私は問題軍師のその先を知っている

チヨカ

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11.父の持病故の弱愛

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にじり寄る陽射しと引き戸から冷たい風が吹き込み目が覚めた。春の半ばだが朝はまだ寒く結花は暖房が恋しくなりながらもこの時代来てからいくらか経ったが向ことは違い朝は何時も同じぐらいに起床するのが習慣となっていた。黄八丈に袖を通し朝の支度のため井戸の水を汲み朝善を準備し父幸助と共にする。

「今日はお春は休みやしゆっくりと居らはれるな。せや、久方ぶりに商業街しょうぎょうがいに出掛けよか。そや、そうしよ。」
「えっ····うん···」
「ほんなら、はよ仕度しなとな。お春も片して出かけ支度しんな。」

あっという間幸助と出かけることが決まりさっさと朝善を平らげ部屋に戻ってしまった。数週間一緒に過ごして幸助は身体か弱く体力が思いのほかなく体調良い日寄りも体を崩す日がほとんどだが良い日には幸助の頼みに応えるのがお春には恒例らしい。結花はお春に変わり頼みを聞いたが、それも大半は些細な事でも幸助にとってはひとりではすることが無理なのだ。けれども今朝の幸助は何時にも増して様子が不自然で空元気の様に見えた。訝しみはしたがそっと口を噤み結花も支度をして待つ。結花がこちらの時代来てからはお春に変わり落ち着きがない日々を過ごして商業街を見回ることができなかったので内心楽しみで仕方ない。

「ははっっ待たしてすんまへんなお春·····さて行こか。」

笑みをたたえながら近づく幸助が怖く感じてしまう。普段は優しく困った様に笑うが終始締まりなくヘラヘラ笑い違和感しかしない。結花の気も知らず商業街に出掛けるため玄関の戸を颯と開くと共に幸助は倒れ込んでしまった。唐突に倒れた姿が結花の母と重なり走馬灯みたく思い出が駆け巡っていた。身が竦み肌が泡立ち脚が震えだす。大切な人のこんな姿は二度目だった。恐怖からか喉からはい出るように金切り声が木霊する───。
悲嘆を落ち着かせるためか身体を気つく抱え込んで居ていつの間にか傍には季布がいた。落ち着かせるために背中をただ静かに摩ってくれた。

「····大丈夫や、幸助はん は何時もの持病が出てるやけやから。やから涙拭いや。」

季布に言われるまで泣いていたとは知らず頬に滴る雫を拭う。ふと倒れた幸助の方に振り返ると····紅く染まり緩んだ顔で眠っているようだった、風邪のように。病気には変わりがないがそれでも急に倒れて身が縮まり気が遠くなってしまっていたが一安心というところだろう。地べた倒れたままでは身体に障るので季布と元の寝床に運び寝間着に着替えさせ幸助の看病にふたりがかりで勤しんでいる。結局今日は出掛けられそうにないだろう。とはいえ熱が下がらないことには出掛ける気にもならないので幸助の傍に腰を降ろす。#温__まじ_ぬる_#くなった手拭いを冷えたものと変えて顔色を伺い見ると先程に比べ顔の赤みも引き呼吸も落ち着いてきた。戸の隙間から外の賑わいが漏れ聞こえているが結花がいる部屋には寝息となんとも言えない寝言を繰り返し呟いている。

「おぉ、お春や。可愛い可愛い私の娘や。今日も一段とえらぁ愛らしいわ。」

いつ聞いても慣れない。身体の弱さに引け目あるようだが優しく諭す姿は父親そのものだ。だが、行き過ぎた愛情故か恥ずかしい台詞を並べて愛でるだけに留まらず襲われた時にに対応できるようにと体術を教えたおかげでお春は可愛らしい女の子の見た目に反して男顔負けに喧嘩早く成り。その成果が奉公先でお客相手に手を挙げてしまうしまつ。これに関して幸助に問題がある。お春の血気盛んな行動力に思い返せば返す程、益々結花と異なる。玄関の戸が慌ただしく開く音と共に季布が現れその後ろには白髭を携えた老医を引連れていた。老医はひょっこり隙間から出したと思うやいなや頭を垂れたこうべ た

姫様ひいさま此度も大変であられしゃたとお見受けしやす。どうぞ後はじぃが看ときますさかい姫様は休みはってください。」
「···姫様···って·····」

町医者と思わしき老医はさも当たり前かのように深々と頭を下げ拝む。高貴な者に対するように。戸惑いに戸惑いを重ね。結花に対し続きざまにかしこまった態度で言い紡ぐ。思考が追いつかない。結花が知り得れない部分の情報を埋めてくれるかのように老医は話し続ける。結花の様子を怪訝な顔つきで見る季布が誤魔化すかのように老医の間に入り遮った。

「じぃ医そろそろお喋りは打ち止めしはって幸助はんを観るはらないかへんやろ。」
「おぉ、せやな。姫様とは余り逢えへんでつい嬉しくなりしもうたわ。病人を放ったらかしては医者のなおれや、つってもな幸助やしな」
「うへへへ····すまへん」
「はぁ···そなん言っとらんでささっと観よし」

幸助と季布と気の知れた仲なのかさっきまでの仰々しい態度とうって変わり軽口を叩いていた。結花は三人のやり取りに頬が綻ぶ。ようやく落ち着いたようだ。ブツブツ文句を漏らしつつも老医はやっと幸助の診察をしだし何時もの持病だとのことだ。持病用の薬と思ったより高熱だったので解熱剤を枕元に置いてくれていた。何だかんだ言っていても気遣ってくれている。

「···お春····すまんな。今日は一緒に町に行けへれんで」
「そうやったんかい。いや、姫様ひいさまの貴重な日をこんな病人何かのために潰されへんわ。何ならわしがついて行きましょう。そうしよう。」
「なにいっとらす。じぃ医は幸助はんの看病をこのまま続けよし、わては買い出しに行きますさかい留守番宜しゅう。···お春ちゃんは気にせず休みな。何だったら気分転換に町に行ってみてもええやないか。」
「···ありがとうございます季布さん、そうさせてもらいます。」

季布の何処となく家から遠ざけたい素振りとすすめもあり結花は頷いた。身支度を整え直しうし後ろ髪を引かれつつも買い出しに行く季布と共に家を後にした。




    
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