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第四章・魔王城決戦編
エピローグ:そして伝説へ……拾われた未来
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それから、数ヶ月後。
王都アルカディアは、復興の槌音に包まれていた。
魔王が消滅したことで、魔物たちの活動も沈静化し、世界に平和が戻りつつあった。
魔王城が墜落し、一時的にパニックに陥った王都だったが、俺たち「銀の翼」が持ち帰った莫大な資源――魔王城を構成していたミスリルやオリハルコン、そして古代の遺産技術――のおかげで、以前よりも遥かに高度な文明都市へと生まれ変わりつつあった。
そんな王都の一等地。
かつては勇者レオンの実家である「ブレイブ公爵家」の屋敷があった広大な敷地は、今は更地となり、代わりに奇妙な形の「店」が建っていた。
巨大なガラクタ……いや、歯車やパイプを組み合わせて作られた、芸術的とも言える三階建ての建物。
その看板には、下手くそな(リカルドが書いた)字で、こう書かれている。
『万物拾得・よろず請負所 ~銀の翼~』
「おーい、大将! また依頼だ! 今度は『北の湖に沈んだ古代文明の遺産を引き上げてくれ』だとよ!」
店の扉を蹴破らんばかりの勢いで入ってきたのは、相変わらず酒臭い息を吐く呪術師、リカルドだ。
だが、その服装は以前の薄汚いローブではない。
最高級の黒曜石で織られた、オーダーメイドの魔術師の礼服(ただし、胸元はだけて酒のシミ付き)。
腰には、魔王城の瓦礫から俺が「拾って」錬成した、Sランク相当の杖【呪王の嘆き】がぶら下がっている。
「却下だ。北の湖は遠い。それに今日は、フェンとの約束がある」
カウンターの奥で、俺、エディ・ウォーカーは、アンティークの時計を修理しながら答えた。
手元でカチリ、と音がして、百年止まっていた時計が息を吹き返す。
【万物拾得】の派生スキル、【修復】。
俺にかかれば、壊れた時計も、砕けた剣も、そして「壊れた人生」さえも、あるべき形に戻すことができる。
「ちぇっ、付き合い悪いなぁ。……ま、しゃーねえか。今日の『客』は、大物だしな」
リカルドがニヤリと笑い、顎で店の入り口をしゃくった。
カランコロン♪
ドアベルが鳴り、入ってきたのは、この国の頂点に立つ人物だった。
「……邪魔するぞ、エディ」
「よう、アルフォンス陛下。また抜け出してきたのか?」
現れたのは、変装用の眼鏡をかけた国王アルフォンス三世だった。
護衛もつけず(まあ、俺の店が世界で一番安全な場所だからだが)、お忍びでの来店だ。
「公務の息抜きだ。……それに、頼んでいた『アレ』ができていると聞いてな」
「ああ、できてるぜ」
俺は、カウンターの下から一つの小箱を取り出した。
中に入っているのは、透き通るような青い宝石が埋め込まれた首飾り。
『対象:清浄の首飾り』
『素材:水の都のヘドロから精製したミスリル+水龍の涙』
『効果:着用者の精神安定、毒無効、疲労回復(特大)』
「ヴァレリウスの洗脳の後遺症で、まだ夜うなされるんだろ? これをつけて寝な。安眠は保証する」
「……かたじけない」
国王は、震える手でそれを受け取った。
かつて虚ろな目で玉座に座っていた人形のような王は、もういない。
今の彼は、俺たちが持ち帰った技術で国を富ませ、腐敗した貴族を一掃し、民のために奔走する「名君」として、国民から絶大な支持を得ている。
「代金は、いつもの『ツケ』でいいか?」
「ああ。……だが、これほどの国宝級のアイテム、金貨何枚になるやら……」
国王が苦笑する。
俺たちの「王の勅許状」のツケは、国家予算の数パーセントに達しているという噂だが、俺たちが国にもたらした利益はその百倍以上だ。誰も文句は言わない。
「ところで、エディ。……『彼ら』の処分についてだが」
国王の表情が、ふと曇った。
「ああ。聞いたよ。……鉱山送りになったんだってな」
「うむ。……見るか? 『真実の水晶』で、現地の様子が見れるぞ」
国王が取り出した水晶玉。
そこに映し出されたのは、王都から遥か北、極寒の地にある「嘆きの鉱山」の映像だった。
◇ ◇ ◇
――カォン! カォン!
ツルハシが岩を叩く音が、寒々しい坑道に響く。
「くそっ……! なんでだ……なんで俺がこんな……!」
泥と煤にまみれ、ボロボロの囚人服を着てツルハシを振るっている男。
髪は伸び放題で脂ぎり、かつての輝くような金髪の面影はない。
頬はこけ、目は落ち窪み、ただ怨嗟の光だけが宿っている。
元・勇者、レオン・ヴァン・ブレイブ。
「おい、4番! 手が止まってるぞ!」
看守の鞭が、レオンの背中を打つ。
「ぐあっ!?」
「お前の今日のノルマはまだ半分も終わってないぞ! 『魔石』が出なければ飯抜きだ!」
「ふ、ふざけるな! 俺は勇者だぞ! ブレイブ公爵家の嫡男だぞ!」
レオンが叫ぶ。だが、その声は掠れ、誰の心にも響かない。
「あの魔王を倒すはずだったんだ! それを……あのゴミ拾いが! あいつが俺の手柄を横取りしたんだ!」
「はいはい、わかったから掘れ」
看守は鼻で笑うだけだ。
ここには、レオンの妄言を信じる者など一人もいない。
彼の罪状は、国家反逆罪、詐欺罪、公金横領、そして……仲間への殺人未遂(エディやフェンへの遺棄)。
本来なら極刑でもおかしくなかったが、セシリアの「死んで楽になるより、生きて罪を償わせてください」という慈悲(という名の厳罰)により、終身強制労働の刑となった。
そして、その隣には。
「いやぁぁぁ! 爪が割れたぁぁぁ!」
「うるさいぞリリア! 俺なんか腰が……」
元・魔術師のリリアと、元・戦士のガイルの姿もあった。
リリアの自慢だった美貌は見る影もなく、肌は荒れ、髪はバサバサだ。
ガイルも、自慢の筋肉は見るからに衰え、ただの疲れた中年男のように見える。
「あんたのせいよ、レオン! あんたが『エディを追い出そう』なんて言わなければ……!」
「そうだ! 俺たちはあんたに従っただけだ! 俺たちは悪くない!」
かつての仲間たちは、互いに責任をなすりつけ合い、罵り合っている。
醜い。
かつて「希望の星」と呼ばれたパーティーの末路が、これだ。
レオンは、水晶越しの俺と目が合った気がしたのか、画面の向こうで狂ったように叫んだ。
「エディィィィ! 返せ! 俺の人生を返せぇぇぇ! 俺は……俺は選ばれた人間なんだぁぁぁ……ッ!!」
その声は、坑道の闇に吸い込まれ、誰にも届くことはなかった。
◇ ◇ ◇
「……哀れなものだな」
水晶の映像を消し、国王が溜息をついた。
「彼らは、自分たちが『捨てた』ものの大きさを、一生かけて理解するだろう」
「……ま、自業自得だ」
俺は、何の感慨もなく言った。
復讐? ざまぁ?
そんな感情すら、もう湧かない。
あいつらはもう、俺の人生において「不要なゴミ」ですらない。「無関係な他人」だ。
「それより、陛下。もう一人、処分が決まった奴がいただろ」
「……ああ。セシリア殿の家族、クローデル子爵家のことか」
セシリアの実家。
借金返済のために娘を教会に売り渡し、最後は魔王騒動に乗じて逃亡しようとした、あの両親だ。
「彼らは……爵位を剥奪され、国外追放となった。今は隣国のスラム街で、日雇い労働をして暮らしているそうだ」
「殺しはしなかったのか」
「セシリア殿が、な」
国王は目を細めた。
「『親殺しの業を背負いたくはありません。……ただ、二度と私の前に現れないでください』と。絶縁状を叩きつけたそうだ」
あの優しすぎたセシリアが、そこまで言えるようになったか。
俺は、店の奥に視線を向けた。
そこには、大量の薬草を仕分けしているセシリアの姿があった。
「エディさん、この薬草、乾燥させすぎじゃありませんか?」
「ああ、それは粉末にしてポーションに混ぜるんだ。……随分と手際がよくなったな、セシリア」
彼女は今、王都で一番の「施療院」を運営している。
教会の聖女という肩書きを捨て、一人の「治癒師」として、貧しい人々や冒険者を治療しているのだ。
その評判は凄まじく、今や「慈愛の聖女」として、教会時代以上に民衆から崇められている。
「……私は、もう誰かの言いなりにはなりません」
セシリアは、俺を見て微笑んだ。
その瞳には、かつての弱々しさは微塵もない。
「私が守りたい人たちのために、この力を使います。……もちろん、一番守りたいのはエディさんですけどね」
「お、おう……」
最近、セシリアのアプローチが積極的すぎて、ちょっとタジタジだ。
――バンッ!
その時、店の裏口が開いた。
「エディ様ぁ~! 見てください! 新曲ができましたの!」
飛び込んできたのは、人魚の歌姫メロディだ。
彼女は今、王都の「専属宮廷歌手」であり、同時に街のアイドルとしても大活躍している。
彼女が歌う広場には、毎日数千人の観客が集まり、その歌声(バフ効果付き)で、王都民の健康状態が異常に向上しているというオマケ付きだ。
「タイトルは『ゴミ拾い様のラプソディ』! エディ様が魔王をボコボコにするシーンを10番まで歌詞にしました!」
「長ぇよ! しかもタイトル恥ずかしいわ!」
「えぇ~? 国王陛下も『国歌にしようか』って言ってましたよ?」
「やめろ陛下! 本気にするなよ!?」
俺が睨むと、国王がそっぽを向いて口笛を吹いた。……おい、マジかよ。
「それにしても……フェンが遅いですね」
セシリアが時計を見る。
「今日は、冒険者ギルドの若手指導に行っているはずですが……」
そう。
フェンは今、ギルドの特別教官として、新人冒険者たちに「盾役(タンク)」の極意を教えている。
「白狼の盾姫」として、その名は大陸中に轟いており、彼女に憧れて盾を持つ獣人の子供たちが急増しているらしい。
「ただいま戻りました! エディさん!」
元気な声と共に、フェンが帰ってきた。
背中には、愛用のタワーシールド。
そして、その手には……大きな買い物袋。
「遅くなってすみません! 市場でいいお肉が安かったので、つい……! 今夜は、エディさんの好きなハンバーグにしますね!」
エプロン姿が板につきすぎている。
彼女は、俺たちのパーティーの「お母さん」ポジションを確立しつつあった。(本人は「お嫁さん」ポジションを狙っているらしいが)
「おかえり、フェン。……ん? なんだその後ろのチビは」
フェンの後ろから、ひょっこりと顔を出したのは、褐色の肌の少年。
土の精霊王だ。
魔王戦の後、彼は「土の宝玉」から実体化し、なぜか俺たちの店に居座っている。
「ボクも手伝ったよ! 荷物持ち!」
少年――通称「テラ」が、自分の体より大きな袋を軽々と持ち上げる。
「エディ、ボク偉い? 褒めて?」
「はいはい、偉い偉い」
頭を撫でてやると、テラは嬉しそうに目を細めた。
かつて「廃棄物」として絶望していた精霊王は、今やただの甘えん坊の弟分だ。
「……賑やかだな、ここは」
国王が、目を細めてその光景を見ていた。
「世界を救った英雄たちが、こんな市井の店で、家族のように笑い合っている。……これこそが、そなたたちが守りたかった『平和』なのだな」
「まあな。……俺は、英雄なんて柄じゃねえよ」
俺は、修理の終わった時計を布で磨き上げた。
「俺はただの『拾得者』だ。……誰かがいらないって捨てたモノの中に、本当の価値を見つける。それが俺の仕事だ」
俺は、視線を巡らせる。
酒を飲んで管を巻くリカルド。
新曲を披露して拍手喝采を浴びるメロディ。
夕食の準備をしながら笑い合うフェンとセシリア。
そして、それを見守るテラと国王。
全員、かつては「不要」とされ、傷つき、捨てられた者たちだ。
でも、今は違う。
誰もが、誰かにとっての「かけがえのない宝物」になっている。
「……エディさん」
フェンが、料理の手を止めて、俺を見た。
その琥珀色の瞳が、夕陽を受けて輝いている。
「わたくし……エディさんに拾われて、本当によかったです。……世界で一番、幸せです」
直球すぎる言葉に、俺は顔が熱くなるのを感じた。
「……バーカ。俺の方こそ……拾ったのがお前らで、よかったよ」
「あ! エディさん照れてる!」
「顔赤いですわよ、大将~」
「うふふ、珍しいですね」
「う、うるせぇ! ほら、飯にするぞ! リカルド、テーブル片付けろ!」
「へいへい、人使い荒いなぁ……」
店の中に、温かな笑い声が満ちる。
外からは、復興した王都の鐘の音が聞こえてくる。
俺のスキル【ゴミ拾い】改め【万物拾得】。
Fランクのハズレスキルだと言われたこの力が、世界を変え、俺自身の運命も変えた。
レオンたちが鉱山で泥を啜っている間、俺たちはこうして、最高の仲間たちと食卓を囲んでいる。
これ以上の「ざまぁ」はないだろう。
そして、これ以上の「ハッピーエンド」もない。
「いただきます!」
俺たちの声が重なる。
明日もまた、色々な依頼が来るだろう。
世界にはまだ、捨てられた悲しみや、見過ごされた価値が眠っている。
それを拾いに行くのが、俺たちの旅だ。
【ゴミ拾い】と呼ばれた男と、彼に拾われた仲間たちの伝説。
その物語は、ここで一旦幕を閉じる。
だが、俺たちの「拾い物」だらけの人生は、まだまだ続いていくのだ。
――だって、俺は「万物拾得者」なんだから。
<完>
最後まで読んでいただきありがとうございました。
王都アルカディアは、復興の槌音に包まれていた。
魔王が消滅したことで、魔物たちの活動も沈静化し、世界に平和が戻りつつあった。
魔王城が墜落し、一時的にパニックに陥った王都だったが、俺たち「銀の翼」が持ち帰った莫大な資源――魔王城を構成していたミスリルやオリハルコン、そして古代の遺産技術――のおかげで、以前よりも遥かに高度な文明都市へと生まれ変わりつつあった。
そんな王都の一等地。
かつては勇者レオンの実家である「ブレイブ公爵家」の屋敷があった広大な敷地は、今は更地となり、代わりに奇妙な形の「店」が建っていた。
巨大なガラクタ……いや、歯車やパイプを組み合わせて作られた、芸術的とも言える三階建ての建物。
その看板には、下手くそな(リカルドが書いた)字で、こう書かれている。
『万物拾得・よろず請負所 ~銀の翼~』
「おーい、大将! また依頼だ! 今度は『北の湖に沈んだ古代文明の遺産を引き上げてくれ』だとよ!」
店の扉を蹴破らんばかりの勢いで入ってきたのは、相変わらず酒臭い息を吐く呪術師、リカルドだ。
だが、その服装は以前の薄汚いローブではない。
最高級の黒曜石で織られた、オーダーメイドの魔術師の礼服(ただし、胸元はだけて酒のシミ付き)。
腰には、魔王城の瓦礫から俺が「拾って」錬成した、Sランク相当の杖【呪王の嘆き】がぶら下がっている。
「却下だ。北の湖は遠い。それに今日は、フェンとの約束がある」
カウンターの奥で、俺、エディ・ウォーカーは、アンティークの時計を修理しながら答えた。
手元でカチリ、と音がして、百年止まっていた時計が息を吹き返す。
【万物拾得】の派生スキル、【修復】。
俺にかかれば、壊れた時計も、砕けた剣も、そして「壊れた人生」さえも、あるべき形に戻すことができる。
「ちぇっ、付き合い悪いなぁ。……ま、しゃーねえか。今日の『客』は、大物だしな」
リカルドがニヤリと笑い、顎で店の入り口をしゃくった。
カランコロン♪
ドアベルが鳴り、入ってきたのは、この国の頂点に立つ人物だった。
「……邪魔するぞ、エディ」
「よう、アルフォンス陛下。また抜け出してきたのか?」
現れたのは、変装用の眼鏡をかけた国王アルフォンス三世だった。
護衛もつけず(まあ、俺の店が世界で一番安全な場所だからだが)、お忍びでの来店だ。
「公務の息抜きだ。……それに、頼んでいた『アレ』ができていると聞いてな」
「ああ、できてるぜ」
俺は、カウンターの下から一つの小箱を取り出した。
中に入っているのは、透き通るような青い宝石が埋め込まれた首飾り。
『対象:清浄の首飾り』
『素材:水の都のヘドロから精製したミスリル+水龍の涙』
『効果:着用者の精神安定、毒無効、疲労回復(特大)』
「ヴァレリウスの洗脳の後遺症で、まだ夜うなされるんだろ? これをつけて寝な。安眠は保証する」
「……かたじけない」
国王は、震える手でそれを受け取った。
かつて虚ろな目で玉座に座っていた人形のような王は、もういない。
今の彼は、俺たちが持ち帰った技術で国を富ませ、腐敗した貴族を一掃し、民のために奔走する「名君」として、国民から絶大な支持を得ている。
「代金は、いつもの『ツケ』でいいか?」
「ああ。……だが、これほどの国宝級のアイテム、金貨何枚になるやら……」
国王が苦笑する。
俺たちの「王の勅許状」のツケは、国家予算の数パーセントに達しているという噂だが、俺たちが国にもたらした利益はその百倍以上だ。誰も文句は言わない。
「ところで、エディ。……『彼ら』の処分についてだが」
国王の表情が、ふと曇った。
「ああ。聞いたよ。……鉱山送りになったんだってな」
「うむ。……見るか? 『真実の水晶』で、現地の様子が見れるぞ」
国王が取り出した水晶玉。
そこに映し出されたのは、王都から遥か北、極寒の地にある「嘆きの鉱山」の映像だった。
◇ ◇ ◇
――カォン! カォン!
ツルハシが岩を叩く音が、寒々しい坑道に響く。
「くそっ……! なんでだ……なんで俺がこんな……!」
泥と煤にまみれ、ボロボロの囚人服を着てツルハシを振るっている男。
髪は伸び放題で脂ぎり、かつての輝くような金髪の面影はない。
頬はこけ、目は落ち窪み、ただ怨嗟の光だけが宿っている。
元・勇者、レオン・ヴァン・ブレイブ。
「おい、4番! 手が止まってるぞ!」
看守の鞭が、レオンの背中を打つ。
「ぐあっ!?」
「お前の今日のノルマはまだ半分も終わってないぞ! 『魔石』が出なければ飯抜きだ!」
「ふ、ふざけるな! 俺は勇者だぞ! ブレイブ公爵家の嫡男だぞ!」
レオンが叫ぶ。だが、その声は掠れ、誰の心にも響かない。
「あの魔王を倒すはずだったんだ! それを……あのゴミ拾いが! あいつが俺の手柄を横取りしたんだ!」
「はいはい、わかったから掘れ」
看守は鼻で笑うだけだ。
ここには、レオンの妄言を信じる者など一人もいない。
彼の罪状は、国家反逆罪、詐欺罪、公金横領、そして……仲間への殺人未遂(エディやフェンへの遺棄)。
本来なら極刑でもおかしくなかったが、セシリアの「死んで楽になるより、生きて罪を償わせてください」という慈悲(という名の厳罰)により、終身強制労働の刑となった。
そして、その隣には。
「いやぁぁぁ! 爪が割れたぁぁぁ!」
「うるさいぞリリア! 俺なんか腰が……」
元・魔術師のリリアと、元・戦士のガイルの姿もあった。
リリアの自慢だった美貌は見る影もなく、肌は荒れ、髪はバサバサだ。
ガイルも、自慢の筋肉は見るからに衰え、ただの疲れた中年男のように見える。
「あんたのせいよ、レオン! あんたが『エディを追い出そう』なんて言わなければ……!」
「そうだ! 俺たちはあんたに従っただけだ! 俺たちは悪くない!」
かつての仲間たちは、互いに責任をなすりつけ合い、罵り合っている。
醜い。
かつて「希望の星」と呼ばれたパーティーの末路が、これだ。
レオンは、水晶越しの俺と目が合った気がしたのか、画面の向こうで狂ったように叫んだ。
「エディィィィ! 返せ! 俺の人生を返せぇぇぇ! 俺は……俺は選ばれた人間なんだぁぁぁ……ッ!!」
その声は、坑道の闇に吸い込まれ、誰にも届くことはなかった。
◇ ◇ ◇
「……哀れなものだな」
水晶の映像を消し、国王が溜息をついた。
「彼らは、自分たちが『捨てた』ものの大きさを、一生かけて理解するだろう」
「……ま、自業自得だ」
俺は、何の感慨もなく言った。
復讐? ざまぁ?
そんな感情すら、もう湧かない。
あいつらはもう、俺の人生において「不要なゴミ」ですらない。「無関係な他人」だ。
「それより、陛下。もう一人、処分が決まった奴がいただろ」
「……ああ。セシリア殿の家族、クローデル子爵家のことか」
セシリアの実家。
借金返済のために娘を教会に売り渡し、最後は魔王騒動に乗じて逃亡しようとした、あの両親だ。
「彼らは……爵位を剥奪され、国外追放となった。今は隣国のスラム街で、日雇い労働をして暮らしているそうだ」
「殺しはしなかったのか」
「セシリア殿が、な」
国王は目を細めた。
「『親殺しの業を背負いたくはありません。……ただ、二度と私の前に現れないでください』と。絶縁状を叩きつけたそうだ」
あの優しすぎたセシリアが、そこまで言えるようになったか。
俺は、店の奥に視線を向けた。
そこには、大量の薬草を仕分けしているセシリアの姿があった。
「エディさん、この薬草、乾燥させすぎじゃありませんか?」
「ああ、それは粉末にしてポーションに混ぜるんだ。……随分と手際がよくなったな、セシリア」
彼女は今、王都で一番の「施療院」を運営している。
教会の聖女という肩書きを捨て、一人の「治癒師」として、貧しい人々や冒険者を治療しているのだ。
その評判は凄まじく、今や「慈愛の聖女」として、教会時代以上に民衆から崇められている。
「……私は、もう誰かの言いなりにはなりません」
セシリアは、俺を見て微笑んだ。
その瞳には、かつての弱々しさは微塵もない。
「私が守りたい人たちのために、この力を使います。……もちろん、一番守りたいのはエディさんですけどね」
「お、おう……」
最近、セシリアのアプローチが積極的すぎて、ちょっとタジタジだ。
――バンッ!
その時、店の裏口が開いた。
「エディ様ぁ~! 見てください! 新曲ができましたの!」
飛び込んできたのは、人魚の歌姫メロディだ。
彼女は今、王都の「専属宮廷歌手」であり、同時に街のアイドルとしても大活躍している。
彼女が歌う広場には、毎日数千人の観客が集まり、その歌声(バフ効果付き)で、王都民の健康状態が異常に向上しているというオマケ付きだ。
「タイトルは『ゴミ拾い様のラプソディ』! エディ様が魔王をボコボコにするシーンを10番まで歌詞にしました!」
「長ぇよ! しかもタイトル恥ずかしいわ!」
「えぇ~? 国王陛下も『国歌にしようか』って言ってましたよ?」
「やめろ陛下! 本気にするなよ!?」
俺が睨むと、国王がそっぽを向いて口笛を吹いた。……おい、マジかよ。
「それにしても……フェンが遅いですね」
セシリアが時計を見る。
「今日は、冒険者ギルドの若手指導に行っているはずですが……」
そう。
フェンは今、ギルドの特別教官として、新人冒険者たちに「盾役(タンク)」の極意を教えている。
「白狼の盾姫」として、その名は大陸中に轟いており、彼女に憧れて盾を持つ獣人の子供たちが急増しているらしい。
「ただいま戻りました! エディさん!」
元気な声と共に、フェンが帰ってきた。
背中には、愛用のタワーシールド。
そして、その手には……大きな買い物袋。
「遅くなってすみません! 市場でいいお肉が安かったので、つい……! 今夜は、エディさんの好きなハンバーグにしますね!」
エプロン姿が板につきすぎている。
彼女は、俺たちのパーティーの「お母さん」ポジションを確立しつつあった。(本人は「お嫁さん」ポジションを狙っているらしいが)
「おかえり、フェン。……ん? なんだその後ろのチビは」
フェンの後ろから、ひょっこりと顔を出したのは、褐色の肌の少年。
土の精霊王だ。
魔王戦の後、彼は「土の宝玉」から実体化し、なぜか俺たちの店に居座っている。
「ボクも手伝ったよ! 荷物持ち!」
少年――通称「テラ」が、自分の体より大きな袋を軽々と持ち上げる。
「エディ、ボク偉い? 褒めて?」
「はいはい、偉い偉い」
頭を撫でてやると、テラは嬉しそうに目を細めた。
かつて「廃棄物」として絶望していた精霊王は、今やただの甘えん坊の弟分だ。
「……賑やかだな、ここは」
国王が、目を細めてその光景を見ていた。
「世界を救った英雄たちが、こんな市井の店で、家族のように笑い合っている。……これこそが、そなたたちが守りたかった『平和』なのだな」
「まあな。……俺は、英雄なんて柄じゃねえよ」
俺は、修理の終わった時計を布で磨き上げた。
「俺はただの『拾得者』だ。……誰かがいらないって捨てたモノの中に、本当の価値を見つける。それが俺の仕事だ」
俺は、視線を巡らせる。
酒を飲んで管を巻くリカルド。
新曲を披露して拍手喝采を浴びるメロディ。
夕食の準備をしながら笑い合うフェンとセシリア。
そして、それを見守るテラと国王。
全員、かつては「不要」とされ、傷つき、捨てられた者たちだ。
でも、今は違う。
誰もが、誰かにとっての「かけがえのない宝物」になっている。
「……エディさん」
フェンが、料理の手を止めて、俺を見た。
その琥珀色の瞳が、夕陽を受けて輝いている。
「わたくし……エディさんに拾われて、本当によかったです。……世界で一番、幸せです」
直球すぎる言葉に、俺は顔が熱くなるのを感じた。
「……バーカ。俺の方こそ……拾ったのがお前らで、よかったよ」
「あ! エディさん照れてる!」
「顔赤いですわよ、大将~」
「うふふ、珍しいですね」
「う、うるせぇ! ほら、飯にするぞ! リカルド、テーブル片付けろ!」
「へいへい、人使い荒いなぁ……」
店の中に、温かな笑い声が満ちる。
外からは、復興した王都の鐘の音が聞こえてくる。
俺のスキル【ゴミ拾い】改め【万物拾得】。
Fランクのハズレスキルだと言われたこの力が、世界を変え、俺自身の運命も変えた。
レオンたちが鉱山で泥を啜っている間、俺たちはこうして、最高の仲間たちと食卓を囲んでいる。
これ以上の「ざまぁ」はないだろう。
そして、これ以上の「ハッピーエンド」もない。
「いただきます!」
俺たちの声が重なる。
明日もまた、色々な依頼が来るだろう。
世界にはまだ、捨てられた悲しみや、見過ごされた価値が眠っている。
それを拾いに行くのが、俺たちの旅だ。
【ゴミ拾い】と呼ばれた男と、彼に拾われた仲間たちの伝説。
その物語は、ここで一旦幕を閉じる。
だが、俺たちの「拾い物」だらけの人生は、まだまだ続いていくのだ。
――だって、俺は「万物拾得者」なんだから。
<完>
最後まで読んでいただきありがとうございました。
43
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攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
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#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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