追放された俺、【神農具】で最強農家に! ~聖女も令嬢も俺の野菜に夢中。今さら実家(雑草)に泣きつかれても遅いんだが?~

うはっきゅう

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第2話:畑、はじめました

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「…………は?」

 俺、アルト・バルフォア(18歳・追放済み)は、自分が握りしめている「それ」と、脳内に響く荘厳な声とのギャップに、完全に思考を停止させていた。

 クワ、だ。
 どう見ても、柄は朽ちかけ、先端は錆びついた、捨てられたクワだ。
 それが【伝説の神農具・ガイア】?
 星の息吹を司る?

 《どうした、我が主よ。契約を。汝の魂(マナ)を我に注げ》
「……魂(マナ)を、注ぐ?」

 無理だ。
 俺にはマナなんか無い。
 貴族のくせに魔力ゼロ。だから追放されたんだ。
 剣才も魔才も無い、ただの雑草。
 それが俺だ。

「俺には…魔力なんてない。マナが循環しないんだ。だから…」

 《フン。魔力、だと? そのような表層の力、我は求めぬ》

 クワ(ガイア)は、心底どうでもいいとでも言うように鼻を鳴らした(気がした)。

 《我が必要とするは、汝の『本質』。汝が内に秘めた、大地への渇望。汝がその身に宿した、生命(いのち)への『適性』だ》
「て、適性…?」
 《左様。汝、ずっと呼ばれてきたであろう? 『雑草』と》

 ドクン、と心臓が跳ねた。
 それは、俺にとって最大の侮蔑の言葉だったはずだ。
 だが、ガイアの声は違う。どこか、慈しむような響きさえあった。

 《雑草。なんと見事な響きか。踏まれても、焼かれても、疎まれても、必ずや再び芽吹き、大地を覆い尽くす、最強の生命。それこそが汝よ》
「お、俺が…最強…?」
 《気づかぬか? 汝がいた屋敷の庭園は、汝が歩くだけで、他のどの場所よりも花が色鮮やかに咲き誇っていたことを。汝が世話をした軍馬は、他のどの馬よりも強靭であったことを》

 言われてみれば、そうだったかもしれない。
 俺が当番で世話をしていた花壇だけ、やけに雑草(!)が元気で、花も枯れなかった。
 厩舎(きゅうしゃ)の掃除をすれば、馬がやけに懐いてきた。
 全部、「貴族のくせに下賤の者の仕事にばかり馴染む」と、父や兄たちに嘲笑される材料でしかなかったが。

 《汝の力は、あまりに強大すぎた。強すぎる生命力(・・・・・)は、脆弱な『魔力』の循環を阻害した。故に、汝は魔法が使えなかった。それだけのこと》
「じゃあ、俺の【農業:Lv.1】っていうスキルは…」

 《【農業】? フハハハ! 人間どもは、なんと矮小な言葉でそれを表すか!》

 ガイアが心底おかしそうに震えた。
 握っている柄から、ビリビリと振動が伝わってくる。

 《あれは【農業】などではない。あれは、星の生命そのものを御(ぎょ)し、育む力――【創生】の片鱗だ!》
「そ、創生…?」

 《さあ、選べ、アルト・バルフォアよ!》

 ガイアの声が、一段と強くなる。

 《このまま「役立たずの雑草」として朽ち果てるか?
 それとも、我と共に、この死んだ大地に生命(いのち)を爆誕させる、『最強の農家』となるか!?》


 決まっていた。
 決まっていたんだ、そんなこと!

 役立たずで、雑草で、誰にも必要とされなかった俺。
 だが、こいつ(クワ)は俺を「主」と呼んだ。
 俺のスキルを「最強」と呼んだ。

 俺は、もう迷わない。


「やるさ! やってやる! 俺は…雑草なんかじゃない!」

 俺は叫んだ。

「俺は、俺だ! もし雑草だと言うなら、世界を覆い尽くす最強の雑草になってやる! 契約だ、ガイア! 俺の魂(マナ?)、全部持っていけェェェ!!」

 俺がそう叫び、柄を強く握りしめた瞬間――

 ズギュウウウウウウウウウ!!

 クワから凄まじい光が放たれた!
 赤黒かった錆が、まるで垢(あか)のように剥がれ落ち、その下から現れたのは、夜空の星々を溶かし込んだかのような、深淵なる黒色の金属だった。
 朽ちかけていた柄も、まるで世界樹の若木のような、青々とした艶を取り戻していく!

 そして、俺の脳内に、再びあの機械的な音声(鑑定スキルを使った時に聞こえるアレだ)が響き渡った。

 《スキル【農業:Lv.1】が、神農具【ガイア】の顕現により、限界突破しました》
 《【農業:Lv.1】が【神聖農業:Lv.EX(測定不能)】に進化します》

 《固有スキル【土壌改良:Lv.1】が【天恵の開墾】に進化》
 《固有スキル【種まき:Lv.1】が【即時成長(ブースト)】に進化》
 《固有スキル【水やり:Lv.1】が【聖水生成】に進化》
 《固有スキル【収穫:Lv.1】が【奇跡の豊穣】に進化》

「な……」

 なんだ、これ……。
 スキルが、全部、進化…いや、バグったみたいになってる。

 そして、俺の体にも異変が起きていた。
 今まで、鉛のように重く、息苦しささえ感じていた体が、羽のように軽い。
 全身の血が、いや、血じゃない何かが、ものすごい勢いで循環しているのが分かる。
 これが、マナ?
 いや、ガイアが言っていた「生命力」か?

 《フハハハハ! これぞ我が主! 感じるぞ、この溢れんばかりの生命の奔流を!》

 ガイアが歓喜の声を上げる。

「すごい…力が、みなぎってくる…」

 そして、俺は、衝動に駆られた。
 目の前の、この乾ききった、石ころだらけの死んだ大地が、俺を呼んでいる。

(耕せ)

(私を、耕してくれ)

「ああ……ああ……!」

 俺は、理性を失った獣のように、ガイアを振り上げた。
 もう、ヤケクソじゃない。
 湧き上がる、抑えきれない「渇望」に従って。

「うおおおおおおお! 耕してやるよォォォ!!」

 振り下ろしたガイアの先端が、死んだ大地に突き刺さる。

 ザクゥッ!

 今まで「ガキン!」と硬い音しか立てなかった大地が、まるで熟成されたチーズにナイフを入れるかのように、滑らかに、深く、クワを受け入れた。

 そして、信じられない光景が広がった。

 ガイアが突き刺さった一点から、まるで波紋が広がるように、大地の色が変わっていく。
 乾いた茶色だった土が、水分と栄養をたっぷり含んだ、生命力溢れる「漆黒」に!
 ゴロゴロと転がっていた石ころが、土に触れた瞬間、サラサラと砂に変わり、養分へと変わっていく!

「な…なんだ、これ……!」

 俺は夢中になった。
 ザクッ! ザクッ! ザクッ!
 クワを振るう。
 ただ、振るう。
 一振りするたびに、半径数メートルの荒れ地が、極上の「黒土」へと生まれ変わっていく。

(ああ、気持ちいい…!)

 剣を振るう訓練は苦痛でしかなかった。
 魔法の詠唱は頭痛しかしなかった。
 だが、これ(・・)は違う。
 クワを振るうたびに、全身が喜んでいるのが分かる。
 土が、俺に応えて、歓喜の声を上げているのが聞こえる(気がする)!

「ハァ…ハァ…! もっとだ! もっと! 俺は…耕したい!」

 俺は、追放されたことへの絶望も、イザベラの嘲笑も、何もかも忘れて、ただひたすらにクワを振り続けた。

 どれくらいの時間が経っただろうか。
 あれほど広がっていた荒れ地は、その全てが、しっとりと湯気さえ立ち上りそうな、完璧な「畑」へと生まれ変わっていた。

「……やった。やったぞ、ガイア…!」
 《フフ。まだだ、主よ。耕しただけでは、畑とは言えぬ》
「! そうか、種だ。種をまかないと!」

 俺はハッとして周囲を見渡した。
 だが、ここは辺境の、痩せた村だ。
 まともな作物の種など、手に入るはずが……。

「あ」

 俺は気づいた。
 畑の隅に、かろうじて生き残っていた「雑草」の群れが。
 俺を追放した父や、俺を捨てたイザベラの顔が脳裏をよぎる。

 雑草。
 忌まわしい、役立たずの象徴。

 だが、俺はもう、それを侮蔑の目では見なかった。
 俺はそいつらに近づき、しゃがみ込んだ。
 それは、小さな、トゲトゲした実をつけていた。

 《ほう。こんな場所で『龍(りゅう)のイバラ』の種が眠っていたか》
「龍のイバラ? なんだそれ。ただの雑草じゃ…」
 《雑草? 違うな、主よ。それは「まだ力が目覚めていない」だけだ。本来、人が育てられるような代物ではない。だが…》
「俺なら、できるってことか?」
 《左様。主の【神聖農業】と、我が【ガイア】の力をもってすればな! さあ、その種を、その手で握りつぶし、畑にまくのだ!》

 言われるがまま、俺はトゲトゲした実を数個もぎ取り、手のひらで握りしめた。
 チクリ、とトゲが刺さる。
 俺の血が、種に染み込んだ。

 次の瞬間、種がカッと赤く発光した!

「うおっ!?」
 《芽吹くぞ! まけ!》
「お、おう!」

 俺は、光る種を、漆黒の畑に向かって、ばら撒いた。
【即時成長(ブースト)】スキル、発動!

 俺がまいた種が、黒土に触れた、その刹那。

 メキキキキキキッ!!

「は?」

 土が、爆ぜた。
 いや、違う。
 土の中から、緑色の「何か」が、ありえない速度で飛び出してきたのだ!

 まるで早送りの映像を見ているかのように、芽が吹き出し、茎が伸び、ツルが絡まり、葉が茂る!
 3秒前までは、ただの種だったものが、目の前で、轟音(!)を立てながら成長していく。

「う、うわあああ!?」

 俺は思わず尻餅をついた。
 成長は止まらない。
 グングンと天に向かって伸びたツルは、あっという間に俺の身長を超え、支柱も無いのに自立し始めた。
 そして、青々とした葉の間に、瞬く間に黄色い花が咲き――

 ポンッ! ポンッ! と軽い音を立てて、小さな緑色の実がなり始めた。

「……すげえ」

 その実もまた、見る見るうちに色を変えていく。
 緑から、黄色へ。
 黄色から、オレンジへ。
 そして――

 燃えるような、「真っ赤」に。

「こ、これって……」

 俺の目の前には、10秒足らずで成長しきった「何か」の作物が、たわわに実っていた。
 見た目は、トマト…のようだが。
 やけにデカい。赤ん坊の頭くらいある。
 しかも、表面がツヤツヤと輝いていて、明らかにただのトマトではないオーラを放っていた。

 《フム。上出来だ。主の生命力(・・・・)を吸ったせいか、予想以上に『元気』な実がなったな》
「と、トマト…だよな? これ」
 《まあ、元になったのはトマトの原種に近いものだろうな。だが、主が育てたそれは、もはや別物だ。名付けるなら…そうだな…》

 ガイアが、楽しそうに言った。

 《【爆裂トマト】とでも呼んでおこうか》
「……ばくれつ?」

 意味が分からなかった。
 トマトが爆裂? なんで?

 俺が、その真っ赤な果実(?)を恐る恐る収穫しようと手を伸ばした、その時だった。

「お、おい! アルトの坊主! お前、一体そこで何をやったんだ!?」

 背後から、切羽詰まったような大声が聞こえた。
 振り返ると、そこには、目を見開き、腰を抜かさんばかりに驚愕した顔の、リック村長が立っていた。

 彼の視線は、俺……ではなく、俺の背後に広がる、漆黒の畑と、そこにそびえ立つ、真っ赤な「トマトの森」に釘付けになっていた。

「あ、いや、これは、その……畑、はじめました?」

 俺がそう言うと、リック村長は「畑、はじめました、じゃねええええ!」と、村中に響き渡る声で絶叫した。
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