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タケル、町へ出る その1

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スケルトンの遺跡を攻略して、様々なお宝を手に入れた俺達は、その一部を換金することにした。
とはいえ書庫以外の場所は一つも知らない俺には、当然商談などする相手もいないので、銀狼族の若手リーダの一人ベルモンに相談してみる。
銀狼族は狩りで得た素材を、近場の町に持ち込んで取引している。
そこに俺達も加えてもらおうというわけだ。

族長であるセフィアルにも関わる話なので、すぐに快諾してくれた。
町まではかなりの距離があるので、途中の護衛役としても是非とのことだった。


「街への買い出し同行するのでしたら、これを身に付けてください。」
町に出る準備をしていた俺に、エクレールが小さな紫色の魔法石の付いた指輪を差し出して来た。

「これは?」

「認識阻害の指輪です。これを身に付けておけば、第三者に勝手にステータスを盗み見ることを防ぐことができます。」

「ステータスを勝手に見ることなんてできるのか?」

「はい、魔法やスキルの中には他人のステータスを盗み見ることのできる物が存在します。
ですがこの指輪を付けていれば、予め設定しておいたステータスに偽装することができます。」
おお、説明を聞くとなんか凄そうなアイテムだな。

「これなら検知される魔力量を、十分の一程度に抑えることができます。
あと仮のステータスとして職業を黒魔術師、レベル22に設定しておきました。
これで万が一、町でステータス鑑定されても大丈夫です。
町でタケルさんの魔力に気が付かれては、大変なことになってしまいますから。」
どうやら知らない内に俺の魔力は、かなりのものになっていたらしい。

「なあ、エクレール。魔力についてはともかく、どうしてメイガスだってばれたら不味いんだ」

「そ、それは・・・
それについては今はまだお話する時ではありません。いずれ機会が来たならご説明いたします。」

エクレールは戸惑っていたが、今は話す気はないらしい。
なんだか釈然としないが、無理やりしゃべらせる訳にもいかない。
まあ、エクレールのいう機会とやらを待つことにしよう。


ベルモン達に同行して、俺たちは5日ほどかけて書庫から最も近いカントの町に到着した。
この町は魔の森に隣接しており、森でとれる薬草、キノコなどの植物や魔物狩りで得られる魔石や素材の取引で成り立っている。

「カントの町は、我々銀狼族のような亜人に対する差別が少ないんですわ。」
ベルモンが言うには森に住む亜人との取引が多いので、町の人の亜人に対する感情は良いらしい。

そしてここに来て俺は初めて人間、この世界では人族と接触することになった。
異世界に転移して初めて同族と会うというのも奇妙な感じだが、すでに書庫での生活に馴染み、銀狼族ともうまくやっている俺は思ったよりも落着いていた。

町の中は木造の小さな家が、ズラリと並んでいて所々には2階建ての家屋も見える。
銀狼族の里よりはずっと大きく、当然だが人が沢山歩いている。
久しぶりに見る人のいる町、しかも異世界だ。落着いているといっても、どうしてもキョロキョロと周りを見まわしてしまう。
ちなみにレクイルも初めて人族の住む町に来たそうで、俺以上にキョロキョロしていた。

俺達はベルモンの案内で数多くある建物の中でも立派な造りの建物に入る。

「ようこそサックス商会へ、これは銀狼族の皆さん。ようこそいらっしゃいました。」
店に入ると中年の番頭がすぐに声をかけてきた。
何度も取引しているとのことなので、顔なじみなのだろう。

「番頭殿、今日は新しい仲間をお連れしたので紹介させてくれ。
まず我々銀狼族の族長であるセフィアル殿、それにその主であるタケル殿、セフィアル殿の妹であるレクイル殿、それに結晶獣のスノウ殿だ。」
ちょっと待て、ベルモン。その紹介の仕方じゃあ色々と誤解を招くだろうが。

「は、はあ、銀狼族の族長殿とその主殿・・・ですか?」

ほら、案の定、番頭は混乱して口ごもっている。
そもそも、まだ少女といえるセフィアルが族長というのも変な話だし、俺がその主なんて言ったらまるで部族全体が俺の支配下にあるみたいじゃないか。
俺と銀狼族の関係はあくまで、友人であって上下関係はない。

それにレクイルは問題ないにしても、スノウの紹介の仕方も変だ。
スノウには悪いが、いくら結晶獣とはいえ傍から見ればスノウはやはりペットとしか見えないだろう。
敬称付きで呼ぶのはおかしい。

しかしながらプラチナム・ウルフであるスノウは、銀狼族から見れば聖獣。
殿付けのベルモンなどはまだましな方で、年配の者ほどスノウを神聖視してしまっている。

「それはそれは、そのような立派な方達にお越しいただいて光栄です。
セフィアル様、タケル様、サックス商会番頭のリップマンと申します。これからも当商会を宜しくお願いします。」
色々とツッコミどころ満載の紹介に戸惑っていたが、そこはベテラン番頭なのだろうすぐに持ち直して挨拶してきた。

俺達がスケルトンの遺跡から回収したお宝を見せると、
「これは魔法の品ですな、素晴らしい。早速鑑定させていただきます。」と調べ始めた。

「お持ち込みいただいた品々は全て買い取らせていただきます。
お値段は大金貨3枚と小金貨28枚でいかがでしょうか。」

「大金貨3枚ッ!」

隣でベルモンが驚いているが、この世界で扱われている貨幣は主に銅貨、銀貨、小金貨、大金貨の4種類。
おおよそ日本円の価値になおせば銅貨一枚が百円、銀貨が千円、小金貨が一万円、そして大金貨一枚が百万円といったところだろうか。

つまり今回は300万円以上の収入となる。
俺としては十分なので、その金額での取引が成立した。
元々現金収入の少ない銀狼族の面々も驚いている。これまででダントツに多い取引額だそうである。

今回、お宝のすべてを持ち込んだわけではない。
自分たちで活用できそうな物は書庫に残してあるし、あの巨大スケルトンが持っていた聖剣も置いてきた。
いきなり聖剣なんて持ち込んだら警戒されるだろうし、そもそも重くて持ち運べなかったのだ。

予想以上の高収入を得て満足した俺達は、商会を出て街へと繰り出すことにした。
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