仕事着と変わりない。
 御影さんに渡されたから、とりあえず着たけど……。

「学校の人達はオレの女装見慣れてるだろうし、これだと変装になってなくないです?」
「そんなことはありません。皆様も陽様がまさかプライベートでまで女装しているとは思わないでしょうから。盲点というやつです」
「なるほど?」
「あと、単純に私が見たかったので。やはりとてもお似合いでいらして、大変お可愛らしいですよ」
「……」

 良い笑顔で言われたけれど、どこまで本気なのかが分からない。
 まぁ、いざという時は妹だと言い張ろう。実際の妹はこういう清楚系着ないけど。

「それで、この後どうするんですか?」

 棗先輩にはオレが寮に居ることを印象付ける為、朝昼の食事は普通に食堂で摂ってある。その後例の本棚にある秘密の隠し扉を使って御影さんとやり取りをしている訳だが、まさか外まで続く秘密の脱出路みたいなものはさすがにないだろう。
 校外なら良いが、学園の敷地内だとこの変装では逆に不審者だと思われて目を引いてしまいそうだ。

「ご心配なく。出入りの業者に話を通してありますので、これから彼らの車に乗り込んで、校外まで連れ出して頂きます。そろそろ到着している頃でしょうから、私達も移動致しましょう」

 おお、何かスパイみたいだ。
 御影さんの指示に従って部屋をこっそりと抜け出し、オレ達は姫寮の裏口まで向かった。正直、この行程が一番ハラハラした。
 その後、業者さんのトラックの荷台にお邪魔して運んでもらい、駅からは電車と徒歩で移動する。目的地は聞かされていないので、オレはただ御影さんについて行った。
 そうして約四十分程で到着したのは、巨大なマンタの像が乗った平たい長方形と、ドーム型の屋根を持つ円柱形の積み木を並べたみたいな白壁の建物。掲げられた看板は――。

「水族館?」

 オレの呟きを拾って、御影さんが頷いてみせた。

「陽様、お好きでしたよね、水族館」

 確かに好きだ。旅行先でもご当地の水族館は必ず巡るようにしている。何なら、中学の時水泳部に入ったのだって、水族館の魚達に魅せられたからだったりする。オレもあんな風に水の中を自由に泳げたなら、さぞや気持ち良いだろうなって。

「何で知って……って、愚問か」

 この人、オレのストーカーだもんな。

「懐かしいな、ここ。小さい頃に来たことあったなぁ」
「都内で交通の便が良いですからね。ですが、今見るとまた新鮮な気持ちで見られるかもしれませんよ」

 早速チケットを購入し、入場する。狭い通路の先、川のせせらぎを思わせる涼やかな水音が聞こえてきた。明るい室内に、大自然を模したアクアテラリウム。その中を悠然と泳ぐ魚達。最初に待ち受けていたのは川魚コーナーだ。

「おぉ……!」

 テンション上がる!

「何だっけ、あれ、アロワナ!? あっ、あっちはピラニアも居る! ます美味そう~」
「陽様、昔キャンプで虹鱒掴み取り体験をしたら、転んで全身びしょ濡れになってしまわれたんですよね」
「何で知って……って愚問か」

 まさか、キャンプ場までついて来てやしないよな?

 暫く進んでいくと、今度は辺りが急激に薄暗くなってくる。
 ライトアップされたいくつもの水槽が左右に立ち並び、奥の開けた空間には、更に巨大な丸い水槽が展開していた。
 水族館といえば、これ! という感じの、珊瑚の海を模した熱帯魚ゾーンだ。色とりどりの魚達が舞い踊る、竜宮城もかくやという華やさに、思わず感嘆の息が漏れる。

「わぁ……!」
「陽様、あちらには海中トンネルを意識した、360度魚が見られる巨大水槽が……」
「マンタが! 頭上を泳いでる! あっ、サメ居た!」
「陽様、あちらにはペンギンやアザラシが……」
「可愛い!」
「陽様、あちらにはクラゲが」
「綺麗!」
「陽様」
「マンボウ!」

 やっぱ、いいな! 水族館!
 御影さんの言う通りだった。結構、どんな展示があったかなんて忘れているもんだ。
 ふと横を見れば、御影さんが温かな微笑を湛えてこちらを見ていた。サングラスを外したその視線があまりにも優しげだったので、オレは怯んだ。

「な、何ですか?」
「いえ、陽様が楽しそうにしていらして、良かったなと」
「そりゃ、楽しいですけど……オレじゃなくて水槽見てくださいよ!」
「ちゃんと見ておりますよ」

 そう言いつつも、やっぱりオレの方をニコニコ見てくる。
 全く、この人は……。
 その時、イルカショーが間もなく開始される旨のアナウンスが館内に流れた。

「あ、御影さん、イルカショーだそうですよ! 折角ですから、オレ達も観に行きましょう!」

 これ幸いと話題を逸らし、御影さんの視線を振り切るようにして、ショーの会場を目指した。
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