前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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波乱の建国記念式典

爪痕を残すが如く

アウクスティの言葉にその場は沈黙に包まれた。いち早く硬直から解かれた第二皇妃母親がアウクスティに手を伸ばす。

「アウクスティ!止まりなさい!」

「いいえ母上!ここはビシッと言うべきです!兄上!父上の興味を引きたいのだろうが!兄上のしていることは無駄どころか、どんどん思惑から外れるぞ!」

アウクスティの激昂は止まらない。第二皇妃母親は顔面蒼白だ。なんか最近、あの顔しか見てない気がする。それだけ俺が怖いんだろうけど。

てか思惑って何ぞや?

「……思惑?何の話ですか?」

「惚けても無駄だ!兄上は研究で功績を挙げて株を上げようとしているのだろ!残念だったな!この国では学問を究めた者は皇帝にはなれないんだよ!」

「知ってますよ?」

「えっ……?」

その場の空気がピリッと緊張感に包まれた。アウクスティは唖然とした表情で俺を見ている。そんなに信じられないことかな?俺はなんてことないように言葉を続けた。

「研究することは帝位継承権争いを放棄すると同義なことぐらい、言われなくてもわかってます」

「じゃあ……なんで研究なんて……」

「俺は皇帝の座に興味がありません。そんなものより愛してやまない魔法陣を研究している方が、幸せでしょう?」

「……嘘だ!だって今まで兄上は皇帝になりたがっていたじゃないか!」

……これは本当のことを言っても良いのかな?

俺は第二皇妃母親を一瞥する。必死に『言わないで』と伝えて来るが、俺はそれに従う必要がないんだよね。

俺はにっこり天使が如く微笑んだ。その笑みにその場の空気は一瞬緩む。そして。

「私自身は生まれてこの方、皇帝になりたいと思ったことは一度もありませんよ」

死刑宣告が如く、真実を投下した。

第二皇妃母親の顔はは可哀想なほど絶望に染まっていた。言ってくれるな、と。これ以上、俺が洗脳じみた状態で皇帝を目指していたと、言わないでくれ、と。非人道的な行為を皇帝父上は嫌う。それがバレてしまえば、第二皇妃母親の立場が危ういのだ。

だけど俺は言ったよね?自分の人形の手網はしっかり握っておくように、って。

「……それは……どう言う……?」

「言葉そのままですよ。言語能力が急激に低下しました?」

「でも!それじゃ今までの兄上はっ!?」

「さあ?何だったのでしょうね?」

俺はこれくらいで誤魔化すことにした。これ以上第二皇妃母親から何か奪えば、俺はそれ相応の責任を背負う必要が出て来る。そうするメリットも覚悟も、今の俺にはない。

第二皇妃母親を母親だなんて認めてないが、それでも俺を産み、育ててくれた人なんだ。感謝はしている。だからこの先面倒事に巻き込まれることを覚悟で双方の不可侵を約束する形をとっているし、キヴィラハティ侯爵の件も最大限の譲歩をしたのだ。

でも、こんな脅すような、恩を売るような方法でしか恩義を返すことが出来ないのは、何とも歯痒い。

そんなことを考えていると、父上に名前を呼ばれた。振り返ると眉間にシワを寄せた父上の姿が。ちょっ、怖いって!ただでさえ強面なんだから!視線で人を殺せちゃうよ!

「……その言葉の真意を話せ」

「これ以上は黙秘致します」

「……我の命令にでも、か」

「はい。口を割るつもりはございません」

「……わかった。だが我として先程の発言を聞き流すことは出来ぬ。だから聞かなかったことにしよう」

「最大限のお気遣い、ありがとうございます」

父上は呆れたように、何故第二皇妃母親を庇うのだ?と視線で尋ねて来た。俺は曖昧に微笑んで、この件の話を誤魔化す。

「……皇族の一員として、私も一つエルネスティに物申したいのですが、宜しいですか?」

「どうしたアルットゥリ。お前がエルネスティに話とは珍しいな」

アウクスティとの話が一段落ついた頃、アルットゥリ兄上が一歩前に出て言葉を発した。それには俺同様、父上も驚いているようだ。確かに俺とアルットゥリ兄上は出来るだけ関わらないようにお互いしていたから、こちらに踏み込んでくるのは珍しい。何の話だろ?

「私が物申したいのは、先日の護衛騎士脅迫事件の処罰についてです」

「不満でしたか?」

「ええ。不満です。実行犯には騎士団退団と地位の返上、指示したとされるキヴィラハティ侯爵には何のお咎めもなし。これはいくら何でも甘すぎる。皇族としての威厳を何だと思っているのですか?」

アルットゥリは眉を顰める。その言葉にはアウクスティや他の皇族たちも同意するように頷いた。違うのは冷や汗をかいて青ざめる第二皇妃母親と不干渉を示すが如く目を瞑った父上、そして笑顔で状況の把握のため傍観しているエドヴァルド兄上の3人だ。つまりそれ以外の皇族は俺の判断に不満があると言うことだ。まあ外面だけ見れば甘すぎるわな。それは俺もわかってる。

「ですが最終的には何も奪われていませんし。侮辱を受けた私の専属護衛騎士は大事になることには消極的でした。なら私は大事にはしません」

「それが甘いと言っています。皇族として、貴方の感情は二の次。実行犯から報復される可能性は?キヴィラハティ侯爵がまた犯罪指示を行ったら?貴方はどう落とし前をつけるつもりですか」

直接的で鋭利なアルットゥリ兄上の発言にその場は凍りつく。一触即発の危機だと周りは感じているようだ。まあ今までの俺ならそうだっただろうけど、俺的にはどうでもいい。

「ですが実行犯は絶対に報復はして来ませんし、キヴィラハティ侯爵がご隠居されることは判断時には知っていましたし……。私の手を煩わせずに済む状況が整っていたのに、何故態々何か動く必要がありますか」

「……それはないでしょう。キヴィラハティ侯爵は昨日、電撃的にご隠居されました。貴方が知っているはずがありません。報復がないと言うのも、貴方の推測でしかないでしょう」

「それが知っていたのですよ。報復の件は……父上はどう思います?」

「……ほぼ有り得ないだろうな」

アルットゥリ兄上は父上の言葉に瞠目した。父上が有り得ないと判断したなら、本当に有り得ないからだ。それほど父上の判断は絶対で、狂いがないのだ。

「それに枢長もこの処罰を認可しましたし。アルットゥリ兄上は枢長の判断が誤りだったと?」

「……そんな、枢長が……!?」

アルットゥリ兄上はいよいよ信じられないのか、いつもの余裕の表情を消した。俺がサラッと『兄上』って呼んだのにも気づかない。皇帝父上枢長枢密省、両方が認可したのであれば、それは皇族として相応しい行為であったと認められたと同義だ。そこにアルットゥリ兄上が何を言おうとも、判断が覆されることはないのだ。

「……それで?この件に関して今更とやかく言う必要が、どこにあるのでしょうか?」

俺は天使が如く優しく微笑んだ。何故かアルットゥリ兄上をはじめとするほとんどの皇族の皆さんが萎縮してしまったけど。
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