追放された俺、【神農具】で最強農家に! ~聖女も令嬢も俺の野菜に夢中。今さら実家(雑草)に泣きつかれても遅いんだが?~

うはっきゅう

文字の大きさ
5 / 10

第五話:超回復ハーブと聖女候補

しおりを挟む
 ​C級冒険者パーティの一件以来、テルマ村の評判は、さらにとんでもないことになっていた。

「テルマ村には、魔物も冒険者も歯が立たない最強の農民がいるらしい」
「トマトが爆発するってマジかよ」
「カボチャで剣が折れるって、どんな鋼鉄だよ!」

 ​そんな噂が、あっという間に近隣の村や街、さらには王都にまで広まっていった。
 もちろん、眉唾ものだと笑う者が大半だったが、中には「もしかしたら……」と期待する者もいた。
 特に、王都の貴族街で蔓延する不作と疫病に苦しむ人々は、藁にもすがる思いだった。
 ​俺はというと、そんな噂話など気にせず、ひたすら畑を耕し、作物を育てていた。
【神聖農業】スキルのおかげで、もはや畑仕事は苦行ではなく、最高の娯楽だ。
 ガイアと共に土をいじっていると、心が満たされる。
 そして、俺の育てた作物たちは、毎回、俺の想像を超える奇跡を起こすのだ。


 ​ある日のこと。
 俺は、いつものように畑で新種のハーブを育てていた。

 【超回復ハーブ】と名付けたそれは、魔力と生命力を凝縮したような不思議なハーブだった。
 小さくちぎって傷口に貼るだけで、どんな深い傷も数秒で完治する。
 ガイア曰く「本来、この星には存在しない奇跡の薬草」らしい。

「いい匂いだな、ガイア」
 《うむ。主の生命力と、大地のエッセンスが完璧に融合した証拠よ。しかし、これほど完璧なハーブは、かつて神代の時代にしか存在しなかったはずだが……》

 ガイアも、俺の成長に驚いているようだった。
 ​その時、村の入り口の方から、ひときわ豪華な馬車が近づいてくるのが見えた。
 馬車の紋章を見て、リック村長が息を呑んだ。

「あれは……王都の教会の紋章だ……! しかも、あれは枢機卿様クラスが使う馬車じゃ……!」

 ​馬車から降りてきたのは、護衛の騎士を数名引き連れた、一人の若い女性だった。
 純白の神官服を身にまとい、その顔には聖なる光が宿っている。
 腰まで伸びる金色の髪、吸い込まれるような碧い瞳。
 彼女は、まるで絵画から抜け出してきたかのような、完璧な美しさを持っていた。

「も、もしや……聖女候補の『セレナ』様では……!?」

 村人たちが、ざわめき始める。

 聖女候補。
 それは、数年に一度選ばれる、奇跡の力を持つ者。彼女の治癒魔法は、あらゆる病を癒やし、傷を完治させると言われている。

 ​その聖女候補が、なぜこんな辺境の村に?
 ​セレナは、まっすぐに俺の畑へと歩いてきた。
 その視線は、俺……ではなく、俺が育てている【超回復ハーブ】に釘付けになっていた。

「……この香りは……!」

 セレナは、大きく息を吸い込むと、陶酔したように呟いた。

「間違いない……! これは、失われたはずの『生命(いのち)の息吹』の香り……! 伝説に謳われる、奇跡の薬草……!」

 ​セレナは、ゆっくりと畑に近づき、俺が育てているハーブの一株に手を伸ばした。
 その指先が、ハーブに触れた、その瞬間。
 ​ピカッ!
 ​ハーブが、まるで呼応するかのように、淡い光を放った。
 セレナの顔が、驚愕に見開かれる。

「な、なんてこと……! 私の聖なる魔力が、この植物から溢れ出てくる……!?」

 彼女は、自らの掌からハーブへと、光の粒子が吸い込まれていくのを感じていた。
 それは、まるでハーブが彼女の聖なる力を吸い上げているかのような光景だった。

「ま、まさか……私とこのハーブが、共鳴している……?」
「あの、ハーブに触らないでください。まだ育成中なんで」

 俺は、セレナの行動を咎めた。
 まさか、王都から聖女候補が来るとは思わなかったが、俺のハーブにむやみに触られるのは困る。
 ​俺の声に、セレナはハッと我に返った。

「あ、あなた様は……?」

 セレナの護衛騎士たちが、一斉に剣に手をかける。

「無礼者! セレナ様に何をする気だ!」
「下がれ! 平民風情が!」
「まあ、待ちなさい」

 セレナは、静かに騎士たちを制した。
 そして、まっすぐ俺の目を見つめた。

「あなたは……このハーブの栽培者ですか?」
「まあ、そうっすけど」

 俺は、ガイアを肩に担ぎ、答えた。

「これは……失われたはずの奇跡の薬草。これを育てられる者は、この世には存在しないとされていました。ましてや、これほどの規模で……」

 セレナの碧い瞳が、俺の全身を舐めるように見つめる。
 まるで、俺の存在そのものを鑑定しているかのように。

「あなた……もしや、神の使徒ですか!?」

 セレナは、ついにその言葉を口にした。

「いや、農家ですけど」

 俺は、真顔で答えた。

「「「「は?」」」」

 セレナとその護衛騎士たちが、呆然とした声を上げた。

「の、農家……? これほどの奇跡を、一介の農家が……?」
《フハハハ! 主よ、その反応、面白かろう!》

 ガイアが、脳内で楽しそうに笑っている。

「失礼いたしました……! しかし、これは、まさに神の御業に匹敵する奇跡です……!」

 セレナは、興奮したように語り続けた。

「実は、王都では謎の疫病が蔓延し、多くの人々が苦しんでいます。私の治癒魔法でも、一時的に症状を抑えることはできても、完治までは至らないのです」

 セレナの顔に、苦悩の色が浮かんだ。

「そして、不作も重なり、食料も枯渇寸前。バルフォア子爵領では、特に深刻な被害が出ていると聞いております……」

(バルフォア領、またか)
 俺は、内心で舌打ちをした。
 俺を追放したせいだ。自業自得だろ。

「私の治癒魔法は、肉体的な傷や病には有効ですが、魂の疲弊や、大地の不調和から来る病には効果が薄い。ですが、このハーブは……! このハーブがあれば、王都の人々を救えるかもしれません!」

 ​セレナは、まるで祈るように、俺に懇願してきた。
 その顔は、聖女候補という立場ではなく、ただ純粋に人々を救いたいと願う、一人の少女のそれだった。

「どうか……! このハーブを、王都にお分けいただけないでしょうか!? 私が、全責任を持って、その対価をお支払いします!」
「……」

 俺は、一瞬迷った。
 王都の人々を救う?
 俺を追放した貴族どもや、俺を捨てたイザベラのことを考えると、正直、気が進まない。
 ​だが、セレナの瞳は、あまりにも純粋で、力強かった。
 そして、俺は思い出した。
 俺は、雑草なんかじゃない。
 俺は、大地を耕し、生命(いのち)を育む『農家』だ。
 俺の育てた作物が、誰かの役に立つなら、それは最高の喜びだ。

 ​「いいぜ」

 俺は、小さく頷いた。

「全部、持って行っていい。どうせ、俺が収穫したそばから、また生えてくるんで」

【即時成長(ブースト)】と【奇跡の豊穣】が発動しているから、いくら収穫しても、すぐに次の実がなるのだ。

 ​「え……!? よ、よろしいのですか!?」

 セレナは、目を丸くして驚いた。

「こんな貴重なものを、無償で……!?」
「別に無償じゃねえよ」

 俺は、ニヤリと笑った。

「その代わり、王都で俺のハーブを広めてくれ。そして、このテルマ村の名前を、王都中に轟かせてほしいんだ」
「! もちろんです! むしろ、光栄です!」

 セレナは、感極まったように、キラキラとした瞳で俺を見つめた。
 その頬は、ほんのり赤く染まっている。

 ​(あれ? またモテフラグ立った……?)

 俺は、自分の無自覚なモテっぷりに、若干戸惑いを覚えた。

 ​「ありがとう、アルトさん! あなたは……あなたは、まさに神の恩寵です!」

 セレナは、まるで聖母のように微笑んだ。
 そして、俺のハーブを丁寧に収穫し始めると、護衛の騎士たちに指示して、大量のハーブを馬車に積み込ませた。

 ​「では、私はこれで。必ずや、王都の人々を救い、あなたの名前を広めてみせます!」

 セレナは、深々と頭を下げると、馬車に乗り込み、王都へと帰っていった。


 ​聖女候補との出会い。
 そして、俺の【超回復ハーブ】が、王都の疫病を救う切り札となる。
 王都の貴族たちが、俺の存在に気づくのも、時間の問題だろう。
 ​俺は、ガイアを肩に担ぎ、空を見上げた。
 青い空に、白い雲が流れていく。
 雑草だった俺は、今、このテルマ村で、着実に伝説への階段を上っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。 地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。 魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。 これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。 「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」

追放された凡人魔導士ですが、実は世界最強の隠しステ持ちでした〜気づかないうちに英雄扱いされて、美少女たちに囲まれていました〜

にゃ-さん
ファンタジー
「お前は凡人だ。パーティから追放だ」 勇者パーティの役立たずと蔑まれ、辺境へと追放された下級魔導士エイル。 自分でも平凡だと信じて疑わなかった彼は、辺境でのんびり暮らそうと決意する。 だが、偶然鑑定を受けたことで判明する。 「……え?俺のステータス、バグってないか?」 魔力無限、全属性適性、成長率無限大。 常識外れどころか、世界の理そのものを揺るがす「世界最強の隠しステ」を抱えた、規格外のチートだった。 自覚がないまま災厄級の魔物をワンパンし、滅亡寸前の国を片手間で救い、さらには救われた美少女たちから慕われ、いつの間にかハーレム状態に。 一方、エイルを追放した勇者たちは、守ってもらっていた無自覚チートを失い、あっという間に泥沼へと転落していく。 「俺、本当に凡人なんだけどなあ……」 本人だけが自分を凡人だと思い込んでいる、無自覚最強魔導士の、追放から始まる自由気ままな英雄譚。 ざまぁ上等、主人公最強&ハーレム要素たっぷりでお届けします。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

氷の精霊と忘れられた王国 〜追放された青年、消えた約束を探して〜

fuwamofu
ファンタジー
かつて「英雄」と讃えられた青年アレンは、仲間の裏切りによって王国を追放された。 雪原の果てで出会ったのは、心を閉ざした氷の精霊・リィナ。 絶望の底で交わした契約が、やがて滅びかけた王国の運命を変えていく――。 氷と炎、愛と憎しみ、真実と嘘が交錯する異世界再生ファンタジー。 彼はなぜ忘れられ、なぜ再び立ち上がるのか。 世界の記憶が凍りつく時、ひとつの約束だけが、彼らを導く。

異世界レストラン・フェルマータ ~追放料理人の俺、神の舌で世界を喰らう~

たまごころ
ファンタジー
王都の五つ星料理店を追放された若き料理人カイ。理不尽な仕打ちに絶望しかけたその瞬間、彼は異世界で目を覚ます。 そこは「味覚」が魔力と結びついた世界──。美味を極めれば魔力が高まり、料理は民を癒やし、王すら跪く力を持つ。 一介の料理人だったカイは、神の舌「フェルマータ」の力に目覚め、貧しい村に小さな食堂を開く。 だがその料理は瞬く間に世界を変え、王侯貴族、聖女、竜姫、女勇者、果ては神々までが彼の皿を求めるようになる。 追放された男の、料理と復讐と愛の異世界成り上がり劇、ここに開店!

防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました

黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった! これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

処理中です...