【ゴミ拾い】と呼ばれ勇者パーティーを追放された俺…だがこのスキル、実はSSSランクの【万物拾得】だったらしい。

うはっきゅう

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第一章・覚醒 編

第3話:盾の少女と「力」の拾得

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 静寂が「冒険者の墓場」を支配していた。
 三匹のホブゴブリンが、緑色の血だまりに沈んでいる。
 俺は、その中心で荒い息をつきながら、手にした「折れた名工の剣」を見つめていた。
 【剣術LV3】のスキルが、俺の体を勝手に動かした。まるで熟練の剣士であるかのように、淀みなく敵を切り伏せた。
 これが、俺の新しい力。

「あ……あの……」
 壁際から、震える声がした。
 ハッとして振り返ると、狼族の少女が、傷ついた左腕を押さえながら、怯えと戸惑いの入り混じった瞳で俺を見つめていた。
 彼女の足元には、その身には不釣り合いなほど巨大な、傷だらけの大盾タワーシールドが転がっている。

「大丈夫か、怪我は……」
 俺は剣をアイテムボックスにしまい、一歩近づいた。
 少女は「ひっ」と小さな悲鳴をあげ、身を固くする。
(……怯えさせているのか)
 無理もない。
 血まみれの男が、いきなり現れて魔物を瞬殺したのだ。
 俺は両手を軽く上げ、敵意がないことを示す。

「俺はエディ。見ての通り、ただの冒険者だ。……いや、冒険者だった、かな」
 自嘲気味にそう言うと、少女は少しだけ体の力を抜いた。
「……わ、わたしは……フェン」
「フェン、か。ひどい怪我だ。左腕……ホブゴブリンにやられたのか?」
「……はい。さっきの戦闘で……」
 彼女の左腕の革鎧は引き裂かれ、そこから覗く素肌は痛々しく腫れ上がっていた。おそらく、骨にもヒビが入っている。

(治癒スキルは……持っていない)
 俺がこの「墓場」で拾ったスキルは、戦闘系のものばかりだ。
 聖女セシリアがいたら、【治癒の光ヒールライト】で一瞬だろうが……。
(……いや、あいつらのことを思い出すのはよそう)
 俺はアイテムボックスを開いた。
「ポーションは持ってるか?」
「……いえ、仲間が……全部……」
 フェンは、俯いて消え入りそうな声で答えた。
 その言葉に、俺は眉をひそめた。

「仲間? あんた、一人じゃなかったのか? さっき、誰かの名前を呼んでいなかったか。『アルト』とか」
 その名前を出した瞬間、フェンの肩がビクリと跳ね上がった。
 彼女の琥珀色の瞳が、絶望と、裏切られた者の怒りで揺らぐ。
 それは、数時間前の俺と、まったく同じ目だった。

「……アルトは……わたくしのパーティーの、リーダーでした」
 フェンは、唇を噛みしめながら、絞り出すように言った。
「わたくしたちは、この『墓場』の主……オークジェネラルに、挑んだのです」
「オークジェネラル!?」
 俺は息を呑んだ。
 Bランクダンジョンの下層の主。並のAランクパーティーでも苦戦するという、強力なボスモンスターだ。レオンたちでさえ、討伐にはかなり手こずっていた。

「わたくしのスキルは【絶対守護イージス】。Aランクの防御スキルです。だから、わたくしが盾役タンクを……」
「Aランクスキル……!?」
 驚愕した。
 目の前の少女は、俺がゴミ扱いされていた一方で、Aランクという才能を持っていたのだ。
 それほどのスキルがありながら、なぜこんな目に。

「……ですが、オークジェネラルの攻撃は、重すぎました。わたくしは耐えましたが、リーダーのアルトが……魔術師の呪文詠唱を、邪魔されたんです」
 フェンは、過去を思い出すように、虚空を見つめた。
「アルトは……言いました。『フェン、持ちこたえろ。一度体勢を立て直す。お前がここで10分稼げば、戻ってきて加勢する』と……」

 それを聞いた瞬間、俺の頭に血が昇るのがわかった。
 馬鹿でもわかる。
 それは、あまりにも使い古された、「捨て駒」の常套句だ。

「……それで、あんたは信じたのか」
「信じました! わたくしは盾役ですから! 仲間を守るのが、わたくしの誇りですから! だから、必死で耐えました……! 腕が折れそうになっても、スキルを酷使して魔力が尽きそうになっても……!」
 フェンの声に、熱がこもる。
 狼の耳が、悔しさにピンと張り詰めていた。

「でも……10分経っても、20分経っても、誰も戻ってこなかった! オークジェネラルが、わたくしに飽きてどこかへ行った後も……誰も!」
「……そうか」
「わたくしは……捨てられたんです! オークジェネラルを足止めするための、囮として!」
 ついに、彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「アルトたちは、わたくしをここに残して、地上へ逃げたんです……! 追ってきたホブゴブリンに襲われて……もうダメかと思った時に、あなたが……」

 俺は、強く拳を握りしめていた。
 胸が、焼けるように熱い。
 アルトとかいうリーダー。
 俺を追放した、勇者レオン。
 やっていることは、まったく同じだ。

 自分たちの都合で仲間をパーティーに入れ、利用価値がなくなれば、あるいは自分たちの危険を回避するためなら、平気で仲間を「ゴミ」のように切り捨てる。
 ふざけるな。
 ふざけるな……!

「……立てるか、フェン」
 俺は、怒りを抑え込み、できるだけ静かな声で言った。
「……え?」
「ポーションは、俺も持っていない。だが、レオン……いや、前のパーティーにいた時、荷物持ちとして包帯や傷薬は持たされていた。アイテムボックスに放り込んだままだ」
 俺は【空間収納】から、セシリアが管理していた救急箱を取り出した。
 あいつらは、こんなものまで「パーティーの共有物」だと言って、俺から奪おうとしたんだ。

 俺はフェンのそばに膝をつき、慣れない手つきで彼女の腕に応急処置を施し始めた。
 【高速思考】が、負傷の具合を冷静に分析する。
(骨折はしていない。だが、筋繊維がかなり断裂している。下手に動かせば、後遺症が残る)

「あ……」
 俺の手が傷口に触れると、フェンが小さく身をよじった。
「すまん、痛むか」
「いえ……冷たくて……気持ちいい、です。……あの、エディさんは、治癒スキルを?」
「いや。ただの荷物持ちだったからな。見よう見まねだ」

 俺は、救急箱に入っていた薬草をすり潰し、傷口に塗り込む。
 これは、俺が【ゴミ拾い】で拾った、ただの「雑草のカケラ」を、セシリアが「これは止血草の根だから、捨てないで」と教えてくれたものだった。
 あの時は役立たずと罵られたスキルが、今、目の前の命を繋ごうとしている。

「荷物持ち……? でも、さっきの戦いぶりは……」
「俺も、あんたと同じだ」
 俺は、包帯をきつく巻きながら、吐き捨てた。
「Fランクスキルは『ゴミ拾い』。そう言われて、勇者パーティーを追放された。つい数時間前にな」
「え……勇者パーティー!?」
 フェンが、信じられないという顔で俺を見た。
「あの『暁の聖剣』の……!?」
「ああ。俺は、あんたの言うアルトたちや、俺を捨てたレオンたちが……心底、許せない」

 処置が終わった。完璧とは言えないが、止血はできた。
 俺は立ち上がり、フェンに向き直った。
「フェン。あんたは、どうしたい?」
「……え?」
「あんたを捨てたアルトたちに、復讐したいか?」

 俺の真っ直ぐな視線を受けて、フェンはゴクリと喉を鳴らした。
 彼女の琥珀色の瞳に、迷いと、そして、抑えきれない怒りの炎が宿る。
「……したい。でも、わたくしには、もう力が……この腕では、盾も……」
「力がなければ、手に入れればいい」
 俺は、そう断言した。

「俺のスキルは【ゴミ拾い】じゃない。【万物拾得オールゲッター】。捨てられたモノから、力を拾うスキルだ」
「万物……拾得……?」
「そうだ。この『冒険者の墓場』は、俺たちにとって宝の山だ」

 俺は、先ほど【剣術LV3】や【アイテムボックスLV5】を手に入れたむくろたちを見渡した。
(さっきは、スキルだけを拾った。だが、まだ残っているはずだ。彼らが失った、すべてが……!)

 俺は、最初に【剣術LV3】を拾った、折れた剣の持ち主の骸の前に立った。
 【高速思考】が、俺のスキルの可能性を検索する。
(スキルは拾った。だが、この剣士が持っていたのはそれだけじゃないはずだ。彼が鍛え上げた『肉体』そのものが、ここに失われている……!)

 俺は、その骸に再び手をかざした。
「【万物拾得】――発動!」

 『スキル【万物拾得】が発動します』
 『対象:名もなき剣士の骸』
 『所有者が「喪失」した能力の「欠片」を拾得します』
 『【筋力 LV4】のスキルの欠片(5/10)を拾得しました』

 キタッ……!
 やっぱりだ!
 スキルだけじゃない! ステータスに直結する、能力の「欠片」も拾えるんだ!

 俺は歓喜に震えた。
 俺の基礎ステータスは、一般人以下のゴミだ。
 だが、このスキルさえあれば……!

 俺は、墓場に転がる亡骸たちに、次々と手をかざしていった。

 穴だらけの盾を持っていた亡骸(【盾術LV2】を拾った相手)
 『【体力 LV3】のスキルの欠片(4/10)を拾得しました』

 ボロボロのローブを着た魔術師の亡骸(【魔力操作LV1】を拾った相手)
 『【魔力 LV2】のスキルの欠片(3/5)を拾得しました』

 そして、アイテムボックスの指輪をはめていた、パーティーリーダーらしき亡骸。
 『【統率 LV1】のスキルの欠片(1/5)を拾得しました』

 すごい。
 筋力、体力、魔力。
 冒険者に必要なあらゆる力を、俺は「拾って」いく。
 しかも、元々の持ち主が強かったからか、拾える欠片のレベルも高い。

 俺は、先ほど倒したホブゴブリンや、道中で倒したオーク、ゴブリンたちの死体からも、律儀に欠片を回収した。
 それらはレベルこそ低いが、数を集めれば力になる。

 そして、俺のステータスウィンドウで、「スキルの欠片」の欄がパンパンになった時。
 俺は、スキルのもう一つの可能性に気づいた。

(【万物拾得】の効果3:『拾得した「欠片」を蓄積・合成し、新たなスキルやアイテムを創造できる』……)
(合成……だと!?)

 俺は、試しに念じてみた。
(【筋力】の欠片を、すべて合成しろ!)

 『スキル合成が実行されます』
 『【筋力 LV4】(5/10) + 【怪力 LV1】(オークから拾得 10/10) + その他ゴブリン・ホブゴブリンの筋力欠片』
 『……合成中……』
 『スキル【筋力 LV5】を習得しました』

「う……おおおおおっ!?」

 声にならない雄叫びが漏れた。
 全身の筋肉が、まるで灼熱の鉄を流し込まれたかのように膨れ上がり、引き締まっていく!
 今までとは比べ物にならない「力」が、俺の腕に宿るのがわかった。

 俺のステータスウィンドウの「筋力:15」というゴミ数値は変わらない。
 だが、俺は今、スキルとして【筋力 LV5】を手に入れた!
 これは、Aランク戦士にも匹敵するパワーだ!

 俺は、立て続けに合成を実行した。

 『【体力 LV3】(4/10) + 【頑強 LV1】(オークから拾得 5/5) + その他欠片』
 『スキル【体力 LV4】を習得しました』

 体が、岩のように硬質化していく。
 疲労が完全に吹き飛び、スタミナが無限に湧いてくるようだ。

 『【魔力 LV2】(3/5) + その他欠片』
 『スキル【魔力 LV2】を習得しました』
 (魔術師の骸が少なかったため、レベルは低いが、それでも俺の元の魔力「8」より遥かにマシだ)

 そして、ゴブリンから集めた欠片。
 『【敏捷 LV1】(5/5)』
 これはすでにスキル化していたが、さらに他の欠片と合成する。
 『スキル【敏捷 LV2】に進化しました』

 全身が、雷光と化したかのような錯覚。
 今なら、ホブゴブリンの攻撃も、余裕で避けられる!

「エディさん……あなた、一体……」
 フェンが、俺の異様な変化を目の当たりにして、呆然と呟いた。
 俺の体から、拾得したばかりの膨大な力が、オーラのように立ち上っていた。

「言っただろ、フェン。俺たちは、捨てられたんじゃない。解き放たれたんだ」
 俺は、生まれ変わった体で、力強く拳を握った。

(レオン……リリア……ガイル……!)
(あんたたちが俺を捨てた時の俺は、もういない)
(あんたたちがゴミと罵った力で、俺は最強になる……!)

 その、時だった。

 ―――グオオオオオオオオオオオオオッッ!!!

 ダンジョンの奥底から、地響きと共に、すさまじい咆哮が轟いた。
 さっきまでのホブゴブリンとは、比較にならない威圧感。
 この「冒険者の墓場」の空気が、震えた。

「……っ! まさか……!」
 フェンが、絶望に顔を青ざめさせる。
「オークジェネラル……! わたくしを追ってきたホブゴブリンの血の匂いを嗅ぎつけて……戻ってきたんだ……!」

 暗い通路の向こうから、巨大な影が近づいてくる。
 二つの、燃えるような赤い目が、こちらを睨みつけていた。
 体長は5メートルを超えるだろうか。
 全身を禍々しい黒鉄の鎧で覆い、その手には、人間を軽々と両断できそうな巨大な戦斧バトルアックスが握られている。

 Bランクダンジョンの主、オークジェネラル。
 Aランクパーティー「アルト」一行が、フェンを犠牲にしてまで逃げ出した、絶望の象徴。

「ひ……!」
 フェンは、傷ついた腕で、必死に大盾を掴もうとする。
 だが、腕に力が入らず、盾は虚しく床を滑るだけだ。
「だめ……わたくしは、もう戦えない……!」

「いいや」
 俺は、絶望する彼女の前に、ゆっくりと進み出た。
 アイテムボックスから、再び「折れた名工の剣」を取り出す。
 刀身は折れ、ボロボロのゴミ。
 だが、今の俺の腕には、Aランク戦士に匹敵する【筋力 LV5】が宿っている。

「エディさん!? あなた、何を……!?」
「フェン」
 俺は、振り返らずに言った。
「あんたは、アルトたちの盾だった。ずっと、仲間を守ってきたんだ」

 オークジェネラルが、俺たちを視界に捉え、威嚇するように戦斧を振り上げた。

「だから、今度は俺がなる」

 俺は、折れた剣を構えた。
 【高速思考 LV1】が、敵の巨体をスキャンする。
 【剣術 LV3】が、カウンターの型を導き出す。
 【敏捷 LV2】が、俺の体を戦闘態勢へと移行させる。

「あんたの盾に」

 俺は、ゴミと罵られた男。
 Aランクパーティーから逃げ出された、Bランクダンジョンの主。
 今、この場所で、ありえないはずの戦いが始まろうとしていた。
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