16 / 19
16.
しおりを挟むこの頃結花がこの時代に訪れてからというのも、結花個人の知り合いがますます増えてきていた。
その中にはもちろん壬生の狼の中の名の知れる沖田と付き添いといった形で斎藤も顔見知りとなっていた。
どうも、沖田は大の甘党で暇さえあれば甘味所に出没していたらしく、ここのところの行きつけとなっているのがこの結花が働いている甘味処なのだそうだ。
だかなのか毎日といっても過言でないほどの頻度で沖田には会っていた。酷い時には京の見廻りの途中であっても訪れる為決まって斎藤が連れ戻しにやってきて引き釣り去って行く。そんな気苦労が絶えない斎藤には同情してしまう。
繰り返し途中で訪れる沖田のために親切心をを兼ね心遣いに斎藤に知らせることにしている。それでも飽きることなく続けているのにいっそ逆に感心する。
「はぁ、総司見廻りの途中だ。行くぞ。お春さん毎回すまない」
「とんでもない、斎藤さんこそ毎回ご苦労様です。沖田さん!毎度毎度言いますが休みの日に来てくだされば私も追い払うことはしませんので、ぜひ休みの日にお越しください」
「ちぇ~。僕は毎日ここの甘味とお春ちゃんが恋しくって仕方ないのに·····ってぇ····何すんのさ一くん」
「総司····お春さんを困らせるなそれと今は職務中だ。はぁ···今日も副長に報告せねばならないな。さぁ、隊員達も表でお前を待っている、行くぞ。····それではお騒がして済まない、私たちはこれにて失礼する」
仲のいい言い合いを見送りながら溜息を漏れる。
こんなはずではずではなかったと遠い目をする。結花はできるだけ総司等とは距離を置いていたはずがいつしかお茶屋でとりとめのない話をするぐらいには親しくなっていた。そもそも強く詰め寄られては結花もあしらうのを諦めるしかない。
でも今は親しくしていたおかげでこうして総司を斎藤に相談して助けてもらっているのだから。
「相変わらず賑やかですねあのお二方は。それにお春さんはまめですね」
寧士郎は自身の指定席となっている隅の席から結花達を眺めていたようだ。
いつから来ていたのかすでに寧士郎の固定となった磯辺と醤油団子を脇に備えられていた。
見ていたのなら声かけてくれれば良いのに。
不満を込めて結花はじとりと寧士郎にお代わりのお茶を差しだす。
「寧士郎さんは最近わたし達のことで楽しんでません?これでも総司には結構困っているんですよ····隙あらば言い迫ってきますし、それに仕事中に抜けて来られていては隊の方々が可哀想です」
「楽しんでるとは違います。ただわたしは微笑ましさを見守っているだけです。浪士組は好きませんがあのお二人がお春さんに危害を加えることはないでしょうから変な輩が居たらむしろ助けてくれるでしょう。あ、もちろんわたしもですよ」
虚をつかれ呆然としていたが考える素振りをして寧士郎は淡々と話しながら微笑みを浮かべた。
天然タラシさながらの台詞に結花は気恥ずかしさからそれ以上文句を言い淀むことは出来なくなりそっぽを向いた。
そんな結花を露知らず躊躇いがちに聞けずじまいだったことを聞こうと寧士郎は口を開いた。
「前々からお尋ねしたかったことがあったのですが、高杉さ────」
が、言いかけて、ぴたりと固まり青ざめていく。
それもそのはず、結花に目を向けると後ろには晋が口元だけにっと緩めていたが目は細めるどころか吊り上がりあまつさえ冷たく射抜かんばかりの目つきを寧士郎に向けている。
驚きのあまり、しどろもどろになる寧士郎のあまりにもの動きにおかしく思って視線の先を辿るとそこに神社でしか会うことがなかったはずの晋がいるではないか········。
──あれ、なんでここに晋さんが居るの
?お茶屋で働いているって話していないはずだけれど······
お茶屋の話していなのに目の前いる晋が不思議で思わず結花は無遠慮にも見つめてしまっていた。
「おう、結花数日振りだな。」
「·····えっ·····晋さんが何で?」
挨拶も忘れ出てきた言葉がなんとも抜けた返しだった。
「くくっ、なんだ?それは挨拶変わりか」
揶揄うかのような可笑しそうに笑い結花の頭を撫で回した。あまりにも毎度毎度子供扱いをしてくるのでほほを膨らませ不貞腐れている。
撫でられるの構わないがそれとこれとは別だ。結花も女の子なのだからもっと気遣ってくれても良いではないか。
一矢報いたいたく晋を覗き見ても今だ揶揄いを含んでいた。顔がいいだけに様になっている彼に隙はなかったけれど、不意に寧士郎の挙動不審さが気になった。
─お二人は知り合いだたの······
「···晋さんはどうしてここにいらしたんですか?それに寧士郎さんと知り合いだったんですね。それならそう言ってもらえればよかでたのに」
目を剥いて驚く二人にしたり顔になり詰め寄った。
「やはりそうなんですね······」
「·····カマかけたのか····なかなかやるじゃねぇか。んっでもよく分かったな、俺がコイツと面識あるなんて」
「揶揄ってばかりいるのでお返しです。寧士郎さん晋を見てから百面相して落ち着きがなかったのでもしやと。本当に知り合いだとは思いませんでした」
教えてくれればと少しの皮肉と不満を漏らした。
共通の知り合いが身近にいたのだからもっと他の話しができたはず。今更恨みがましいことを口にしないけども態度に出てしまうのは見逃してほしい。
「お春ちゃん、お客さんなんやろ注文取っておくれ」
様子を見計らっからっていた紗枝から声をかけられる。
「分かりました。晋さん何にしますか?最近は品書きが増えたんですよ。後、タレの甘さを控えたのもあります」
「ん、俺はみたらし団子の甘さを控えたものを頼む····お前はどうする」
「いっいえ····わたしはもう頂きましたので」
蛇に睨まれた蛙の如く益々縮こまっりどもりながらも答えてもらえた。
顔見知りならと結衣かなりに気を利かせ晋に寧士郎との相席を勧めて店の奥へと戻った。
さっきはひねくれた言い様になってしまっていたがそれでも逢えて嬉しく感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる