ハルくんは逃げ出したい。~男子校の姫になったらストーカー護衛からの溺愛が重すぎる!~

夜薙 実寿

文字の大きさ
67 / 101

第65話 短冊に書けなかった願い事

「陽様、棗様は何と?」

 再度の問いかけで、ハッとした。
 いけない、御影さんに不審に思われてしまう。

「え、えっと……何か、二人とも用事が出来たから先に帰ったって」
「おや、そうでしたか。陽様はこの後、如何なさいますか? もし、お疲れのようでしたら……」
「ぜ、全然! 大丈夫です!」

 思わず力いっぱい答えると、御影さんはキョトンとした後に、クスクスと微笑ましげに笑った。

「畏まりました。それでは、陽様がご満足なさるまで、今宵は納涼祭を楽しみましょう」
「は、はい……」

 うぅ……何か、めちゃくちゃ祭りで浮かれてる子供みたいじゃんか! 恥ずかしい。
 
「まずは、お食事になさいますか? 棗様から託されたたこ焼きもございますよ」
「あ、そうですね! 食べましょう!」

 御影さんの提案に、ホッとして乗る。
 夏祭りデートとか言われたって、もうほとんどの屋台は見て回っちゃったし、この後一体何をすればいいのかと悩んでいたところだった。
 ていうか、告白なんてしないって! 棗先輩が変なこと言うから、また変に意識しちゃうじゃん!?
 
 ベンチに座って、渡された焼きそばに割箸を付ける。ふわりと立ち昇るソースの香が何とも食欲をそそり、一口含むとすぐに懐かしいような気持ちに包まれた。

「美味しい……」
「それは、ようございました」

 漏らした感嘆に、御影さんが返した。

「ハッ、ていうか御影さん、何で立ったままなんですか!? 一緒に食べましょうよ!」
「ですが、私は陽様の護衛人ですので、主と食事を共にするなど……」
「何言ってるんですか、祭りの日くらい! 無礼講ですよ!」

 さあ、座って! と、ベンチの隣をぺしぺし叩いて促し、半ば強引に御影さんを座らせる。恐縮しっぱなしの御影さんが何だか新鮮で、オレは少し楽しくなってきてしまった。

「ほら、こういうのは一緒に食べた方が美味しいでしょう!?」
「確かに……とても美味ですね」
「姫寮の一流シェフが作った食事も勿論美味しいんだけど、こういう屋台で買ったパサパサの安い焼きそばとかたこ焼きも、また違った良さがあるよな。その時その時で初めて食べる味の筈なのに、何でか懐かしいというか……風情があるというか」
「ふふっ、そうですね」

 御影さんが目を細めて笑う。いつもの凛とした表情とも違う無邪気な笑顔に、不意打ちでキュンとしてしまう。
 こうして隣に座って一緒に食事をしていると、物理的にも心理的にも何だか距離が近くなったように感じる。
 もし、御影さんと同年代で対等な関係性だったなら、こんな感じだったのかもなって、思ったり。
 そんな風に何の障壁も無かったなら……今頃本当に告白とか、してたんだろうか。

「あ、陽様、お口元に青のりが」
「え?」

 ぼんやり考え事をしていると御影さんに声を掛けられた。反射的に、割箸を持ったまま手の甲で口元を拭う。

「いえ、そちら側ではなく……失礼致します」

 不意に、御影さんの綺麗な顔が目前に迫り、心臓が破裂しそうに驚いた。白い手袋の指先が、オレの唇の横を優しく擦る。途端、ぞくりとした衝動が背骨を駆け抜けた。真剣な表情、夜と同じ色の紫水晶アメジストの瞳が、赤くなったオレを映し出す。
 やがて、それは熱と共にすぐに離れていった。

「取れましたよ」
「あ、ああありがとうございます!」

 うぉお落ち着け、オレ! こんな、古のラブコメとかでありそうな如何にもなシチュエーションで、今更こんな動揺してどうする!?
 こんなんじゃ、ますます告白なんて出来やしないだろ!? ……いや、だからしないけど!

 パニックでのぼせかけたオレを冷やすように、風が一陣、強く吹いた。次いでツッコミよろしく、顔面にぺしりと何か平たいものが張り付く。

「うわっ!? 何だ!?」
「陽様! 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……」
 
 隣で慌てる御影さんを宥めつつ、指先でそれを抓んで剥がす。パステルブル―の細長い紙片。そこに書かれた文字。――今年こそ、レギュラーになれますように?

「これ、短冊だ」

 納涼祭は遅めの七夕祭りも兼ねているので、在学生には予め短冊が配られている。願いを書いたら各々場内に飾られた好きな笹に吊るすことになっているのだが、その内の一つが風に流されて、どこかから飛んできてしまったらしい。

「おや、こんな所にまで」
「大変だ! 後で笹に吊るし直しに行きましょう。このままだと、この人の願いが叶わなくなっちゃう」
「畏まりました。陽様はお優しいですね」

 そう言って、微笑わらう御影さん。その視線があまりにも優しくて、何だかまた落ち着かなくなってしまう。

「いや、だって……普通じゃん?」

 目を逸らして、言い訳じみた言葉を零す。以後何も言えなくなってしまったオレをフォローするように、彼は話題を変えた。
 
「陽様も短冊を書かれていましたよね。差し支えなければ、なんと書かれたのかお聞きしても?」
「んっと……何を願ったらいいのか分からなかったから、"皆の願いが叶いますように"って」

 本当は、願い事が沢山あり過ぎて、決められなかっただけだ。
 家族が健康でありますように。この先の学園生活が全部上手くいきますように。ミドリさんの計画が上手くいきますように。(これは叶った!)棗先輩が幸せになりますように。……それから。
 ちらりと、隣の彼を横目で窺う。
 
 ――御影さんと、ずっと一緒に居られますように。
 
 当の彼はオレの心中などいざ知らず、「陽様らしいですね」と、感心しきりに頷いている。
 この人が思っているよりも、オレはずっと欲張りだ。
 
 短冊に書けなかった願い事を胸中に並べては、己の浅ましさに苦笑した。
 オレがこんなことを思ってるって知ったら、御影さんはどう感じるんだろう。
 もしも嫌われたりしたら……と怖くなって、やっぱり伝えない方がいいなと思った。

 温い夏の風が、香ばしいソースの香りをどこかへと運んでいった。
感想 12

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!