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第1話:追放とクワ
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「アルト・バルフォア! 貴様は今日この瞬間をもって、我がバルフォア子爵家の者にあらず! この雑草めが!」
ビリビリと空気を震わせる怒声が、冷たく磨き上げられた大理石のホールに響き渡った。
声の主は、俺の父親――ロードリック・バルフォア子爵。その顔は、まるで不倶戴天の敵でも見るかのように、憎悪と侮蔑に歪んでいた。
俺、アルト・バルフォア。御年18歳。
このバルフォア子爵家の三男として生を受けた、しがない男だ。
この世界において、貴族の価値は二つで決まる。
一つは、剣才。騎士として領地と王国を守る力。
一つは、魔力。魔術師として、あるいは魔道具の開発者として国に貢献する知恵。
そして俺には、そのどちらもが無かった。
長兄は、王立騎士団でも五指に入ると噂されるほどの剣豪。
次兄は、宮廷魔術師団にスカウトされるほどの天才。
では、三男の俺は?
剣を握れば豆ができ、魔法を唱えようとすればマナが循環せずにぶっ倒れる。
鑑定の儀式で授かったスキルは、【農業:Lv.1】。
……は? のうぎょう?
貴族が土いじりなど、あり得ない。恥もいいところだ。
そう言われ続け、俺はこの18年間、屋敷の片隅で息を潜めるように生きてきた。まるで存在しないかのように扱われ、使用人以下の扱いを受け、それでも「いつかきっと」と、痩せ我慢を続けてきた。
だが、それも今日で終わりだ。
「お待ちください! アルト様だって、いつか才能が開花するかもしれません! 【農業】スキルでも何かの役には立つはず…!」
俺を庇おうとしてくれたのは、メイドのアンナだけだった。彼女は幼い頃から俺の世話をしてくれた、唯一の味方だ。
だが、そのか細い声は、父の怒声によって無残にかき消された。
「黙れ、下賤の者が! こいつは雑草だ! 我が家の栄光ある庭園に生えた、ただの雑草なのだ! 刈り取って捨てるのが当然だろうが!」
父の言葉に、長兄と次兄が冷笑を浮かべているのが視界の端に入る。クスクスと笑う使用人たちの声も聞こえる。
ああ、そうか。俺は雑草だったのか。
ずっと、そう言われ続けてきた。
「お前はバルフォア家の雑草だ」と。
雑草。
誰にも望まれず、ただそこにあるだけで疎まれ、踏みつけられ、引き抜かれる存在。
それが、俺。
「……わかりました」
俺は、震える声でそれだけを絞り出した。
抵抗する力も、気力もなかった。ただ、この冷たい場所から一刻も早く消え去りたかった。
「フン。物分かりが良くて助かるわい。即刻出て行け! 貴様の顔など二度と見たくない!」
父はそう吐き捨てると、もう俺に興味はないとばかりに背を向けた。
だが、地獄はまだ終わらない。
俺が荷物(と言っても、着の身着のままのボロ服だけだが)を持って屋敷の門を出ようとした時、そこに一台の豪華な馬車が止まった。
降りてきたのは、息を呑むほどの美少女。
絹のようなプラチナブロンドの髪、ルビーのように輝く瞳。この国でも有数の権力を持つ、アシュフォード侯爵家の令嬢、イザベラ・フォン・アシュフォード。
……俺の、婚約者だった女だ。
「あら、アルトじゃない。そんな汚い格好で、どこかにお出かけ? まるで乞食みたいですわ」
彼女は、扇子で口元を隠しながら、凍るような視線で俺を見下した。
「イザベラ様……」
「奇遇ですわね。私も、ちょうどあなたに用があって来たところよ」
彼女は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、俺の顔に叩きつけるように投げつけた。
ヒラリと舞い落ちたそれには、『婚約破棄』の文字が踊っていた。
「知っているでしょう? 私の父は、あなたの長兄の剣才と、次兄の魔才を高く評価しているわ。将来、我が家とバルフォア家が強固な繋がりを持つために、暫定的に三男のあなたと婚約していただけ」
「……」
「でも、もう必要ないわ。あなたという『雑草』が家から追い出されると聞いて、清々したわ!」
イザベラの言葉は、父の言葉よりも鋭く俺の心を抉った。
幼い頃、一度だけ「君の瞳、お父様の畑で見たアメジストみたい」と、唯一褒められた【農業】の知識で彼女の花壇の花を褒めたことがある。その時、彼女は一瞬だけ、本当に嬉しそうに笑ってくれた気がした。
……全部、俺の勘違いだったらしい。
「あなたみたいな役立たず、いらないわ。私の隣に立つ男は、最強でなくてはならないの」
「……そう、ですか」
「ええ。せいぜい、どこかの田舎で土でもいじって暮らすことね。ああ、でも魔物が出るような場所では、あなた、3日も持たないかしら? ウフフ」
心底楽しそうに笑うイザベラ。
その顔は、俺が今まで見たどんな魔物よりも、醜悪に見えた。
俺は何も言い返せず、ただ唇を噛み締めた。
悔しい? 悲しい?
そんな感情はとうに麻痺していた。ただ、冷たい風が、追放された貴族の三男の、薄汚れた服を吹き抜けていくだけだった。
「さようなら、雑草さん」
イザベラはそう言い残し、馬車に乗り込んで去っていった。
俺は、誰からも見送られることなく、生まれ育った屋敷を後にした。
行く当ても、金も、希望もない。
---
どれくらい歩いただろうか。
日が暮れ、夜が明け、また日が暮れる。
貴族街を抜け、平民街を抜け、城壁の外へ。
街道を外れ、森を抜け、獣道をひたすらに歩き続けた。
喉はカラカラで、腹は背中とくっつきそうだ。
森で出くわしたゴブリンの群れからは、死に物狂いで逃げた。剣も魔法も使えない俺は、ただ逃げることしかできない。それこそが、俺が「雑草」である何よりの証拠だった。
(このまま、死ぬのかな)
朦朧とする意識の中、俺はついに力尽き、倒れ込んだ。
ひんやりとした土の感触が、頬に心地よかった。
ああ、俺は雑草だから、やっぱり土の上がお似合いなんだな、と。そんな馬鹿げたことを考えた。
「……ん? ……人か?」
遠くで声が聞こえた。
俺は最後の力を振り絞って目を開ける。そこには、粗末な革鎧をまとった、いかにも「村の自警団」といった風情の男たちが立っていた。
「おい、まだ息があるぞ!」
「こんなところで倒れてるなんて…スライムにでもやられたか?」
「いや、こいつ、服はボロボロだが生地は良い。貴族か…?」
彼らは俺を担ぎ上げ、どこかへ運んでくれた。
次に俺が目を覚ました時、そこに広がっていたのは、見知らぬ粗末な木造の小屋の天井だった。
「目が覚めたか、坊主」
声をかけてきたのは、屈強な体つきの中年男性。村長のリックと名乗った。
聞けば、ここは王都から遥か遠く、魔の森と山脈に囲まれた辺境の村、「テルマ村」だという。
俺は村はずれで倒れていたところを、見回りをしていた彼らに保護されたらしかった。
「追放された、貴族の三男…ねえ」
俺の事情を話すと、リック村長は太い眉をひそめた。
「剣も魔法も使えねえ、か。そいつは…この村じゃあ、ちと厳しいかもしれねえな」
テルマ村。
それは、控えめに言っても「終わっている」村だった。
家々はボロボロで、畑は見るからに痩せ細っている。村人たちの顔には活気がなく、皆、ゴブリンやオークの襲撃に怯えながら、その日暮らしを続けていた。
「この村は、昔は豊かな土地だったんだがな。10年前に魔物のスタンピードがあってから、すっかり荒れちまってよ。土地は痩せる一方で、まともな作物が育たねえ」
リック村長は、窓の外に広がる荒れ地を見ながら、深いため息をついた。
「……」
俺は言葉もなかった。
追放された先が、こんな絶望的な場所だったとは。
剣も魔法も使えない俺は、ここで何ができる?
足手まT…いや、雑草は、ここでも雑草でしかないのか?
「ま、まあ、元気が出るまでここにいろや。食いもんは…あんまりねえが、芋のスープくらいなら出してやる」
リック村長はそう言って、小屋を出て行った。
一人残された俺は、ギシギシと鳴るベッドの上で膝を抱えた。
絶望。
ただ、その二文字だけが、俺の頭の中を支配していた。
父に罵られ、婚約者に捨てられ、流れ着いた先は、明日をも知れぬ辺境の村。
俺のスキルは【農業:Lv.1】。
この痩せ細った、石ころだらけの土地で、一体何をしろと?
「……クソッ」
声に出た。
「クソッ! クソッ! クソッ!」
何が【農業】だ!
こんなスキル、何の役にも立たないじゃないか!
剣さえ使えれば、せめて魔物と戦う真似事くらいはできた。
魔法さえ使えれば、水を出すくらいはできたかもしれない。
なのに、農業?
俺は、何のために生まれてきたんだ?
雑草として、ただ踏まれて枯れるためだけに?
「うわあああああああ!」
俺は衝動的に小屋を飛び出した。
村人たちがギョッとした顔で俺を見るが、関係ない。
俺は走った。村はずれの、誰もいない荒れ地まで。
そこは、かつて畑だった場所らしい。
だが今は、雑草すらまばらにしか生えていない、死んだ土地が広がっているだけだ。
石がゴロゴロと転がり、土は乾ききってひび割れている。
「なんでだよ……!」
俺は地面を殴りつけた。
硬い土が、貴族育ちの柔な拳を容赦なく傷つける。血が滲んだ。
「なんで、俺なんだよ……!」
涙が溢れてきた。
18年間、ずっと我慢してきた。
雑草と呼ばれても、役立たずと罵られても、いつか、いつかきっと、俺にも何かできることがあるはずだと信じてきた。
だが、現実はこれだ。
俺は、もう、どうでもよくなった。
ここで野垂れ死ぬのも、ゴブリンに食われるのも、同じことだ。
俺は、荒れ地の真ん中に突っ立っていた、奇妙な「棒」を睨みつけた。
それは、まるで誰かが突き立てて忘れていったかのような、古びた農具だった。
柄は朽ちかけ、先端の金属部分は赤黒く錆びついている。
……クワ、か。
「ハハ……」
乾いた笑いが漏れた。
【農業】スキルの俺に、お似合いの墓標じゃないか。
「いいぜ……」
俺は、ヤケクソだった。
どうせ死ぬなら、この役立たずのスキルを、この役立たずの農具で、この役立たずの土地に、一発叩きつけてから死んでやろう。
俺は、錆びたクワの柄を握りしめた。
ズシリ、と。
想像していたよりも、遥かに重い。
ボロボロの見た目とは裏腹に、その「棒」は異様な存在感を放っていた。
「う……おおおおおおおお!!」
俺はありったけの力を込めて、そのクワを振り上げた。
そして、乾ききった大地に向かって、叩きつけるように、突き立てた!
ガキン!
鈍い音が響く。
石にでも当たったのか?
いや、違う。
突き立てた瞬間、俺の全身を、経験したことのない衝撃が駆け抜けた。
ビビビビビビビビビ!!
まるで、全身の血管に高圧電流が流し込まれたような、凄まじい痺れ。
そして――脳内に、直接、声が響いた。
《――認識。適合。……認証完了》
「……え?」
声? いま、声が聞こえなかったか?
《永き時を経て…ようやく見つけたぞ、我が『主』よ》
低い、だが荘厳で、どこか懐かしいような声が、頭の中で反響する。
俺は、呆然と、自分が握りしめているクワを見た。
《――我、汝を『主』と認める。我が名は【ガイア】。星の息吹を司る、【伝説の神農具・クワ】なり》
「…………は?」
クワが、喋った。
俺が握りしめている、あのボロボロで錆びだらけのクワが、今、確かに喋った。
《さあ、契約だ、我が主よ。汝の魂(マナ)を注ぎ込め。さすれば我は、汝に応えよう。この死んだ大地に、再び生命(いのち)を芽吹かせる力を、与えようぞ!》
その声と同時に、錆びついていたクワの金属部分が、まるで呼吸を始めたかのように、淡い、温かな光を放ち始めた。
「え? え? ええええええ!?」
【神農具】? 【ガイア】?
なんだそれ!?
つーか、クワが喋るって、どういうことだ!?
俺は、自分の身に何が起こったのか全く理解できないまま、光り輝き始めたクワを握りしめ、ただただ荒れ地の真ん中で、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
ビリビリと空気を震わせる怒声が、冷たく磨き上げられた大理石のホールに響き渡った。
声の主は、俺の父親――ロードリック・バルフォア子爵。その顔は、まるで不倶戴天の敵でも見るかのように、憎悪と侮蔑に歪んでいた。
俺、アルト・バルフォア。御年18歳。
このバルフォア子爵家の三男として生を受けた、しがない男だ。
この世界において、貴族の価値は二つで決まる。
一つは、剣才。騎士として領地と王国を守る力。
一つは、魔力。魔術師として、あるいは魔道具の開発者として国に貢献する知恵。
そして俺には、そのどちらもが無かった。
長兄は、王立騎士団でも五指に入ると噂されるほどの剣豪。
次兄は、宮廷魔術師団にスカウトされるほどの天才。
では、三男の俺は?
剣を握れば豆ができ、魔法を唱えようとすればマナが循環せずにぶっ倒れる。
鑑定の儀式で授かったスキルは、【農業:Lv.1】。
……は? のうぎょう?
貴族が土いじりなど、あり得ない。恥もいいところだ。
そう言われ続け、俺はこの18年間、屋敷の片隅で息を潜めるように生きてきた。まるで存在しないかのように扱われ、使用人以下の扱いを受け、それでも「いつかきっと」と、痩せ我慢を続けてきた。
だが、それも今日で終わりだ。
「お待ちください! アルト様だって、いつか才能が開花するかもしれません! 【農業】スキルでも何かの役には立つはず…!」
俺を庇おうとしてくれたのは、メイドのアンナだけだった。彼女は幼い頃から俺の世話をしてくれた、唯一の味方だ。
だが、そのか細い声は、父の怒声によって無残にかき消された。
「黙れ、下賤の者が! こいつは雑草だ! 我が家の栄光ある庭園に生えた、ただの雑草なのだ! 刈り取って捨てるのが当然だろうが!」
父の言葉に、長兄と次兄が冷笑を浮かべているのが視界の端に入る。クスクスと笑う使用人たちの声も聞こえる。
ああ、そうか。俺は雑草だったのか。
ずっと、そう言われ続けてきた。
「お前はバルフォア家の雑草だ」と。
雑草。
誰にも望まれず、ただそこにあるだけで疎まれ、踏みつけられ、引き抜かれる存在。
それが、俺。
「……わかりました」
俺は、震える声でそれだけを絞り出した。
抵抗する力も、気力もなかった。ただ、この冷たい場所から一刻も早く消え去りたかった。
「フン。物分かりが良くて助かるわい。即刻出て行け! 貴様の顔など二度と見たくない!」
父はそう吐き捨てると、もう俺に興味はないとばかりに背を向けた。
だが、地獄はまだ終わらない。
俺が荷物(と言っても、着の身着のままのボロ服だけだが)を持って屋敷の門を出ようとした時、そこに一台の豪華な馬車が止まった。
降りてきたのは、息を呑むほどの美少女。
絹のようなプラチナブロンドの髪、ルビーのように輝く瞳。この国でも有数の権力を持つ、アシュフォード侯爵家の令嬢、イザベラ・フォン・アシュフォード。
……俺の、婚約者だった女だ。
「あら、アルトじゃない。そんな汚い格好で、どこかにお出かけ? まるで乞食みたいですわ」
彼女は、扇子で口元を隠しながら、凍るような視線で俺を見下した。
「イザベラ様……」
「奇遇ですわね。私も、ちょうどあなたに用があって来たところよ」
彼女は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、俺の顔に叩きつけるように投げつけた。
ヒラリと舞い落ちたそれには、『婚約破棄』の文字が踊っていた。
「知っているでしょう? 私の父は、あなたの長兄の剣才と、次兄の魔才を高く評価しているわ。将来、我が家とバルフォア家が強固な繋がりを持つために、暫定的に三男のあなたと婚約していただけ」
「……」
「でも、もう必要ないわ。あなたという『雑草』が家から追い出されると聞いて、清々したわ!」
イザベラの言葉は、父の言葉よりも鋭く俺の心を抉った。
幼い頃、一度だけ「君の瞳、お父様の畑で見たアメジストみたい」と、唯一褒められた【農業】の知識で彼女の花壇の花を褒めたことがある。その時、彼女は一瞬だけ、本当に嬉しそうに笑ってくれた気がした。
……全部、俺の勘違いだったらしい。
「あなたみたいな役立たず、いらないわ。私の隣に立つ男は、最強でなくてはならないの」
「……そう、ですか」
「ええ。せいぜい、どこかの田舎で土でもいじって暮らすことね。ああ、でも魔物が出るような場所では、あなた、3日も持たないかしら? ウフフ」
心底楽しそうに笑うイザベラ。
その顔は、俺が今まで見たどんな魔物よりも、醜悪に見えた。
俺は何も言い返せず、ただ唇を噛み締めた。
悔しい? 悲しい?
そんな感情はとうに麻痺していた。ただ、冷たい風が、追放された貴族の三男の、薄汚れた服を吹き抜けていくだけだった。
「さようなら、雑草さん」
イザベラはそう言い残し、馬車に乗り込んで去っていった。
俺は、誰からも見送られることなく、生まれ育った屋敷を後にした。
行く当ても、金も、希望もない。
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どれくらい歩いただろうか。
日が暮れ、夜が明け、また日が暮れる。
貴族街を抜け、平民街を抜け、城壁の外へ。
街道を外れ、森を抜け、獣道をひたすらに歩き続けた。
喉はカラカラで、腹は背中とくっつきそうだ。
森で出くわしたゴブリンの群れからは、死に物狂いで逃げた。剣も魔法も使えない俺は、ただ逃げることしかできない。それこそが、俺が「雑草」である何よりの証拠だった。
(このまま、死ぬのかな)
朦朧とする意識の中、俺はついに力尽き、倒れ込んだ。
ひんやりとした土の感触が、頬に心地よかった。
ああ、俺は雑草だから、やっぱり土の上がお似合いなんだな、と。そんな馬鹿げたことを考えた。
「……ん? ……人か?」
遠くで声が聞こえた。
俺は最後の力を振り絞って目を開ける。そこには、粗末な革鎧をまとった、いかにも「村の自警団」といった風情の男たちが立っていた。
「おい、まだ息があるぞ!」
「こんなところで倒れてるなんて…スライムにでもやられたか?」
「いや、こいつ、服はボロボロだが生地は良い。貴族か…?」
彼らは俺を担ぎ上げ、どこかへ運んでくれた。
次に俺が目を覚ました時、そこに広がっていたのは、見知らぬ粗末な木造の小屋の天井だった。
「目が覚めたか、坊主」
声をかけてきたのは、屈強な体つきの中年男性。村長のリックと名乗った。
聞けば、ここは王都から遥か遠く、魔の森と山脈に囲まれた辺境の村、「テルマ村」だという。
俺は村はずれで倒れていたところを、見回りをしていた彼らに保護されたらしかった。
「追放された、貴族の三男…ねえ」
俺の事情を話すと、リック村長は太い眉をひそめた。
「剣も魔法も使えねえ、か。そいつは…この村じゃあ、ちと厳しいかもしれねえな」
テルマ村。
それは、控えめに言っても「終わっている」村だった。
家々はボロボロで、畑は見るからに痩せ細っている。村人たちの顔には活気がなく、皆、ゴブリンやオークの襲撃に怯えながら、その日暮らしを続けていた。
「この村は、昔は豊かな土地だったんだがな。10年前に魔物のスタンピードがあってから、すっかり荒れちまってよ。土地は痩せる一方で、まともな作物が育たねえ」
リック村長は、窓の外に広がる荒れ地を見ながら、深いため息をついた。
「……」
俺は言葉もなかった。
追放された先が、こんな絶望的な場所だったとは。
剣も魔法も使えない俺は、ここで何ができる?
足手まT…いや、雑草は、ここでも雑草でしかないのか?
「ま、まあ、元気が出るまでここにいろや。食いもんは…あんまりねえが、芋のスープくらいなら出してやる」
リック村長はそう言って、小屋を出て行った。
一人残された俺は、ギシギシと鳴るベッドの上で膝を抱えた。
絶望。
ただ、その二文字だけが、俺の頭の中を支配していた。
父に罵られ、婚約者に捨てられ、流れ着いた先は、明日をも知れぬ辺境の村。
俺のスキルは【農業:Lv.1】。
この痩せ細った、石ころだらけの土地で、一体何をしろと?
「……クソッ」
声に出た。
「クソッ! クソッ! クソッ!」
何が【農業】だ!
こんなスキル、何の役にも立たないじゃないか!
剣さえ使えれば、せめて魔物と戦う真似事くらいはできた。
魔法さえ使えれば、水を出すくらいはできたかもしれない。
なのに、農業?
俺は、何のために生まれてきたんだ?
雑草として、ただ踏まれて枯れるためだけに?
「うわあああああああ!」
俺は衝動的に小屋を飛び出した。
村人たちがギョッとした顔で俺を見るが、関係ない。
俺は走った。村はずれの、誰もいない荒れ地まで。
そこは、かつて畑だった場所らしい。
だが今は、雑草すらまばらにしか生えていない、死んだ土地が広がっているだけだ。
石がゴロゴロと転がり、土は乾ききってひび割れている。
「なんでだよ……!」
俺は地面を殴りつけた。
硬い土が、貴族育ちの柔な拳を容赦なく傷つける。血が滲んだ。
「なんで、俺なんだよ……!」
涙が溢れてきた。
18年間、ずっと我慢してきた。
雑草と呼ばれても、役立たずと罵られても、いつか、いつかきっと、俺にも何かできることがあるはずだと信じてきた。
だが、現実はこれだ。
俺は、もう、どうでもよくなった。
ここで野垂れ死ぬのも、ゴブリンに食われるのも、同じことだ。
俺は、荒れ地の真ん中に突っ立っていた、奇妙な「棒」を睨みつけた。
それは、まるで誰かが突き立てて忘れていったかのような、古びた農具だった。
柄は朽ちかけ、先端の金属部分は赤黒く錆びついている。
……クワ、か。
「ハハ……」
乾いた笑いが漏れた。
【農業】スキルの俺に、お似合いの墓標じゃないか。
「いいぜ……」
俺は、ヤケクソだった。
どうせ死ぬなら、この役立たずのスキルを、この役立たずの農具で、この役立たずの土地に、一発叩きつけてから死んでやろう。
俺は、錆びたクワの柄を握りしめた。
ズシリ、と。
想像していたよりも、遥かに重い。
ボロボロの見た目とは裏腹に、その「棒」は異様な存在感を放っていた。
「う……おおおおおおおお!!」
俺はありったけの力を込めて、そのクワを振り上げた。
そして、乾ききった大地に向かって、叩きつけるように、突き立てた!
ガキン!
鈍い音が響く。
石にでも当たったのか?
いや、違う。
突き立てた瞬間、俺の全身を、経験したことのない衝撃が駆け抜けた。
ビビビビビビビビビ!!
まるで、全身の血管に高圧電流が流し込まれたような、凄まじい痺れ。
そして――脳内に、直接、声が響いた。
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「……え?」
声? いま、声が聞こえなかったか?
《永き時を経て…ようやく見つけたぞ、我が『主』よ》
低い、だが荘厳で、どこか懐かしいような声が、頭の中で反響する。
俺は、呆然と、自分が握りしめているクワを見た。
《――我、汝を『主』と認める。我が名は【ガイア】。星の息吹を司る、【伝説の神農具・クワ】なり》
「…………は?」
クワが、喋った。
俺が握りしめている、あのボロボロで錆びだらけのクワが、今、確かに喋った。
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その声と同時に、錆びついていたクワの金属部分が、まるで呼吸を始めたかのように、淡い、温かな光を放ち始めた。
「え? え? ええええええ!?」
【神農具】? 【ガイア】?
なんだそれ!?
つーか、クワが喋るって、どういうことだ!?
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勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
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そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
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