追放された俺、【神農具】で最強農家に! ~聖女も令嬢も俺の野菜に夢中。今さら実家(雑草)に泣きつかれても遅いんだが?~

うはっきゅう

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​第六話:魅惑のバラとクール令嬢

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 テルマ村は、変わった。
 俺の【神聖農業】スキルとガイアの力で、死んだ土地は奇跡の農場へと変貌。
 【爆裂トマト】がゴブリンを退け、【鋼鉄カボチャ】がC級冒険者を撃退。
 そして、【超回復ハーブ】が王都を襲った謎の疫病(※俺を追放した実家が原因)を鎮静化させた。
 ​その結果、どうなったか。

「アルト様!  こちら、王都の教会からの寄進でございます!」
「アルトさん!  西の街の商人ギルドが、ぜひウチの小麦を卸してくれと!」
「アルト!  悪いが【鋼鉄カボチャ】が足りねえ!  騎士団の鎧より硬えって、王都で大騒ぎだぞ!」

 ​そう。
 テルマ村は、辺境の寂れた村から、一躍「奇跡の村」として、王国中にその名を轟かせ始めていたのだ。
 聖女候補のセレナ(ヒロイン②)が、約束通り王都で宣伝しまくってくれたらしい。
 おかげで、村は連日、商人や巡礼者、果ては騎士団の視察まで訪れる、一大ブームタウンと化していた。
 ​リリア(ヒロイン①)も、村のまとめ役として、毎日忙しそうに、だが本当に嬉しそうに働いている。

「アルトさんのおかげです!  こんなに村が活気づくなんて……!」

 そう言って微笑む彼女は、芋スープを運んできた時とは比べ物にならないほど、輝いていた。
 ​そんな熱狂の中、その日、テルマ村に、これまでで最も格式高い馬車が訪れた。
 漆黒の車体に、銀色の獅子の紋章。
 それは、このテルマ村を含む広大な東部辺境領を治める、アークライト公爵家のものだった。

「公爵様が、こんな辺境の村に……!?」

 リック村長が、緊張で顔をこわばらせる。
 ​馬車から降りてきたのは、一人の女性だった。
 銀色の長い髪を厳かにまとめ上げ、氷のように冷たい、だが恐ろしく整った顔立ちを持つ美女。
 その身にまとうのは、華美なドレスではなく、機能的ながらも最高級の生地で作られた騎士服(サーコート)。
 彼女こそ、若くして公爵位を継いだ、現当主。
『氷の公爵令嬢』と呼ばれる、アナスタシア・フォン・アークライト、その人だった。

「……ここが、噂のテルマ村。なるほど、確かに妙な『気』に満ちている」

 アナスタシアは、俺の畑を見て、わずかに眉をひそめた。
 その視線は、作物(トマトやカボチャ)ではなく、畑そのものから溢れ出る、異常なまでの生命力(マナ)に向けられていた。

「お、お待ちしておりました、アナスタシア様!」
 リック村長が、慌てて地面に膝をつこうとする。
「よい。形式は不要だ」

 アナスタシアは、冷たくそれを制すると、まっすぐ俺の方を見た。
 俺は、相変わらずガイア(クワ)を肩に担ぎ、土まみれのエプロン姿だ。

「貴様が、アルトか」
「……そうっすけど」
「聖女セレナが『神の使徒』と呼び、騎士団が『カボチャの聖者』と恐れる男が、ただの農民にしか見えんな」

 ​その視線は、俺を値踏みしている。
 父や兄、イザベラが向けてきた「侮蔑」とは違う。
 純粋な「疑い」と「警戒」の目だ。

 ​「(こいつ、他の奴らとは違うな……)」

 俺は、直感的にそう感じた。

 ​「王都での疫病騒ぎ、そしてこの辺境領の不作と魔物の活発化。その全ての原因が、バルフォア子爵領にあることは掴んでいる」

 アナスタシアは、淡々と語る。

「だが、この村だけが、その厄災を免れ、あまつさえ異常な豊作を謳歌している。……説明しろ、アルト。貴様、何者だ?」

 ​鋭い問い。
 もし俺が「魔王の力で……」とか言えば、即座に斬りかかってきそうな気迫だ。

「言ったろ。ただの農家だ」

 俺は、動じない。

「バルフォア家からは追放された。このクワ(ガイア)で、この土地を耕したら、美味い野菜が育った。それだけだ」
「……フン。その『クワ』が、伝説級の魔道具(アーティファクト)であることには気づいているぞ」

 アナスタシアは、さすが公爵と言うべきか、ガイアの放つ尋常ならざるオーラを感じ取っていた。

「だが、それだけでは、この土地全体を蘇らせるほどの力の説明にはならん。貴様自身のスキルが、異常なのだ」

 ​(バレてる……!)

【神聖農業】のことまでは分からなくとも、俺のスキルがヤバいことには気づいているらしい。
 ​アナスタシアは、俺の畑をゆっくりと歩き始める。
【爆裂トマト】を見て、「危険な植物兵器だ」と呟き。
【鋼鉄カボチャ】を指で弾き、「オリハルコン並みの硬度……馬鹿な」と驚愕し。
【超回復ハーブ】の香りを嗅ぎ、「聖女セレナが夢中になるわけだ……」と納得していた。
 ​彼女は、終始冷静だった。
 だが、その冷静さが、ある一点で崩れた。
 ​畑の隅。
 俺が、リリアたち村の女の子が喜ぶかと思って、趣味で育てていた「花畑」の前で。

「……この花は、なんだ?」

 アナスタシアの足が止まった。
 そこに咲いていたのは、夜空の星々を溶かし込んだような、青く、幻想的に輝く「バラ」だった。

「あ、それ?  肥料(ガイアの魔力)の配合間違えたら、なんか光るバラが咲いたんだ」

 俺がそう言うと、アナスタシアは、まるで何かに取り憑かれたかのように、そのバラに近づいた。

《フム。あれは【魅惑のバラ(チャーム・ローズ)】よ。主の過剰な生命力が、花の『魅了』効果を暴走させておる。触れれば、精神が弛緩し、本能が剥き出しになるぞ》
(おいガイア!  もっと早く言えよ!)
「(ツンツンしてるこの人、ヤバいんじゃ……)」

 俺が焦った、その時。
 アナスタシアは、公務のストレスと緊張からか、無意識にその青いバラの香りを、深く吸い込んでしまっていた。
 ​フワリ、と。
 魅惑の香りが、彼女の鼻腔をくすぐる。

 ​「なっ……!」

 ​次の瞬間。
 アナスタシアの、氷のように冷たかった表情が、一気に崩れた。
 頬が、カッと赤く染まり。
 その瞳が、潤んでいく。

 ​「な、なんだ、これは……!  体が……あつい……!  頭が、ぼーっと……」

 アナスタシアは、よろめいた。
 俺は、慌ててその華奢な体を支える。

「だ、大丈夫か、公爵様!」
「さ、触るな、無礼者……!」 

 彼女は俺を突き放そうとするが、力が入らない。
 それどころか、俺の土と汗の匂い(農家)に、さらに顔を赤らめる。

「ふ、不覚だ……!  こんな、ただの花の香りで……私が……!」
「(すげえ効き目だなおい!)」
「だが……!  なんて香りなの……!  この、心が解き放たれるような感覚は……!  ふ、不覚にも……と、ときめいて……しまった……!」

(はい、モテフラグ③いただきましたーーー!)

 ​アナスタシアは、俺の腕の中で、必死に理性を保とうと震えていた。

「こ、このバラ!  全て買い取る!  いや、この畑ごと、アークライト公爵家の管理下に置く!」
「ええ!?  ちょ、それは横暴だろ!」
「うるさい!  貴様もだ、アルト!  貴様は、私の……私の専属庭師として、城に来てもらう!」

 ​ツンツンクール令嬢が、まさかのデレ(?)&強引お持ち帰り宣言!?
 こうして、俺の知らぬ間に、俺の争奪戦は、聖女と公爵令嬢を巻き込んで、さらに激化していくのだった。
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