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10.回避と非回避に戸惑い諦る
しおりを挟む茶屋で逢ってからというもの沖田と次の日から続けて茶屋に顔を出すようになった。当初周りの町人等は戸惑いを露に沖田が壬生浪士組と分かると茶屋に訪れる客足が遠のいていた。けれど結花は変わらず接客に勤しみ当然沖田との交流が増えた。町人等は結花を心配し声をかけてくれるが口お揃え沖田を誹るが翻弄されることはなく変わらずお客さんとしてもてなす。茶屋に訪れる町人等は結花と沖田の茶飲み話姿に噂での印象とかけ離れた穏やかな沖田を前に町人等も徐々沖田が訪れても元の賑わいを取り戻した。
そう、噂は噂でしかない。幕末の京都を護る役目を担う新選組は対抗するには刀抜かなければならなく結果的に人斬り集団と罵られようとも。彼等も好んで殺したい訳ではない。けれど周りは不道徳を嫌悪し悪い噂ばかり膨れありもしないことが行き交っていては町人等の態度は仕方がなかっただろう。結花には知ったことではない。結花なりに町人等の噂を耳を傾けるがそれでも歴史のその先を心得る者としての知識を信じたい。例え実際と異なり理想とかけ離れていても実際の彼等を知るのは歴女の本望だ。だが、ここまで親しくしたい訳ではない────。
「お春ちゃん。そろそろ休憩でしょ。こっちに来てお団子一緒に食べよ。」
「はぁ。遠慮しときます。まだ仕事中ですので。」
一線を引き沖田に淡々と対応する結花は沖田の誘いを毎回断る。
─私はただ彼等新選組をひっそり見守っていたいだけなのに····それなのに々益々親しくなってしまっては···─
結花は沖田と距離を置取りたい。彼が嫌いという訳ではないのだが、近くにいては動きにくくなってしまう。それに結花はこの時代の者ではない。体はお春ちゃんであって幽体の結花はいつ元に戻るか定かではない今結花の行動ひとつでお春ちゃんの築いた繋がりを壊すことは避けたいのもあるが、もしも彼等と接点を持ってしまえば歴史が歪んでしまう可能性ある。けれども歴史の起点とも言える場所を陰ながら観たいという好奇心までは抑えられないぐらい彼等に憧れている結花は密かな願望の為沖田から離れなければならない。
沖田はそんな結花の思いを露知らずに自由気ままに訪れては結花に絡む。
「またお春ちゃんは軽く流しますね····。僕嫌われるようなことしましたか?」
「いえ····嫌らってはいないです。」
沖田の落ち込みが子犬のように見まごう程に愛くるしく思え思わず口を滑らす。
「そですよね。お春ちゃんは噂信じてないみたいだったので僕を怖がらずに話してくれますから。でも他の方より距離を置かれてるように感じてしまうもので。」
やはり並の武士と違うのか結花の振る舞いに敏感に気づかれしまう。されどこういう時は───。
「私は何方でも変わらずもてなすだけですよ。沖田さんの勘違いでは。····ふふふっっ。」
笑顔を貼り付け誤魔化し白を切る結花にこれまた沖田も笑顔で探る眼差しを向けはぐらかし合いを繰り広げていた。結花は沖田だけに構っていられずお茶くみをして各机を回る。
「お春ちゃん注文ええかい?」
近頃頻繁にみえる若い男に呼び止められ注文を受けるため向かうと、やたら結花に喋ったり触ったりと絡むというより注文が結花自身であるという厄介な客だ。沖田同様愛想笑いを繕い鬱陶しい男を払い除けていたもののこの男、執拗く結花に迫って来る。隙を取られ腕を掴まれてしまい一段と距離を近づけられしまう。そろそろ限界だ。注文もしないでただ喋るだけなら他所に行ってくれと思いこの男に文句のひとつでも言わずにおれず文句を言おうとしたが····。
「好きなもん頼んで良えさかい、お春ちゃんこれからちぃっと付き合ってくれへん。せやへんと手を離さへんよ、やから良えやろ。」
「いや──。」
「いてぇっっっ、誰····」
「えっ奢って下さるんですか。じゃ僕が付き合いますよ。···とゆうことでお春ちゃんみたらし団子五十本お願いします。」
近頃神経を使い苛立っているせいか沖田が傍に来たことすら気づけなかった。だが、沖田が執拗いこの男との間に割って入り腕を掴み除けたことで、怯んだ隙に結花を一歩後ろに遠ざけ庇い立つ。瞬く間の一瞬に何が起きたか混乱していたがそれでも、極端に冷たく接していた沖田が助けてくれたことは分かった。
「うっっ····あんた誰や。お春ちゃんとどういう関係なんや。」
「これは失礼。僕、沖田総司と言います。此処の常連客でして、それに町人の治安を護るは僕等の役目なので。」
「はっ、ただの客か···よ····あんた壬生の──。」
傍から見て沖田は優男で軽視していたらしいが壬生浪士組の者と知るやいなや瞬時に身をこばらせていた。口早に言い募り血の気の引いた顔色でふらつき柱に脚を引っ掛け躓きながらも慌て足早に店を後にしていった厄介な男がこれで懲りて暫くは来ないだろうと見送りながら思った。
「沖田さん、すいませんでした。助けていただき助かり──」
「うーん、そこはありがとうございましたで良いですよ。」
「···あっあり、がとうございました。それで、御礼なのですが此処のお代を払わせて貰いたいのですが。」
流石に助けて貰って御礼をしないで返すことは日本人として義に反する。此処はお代を結花が払らうことで手を打って貰おうと沖田に持ちかけた。
「そうですね····御礼ならお代ではなくお春ちゃんと帰る方が嬉しいのですがどうです。あと僕のことは総司と呼んで下さい。」
「いえ、あの沖田さん···」
「総司」
「お、おき、たさ···」
「そ·う·じ」
頑として名前を呼ばないと返事をしないといった様に微笑みと共に圧をかけてくる。
これ以上親しくしてはらないとは思うも一向に話が進まない。
「····そ、総司···さん」
「えー、さん付もいらない」
「総司···」
結花が折れた。笑顔でぐいぐい押しが強く断る言葉が言い出せない。
「でも···まだ仕事中なのでお待ち頂けますか。」
「いいや、もう今日は上がって貰ってかまへんよ。それに先程の男の様子だとわて等も心配してたやから沖田はんの申し出はありがたいわ。」
「紗枝さんすいません。ありがとうございます。今日はこれで失礼します。」
いつの間に結花の傍に来ていた紗枝が気おきかせ結花の背を押し帰りを及ぼした。今日はお店に迷惑かてしまい申し訳なくなりながらも御礼を言い店を後にした。帰り際ちらりと店を振り返ると紗枝は心配そうな顔で見送ってくれていて、奥の厨房から覗く様に顔を覗かせていて影で暗く表情は分からないが心配かけてしまい申し訳ない。陽がまだ輝っている内に···総司の三歩後からついて行く。総司に強気な態度で接していたのにも関わらずあの執拗い男にはどうも小気で抵抗し難くい姿を見られて恥ずかしさで口数が減っていた。俯きがちに歩いて距離が広がり果ては立ち止まっていた。ひとつ溜息を出し追いつくため歩き始めたところぶつかり顔を抑えながらぶつかった人物を見ると目の前に····総司が佇んでいた。
「先に言っていたはずでは····」
驚きはしたが先ずわざわざ戻ってたのだろうと不思議で見上げた。
「···それは僕が言いたいです。中々来ないから戻ってきたのですよ。何で来ないのです。」
「総司にはっきり言えるのに執拗いあの男には何も言い返せれないひ弱な姿を見られて恥ずかくなって総司とどう話していいか分からなくって····」
何処かで総司に弱い自身の姿を見せられない、見せたくないと思い弱い所をを見られて今まで総司と何て話してたか分からなくなりまた視線が下にずれる。
「なんだそんなことですか。当たり前ですよ、誰しも苦手な人には立ち向かうのは難しいですよ。あの男の類いは僕も苦手で避けたいです。なのでお春ちゃんが恥ずかしがることは無いです。もとっと気軽にお春ちゃんと仲良くなりたいので色んなお春ちゃんを知りたいだけです。困っら何でも言ってください。」
見透かされた感じがした。けれど気を張り詰めすぎて様だった。これからどれくらいこの時代に居るか知らないがどの道総司とも距離は取るのは難しい。ならもう不可抗力として諦めるしかないと思うと同時に少し重荷が降りて力の緩みを覚えた。
「それなら今は総司に困っています。」
冗談交じり笑いながら言ってみたら、総司も笑いながら「参った。」ともらし気が抜けたようにふたりで冗談を言い合って久々の楽しい日になった。
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