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15.きっかけ一つ甘みは少々
しおりを挟む町に出かけて数日。結花は紗枝のお茶屋で接客をしていた。
最近では慣れたもので好意で近づく男性客を「花を見る飽き足らず触れては火傷しますよ」と軽く足らっいる。
軽く弾みに手を出して最後、奥さんに激昂され平手打ち喰らって一回痛い目見ればいい。
けれども純心な好意を向けてくれる人もいるが、結花には応えられないので丁重に断りしていた。
「やぁ、お春ちゃん器量がえぇから男の人が寄って来て心配してたんやけどかわすのもお手の物やね」
「ふふっ、それなりには紗枝さんのおかげですよ」
「まぁまぁ嬉しいこと言ってくれはりますな、あんたもそう思いますやろ」
「·····」
「素直やないんやから。でも、お春ちゃんはえぇ人はいないのかい?その壬生の·····狼の方等は京ではお尋ね者やし。血なまぐさい噂が多いもんでえぇと思われんこともあるやけど優しゅう方もいらすのや、そうそう 甘味好きの沖田はんはお春ちゃんに気があるやないかね。」
怒涛に紗枝による良い人と探りをされている。が、どうも紗枝は年の功もあり近隣の町人に顔がきくおかげではっきりさせないと次々と話をもってこられそうだ。年頃の娘ならば嬉しいものだろうが生憎結花にはありがたくも受け入れられないのだった。
「あぁ、あと、最近良く来られる方もえぇ人やで。もうそろそろ時間やないかね····ほら噂をすれば───」
紗枝の呟きに振り向けば、のれんを潜り立って居たのはここのところ未の刻になると最近よく現れる人が居た。
休みを頂いて出かけた翌日、お茶屋でお茶汲みをし働いてると昼をとうに過ぎ客足がまばらなころにおずおすと言ったように辺りをきょろきょろとさ迷わせながらもお茶屋に立ち入らした。店には数人のお客がみえたが、あえて翳る端に備えてある席に腰をかけた。壁に掛けられた品書きを見やり、声をかけられる。
身なりからして侍とは見受けられるが、町娘の結花に対しても丁寧な言葉と振る舞いをしていた。侍の噂を聴くことがあるが乱暴な態度が多々あるも身分から下手に強い物言いは出来ない。だから飲み込み下手に出る。けれど目の前の侍と思わしき人は傲慢さは見受けられず、かと言って軟弱とも言えない雰囲気が感じとれた。
ともかく注文のお茶と素団子をそっと差し渡す。
「お待ちどおさま」
「どうも、ありがとうございます」
やはりお礼までも丁寧だった。町人ですらお茶汲みにお礼を言わないのに身分が高そうな彼は言い、尚更彼がこの茶屋に訪れたのか?繁盛してる通りから離れ華があるとは言い難いこのお店は不釣り合いとしか思えない。
しなやかに素団子を口に運び入れる動作をこっそり眺めていると素団子を食べてすぐお茶を流し込むを繰り返している。あれでは素団子の美味しさを味わうどころかお茶で消しているではないか。·······うん?待って。もしかして甘いのが苦手なのかしら······。素団子は生地を丸め串焼きにした簡素なもので甘味料を加えてはいない。だが素材の甘味は残る。甘さを控えた甘味ともなるとすぐには思いつかない······みたらし団子は醤油と砂糖を煮詰めたタレよね。なら砂糖を加えず醤油に浸して焼く団子なら甘さも抑えられ醤油の旨味が味わえないだろうか?
結花は早速、奥の勝手場で仕込みをする紗枝と旦那さんに甘さが抑えれる醤油団子の相談した。紗枝は嬉々として話に乗ってくれているが旦那さん道靖はとてつもなく剣幕で結花の話に耳を傾けていたが、すぐさま勝手場に立ち黙々と団子を作り出してしまった。店のことに口立ちし怒らせてしまったと肩を沈める結花に紗枝は道靖に目を向けながら微笑み大丈夫だと励ます紗枝いわく『嬉しかった』らしい。甘味処の店主ではあるが道靖も甘すぎるものは余り好まないそうだ。──なんでこの人甘味処をやってるのだろうと紗枝に聞かせてもらえた時に思ったものだ。
ちなみに紗枝は大の甘味好きで道靖はその紗枝のために甘味を作っているというぶっきら棒ながらもおしどり夫婦。
「······できたで。醤油団子ちぃと味見してくれや。甘さも抑えられてて·····わしもこれなら品として出してもえぇと思うとる」
怖い血相だったので反対されると思いきやさっそく作ってくれていたらしい。頂いた団子はことの他醤油の旨味が染みて焼き目がパリっとなる味わいがあった。紗枝と道靖の了承を得ることができたので翌日から品書きに一品増えた。
案の定、醤油団子は男性客にそれなりに人気となっていた。そのひとりはもちろん彼だった───。
「お待ちどうさまです。こちら醤油団子になります。それといつもお越し下さるお礼に新作の磯部団子をどうぞ寧士郎さん」
「いえ、ここの甘味が好きで通っているだけですので、でもこの海苔を巻いた団子も美味しそうですね。ありがたく頂かせてもらいます。お春さんはもう頂いたのですよね?」
今回も少し道靖に頼んでみたのだ。
海苔を巻いた磯部団子は焼きたての醤油団子を巻くと海苔の芳ばしい匂いと口に入れた瞬間のパリッとする食感が絶妙。
寧士郎が磯部団子を食べ終えると結花に振り返り優しい微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。お春さん。私が甘いの得意ではいことに気づいて醤油団子を薦めてくれたのですね。 」
「まぁ、初め素団子を味あわずお茶で流し込んでるの見たら勿体なかったので。それに失礼ですが甘いのが苦手なのに甘味処に来たのです?」
「うぅぅぅ。げほっげほっ。それはですね·····」
「······ふっふ。けれどお陰で他では珍しい醤油団子を出すことになり良かったとも思っています」
常連となった今は寧士郎ともそれなりに知人として雑談をするようになっていた。
前々から気になっていた甘いものが苦手なのに毎日通っているというのはどうにも目的があると訝していたが、寧士郎と接してみて侍であろうと根の優しさは変わりないので結花は気にするのをやめた。
結花の数少ない知人と言える寧士郎との時間は和みのひと時なんだろう。
不意の言葉に寧士郎は噎せかえりはしたが辛うじてははっとから笑いが漏れ冷や汗が流れるのが止まらないでいた。
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