辺境伯の愛する傾国

椿猫

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結婚式前㉘~初恋の友情~

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 母から丁寧な文字と文章で、簡単に略すと「父確保、すぐ戻る」という内容の手紙が届いてから、クロノスはようやく安心して両親の帰りを待つことが出来るようになった。
 父だけでは不安だが、母が一緒ならきちんと帰ってくるだろう。父だけだと……途中の寄り道がすごそうだ。ふらっとどこかに寄るくらいはやる。そしてそこで変な男を引っかけてくるんだ、あの人は。
 一緒に旅をしていた時も、気が付いたら変な男に追いかけられて、急いで逃げたことだってある。
 そもそもクロノスの生みの母に引っかかっている辺り、あの人はそういう人に出会う運命なんだと思う。
 今は強力なお守り(=義母)が付いたからいいけれど、一人にしたら、色んな意味で危ない人だ。

「お母様、よかったですね」

 冷静そうに見えて、きっと母も心配していた。帰ってきたら、しばらくの間は父を一人にしないようにしよう、とクロノスも決めていた。




「アリアさん、仕度出来ましたよ」

 仕度といってもエデルはそんな大荷物で来たわけではないので、ささっと荷物を詰めて終了だ。遠征慣れしているアリアも普通の女性に較べれば、全然荷物を持ってきていない。
 そもそも、エデルを探すのが目的だったので、武力行使しやすい服と装備で来ていた。

「私もいつでも出発できる。エデル、挨拶だけしたらもう出るぞ」
「はーい」

 荷物を持って外に出ると、辺境軍の一団がすでに準備万端で待っていた。立派な体格を持つ馬たちが、主に従って大人しくしている。

「あれ?……そういえば、アリアさんって馬で来たの?」
「当たり前だ。夫が行方不明になったんだぞ。馬車では時間がかかりすぎる」

 当たり前のように馬で駆けつけてくれる奥様、素敵です。俺にはもったいない人です。
 じーんと感動していると、テオドールがアリアの馬を連れてきた。

「うわー、キレーな子だねー」

 アリアの黒馬を間近で初めて見たエデルが、ふらふらっと近付いた。

「エデル、危ないからあまり近付くな」

 アリアの愛馬は気難しく、アリア以外の者には噛んだり蹴ったりする時があるので止めたのだが、ふらふら近付いたエデルがそっと手を伸ばすと、馬は大人しく頭を下げて撫でさせてくれた。

「……ふむ。人たらしは、同時に動物たらしでもあるのか」
「あんなのエデルだけだろう」

 呆れたように言ったのは、同じく出立の準備が整ったラファエロだった。

「ロードナイト辺境伯、私が言うことでもないだろうが、エデルのことを頼んだぞ」
「ふふ、もちろんだ。貴殿と我が夫の友情を邪魔するつもりはないゆえ、いつでも辺境の地を訪ねて来られるがいい」
「時間と暇と情勢が許したらな」
「それが一番難しいだろうな。貴殿がちょっといないだけで、王都は面白そうなことになっていそうだしな」

 確信があるわけではないだろうが、アリアに王都の様子を言われて、ラファエロはうんざりした。
 何で私がいないだけで、エスカラの連中は蠢きだすのだろう。迷惑でしかない。というか、下手こいてる場合の後始末は、もしかしなくてもこっちの仕事か。

「辺境伯、何かご存じで?」
「うん?何も知らないよ。想像で言っているだけだ」

 楽しそうだが、絶対、どこからか情報を得ているんだ。何故だろう。私は宰相の補佐であって、一番忙しいのは宰相であるはずなのに、何故、私が忙しくなるんだろう……
 理由はもちろん分かっている。仕事してくれない宰相だからだ。
 あの人、一体、誰の傀儡なんだよ。
 貴族側なのか、王側なのか、それとももっと別の人と繋がってるのか、出来れば教えてほしい。
 そして仕事をしてほしい。

「大変だねー、ラファエロ」

 アリアの愛馬を完全に手なずけた様子のエデルが、ちょっとだけ同情してくれたのが、なんだか和む。
 
「人の夫で癒やしをとるのは、止めてもらおうか」
「辺境伯は毎日、エデルで癒やされるからいいかもしれないが、私は年に数度しかないのだ。この機会を逃したくない。これからは、さらに少なくなるしな」

 今まではエスカラに来てくれたが、辺境伯の夫ともなればそう簡単にエスカラに来られなくなる。ラファエロがエデルに会おうと思ったら、辺境までいかなくてはいけないのだ。今の内に存分に癒やされたい。

「あ、そっか。俺、エスカラにあんまり行けなくなったんだ」
「そうだな。基本的に私が行く時でなければ、エスカラには行けないだろう。友人に会えなくなるのは寂しいかもしれないが、我慢してくれ」
「仕方ないですよ。その分、アリアさんが一緒にいてくれるんでしょう?」
「もちろんだ。年に一度はエスカラに行く。ファーバティ伯爵とは、その時に会うといい」
「ええ、そうします。ラファエロ、ごめんね」

 このまま夫婦の世界に入っていくのかと思ったが、かろうじてこちらの世界に戻って来たようだ。

「エデル、今度エスカラに来る時は、お前は辺境伯の夫だということをきちんと自覚しておけ、いいな。それと、私からの手紙は、直接辺境伯の城に届くようにしておく」
「うん。ありがとう」

 一人で外出が出来ない以上、今までのようなギルド経由での手紙のやり取りは出来ない。直接、辺境伯の城に送った方が早い。

「ラファエロ、しばらく会えないかもしれないけど、気を付けてね」
「ああ、ありがとう。お前も色々とがんばれよ」
「うん。あ、結婚式の招待状を送るからね」
「分かった。その時は必ず出席するよ」

 何故かファーバティ伯爵もエデル様に対して、妙に過保護なんだよなー。
 これって、三角関係で合ってるのかな?でも、中心はエデル様だよな。
 見てるだけの銅像と化していた辺境軍及びエクルト子爵家の人たちの感想が、それだった。 
 
「男の友情も捨てがたいですね」
「いや、ファーバティ伯爵を見てると思うんだが、初恋だろう?」
「エデル様に……?……あり得るな」

 何なら、辺境軍の中にも初恋がエデルだという者がいるといえばいる。
 仮縫い中のドレスを着て闊歩するエデルに、不覚にもトキメイてしまったそうだ。
 一応、トキメキは己の中にしまいこみ、アリアには絶対にもらさないのが暗黙の了解だ。

「辺境伯、本当にくれぐれもエデルのことをよろしくお願いします」
「ふ、分かっている。エデルは何があっても私の夫だ。必ず守ってみせるさ」

 妻の心強い言葉に、エデルは何度目か分からないくらい、妻の格好良さに惚れ直したのだった。
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