ハルくんは逃げ出したい。~男子校の姫になったらストーカー護衛からの溺愛が重すぎる!~

夜薙 実寿

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第51話 ストーカーのストーカー!?

「あー、楽しかった!」

 すっかり水族館を満喫したオレは、浮かれて退館の際にはイルカのぬいぐるみを抱えていた。お土産コーナーのくじ引きで当てたものだが、ちょっとした犬猫サイズくらいあって鞄に入らないのだ。

「良かったですね、陽様。良い品が当たって」
「狙ったのは四等のキーホルダーだったんだけど、まぁ」

 まさか二等が当たるとは……。一等の二メートルのサメぬいよりはマシだが、こんなものを抱えて帰ったら見つかった時の言い訳が大変だ。行き同様に帰りも慎重に行動しなくては。

「でも、今日は誘ってくれてありがとうございました。良い息抜きになりました」

 横を歩く御影さんに、改めて礼を述べる。確かに最近、しゃかりきになり過ぎていた。御影さんのことを変に意識してしまってたもんだから、今日のお出掛けもどうなることかと思ってたけど……存外、普通に楽しんでしまい、いつの間にやら謎の緊張は吹き飛んでいた。そういう意味でも久々に羽根が伸ばせた気がする。
 御影さんは嬉しそうに破顔した。

「勿体ないお言葉でございます。こちらこそ、陽様の貴重な休日にご一緒させて頂き、光栄の至りです。陽様の休息のお役に立てたのならば、何よりでございます」

 全く、一々大袈裟だなぁ。
 面映ゆさを誤魔化すように、話題を変えた。

「この後は、どうしますか?」

 夕食にはさすがに寮に戻っていた方が良いだろう。門限の十九時までにはまだ時間はあるが、そんなに長居も出来ない。

「そうですね。陽様もお疲れでしょうし、そろそろ寮に……と言いたいところですが」

 不意に距離が近付いた。顔のすぐ傍に御影さんの綺麗な顔が寄せられて、息を呑む。突然のことに固まるオレの耳元に唇を寄せて、御影さんは――。

「振り向かずに聞いて下さい。どうやら、私達はけられているようです」

 小声でそう囁いた。

「!?」

 ギョッとして思わず足を止めそうになったが、背に腕を回した御影さんに促されて、また歩き出す。オレも小声で返した。

「つ、尾けられてるって、誰にですか?」

 咄嗟に想像したのは、見知った顔だ。学校の人達が偶然オレ達を見掛けて、こっそり後を尾けてきているんじゃ……。しかし、そうではないらしい。

「見知らぬ男ですね。水族館に居た時からずっと見掛けて気になっていましたが……館外でもとなると、私達を尾けているのは確実でしょう。頻りにこちらを気にしている挙動もありますし」
「なっなんで?」
「分かりません。ですが、おそらく用があるのは陽様ではなく、私ではないかと。ご存知の通り、私はこれまであまり人に褒められるような生き方をしてきませんでしたから……私を恨む者も多いことでしょう。今日の変装を金髪にしたのは間違いだったかもしれません」

 それは、以前の御影さんを彷彿とさせる色だからか。確かにオレも、初対面の時を想起したけど……あの時の御影さんは、酷い怪我をしていた。今、そういうことをする危ない連中が追ってきているのか?

「話を着けて参ります。危険かもしれませんので、陽様はこのまま駅へ向かって下さい」
「えっ、でも……御影さんは」
「私は大丈夫です。向こうも一人のようですし、万が一戦闘になったとしても問題はないでしょう」

 戦闘――物騒な単語に、肝が冷えた。

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
「はい、ご心配には及びません。こう見えて私、強いんですよ」

 オレを安心させる為か、人差し指を口元に添えて不敵な笑みを浮かべてみせる御影さん。
 オレが一緒だとかえって足手纏いにしかならないだろうし、彼の指示に従う他無い。

「分かりました……気を付けて下さい」
「畏まりました。すぐに戻りますので、ご不便をお掛けしてしまいますが、駅で少々お待ちくださいませ」

 そんなやり取りを交わして、御影さんと別れた。ちらりと後目に確認したら、御影さんが柄の悪そうな若い男に声を掛けて、二人でどこかへ向かうのが窺えた。
 ……本当に大丈夫かな。
 不安が押し寄せるが、彼を信じるしかない。とりあえず、オレは言われた通りに駅へ向かうことにして、己の心を宥めた。
 事が起きたのは、御影さんの姿が完全に見えなくなった頃合いだった。

「わっ!」

 どんっ、と突然、通りすがりの男がぶつかって来たかと思いきや、オレが抱えていたイルカのぬいぐるみと鞄を引っ掴み、そのまま駆け去っていく。

「えっ? ちょ、ちょっと!?」

 え、何だコレ、泥棒!? スリ!?

「待て!!」

 迷った後、一拍遅れて慌てて男の後を追った。周囲の人達は何事かとこちらを振り返りはするものの、誰も男を捕まえようとはしない。何が起きたのか、皆よく分かっていないのだ。
 引ったくり犯は結構足が速かった。加えて、オレはスカートでは走りにくく、なかなか追い付けない。不毛な追いかけっこは暫く続き、やがて男は建物と建物の間の狭い路地裏に逃げ込んだ。その先は袋小路で、男の足が止まる。

 ――追い付いた!

 と思った、次の瞬間。バチバチッと何かが爆ぜるような音がして、全身に激しい痛みと衝撃が駆け抜けた。
 引き攣った叫びと共に、その場に倒れ込む。横合いから数人の男が姿を現して、周りを取り囲むのが見えた。その内の一人が手にしているのがスタンガンだと気付いた頃には、オレは薄れゆく意識の波に抗うことも出来ず、重い瞼を閉ざした。
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