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第三章・魔王討伐編
第15話:砂海のゴミ拾いと、最悪の羅針盤
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王都を救ったあの日から、一週間が過ぎた。
俺たち「銀の翼」は、正式に国王アルフォンス三世から「魔王討伐の勅命」を受け、王城の一室で旅立ちの準備を進めていた。
「……というわけだ」
玉座の前で、ギルド総帥のガンドルフが、巨大な古地図を広げていた。
「魔王城は大陸最北端の『終焉の島』にある。だが、島全域が古代の大結界で覆われており、物理的にも魔術的にも侵入は不可能だ」
「そこで『四宝玉』、でしたか」
セシリアが、真剣な表情で地図を覗き込む。
「うむ」と国王が頷いた。
「結界を解く鍵は、大陸の四方に散らばる『古代神殿』に隠されている。火、水、風、土の四つの『宝玉』。それこそが、本来の勇者が集めるべきだった『本物の証』だ」
「……なんか、すげえ面倒くさそうだな」
リカルドが、王城の備品である高級そうな酒をラッパ飲みしながら、だるそうに呟いた。
「おい、大将。俺、やっぱやめていいか? 俺の呪い、暑いのも寒いのも苦手なんだぜ」
「却下だ。お前の【道連れ】は、神殿のボス相手に必須だろ」
「チッ。人使い、いや『呪い使い』が荒いぜ……」
「それで、ガンドルフ総帥。最初の『ゴミ溜め』はどこなんです?」
「……エディ殿。神殿をゴミ溜めと呼ぶのは、世界広しと言えど、貴殿くらいのものだろうな」
ガンドルフは苦笑しつつ、地図の一点を指さした。
「一つ目は、ここだ。王都より遥か南西。ザフィール大砂漠。通称『砂の海』。その中央に、『風の神殿』が眠っているとされている」
「砂漠……ですか」
フェンが、わずかに不安そうに狼の耳を伏せた。
「……暑いのは、少し、苦手かもしれません。毛皮が……」
「大丈夫だ、フェン」
俺は、フェンのモフモフの頭を撫でた。
「俺の空間収納には、冷たい水も氷も、いくらでも入ってる。それに……」
俺は、この一週間で「拾い集めた」アイテムの一つを取り出した。
『対象:冷気の護符』
『詳細:貴族がワインセラーに「投棄」していた、魔力で周囲を冷却する護符(ゴミ)』
「ほらよ。お守りだ」
「わっ、本当です! 涼しい……! ありがとうございます、エディさん!」
嬉しそうに尻尾を振るフェン。
それを見て、リカルドが「俺の酒も冷やしてくれよ、大将」とぼやき、セシリアに「不敬ですよ!」と叱られていた。
「国王陛下。ガンドルフ総帥」
俺は、地図を畳みながら言った。
「勅命、確かに受け取った。……だが、俺たちはあんたたちの『駒』になるつもりはねえ」
「……分かっている」
国王は、真剣な目で俺を見た。
「これは『命令』ではない。『願い』だ。……そして、これは、その『願い』の対価だ」
国王が差し出したのは、一枚の羊皮紙。
そこには、国王の印璽が押されていた。
『対象:王の勅許状』
『状態:新品』
『詳細:国王の全権代理人であることを示す証明書。これを持つ者は、国内のあらゆる施設を無償で利用でき、貴族と同等以上の権限を持つ』
(……ほう)
俺の口角が、ニヤリと上がった。
「【権力】の『概念』そのもの、か。……ありがたく『拾って』おくぜ」
俺がそれを受け取ると、リカルドの目がカッと見開かれた。
「おい、マジかよ大将! それって、宿代も酒代も、全部『ツケ』でいけるってことか!?」
「そういうことだ。……よかったな、リカルド。お前、一生俺にタダ酒でこき使われることが決定したぞ」
「うおおお、最高だぜ大将! 一生ついていく!」
「……リカルドさん、動機が不純すぎます……」
セシリアが、呆れたようにため息をついた。
こうして、俺たち「銀の翼」は、国王とギルド総帥に見送られ、王都を旅立った。
目指すは、南西の果て。ザフィール大砂漠。
四宝玉集めの、始まりだ。
◇ ◇ ◇
王都から馬車で十日。
俺たちは、「砂の海」の入り口に位置するオアシスの街、バハラに到着していた。
灼熱の太陽が照りつけ、乾いた風が砂埃を運んでくる。
王都とはまったく違う、エキゾチックな建物と、活気に満ちた市場の喧騒が俺たちを迎えた。
「うへぇ……マジで暑いな……。水、水……いや、酒だ……」
リカルドは、到着するなり酒場へ消えていった。
「エディさん、見てください! 砂トカゲの丸焼きです! 美味しそうです!」
フェンは、すっかり観光気分で目を輝かせている。
「二人とも、はしゃぎすぎです。まずは情報収集と、砂漠を渡る準備を……」
セシリアが、真面目に小言を言っている。
「……まぁ、いいだろ。少し休む。俺は、この街の『ゴミ捨て場』を偵察してくる」
「えっ、エディさんまで!?」
オアシスの街は、交易の中継地点だ。
多くの冒険者や商人が立ち寄り、そして、多くの「モノ」が捨てられていく。
俺にとって、ここは「宝の山」に他ならなかった。
俺は、街外れの巨大な「ジャンクヤード」に向かった。
そこは、壊れた荷車、錆びた武具、砂漠で力尽きた魔物の残骸などが、小高い丘を形成している場所だった。
鼻を突く異臭。だが、俺の【万物拾得】の目は、その「ゴミ」の山に、いくつかの「光」を見ていた。
『拾得:【耐熱】の欠片』
『拾得:【砂漠走行】の欠片』
『拾得:【解毒】の欠片』
砂漠に適応したスキルが、ゴロゴロ落ちている。
俺は、片っ端からそれらを「拾い」、自分と仲間たち(の装備)に付与していく。
「……ん?」
その時、俺の目が、ガラクタの山に埋もれた「何か」を捉えた。
それは、手のひらサイズの、真鍮でできた古い羅針盤だった。
ガラスは割れ、針は明後日の方向を向いて、微動だにしない。
『対象:呪われた羅針盤』
『状態:故障(呪いによる)』
『詳細:かつて、ある大盗賊が「宝の地図」を偽造するために作った呪物。針は常に「最も危険で、価値のない場所」を指し示す。所有者に「不幸」を呼び込むため、投棄された』
「……ハッ。最高じゃねえか」
「最も危険で、価値のない場所」。
普通の冒険者にとっては、まさに「ゴミ」以下の代物。
だが、俺たちが探している「古代の神殿」ってのは、まさにそういう場所にあるんじゃないのか?
人々が近づかない、「忘れられた場所」に。
「こいつは、使える」
俺は、その「ゴミ」を懐にしまい込んだ。
◇ ◇ ◇
翌日。
俺たちは、砂漠を渡るための「サンド・スキフ」と呼ばれる、風の魔力で砂の上を滑る中型の船をチャーターしていた。
もちろん、代金は「王の勅許状」でツケだ。
「うひょー! すげえ、風になびいてるぜ、俺の髪!」
「リカルドさん、飲酒操縦は禁止です!」
「エディさん、速いです! 楽しいです!」
三人が騒いでいる中、俺は船首で、あの「呪われた羅針盤」を構えていた。
神殿の正確な場所は、古地図にも載っていない。
だが、この羅針盤の針は、砂漠の特定の方向を、狂ったように指し示していた。
「……こっちだ。全速前進」
俺の指示で、スキフは砂の海を滑っていく。
三日が経過した。
水も食料も問題ない。
だが、進めば進むほど、空気が不穏になっていく。
「……エディさん。何か、来ます」
獣人の本能で、フェンが警戒の声を上げた。
その直後。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
地響き。いや、砂響だ。
俺たちのスキフの真横、数百メートル先の砂の海が、巨大なクレーターのように陥没した。
そして、そこから、超巨大な「何か」が、砂埃と共に擡げた。
「「「…………」」」
全長、五十メートルは超えているだろうか。
ビルディングのような巨体に、円形の巨大な口。その口には、岩石を砕くための「歯」が、何重にもなって並んでいる。
砂漠の主、デザート・デバウラー。
Sランク指定の、超巨大魔獣。いわゆる「サンドワーム」の王様だ。
「おいおいおいおい、大将! 『最も危険な場所』って、こいつの『腹の中』って意味じゃねえだろうな!?」
リカルドが、顔面蒼白になって叫ぶ。
「GAAAAAAAAAAAAA!」
デバウラーが、咆哮と共に、俺たちのスキフ目掛けて突進してくる。
狙いは、スキフが立てる「音」と「振動」だ。
「フェン!」
「はいっ! 【白狼の城壁】!」
ガギィィィン!
巨大な顎が、フェンの展開した魔力の盾に激突する。
凄まじい衝撃。スキフが、木の葉のように揺れる。
「くっ……! 大きい、です!」
「セシリア、援護!」
「はい! 最大出力! 【聖光爆雷】!」
セシリアの放った光の爆発が、ワームの側面に直撃する。
だが、その分厚い甲殻には、傷一つついていない。
「ダメです、硬すぎます!」
「……ハッ。予想通りだ」
俺は、羅針盤を構えたまま、冷静に呟いた。
こいつは、この「呪われた羅針盤」が指し示す「最悪」の一つに過ぎない。
そして、こいつは「神殿」への、最初の「門番」だ。
「リカルド!」
「わーってるよ、チクショウ! 【万病の呪詛】!」
リカルドが、デバウラーに向かって、特大のデバフを放つ。
Sランク魔獣の強靭な精神力(?)が、呪いをわずかに弾く。
「クソっ、効きが浅い!」
「それでいい!」
俺は、右手をデバウラーに向けた。
「お前が持ってる『ゴミ』、いくつか『拾って』いくぜ」
『対象:デザート・デバウラー』
『拾得対象:【振動感知】、【地中潜行】、【超再生】』
『実行:万物拾得』
「GUGYAAAAAAAAA!?」
突如、自分の「感覚」の一部を奪われたデバウラーが、混乱してのたうち回る。
俺の脳内に、砂漠の振動が、まるで地図のように流れ込んでくる。
(……なるほど。こいつは「音」じゃなく、「魔力」の振動を追ってやがったのか)
セシリアの魔法が、逆に奴を刺激していたのだ。
「セシリア、魔法を止めろ! リカルド、さっきの呪いを、スキフの『後ろ』の砂漠にブチ込め!」
「はぁ!? 敵じゃなくて、砂に!?」
「いいからやれ!」
「へいへい!」
リカルドが、デバウラーから離れた砂地に、デバフを叩き込む。
すると、デバウラーは、俺たちへの興味を失い、リカルドが呪いを放った「不快な」砂地に向かって、猛然と突進していった。
「……今のうちだ。全速前進!」
「お、おい、大将! 行ったぞ!」
「ああ。だが、あの羅針盤が指してるのは、あいつの先だ。……あのデバウラーは、神殿の『入り口』を守ってるに過ぎねえ」
俺たちのスキフは、デバウラーが暴れ回るエリアを抜け、羅針盤が指し示す「本当の最悪」――巨大な砂嵐が吹き荒れる「嵐の中心」へと、突入していった。
ゴオオオオオオオオ!
視界が、砂で真っ白になる。
スキフが、今にも転覆しそうだ。
「ここが……『風の神殿』……!」
砂嵐の中心。そこだけが、奇妙に静まり返っていた。
そして、そこには、砂に半ば埋もれた、巨大な石造りの「扉」だけが、ポツンと存在していた。
「……着いたな」
俺は、呪われた羅針盤が、その「扉」を真っ直ぐに指しているのを確認した。
俺たち「銀の翼」は、正式に国王アルフォンス三世から「魔王討伐の勅命」を受け、王城の一室で旅立ちの準備を進めていた。
「……というわけだ」
玉座の前で、ギルド総帥のガンドルフが、巨大な古地図を広げていた。
「魔王城は大陸最北端の『終焉の島』にある。だが、島全域が古代の大結界で覆われており、物理的にも魔術的にも侵入は不可能だ」
「そこで『四宝玉』、でしたか」
セシリアが、真剣な表情で地図を覗き込む。
「うむ」と国王が頷いた。
「結界を解く鍵は、大陸の四方に散らばる『古代神殿』に隠されている。火、水、風、土の四つの『宝玉』。それこそが、本来の勇者が集めるべきだった『本物の証』だ」
「……なんか、すげえ面倒くさそうだな」
リカルドが、王城の備品である高級そうな酒をラッパ飲みしながら、だるそうに呟いた。
「おい、大将。俺、やっぱやめていいか? 俺の呪い、暑いのも寒いのも苦手なんだぜ」
「却下だ。お前の【道連れ】は、神殿のボス相手に必須だろ」
「チッ。人使い、いや『呪い使い』が荒いぜ……」
「それで、ガンドルフ総帥。最初の『ゴミ溜め』はどこなんです?」
「……エディ殿。神殿をゴミ溜めと呼ぶのは、世界広しと言えど、貴殿くらいのものだろうな」
ガンドルフは苦笑しつつ、地図の一点を指さした。
「一つ目は、ここだ。王都より遥か南西。ザフィール大砂漠。通称『砂の海』。その中央に、『風の神殿』が眠っているとされている」
「砂漠……ですか」
フェンが、わずかに不安そうに狼の耳を伏せた。
「……暑いのは、少し、苦手かもしれません。毛皮が……」
「大丈夫だ、フェン」
俺は、フェンのモフモフの頭を撫でた。
「俺の空間収納には、冷たい水も氷も、いくらでも入ってる。それに……」
俺は、この一週間で「拾い集めた」アイテムの一つを取り出した。
『対象:冷気の護符』
『詳細:貴族がワインセラーに「投棄」していた、魔力で周囲を冷却する護符(ゴミ)』
「ほらよ。お守りだ」
「わっ、本当です! 涼しい……! ありがとうございます、エディさん!」
嬉しそうに尻尾を振るフェン。
それを見て、リカルドが「俺の酒も冷やしてくれよ、大将」とぼやき、セシリアに「不敬ですよ!」と叱られていた。
「国王陛下。ガンドルフ総帥」
俺は、地図を畳みながら言った。
「勅命、確かに受け取った。……だが、俺たちはあんたたちの『駒』になるつもりはねえ」
「……分かっている」
国王は、真剣な目で俺を見た。
「これは『命令』ではない。『願い』だ。……そして、これは、その『願い』の対価だ」
国王が差し出したのは、一枚の羊皮紙。
そこには、国王の印璽が押されていた。
『対象:王の勅許状』
『状態:新品』
『詳細:国王の全権代理人であることを示す証明書。これを持つ者は、国内のあらゆる施設を無償で利用でき、貴族と同等以上の権限を持つ』
(……ほう)
俺の口角が、ニヤリと上がった。
「【権力】の『概念』そのもの、か。……ありがたく『拾って』おくぜ」
俺がそれを受け取ると、リカルドの目がカッと見開かれた。
「おい、マジかよ大将! それって、宿代も酒代も、全部『ツケ』でいけるってことか!?」
「そういうことだ。……よかったな、リカルド。お前、一生俺にタダ酒でこき使われることが決定したぞ」
「うおおお、最高だぜ大将! 一生ついていく!」
「……リカルドさん、動機が不純すぎます……」
セシリアが、呆れたようにため息をついた。
こうして、俺たち「銀の翼」は、国王とギルド総帥に見送られ、王都を旅立った。
目指すは、南西の果て。ザフィール大砂漠。
四宝玉集めの、始まりだ。
◇ ◇ ◇
王都から馬車で十日。
俺たちは、「砂の海」の入り口に位置するオアシスの街、バハラに到着していた。
灼熱の太陽が照りつけ、乾いた風が砂埃を運んでくる。
王都とはまったく違う、エキゾチックな建物と、活気に満ちた市場の喧騒が俺たちを迎えた。
「うへぇ……マジで暑いな……。水、水……いや、酒だ……」
リカルドは、到着するなり酒場へ消えていった。
「エディさん、見てください! 砂トカゲの丸焼きです! 美味しそうです!」
フェンは、すっかり観光気分で目を輝かせている。
「二人とも、はしゃぎすぎです。まずは情報収集と、砂漠を渡る準備を……」
セシリアが、真面目に小言を言っている。
「……まぁ、いいだろ。少し休む。俺は、この街の『ゴミ捨て場』を偵察してくる」
「えっ、エディさんまで!?」
オアシスの街は、交易の中継地点だ。
多くの冒険者や商人が立ち寄り、そして、多くの「モノ」が捨てられていく。
俺にとって、ここは「宝の山」に他ならなかった。
俺は、街外れの巨大な「ジャンクヤード」に向かった。
そこは、壊れた荷車、錆びた武具、砂漠で力尽きた魔物の残骸などが、小高い丘を形成している場所だった。
鼻を突く異臭。だが、俺の【万物拾得】の目は、その「ゴミ」の山に、いくつかの「光」を見ていた。
『拾得:【耐熱】の欠片』
『拾得:【砂漠走行】の欠片』
『拾得:【解毒】の欠片』
砂漠に適応したスキルが、ゴロゴロ落ちている。
俺は、片っ端からそれらを「拾い」、自分と仲間たち(の装備)に付与していく。
「……ん?」
その時、俺の目が、ガラクタの山に埋もれた「何か」を捉えた。
それは、手のひらサイズの、真鍮でできた古い羅針盤だった。
ガラスは割れ、針は明後日の方向を向いて、微動だにしない。
『対象:呪われた羅針盤』
『状態:故障(呪いによる)』
『詳細:かつて、ある大盗賊が「宝の地図」を偽造するために作った呪物。針は常に「最も危険で、価値のない場所」を指し示す。所有者に「不幸」を呼び込むため、投棄された』
「……ハッ。最高じゃねえか」
「最も危険で、価値のない場所」。
普通の冒険者にとっては、まさに「ゴミ」以下の代物。
だが、俺たちが探している「古代の神殿」ってのは、まさにそういう場所にあるんじゃないのか?
人々が近づかない、「忘れられた場所」に。
「こいつは、使える」
俺は、その「ゴミ」を懐にしまい込んだ。
◇ ◇ ◇
翌日。
俺たちは、砂漠を渡るための「サンド・スキフ」と呼ばれる、風の魔力で砂の上を滑る中型の船をチャーターしていた。
もちろん、代金は「王の勅許状」でツケだ。
「うひょー! すげえ、風になびいてるぜ、俺の髪!」
「リカルドさん、飲酒操縦は禁止です!」
「エディさん、速いです! 楽しいです!」
三人が騒いでいる中、俺は船首で、あの「呪われた羅針盤」を構えていた。
神殿の正確な場所は、古地図にも載っていない。
だが、この羅針盤の針は、砂漠の特定の方向を、狂ったように指し示していた。
「……こっちだ。全速前進」
俺の指示で、スキフは砂の海を滑っていく。
三日が経過した。
水も食料も問題ない。
だが、進めば進むほど、空気が不穏になっていく。
「……エディさん。何か、来ます」
獣人の本能で、フェンが警戒の声を上げた。
その直後。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
地響き。いや、砂響だ。
俺たちのスキフの真横、数百メートル先の砂の海が、巨大なクレーターのように陥没した。
そして、そこから、超巨大な「何か」が、砂埃と共に擡げた。
「「「…………」」」
全長、五十メートルは超えているだろうか。
ビルディングのような巨体に、円形の巨大な口。その口には、岩石を砕くための「歯」が、何重にもなって並んでいる。
砂漠の主、デザート・デバウラー。
Sランク指定の、超巨大魔獣。いわゆる「サンドワーム」の王様だ。
「おいおいおいおい、大将! 『最も危険な場所』って、こいつの『腹の中』って意味じゃねえだろうな!?」
リカルドが、顔面蒼白になって叫ぶ。
「GAAAAAAAAAAAAA!」
デバウラーが、咆哮と共に、俺たちのスキフ目掛けて突進してくる。
狙いは、スキフが立てる「音」と「振動」だ。
「フェン!」
「はいっ! 【白狼の城壁】!」
ガギィィィン!
巨大な顎が、フェンの展開した魔力の盾に激突する。
凄まじい衝撃。スキフが、木の葉のように揺れる。
「くっ……! 大きい、です!」
「セシリア、援護!」
「はい! 最大出力! 【聖光爆雷】!」
セシリアの放った光の爆発が、ワームの側面に直撃する。
だが、その分厚い甲殻には、傷一つついていない。
「ダメです、硬すぎます!」
「……ハッ。予想通りだ」
俺は、羅針盤を構えたまま、冷静に呟いた。
こいつは、この「呪われた羅針盤」が指し示す「最悪」の一つに過ぎない。
そして、こいつは「神殿」への、最初の「門番」だ。
「リカルド!」
「わーってるよ、チクショウ! 【万病の呪詛】!」
リカルドが、デバウラーに向かって、特大のデバフを放つ。
Sランク魔獣の強靭な精神力(?)が、呪いをわずかに弾く。
「クソっ、効きが浅い!」
「それでいい!」
俺は、右手をデバウラーに向けた。
「お前が持ってる『ゴミ』、いくつか『拾って』いくぜ」
『対象:デザート・デバウラー』
『拾得対象:【振動感知】、【地中潜行】、【超再生】』
『実行:万物拾得』
「GUGYAAAAAAAAA!?」
突如、自分の「感覚」の一部を奪われたデバウラーが、混乱してのたうち回る。
俺の脳内に、砂漠の振動が、まるで地図のように流れ込んでくる。
(……なるほど。こいつは「音」じゃなく、「魔力」の振動を追ってやがったのか)
セシリアの魔法が、逆に奴を刺激していたのだ。
「セシリア、魔法を止めろ! リカルド、さっきの呪いを、スキフの『後ろ』の砂漠にブチ込め!」
「はぁ!? 敵じゃなくて、砂に!?」
「いいからやれ!」
「へいへい!」
リカルドが、デバウラーから離れた砂地に、デバフを叩き込む。
すると、デバウラーは、俺たちへの興味を失い、リカルドが呪いを放った「不快な」砂地に向かって、猛然と突進していった。
「……今のうちだ。全速前進!」
「お、おい、大将! 行ったぞ!」
「ああ。だが、あの羅針盤が指してるのは、あいつの先だ。……あのデバウラーは、神殿の『入り口』を守ってるに過ぎねえ」
俺たちのスキフは、デバウラーが暴れ回るエリアを抜け、羅針盤が指し示す「本当の最悪」――巨大な砂嵐が吹き荒れる「嵐の中心」へと、突入していった。
ゴオオオオオオオオ!
視界が、砂で真っ白になる。
スキフが、今にも転覆しそうだ。
「ここが……『風の神殿』……!」
砂嵐の中心。そこだけが、奇妙に静まり返っていた。
そして、そこには、砂に半ば埋もれた、巨大な石造りの「扉」だけが、ポツンと存在していた。
「……着いたな」
俺は、呪われた羅針盤が、その「扉」を真っ直ぐに指しているのを確認した。
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だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
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まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
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