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第54話 騒動の果てに!?
仰け反る形で、背後の男の顎に思い切り頭突きを噛ました。幸い、ウィッグの分こちらの衝撃は軽かった。「ぐふっ」とくぐもった声が聞こえ、相手が体勢を崩す。その隙を、御影さんは見逃さなかった。
甲高い衝突音。緩んだ腕からすり抜けるように反動で身を屈めたオレの頭上で、男の手からナイフが弾け飛ぶ。
正直オレには何が起きたのか分からなかったけど、後から聞いたところによると、御影さんが倉庫内に落ちていた石礫を男の手に投げ付けた結果らしい。
直後、瞬速で間合いを詰めた御影さんがその男をハイキックで制圧した。
「陽様!」
男が倒れるのよりも先に、御影さんはオレの安否を確認した。
「お怪我はありませんか!? 何て無茶を……今、縄を解きますからね」
そう言って、付近に落ちていた例のナイフを拾い上げ、素早くオレの手足の縄を切る。
「てめぇっ! 御影!」
残った周りの男達がようやく事態を飲み込んで、一斉に襲いかかってきた。
「陽様、私の後ろへ」
こんな時でも優雅にエスコートするように手を取りオレを立たせて、背に庇いながら、御影さんは半グレ達に対応した。
飛びかかってくる相手の攻撃を軽く躱して拳を突き込み、蹴りを食らわせ、次から次へとちぎっては投げ。たまにオレを狙ってくる奴が居ると、あっさりとそれを阻止して、制裁とばかりに他よりもキツイ反撃をお見舞いする。
まさに無双だった。多勢に無勢のはずなのに、お構い無しだ。
オレは邪魔にならないようにするので精一杯だった。少しずつ後退して壁際に寄って、背後の安全を確保する。その内に半グレ達は御影さんだけに注目して、オレの存在を忘れたように振舞った。
それ幸いと、オレは廃倉庫内を見回した。オレに出来ることは、何かないか?
すると、離れた床の上、無造作に置かれたあるものが目に飛び込んできた。この殺伐としたシーンにはえらく場違いに愛らしいフォルムをした、イルカのぬいぐるみ。それと、オレのバッグ!
どうやら、捨てられたりはしてなかったらしい。 こっそりと、それを取りに行く。……よし、誰もオレの動向を気にしていない。
取り戻したバッグの中身を確認すると、財布などの貴重品も盗られてはいないようだった。さて、スマホは……あった!
「ストップ!」
高らかにスマホを掲げて、オレは叫んだ。
虚を衝かれたように、廃倉庫内の全員がその場で動きを止めた。注目を浴びて怯みそうになる心を励まして、オレは続けた。
「通報した! じきにここに警察が来る!」
「なんだって!?」
ハッタリだ。何せお忍びで出てきたくらいだから、出来ればこちらとしてもあまり大事にはしたくない。だけど、彼らの反応如何によっては、本当に通報せざるを得ない。さあ、どう出る?
ざわり、半グレ達の間で動揺が広がった。
「やべぇ……」
「くそっ、アイツ!」
「ずらかるぞ!」
「ちくしょう、覚えてろよ、御影!」
お手本のような負け犬の遠吠えを残して、彼らは散り散りに逃走を始めた。良かった。オレの言葉を真に受けてくれたみたいだ。色々とヤバい奴らではあったけど、最後に倒れた仲間をきちんと連れていったのだけは評価したい。
忽ち伽藍堂になった廃倉庫内は、暮れなずむ夕陽の朱に照らされて、どこか物寂しい雰囲気を纏っていた。
――終わった。もう大丈夫だ。
「陽様!」
へなへなと、その場にへたり込みそうになったオレを、御影さんが支えてくれた。
「大丈夫ですか!?」
「ん、平気。ホッとしたら、何か力が抜けて……」
今更のように身体が小刻みに震え出した。さっきまではアドレナリンの影響か、気丈に振る舞えていたのに……。
首元に突きつけられたどこか現実味の無いナイフの感触よりも、押し倒された床の冷たさの方が生々しく残っていた。思い出すのは、水泳部でのあの嫌な体験。――性的な目で見られ、穢されそうになった嫌悪感と恐怖心。
自分は男なのに、また何も出来なかった……。情けなさに、苦笑が漏れた。
「申し訳ございません。陽様に、怖い想いをさせてしまいました」
頭上から降ってきた御影さんの声は、静かだが酷く張り詰めていた。顔を上げて見ると、彼は今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「私のせいです。私がもっと、気を付けていれば……もっと早く、彼らの狙いに気付けていれば……」
尾行は罠だった。御影さんを誘い出す為の囮で、奴らの本当の狙いは、一人になったオレを捕まえて人質にすることだったのだ。
「何があっても、私は陽様のお傍を離れるべきではなかったのです。陽様を私事に巻き込むことを嫌い、一人で解決しようと先走った結果がこれです。お守りすべき主を自らの因果で危険に晒すなど……私は、護衛人失格です」
「解雇してください」――彼の告げた言葉の意味を、オレはすぐには理解出来なかった。
甲高い衝突音。緩んだ腕からすり抜けるように反動で身を屈めたオレの頭上で、男の手からナイフが弾け飛ぶ。
正直オレには何が起きたのか分からなかったけど、後から聞いたところによると、御影さんが倉庫内に落ちていた石礫を男の手に投げ付けた結果らしい。
直後、瞬速で間合いを詰めた御影さんがその男をハイキックで制圧した。
「陽様!」
男が倒れるのよりも先に、御影さんはオレの安否を確認した。
「お怪我はありませんか!? 何て無茶を……今、縄を解きますからね」
そう言って、付近に落ちていた例のナイフを拾い上げ、素早くオレの手足の縄を切る。
「てめぇっ! 御影!」
残った周りの男達がようやく事態を飲み込んで、一斉に襲いかかってきた。
「陽様、私の後ろへ」
こんな時でも優雅にエスコートするように手を取りオレを立たせて、背に庇いながら、御影さんは半グレ達に対応した。
飛びかかってくる相手の攻撃を軽く躱して拳を突き込み、蹴りを食らわせ、次から次へとちぎっては投げ。たまにオレを狙ってくる奴が居ると、あっさりとそれを阻止して、制裁とばかりに他よりもキツイ反撃をお見舞いする。
まさに無双だった。多勢に無勢のはずなのに、お構い無しだ。
オレは邪魔にならないようにするので精一杯だった。少しずつ後退して壁際に寄って、背後の安全を確保する。その内に半グレ達は御影さんだけに注目して、オレの存在を忘れたように振舞った。
それ幸いと、オレは廃倉庫内を見回した。オレに出来ることは、何かないか?
すると、離れた床の上、無造作に置かれたあるものが目に飛び込んできた。この殺伐としたシーンにはえらく場違いに愛らしいフォルムをした、イルカのぬいぐるみ。それと、オレのバッグ!
どうやら、捨てられたりはしてなかったらしい。 こっそりと、それを取りに行く。……よし、誰もオレの動向を気にしていない。
取り戻したバッグの中身を確認すると、財布などの貴重品も盗られてはいないようだった。さて、スマホは……あった!
「ストップ!」
高らかにスマホを掲げて、オレは叫んだ。
虚を衝かれたように、廃倉庫内の全員がその場で動きを止めた。注目を浴びて怯みそうになる心を励まして、オレは続けた。
「通報した! じきにここに警察が来る!」
「なんだって!?」
ハッタリだ。何せお忍びで出てきたくらいだから、出来ればこちらとしてもあまり大事にはしたくない。だけど、彼らの反応如何によっては、本当に通報せざるを得ない。さあ、どう出る?
ざわり、半グレ達の間で動揺が広がった。
「やべぇ……」
「くそっ、アイツ!」
「ずらかるぞ!」
「ちくしょう、覚えてろよ、御影!」
お手本のような負け犬の遠吠えを残して、彼らは散り散りに逃走を始めた。良かった。オレの言葉を真に受けてくれたみたいだ。色々とヤバい奴らではあったけど、最後に倒れた仲間をきちんと連れていったのだけは評価したい。
忽ち伽藍堂になった廃倉庫内は、暮れなずむ夕陽の朱に照らされて、どこか物寂しい雰囲気を纏っていた。
――終わった。もう大丈夫だ。
「陽様!」
へなへなと、その場にへたり込みそうになったオレを、御影さんが支えてくれた。
「大丈夫ですか!?」
「ん、平気。ホッとしたら、何か力が抜けて……」
今更のように身体が小刻みに震え出した。さっきまではアドレナリンの影響か、気丈に振る舞えていたのに……。
首元に突きつけられたどこか現実味の無いナイフの感触よりも、押し倒された床の冷たさの方が生々しく残っていた。思い出すのは、水泳部でのあの嫌な体験。――性的な目で見られ、穢されそうになった嫌悪感と恐怖心。
自分は男なのに、また何も出来なかった……。情けなさに、苦笑が漏れた。
「申し訳ございません。陽様に、怖い想いをさせてしまいました」
頭上から降ってきた御影さんの声は、静かだが酷く張り詰めていた。顔を上げて見ると、彼は今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「私のせいです。私がもっと、気を付けていれば……もっと早く、彼らの狙いに気付けていれば……」
尾行は罠だった。御影さんを誘い出す為の囮で、奴らの本当の狙いは、一人になったオレを捕まえて人質にすることだったのだ。
「何があっても、私は陽様のお傍を離れるべきではなかったのです。陽様を私事に巻き込むことを嫌い、一人で解決しようと先走った結果がこれです。お守りすべき主を自らの因果で危険に晒すなど……私は、護衛人失格です」
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