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第一章・覚醒 編
第3話:盾の少女と「力」の拾得
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静寂が「冒険者の墓場」を支配していた。
三匹のホブゴブリンが、緑色の血だまりに沈んでいる。
俺は、その中心で荒い息をつきながら、手にした「折れた名工の剣」を見つめていた。
【剣術LV3】のスキルが、俺の体を勝手に動かした。まるで熟練の剣士であるかのように、淀みなく敵を切り伏せた。
これが、俺の新しい力。
「あ……あの……」
壁際から、震える声がした。
ハッとして振り返ると、狼族の少女が、傷ついた左腕を押さえながら、怯えと戸惑いの入り混じった瞳で俺を見つめていた。
彼女の足元には、その身には不釣り合いなほど巨大な、傷だらけの大盾が転がっている。
「大丈夫か、怪我は……」
俺は剣をアイテムボックスにしまい、一歩近づいた。
少女は「ひっ」と小さな悲鳴をあげ、身を固くする。
(……怯えさせているのか)
無理もない。
血まみれの男が、いきなり現れて魔物を瞬殺したのだ。
俺は両手を軽く上げ、敵意がないことを示す。
「俺はエディ。見ての通り、ただの冒険者だ。……いや、冒険者だった、かな」
自嘲気味にそう言うと、少女は少しだけ体の力を抜いた。
「……わ、わたしは……フェン」
「フェン、か。ひどい怪我だ。左腕……ホブゴブリンにやられたのか?」
「……はい。さっきの戦闘で……」
彼女の左腕の革鎧は引き裂かれ、そこから覗く素肌は痛々しく腫れ上がっていた。おそらく、骨にもヒビが入っている。
(治癒スキルは……持っていない)
俺がこの「墓場」で拾ったスキルは、戦闘系のものばかりだ。
聖女セシリアがいたら、【治癒の光】で一瞬だろうが……。
(……いや、あいつらのことを思い出すのはよそう)
俺はアイテムボックスを開いた。
「ポーションは持ってるか?」
「……いえ、仲間が……全部……」
フェンは、俯いて消え入りそうな声で答えた。
その言葉に、俺は眉をひそめた。
「仲間? あんた、一人じゃなかったのか? さっき、誰かの名前を呼んでいなかったか。『アルト』とか」
その名前を出した瞬間、フェンの肩がビクリと跳ね上がった。
彼女の琥珀色の瞳が、絶望と、裏切られた者の怒りで揺らぐ。
それは、数時間前の俺と、まったく同じ目だった。
「……アルトは……わたくしのパーティーの、リーダーでした」
フェンは、唇を噛みしめながら、絞り出すように言った。
「わたくしたちは、この『墓場』の主……オークジェネラルに、挑んだのです」
「オークジェネラル!?」
俺は息を呑んだ。
Bランクダンジョンの下層の主。並のAランクパーティーでも苦戦するという、強力なボスモンスターだ。レオンたちでさえ、討伐にはかなり手こずっていた。
「わたくしのスキルは【絶対守護】。Aランクの防御スキルです。だから、わたくしが盾役を……」
「Aランクスキル……!?」
驚愕した。
目の前の少女は、俺がゴミ扱いされていた一方で、Aランクという才能を持っていたのだ。
それほどのスキルがありながら、なぜこんな目に。
「……ですが、オークジェネラルの攻撃は、重すぎました。わたくしは耐えましたが、リーダーのアルトが……魔術師の呪文詠唱を、邪魔されたんです」
フェンは、過去を思い出すように、虚空を見つめた。
「アルトは……言いました。『フェン、持ちこたえろ。一度体勢を立て直す。お前がここで10分稼げば、戻ってきて加勢する』と……」
それを聞いた瞬間、俺の頭に血が昇るのがわかった。
馬鹿でもわかる。
それは、あまりにも使い古された、「捨て駒」の常套句だ。
「……それで、あんたは信じたのか」
「信じました! わたくしは盾役ですから! 仲間を守るのが、わたくしの誇りですから! だから、必死で耐えました……! 腕が折れそうになっても、スキルを酷使して魔力が尽きそうになっても……!」
フェンの声に、熱がこもる。
狼の耳が、悔しさにピンと張り詰めていた。
「でも……10分経っても、20分経っても、誰も戻ってこなかった! オークジェネラルが、わたくしに飽きてどこかへ行った後も……誰も!」
「……そうか」
「わたくしは……捨てられたんです! オークジェネラルを足止めするための、囮として!」
ついに、彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「アルトたちは、わたくしをここに残して、地上へ逃げたんです……! 追ってきたホブゴブリンに襲われて……もうダメかと思った時に、あなたが……」
俺は、強く拳を握りしめていた。
胸が、焼けるように熱い。
アルトとかいうリーダー。
俺を追放した、勇者レオン。
やっていることは、まったく同じだ。
自分たちの都合で仲間をパーティーに入れ、利用価値がなくなれば、あるいは自分たちの危険を回避するためなら、平気で仲間を「ゴミ」のように切り捨てる。
ふざけるな。
ふざけるな……!
「……立てるか、フェン」
俺は、怒りを抑え込み、できるだけ静かな声で言った。
「……え?」
「ポーションは、俺も持っていない。だが、レオン……いや、前のパーティーにいた時、荷物持ちとして包帯や傷薬は持たされていた。アイテムボックスに放り込んだままだ」
俺は【空間収納】から、セシリアが管理していた救急箱を取り出した。
あいつらは、こんなものまで「パーティーの共有物」だと言って、俺から奪おうとしたんだ。
俺はフェンのそばに膝をつき、慣れない手つきで彼女の腕に応急処置を施し始めた。
【高速思考】が、負傷の具合を冷静に分析する。
(骨折はしていない。だが、筋繊維がかなり断裂している。下手に動かせば、後遺症が残る)
「あ……」
俺の手が傷口に触れると、フェンが小さく身をよじった。
「すまん、痛むか」
「いえ……冷たくて……気持ちいい、です。……あの、エディさんは、治癒スキルを?」
「いや。ただの荷物持ちだったからな。見よう見まねだ」
俺は、救急箱に入っていた薬草をすり潰し、傷口に塗り込む。
これは、俺が【ゴミ拾い】で拾った、ただの「雑草のカケラ」を、セシリアが「これは止血草の根だから、捨てないで」と教えてくれたものだった。
あの時は役立たずと罵られたスキルが、今、目の前の命を繋ごうとしている。
「荷物持ち……? でも、さっきの戦いぶりは……」
「俺も、あんたと同じだ」
俺は、包帯をきつく巻きながら、吐き捨てた。
「Fランクスキルは『ゴミ拾い』。そう言われて、勇者パーティーを追放された。つい数時間前にな」
「え……勇者パーティー!?」
フェンが、信じられないという顔で俺を見た。
「あの『暁の聖剣』の……!?」
「ああ。俺は、あんたの言うアルトたちや、俺を捨てたレオンたちが……心底、許せない」
処置が終わった。完璧とは言えないが、止血はできた。
俺は立ち上がり、フェンに向き直った。
「フェン。あんたは、どうしたい?」
「……え?」
「あんたを捨てたアルトたちに、復讐したいか?」
俺の真っ直ぐな視線を受けて、フェンはゴクリと喉を鳴らした。
彼女の琥珀色の瞳に、迷いと、そして、抑えきれない怒りの炎が宿る。
「……したい。でも、わたくしには、もう力が……この腕では、盾も……」
「力がなければ、手に入れればいい」
俺は、そう断言した。
「俺のスキルは【ゴミ拾い】じゃない。【万物拾得】。捨てられたモノから、力を拾うスキルだ」
「万物……拾得……?」
「そうだ。この『冒険者の墓場』は、俺たちにとって宝の山だ」
俺は、先ほど【剣術LV3】や【アイテムボックスLV5】を手に入れた骸たちを見渡した。
(さっきは、スキルだけを拾った。だが、まだ残っているはずだ。彼らが失った、すべてが……!)
俺は、最初に【剣術LV3】を拾った、折れた剣の持ち主の骸の前に立った。
【高速思考】が、俺のスキルの可能性を検索する。
(スキルは拾った。だが、この剣士が持っていたのはそれだけじゃないはずだ。彼が鍛え上げた『肉体』そのものが、ここに失われている……!)
俺は、その骸に再び手をかざした。
「【万物拾得】――発動!」
『スキル【万物拾得】が発動します』
『対象:名もなき剣士の骸』
『所有者が「喪失」した能力の「欠片」を拾得します』
『【筋力 LV4】のスキルの欠片(5/10)を拾得しました』
キタッ……!
やっぱりだ!
スキルだけじゃない! ステータスに直結する、能力の「欠片」も拾えるんだ!
俺は歓喜に震えた。
俺の基礎ステータスは、一般人以下のゴミだ。
だが、このスキルさえあれば……!
俺は、墓場に転がる亡骸たちに、次々と手をかざしていった。
穴だらけの盾を持っていた亡骸(【盾術LV2】を拾った相手)
『【体力 LV3】のスキルの欠片(4/10)を拾得しました』
ボロボロのローブを着た魔術師の亡骸(【魔力操作LV1】を拾った相手)
『【魔力 LV2】のスキルの欠片(3/5)を拾得しました』
そして、アイテムボックスの指輪をはめていた、パーティーリーダーらしき亡骸。
『【統率 LV1】のスキルの欠片(1/5)を拾得しました』
すごい。
筋力、体力、魔力。
冒険者に必要なあらゆる力を、俺は「拾って」いく。
しかも、元々の持ち主が強かったからか、拾える欠片のレベルも高い。
俺は、先ほど倒したホブゴブリンや、道中で倒したオーク、ゴブリンたちの死体からも、律儀に欠片を回収した。
それらはレベルこそ低いが、数を集めれば力になる。
そして、俺のステータスウィンドウで、「スキルの欠片」の欄がパンパンになった時。
俺は、スキルのもう一つの可能性に気づいた。
(【万物拾得】の効果3:『拾得した「欠片」を蓄積・合成し、新たなスキルやアイテムを創造できる』……)
(合成……だと!?)
俺は、試しに念じてみた。
(【筋力】の欠片を、すべて合成しろ!)
『スキル合成が実行されます』
『【筋力 LV4】(5/10) + 【怪力 LV1】(オークから拾得 10/10) + その他ゴブリン・ホブゴブリンの筋力欠片』
『……合成中……』
『スキル【筋力 LV5】を習得しました』
「う……おおおおおっ!?」
声にならない雄叫びが漏れた。
全身の筋肉が、まるで灼熱の鉄を流し込まれたかのように膨れ上がり、引き締まっていく!
今までとは比べ物にならない「力」が、俺の腕に宿るのがわかった。
俺のステータスウィンドウの「筋力:15」というゴミ数値は変わらない。
だが、俺は今、スキルとして【筋力 LV5】を手に入れた!
これは、Aランク戦士にも匹敵するパワーだ!
俺は、立て続けに合成を実行した。
『【体力 LV3】(4/10) + 【頑強 LV1】(オークから拾得 5/5) + その他欠片』
『スキル【体力 LV4】を習得しました』
体が、岩のように硬質化していく。
疲労が完全に吹き飛び、スタミナが無限に湧いてくるようだ。
『【魔力 LV2】(3/5) + その他欠片』
『スキル【魔力 LV2】を習得しました』
(魔術師の骸が少なかったため、レベルは低いが、それでも俺の元の魔力「8」より遥かにマシだ)
そして、ゴブリンから集めた欠片。
『【敏捷 LV1】(5/5)』
これはすでにスキル化していたが、さらに他の欠片と合成する。
『スキル【敏捷 LV2】に進化しました』
全身が、雷光と化したかのような錯覚。
今なら、ホブゴブリンの攻撃も、余裕で避けられる!
「エディさん……あなた、一体……」
フェンが、俺の異様な変化を目の当たりにして、呆然と呟いた。
俺の体から、拾得したばかりの膨大な力が、オーラのように立ち上っていた。
「言っただろ、フェン。俺たちは、捨てられたんじゃない。解き放たれたんだ」
俺は、生まれ変わった体で、力強く拳を握った。
(レオン……リリア……ガイル……!)
(あんたたちが俺を捨てた時の俺は、もういない)
(あんたたちがゴミと罵った力で、俺は最強になる……!)
その、時だった。
―――グオオオオオオオオオオオオオッッ!!!
ダンジョンの奥底から、地響きと共に、すさまじい咆哮が轟いた。
さっきまでのホブゴブリンとは、比較にならない威圧感。
この「冒険者の墓場」の空気が、震えた。
「……っ! まさか……!」
フェンが、絶望に顔を青ざめさせる。
「オークジェネラル……! わたくしを追ってきたホブゴブリンの血の匂いを嗅ぎつけて……戻ってきたんだ……!」
暗い通路の向こうから、巨大な影が近づいてくる。
二つの、燃えるような赤い目が、こちらを睨みつけていた。
体長は5メートルを超えるだろうか。
全身を禍々しい黒鉄の鎧で覆い、その手には、人間を軽々と両断できそうな巨大な戦斧が握られている。
Bランクダンジョンの主、オークジェネラル。
Aランクパーティー「アルト」一行が、フェンを犠牲にしてまで逃げ出した、絶望の象徴。
「ひ……!」
フェンは、傷ついた腕で、必死に大盾を掴もうとする。
だが、腕に力が入らず、盾は虚しく床を滑るだけだ。
「だめ……わたくしは、もう戦えない……!」
「いいや」
俺は、絶望する彼女の前に、ゆっくりと進み出た。
アイテムボックスから、再び「折れた名工の剣」を取り出す。
刀身は折れ、ボロボロのゴミ。
だが、今の俺の腕には、Aランク戦士に匹敵する【筋力 LV5】が宿っている。
「エディさん!? あなた、何を……!?」
「フェン」
俺は、振り返らずに言った。
「あんたは、アルトたちの盾だった。ずっと、仲間を守ってきたんだ」
オークジェネラルが、俺たちを視界に捉え、威嚇するように戦斧を振り上げた。
「だから、今度は俺がなる」
俺は、折れた剣を構えた。
【高速思考 LV1】が、敵の巨体をスキャンする。
【剣術 LV3】が、カウンターの型を導き出す。
【敏捷 LV2】が、俺の体を戦闘態勢へと移行させる。
「あんたの盾に」
俺は、ゴミと罵られた男。
Aランクパーティーから逃げ出された、Bランクダンジョンの主。
今、この場所で、ありえないはずの戦いが始まろうとしていた。
三匹のホブゴブリンが、緑色の血だまりに沈んでいる。
俺は、その中心で荒い息をつきながら、手にした「折れた名工の剣」を見つめていた。
【剣術LV3】のスキルが、俺の体を勝手に動かした。まるで熟練の剣士であるかのように、淀みなく敵を切り伏せた。
これが、俺の新しい力。
「あ……あの……」
壁際から、震える声がした。
ハッとして振り返ると、狼族の少女が、傷ついた左腕を押さえながら、怯えと戸惑いの入り混じった瞳で俺を見つめていた。
彼女の足元には、その身には不釣り合いなほど巨大な、傷だらけの大盾が転がっている。
「大丈夫か、怪我は……」
俺は剣をアイテムボックスにしまい、一歩近づいた。
少女は「ひっ」と小さな悲鳴をあげ、身を固くする。
(……怯えさせているのか)
無理もない。
血まみれの男が、いきなり現れて魔物を瞬殺したのだ。
俺は両手を軽く上げ、敵意がないことを示す。
「俺はエディ。見ての通り、ただの冒険者だ。……いや、冒険者だった、かな」
自嘲気味にそう言うと、少女は少しだけ体の力を抜いた。
「……わ、わたしは……フェン」
「フェン、か。ひどい怪我だ。左腕……ホブゴブリンにやられたのか?」
「……はい。さっきの戦闘で……」
彼女の左腕の革鎧は引き裂かれ、そこから覗く素肌は痛々しく腫れ上がっていた。おそらく、骨にもヒビが入っている。
(治癒スキルは……持っていない)
俺がこの「墓場」で拾ったスキルは、戦闘系のものばかりだ。
聖女セシリアがいたら、【治癒の光】で一瞬だろうが……。
(……いや、あいつらのことを思い出すのはよそう)
俺はアイテムボックスを開いた。
「ポーションは持ってるか?」
「……いえ、仲間が……全部……」
フェンは、俯いて消え入りそうな声で答えた。
その言葉に、俺は眉をひそめた。
「仲間? あんた、一人じゃなかったのか? さっき、誰かの名前を呼んでいなかったか。『アルト』とか」
その名前を出した瞬間、フェンの肩がビクリと跳ね上がった。
彼女の琥珀色の瞳が、絶望と、裏切られた者の怒りで揺らぐ。
それは、数時間前の俺と、まったく同じ目だった。
「……アルトは……わたくしのパーティーの、リーダーでした」
フェンは、唇を噛みしめながら、絞り出すように言った。
「わたくしたちは、この『墓場』の主……オークジェネラルに、挑んだのです」
「オークジェネラル!?」
俺は息を呑んだ。
Bランクダンジョンの下層の主。並のAランクパーティーでも苦戦するという、強力なボスモンスターだ。レオンたちでさえ、討伐にはかなり手こずっていた。
「わたくしのスキルは【絶対守護】。Aランクの防御スキルです。だから、わたくしが盾役を……」
「Aランクスキル……!?」
驚愕した。
目の前の少女は、俺がゴミ扱いされていた一方で、Aランクという才能を持っていたのだ。
それほどのスキルがありながら、なぜこんな目に。
「……ですが、オークジェネラルの攻撃は、重すぎました。わたくしは耐えましたが、リーダーのアルトが……魔術師の呪文詠唱を、邪魔されたんです」
フェンは、過去を思い出すように、虚空を見つめた。
「アルトは……言いました。『フェン、持ちこたえろ。一度体勢を立て直す。お前がここで10分稼げば、戻ってきて加勢する』と……」
それを聞いた瞬間、俺の頭に血が昇るのがわかった。
馬鹿でもわかる。
それは、あまりにも使い古された、「捨て駒」の常套句だ。
「……それで、あんたは信じたのか」
「信じました! わたくしは盾役ですから! 仲間を守るのが、わたくしの誇りですから! だから、必死で耐えました……! 腕が折れそうになっても、スキルを酷使して魔力が尽きそうになっても……!」
フェンの声に、熱がこもる。
狼の耳が、悔しさにピンと張り詰めていた。
「でも……10分経っても、20分経っても、誰も戻ってこなかった! オークジェネラルが、わたくしに飽きてどこかへ行った後も……誰も!」
「……そうか」
「わたくしは……捨てられたんです! オークジェネラルを足止めするための、囮として!」
ついに、彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「アルトたちは、わたくしをここに残して、地上へ逃げたんです……! 追ってきたホブゴブリンに襲われて……もうダメかと思った時に、あなたが……」
俺は、強く拳を握りしめていた。
胸が、焼けるように熱い。
アルトとかいうリーダー。
俺を追放した、勇者レオン。
やっていることは、まったく同じだ。
自分たちの都合で仲間をパーティーに入れ、利用価値がなくなれば、あるいは自分たちの危険を回避するためなら、平気で仲間を「ゴミ」のように切り捨てる。
ふざけるな。
ふざけるな……!
「……立てるか、フェン」
俺は、怒りを抑え込み、できるだけ静かな声で言った。
「……え?」
「ポーションは、俺も持っていない。だが、レオン……いや、前のパーティーにいた時、荷物持ちとして包帯や傷薬は持たされていた。アイテムボックスに放り込んだままだ」
俺は【空間収納】から、セシリアが管理していた救急箱を取り出した。
あいつらは、こんなものまで「パーティーの共有物」だと言って、俺から奪おうとしたんだ。
俺はフェンのそばに膝をつき、慣れない手つきで彼女の腕に応急処置を施し始めた。
【高速思考】が、負傷の具合を冷静に分析する。
(骨折はしていない。だが、筋繊維がかなり断裂している。下手に動かせば、後遺症が残る)
「あ……」
俺の手が傷口に触れると、フェンが小さく身をよじった。
「すまん、痛むか」
「いえ……冷たくて……気持ちいい、です。……あの、エディさんは、治癒スキルを?」
「いや。ただの荷物持ちだったからな。見よう見まねだ」
俺は、救急箱に入っていた薬草をすり潰し、傷口に塗り込む。
これは、俺が【ゴミ拾い】で拾った、ただの「雑草のカケラ」を、セシリアが「これは止血草の根だから、捨てないで」と教えてくれたものだった。
あの時は役立たずと罵られたスキルが、今、目の前の命を繋ごうとしている。
「荷物持ち……? でも、さっきの戦いぶりは……」
「俺も、あんたと同じだ」
俺は、包帯をきつく巻きながら、吐き捨てた。
「Fランクスキルは『ゴミ拾い』。そう言われて、勇者パーティーを追放された。つい数時間前にな」
「え……勇者パーティー!?」
フェンが、信じられないという顔で俺を見た。
「あの『暁の聖剣』の……!?」
「ああ。俺は、あんたの言うアルトたちや、俺を捨てたレオンたちが……心底、許せない」
処置が終わった。完璧とは言えないが、止血はできた。
俺は立ち上がり、フェンに向き直った。
「フェン。あんたは、どうしたい?」
「……え?」
「あんたを捨てたアルトたちに、復讐したいか?」
俺の真っ直ぐな視線を受けて、フェンはゴクリと喉を鳴らした。
彼女の琥珀色の瞳に、迷いと、そして、抑えきれない怒りの炎が宿る。
「……したい。でも、わたくしには、もう力が……この腕では、盾も……」
「力がなければ、手に入れればいい」
俺は、そう断言した。
「俺のスキルは【ゴミ拾い】じゃない。【万物拾得】。捨てられたモノから、力を拾うスキルだ」
「万物……拾得……?」
「そうだ。この『冒険者の墓場』は、俺たちにとって宝の山だ」
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(さっきは、スキルだけを拾った。だが、まだ残っているはずだ。彼らが失った、すべてが……!)
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(スキルは拾った。だが、この剣士が持っていたのはそれだけじゃないはずだ。彼が鍛え上げた『肉体』そのものが、ここに失われている……!)
俺は、その骸に再び手をかざした。
「【万物拾得】――発動!」
『スキル【万物拾得】が発動します』
『対象:名もなき剣士の骸』
『所有者が「喪失」した能力の「欠片」を拾得します』
『【筋力 LV4】のスキルの欠片(5/10)を拾得しました』
キタッ……!
やっぱりだ!
スキルだけじゃない! ステータスに直結する、能力の「欠片」も拾えるんだ!
俺は歓喜に震えた。
俺の基礎ステータスは、一般人以下のゴミだ。
だが、このスキルさえあれば……!
俺は、墓場に転がる亡骸たちに、次々と手をかざしていった。
穴だらけの盾を持っていた亡骸(【盾術LV2】を拾った相手)
『【体力 LV3】のスキルの欠片(4/10)を拾得しました』
ボロボロのローブを着た魔術師の亡骸(【魔力操作LV1】を拾った相手)
『【魔力 LV2】のスキルの欠片(3/5)を拾得しました』
そして、アイテムボックスの指輪をはめていた、パーティーリーダーらしき亡骸。
『【統率 LV1】のスキルの欠片(1/5)を拾得しました』
すごい。
筋力、体力、魔力。
冒険者に必要なあらゆる力を、俺は「拾って」いく。
しかも、元々の持ち主が強かったからか、拾える欠片のレベルも高い。
俺は、先ほど倒したホブゴブリンや、道中で倒したオーク、ゴブリンたちの死体からも、律儀に欠片を回収した。
それらはレベルこそ低いが、数を集めれば力になる。
そして、俺のステータスウィンドウで、「スキルの欠片」の欄がパンパンになった時。
俺は、スキルのもう一つの可能性に気づいた。
(【万物拾得】の効果3:『拾得した「欠片」を蓄積・合成し、新たなスキルやアイテムを創造できる』……)
(合成……だと!?)
俺は、試しに念じてみた。
(【筋力】の欠片を、すべて合成しろ!)
『スキル合成が実行されます』
『【筋力 LV4】(5/10) + 【怪力 LV1】(オークから拾得 10/10) + その他ゴブリン・ホブゴブリンの筋力欠片』
『……合成中……』
『スキル【筋力 LV5】を習得しました』
「う……おおおおおっ!?」
声にならない雄叫びが漏れた。
全身の筋肉が、まるで灼熱の鉄を流し込まれたかのように膨れ上がり、引き締まっていく!
今までとは比べ物にならない「力」が、俺の腕に宿るのがわかった。
俺のステータスウィンドウの「筋力:15」というゴミ数値は変わらない。
だが、俺は今、スキルとして【筋力 LV5】を手に入れた!
これは、Aランク戦士にも匹敵するパワーだ!
俺は、立て続けに合成を実行した。
『【体力 LV3】(4/10) + 【頑強 LV1】(オークから拾得 5/5) + その他欠片』
『スキル【体力 LV4】を習得しました』
体が、岩のように硬質化していく。
疲労が完全に吹き飛び、スタミナが無限に湧いてくるようだ。
『【魔力 LV2】(3/5) + その他欠片』
『スキル【魔力 LV2】を習得しました』
(魔術師の骸が少なかったため、レベルは低いが、それでも俺の元の魔力「8」より遥かにマシだ)
そして、ゴブリンから集めた欠片。
『【敏捷 LV1】(5/5)』
これはすでにスキル化していたが、さらに他の欠片と合成する。
『スキル【敏捷 LV2】に進化しました』
全身が、雷光と化したかのような錯覚。
今なら、ホブゴブリンの攻撃も、余裕で避けられる!
「エディさん……あなた、一体……」
フェンが、俺の異様な変化を目の当たりにして、呆然と呟いた。
俺の体から、拾得したばかりの膨大な力が、オーラのように立ち上っていた。
「言っただろ、フェン。俺たちは、捨てられたんじゃない。解き放たれたんだ」
俺は、生まれ変わった体で、力強く拳を握った。
(レオン……リリア……ガイル……!)
(あんたたちが俺を捨てた時の俺は、もういない)
(あんたたちがゴミと罵った力で、俺は最強になる……!)
その、時だった。
―――グオオオオオオオオオオオオオッッ!!!
ダンジョンの奥底から、地響きと共に、すさまじい咆哮が轟いた。
さっきまでのホブゴブリンとは、比較にならない威圧感。
この「冒険者の墓場」の空気が、震えた。
「……っ! まさか……!」
フェンが、絶望に顔を青ざめさせる。
「オークジェネラル……! わたくしを追ってきたホブゴブリンの血の匂いを嗅ぎつけて……戻ってきたんだ……!」
暗い通路の向こうから、巨大な影が近づいてくる。
二つの、燃えるような赤い目が、こちらを睨みつけていた。
体長は5メートルを超えるだろうか。
全身を禍々しい黒鉄の鎧で覆い、その手には、人間を軽々と両断できそうな巨大な戦斧が握られている。
Bランクダンジョンの主、オークジェネラル。
Aランクパーティー「アルト」一行が、フェンを犠牲にしてまで逃げ出した、絶望の象徴。
「ひ……!」
フェンは、傷ついた腕で、必死に大盾を掴もうとする。
だが、腕に力が入らず、盾は虚しく床を滑るだけだ。
「だめ……わたくしは、もう戦えない……!」
「いいや」
俺は、絶望する彼女の前に、ゆっくりと進み出た。
アイテムボックスから、再び「折れた名工の剣」を取り出す。
刀身は折れ、ボロボロのゴミ。
だが、今の俺の腕には、Aランク戦士に匹敵する【筋力 LV5】が宿っている。
「エディさん!? あなた、何を……!?」
「フェン」
俺は、振り返らずに言った。
「あんたは、アルトたちの盾だった。ずっと、仲間を守ってきたんだ」
オークジェネラルが、俺たちを視界に捉え、威嚇するように戦斧を振り上げた。
「だから、今度は俺がなる」
俺は、折れた剣を構えた。
【高速思考 LV1】が、敵の巨体をスキャンする。
【剣術 LV3】が、カウンターの型を導き出す。
【敏捷 LV2】が、俺の体を戦闘態勢へと移行させる。
「あんたの盾に」
俺は、ゴミと罵られた男。
Aランクパーティーから逃げ出された、Bランクダンジョンの主。
今、この場所で、ありえないはずの戦いが始まろうとしていた。
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しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
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絶望の淵から這い上がり、圧倒的な力を手に入れた湊は「クロ」と名を変え、過去を捨てる。孤独な精霊使いの少女・楓、騎士団を追われた不器用な重戦士・龍司――虐げられてきた者たちとの出会いを経て、新パーティー「アヴァロン」を結成する。
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#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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