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第71話 好きでもないくせに
「で、本当は何でここに居るんですか? 有り得ないでしょう、こんな偶然」
周囲に人目が無くなったのを確認してから、オレは低い声で訊ねた。
「それは……」
御影さんは笑顔で口を開いたが、オレが不信の目を向けると、決まり悪げに言い淀んだ。誤魔化しが通用しないものと悟ってか、表情を改めて白状する。
「……申し訳ございません。陽様を追って参りました」
やっぱりか。
「どうやってオレの居場所を知ったんですか?」
「……スマホのGPSで」
「GPS!?」
いつの間にそんなものを!?
「以前、陽様が暴漢に連れ去られる事態を招いてしまったので、もう二度とあのようなことがないようにと」
「ああ、あの後か。それなら、何でオレに相談してくれないんですか!?」
「嫌がられるかと思いまして」
「そりゃ良い気はしませんけど! 黙って勝手にされる方がよっぽど嫌ですよ!」
「申し訳ございません」
悄然と肩を落とす御影さん。本当に反省しているのか? 溜息が零れる。
「で、GPSでオレがいつもと違う場所に居ることが分かったから、付いて来た、と」
「はい。いつもはご自宅にいらしたのに、急な遠出で心配になりまして。どうやら何らかの事情で妹御として就労なさっていることは分かりましたし、とりあえずの危険性は無しということで顔を出すつもりはなかったのですが……つい」
つい、て。
「ていうか、そういうストーキング行為するくらいなら表立って会いに来てくれって、オレ言いましたよね!? 何なんですか!? 夏休みに入ってからこれまで、全く連絡の一つもくれなかったじゃないですか!」
「それは……護衛人の分際で、こちらから主に連絡をしても良いものか迷いまして」
はぁあ!?
「良いに決まってるでしょう! 何で勝手にGPS付けるのは抵抗なくて、連絡するのは躊躇うんですか!? 気にするところ違うでしょう!?」
「も、申し訳ございません」
「全く……オレがどれだけっ」
どれだけ寂しかったと思ってるんだ、なんて口走りそうになって、言葉を呑んだ。
気まずいからと自分から連絡しなかったオレにも非はある訳で、こんなのただの八つ当たりだろう。分かってはいるのに、無性にイライラする。
「大体、何ですか、さっきの態度は! 東雲さんに失礼でしょう!? 折角仲良くなれそうだったのに、邪魔しないでくださいよ!」
すると、御影さんはギョッとしたような表情を見せた。
「仲良く……!? 陽様は、あの方と親密な関係を望んでいらっしゃるのですか?」
「そりゃ、同僚ですし」
え、何だその反応。オレ、何か間違ったこと言ったか?
「ですが、あの方は危険です」
「危険って? 東雲さん、確かに見た目は怖そうだけど、良い人だよ」
「そうではなく……陽様に不埒な想いを抱く可能性があります」
「はぁ!?」
「陽様はただでさえ愛らしいのに、その上女性だと思わせてしまっては相手にとって何の障壁も無いことになりますし……危険極まりないです! 恋に落ちてしまいます!」
「何言ってんだよ! それこそ有り得ないよ!」
「いいえ、大いに有り得ます!」
『有り得ません』――かつて、そう言った御影さんの言葉が脳裏を過ぎる。
『陽様が私を別の意味で好きだなんて、有り得ません』
――決めつけられて、切り捨てられた、オレの想い。
「っ仮にそうだとしても! 御影さんには関係ないだろ!? 何なんだよ! オレのこと好きでもないくせに! そういうヤキモチみたいな言動、紛らわしいんだよ!」
カッとなって、叫んだ。次の瞬間、抱き寄せられた。
「……好きでもない?」
熱くて、力強い、御影さんの腕の中。制汗剤の、スッとした香り。細身なのにしっかりと筋肉の付いた胸。とく、とく――鼓動が聴こえる程のゼロ距離。
頭の上から、声がする。
「俺が、どれだけ……っ」
苦しげで、狂おしげな、切羽詰まったような声音。
胸の奥を、ギュッと掴まれるような――。
「み、かげ、さん?」
息を飲むような気配。直後、唐突に熱が遠ざかる。
引き剥がされた体温。逸らされた彼の表情は、覆われた手で隠されて見えない。
「申し訳ございません……大変、失礼致しました」
感情を抑えた、無機質な声。そのまま踵を返して、御影さんは駆け出した。
速やかな逃走。唖然と硬直したままのオレは、小さくなっていくその背に声を掛けることすら出来なかった。
頭の中は真っ白で、浮かんだのは、疑問符。
――え?
今一体、何が起きたんだ?
周囲に人目が無くなったのを確認してから、オレは低い声で訊ねた。
「それは……」
御影さんは笑顔で口を開いたが、オレが不信の目を向けると、決まり悪げに言い淀んだ。誤魔化しが通用しないものと悟ってか、表情を改めて白状する。
「……申し訳ございません。陽様を追って参りました」
やっぱりか。
「どうやってオレの居場所を知ったんですか?」
「……スマホのGPSで」
「GPS!?」
いつの間にそんなものを!?
「以前、陽様が暴漢に連れ去られる事態を招いてしまったので、もう二度とあのようなことがないようにと」
「ああ、あの後か。それなら、何でオレに相談してくれないんですか!?」
「嫌がられるかと思いまして」
「そりゃ良い気はしませんけど! 黙って勝手にされる方がよっぽど嫌ですよ!」
「申し訳ございません」
悄然と肩を落とす御影さん。本当に反省しているのか? 溜息が零れる。
「で、GPSでオレがいつもと違う場所に居ることが分かったから、付いて来た、と」
「はい。いつもはご自宅にいらしたのに、急な遠出で心配になりまして。どうやら何らかの事情で妹御として就労なさっていることは分かりましたし、とりあえずの危険性は無しということで顔を出すつもりはなかったのですが……つい」
つい、て。
「ていうか、そういうストーキング行為するくらいなら表立って会いに来てくれって、オレ言いましたよね!? 何なんですか!? 夏休みに入ってからこれまで、全く連絡の一つもくれなかったじゃないですか!」
「それは……護衛人の分際で、こちらから主に連絡をしても良いものか迷いまして」
はぁあ!?
「良いに決まってるでしょう! 何で勝手にGPS付けるのは抵抗なくて、連絡するのは躊躇うんですか!? 気にするところ違うでしょう!?」
「も、申し訳ございません」
「全く……オレがどれだけっ」
どれだけ寂しかったと思ってるんだ、なんて口走りそうになって、言葉を呑んだ。
気まずいからと自分から連絡しなかったオレにも非はある訳で、こんなのただの八つ当たりだろう。分かってはいるのに、無性にイライラする。
「大体、何ですか、さっきの態度は! 東雲さんに失礼でしょう!? 折角仲良くなれそうだったのに、邪魔しないでくださいよ!」
すると、御影さんはギョッとしたような表情を見せた。
「仲良く……!? 陽様は、あの方と親密な関係を望んでいらっしゃるのですか?」
「そりゃ、同僚ですし」
え、何だその反応。オレ、何か間違ったこと言ったか?
「ですが、あの方は危険です」
「危険って? 東雲さん、確かに見た目は怖そうだけど、良い人だよ」
「そうではなく……陽様に不埒な想いを抱く可能性があります」
「はぁ!?」
「陽様はただでさえ愛らしいのに、その上女性だと思わせてしまっては相手にとって何の障壁も無いことになりますし……危険極まりないです! 恋に落ちてしまいます!」
「何言ってんだよ! それこそ有り得ないよ!」
「いいえ、大いに有り得ます!」
『有り得ません』――かつて、そう言った御影さんの言葉が脳裏を過ぎる。
『陽様が私を別の意味で好きだなんて、有り得ません』
――決めつけられて、切り捨てられた、オレの想い。
「っ仮にそうだとしても! 御影さんには関係ないだろ!? 何なんだよ! オレのこと好きでもないくせに! そういうヤキモチみたいな言動、紛らわしいんだよ!」
カッとなって、叫んだ。次の瞬間、抱き寄せられた。
「……好きでもない?」
熱くて、力強い、御影さんの腕の中。制汗剤の、スッとした香り。細身なのにしっかりと筋肉の付いた胸。とく、とく――鼓動が聴こえる程のゼロ距離。
頭の上から、声がする。
「俺が、どれだけ……っ」
苦しげで、狂おしげな、切羽詰まったような声音。
胸の奥を、ギュッと掴まれるような――。
「み、かげ、さん?」
息を飲むような気配。直後、唐突に熱が遠ざかる。
引き剥がされた体温。逸らされた彼の表情は、覆われた手で隠されて見えない。
「申し訳ございません……大変、失礼致しました」
感情を抑えた、無機質な声。そのまま踵を返して、御影さんは駆け出した。
速やかな逃走。唖然と硬直したままのオレは、小さくなっていくその背に声を掛けることすら出来なかった。
頭の中は真っ白で、浮かんだのは、疑問符。
――え?
今一体、何が起きたんだ?
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