【R18】Actually

うはっきゅう

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本編

共犯者たちの深夜

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 収録が終わり、寮に戻ったのは深夜二時を回っていた。
 疲労困憊のメンバーは、泥のようにそれぞれのベッドに倒れ込んでいく。
 チカもシャワーを浴びて、自室のベッドに入ろうとした時だった。
 コンコン、と控えめなノックの音。
 返事をする前に、ドアがわずかに開き、トキが顔を覗かせた。
「起きてる?」
「……寝るとこだ」
 チカが素っ気なく返すと、トキは「ごめん」と言いながらも、図々しく部屋に入ってきて、鍵を閉めた。
「なにか用か?」
「充電切れ」

 トキはそう言うなり、ベッドに座っていたチカに抱きついた。
 シャンプーの匂いと、トキ自身の体温。
 大きな体が、チカの首元にぐりぐりと顔を押し付けてくる。
「……はぁ。チカの匂いだ」
「犬かよ」
 チカは呆れつつも、拒絶はしなかった。
 むしろ、自然と手が動き、トキの背中をポンポンと叩いてやる。
「……今日、一日中我慢してた」
 トキが、くぐもった声で言う。
「楽屋でも、スタジオでも……みんなが見てる前で、チカに触りたくて頭おかしくなりそうだった」
「十分触ってただろ。約束破って、セクハラまがいのことまでして」
 チカが文句を言うと、トキは顔を上げた。
「あれくらいじゃ、足りない。全然足りない」
 その瞳は、深夜の闇の中で、濡れたように光っていた。
「……もっと、俺だけのものにしたい。誰にも見せたくないし、誰にも触らせたくない」

 狂気じみた独占欲。
 だが、チカにはわかっていた。
 これは、不安の裏返しなのだ。
 かつて、ソラに「奪われる」ことを恐れ、不純な動機でここまで来た彼にとって、チカを手に入れた今もなお、「失う怖さ」は消えていないのだろう。
「……バカなこと言ってないで、もう寝ろ」
 チカは、少し乱暴にトキの髪をかき混ぜた。
「俺はどこにも行かないって言っただろ」
「……うん」
「お前が飽きるまで、そばにいてやるよ」
「飽きないよ。一生」
「重い」
 チカが笑うと、トキもつられて笑った。
 そして、二人は自然と唇を重ねた。

 甘く、優しいキス。
 日中のような、独占欲をぶつけ合う激しいものではなく、互いの存在を確かめ合うような、穏やかな口づけだった。
「……ん」

 唇が離れると、トキは満足そうに目を細めた。
「……ありがと、チカ。充電完了」
「なら、とっとと部屋に戻れ。明日も早いぞ」
「えー、今日はここで寝ちゃダメ?」
「ダメだ。狭い」
「ケチー」
 トキは不満そうに唇を尖らせたが、それ以上は我儘を言わず、素直に立ち上がった。
「じゃあ、おやすみ。……いい夢見てね、姫」
「……誰が姫だ。出てけ」
 チカが枕を投げつけると、トキは笑いながら部屋を出て行った。

 静寂が戻った部屋で、チカは一人、ベッドに倒れ込む。
 心臓が、うるさい。
 顔が、熱い。
(……調子狂うな、マジで)
 天井を見上げながら、チカはため息をつく。
 だが、その口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。

 こんな甘くて、騒がしくて、心臓に悪い日々が、これからも続くのだろうか。
 それは、完璧主義者のチカにとって、これ以上ない「想定外」であり、そして、何より愛おしい「誤算」だった。
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