前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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波乱の建国記念式典

建国記念式典会場にて ※No Side※

ハーララ帝国建国記念式典。これはハーララ帝国建国470周年を祝う大々的な式典である。国中の貴族たちだけでなく、他国からの来賓も招く、盛大な式典となっている。会場入りした出席者は井戸端会議のように情報交換をし、社交界の流れに遅れを取るまいとしていた。

そんな彼らの今、一番話題とないっていること。それはこの国の第四皇子である、エルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララが、高熱を境に性格が一変された、と言うものだ。

彼は中性的で、天使が如く可愛らしい容姿をしていたが、その中身は母親の第二皇妃によく似て、冷淡卑劣な野心家であると言われ、天使の皮を被った悪魔だと恐れられていた

だが今の彼はその影が消え去り、温厚で野心など欠片も見せず、魔法陣学を熱心に研究しているらしい。第二皇妃との繋がりも絶たれたと聞く。

魔法の天才とされた彼が何故落ちこぼれ学問など研究するのか。天才という噂がデマだったのか。学問を究めることはつまり、帝位継承権争いにも参加しないということ。今まで一心不乱に目指していたものを、何故そう易々と諦めてしまったのか。そもそも何故彼は急変されたのか。彼に対する疑問は尽きない。

何故か騎士の中では彼の専属護衛騎士の変人さが移ったという説が有力視されている。そんな馬鹿なと鼻で笑いたいが、近衛騎士団団長ですらその噂を否定出来ないというよくわからない信憑性を持っている。貴族の中でもそれを信じている人はいるらしい。

そしてそんな中流れてきたのが、キヴィラハティ侯爵家四男が主犯格の皇族私物窃盗事件と、キヴィラハティ侯爵の電撃隠居である。皇族というのは、噂のエルネスティのことであった。彼らはエルネスティの研究資料を盗んだのだ。貴族の誰もが「これは打首だな」と思った。皇族の私物を盗むなど言語道断である。その上冷酷だと有名だった彼だ。きっと激怒して以前の彼のようになって残酷な処罰を下すに違いない。

だが予想に反して処刑されなかった。しかもエルネスティは身分の『返上』という温情すらお与えになった。社交界は騒然とした。いくら温厚になったとは言え、それでは処罰が軽すぎる。皇族としての威厳をなんだと思っているのだ。エルネスティに対する非難の声が高まった。

それとは逆に愚かな者にもやり直しのチャンスを与えた心優しい方だという意見も一定数あった。キヴィラハティ侯爵の四男をはじめ、実行犯たちはまだ若い。そんな彼らのこれからに期待している、懐の深い方なんだと賞賛する声も高まったのだ。

そして混濁する意見の中、キヴィラハティ侯爵が爵位を長男に譲り、隠居した。彼には前から後ろめたい噂が数多くあり、今回の四男が起こした事件も彼の指示ではないかと専ら噂されていた。

そんな彼はこれまでの不正を暴かれることなく、平穏に社交界から身を引いてしまった。これは人々の正義感を酷く掻き乱し、やるせなさを生んだ。そして舞い込んで来た噂に、一同耳を疑った。

なんでもキヴィラハティ侯爵を穏便に隠居まで運んだのはエルネスティ殿下らしい。

これはエルネスティを賞賛していた者ですら、いやむしろ、勧善懲悪を好む彼らが筆頭となってエルネスティを非難した。第二皇妃の傘下であるキヴィラハティ侯爵を庇うためにそうしたのだ。四男の件もそうに違いない。結局は繋がりが絶たれていなかったのだ。心優しいだなんて幻想だったのだ、と。

そして皇帝の鼎の軽重を問う事態にまで発展した。その判断を認可した皇帝と、そのご意見番である枢密省の怠慢を疑われたのだ。だが彼らには今までの功績があったため、表立って非難はされなかった。寧ろ彼らが認可したのだから、エルネスティのこの判断にも何か裏があるのではないか、と言う意見も出た。

ここでひとつ、細々と流れている奇妙な噂がある。

実行犯たちもキヴィラハティ侯爵も、エルネスティという名前を聞くと可哀想なほどに震え上がる、と言うものだ。

彼らにとってエルネスティは庇ってくれた恩人。そんな恩人相手に恐怖するのか。デマだと考える人が大多数だが、一部の貴族たちの間にはある憶測が流れた。

エルネスティは温情をかけたのでも庇ったのでもなく、彼らを脅したのではないか。

その証拠が顕著に出ているのは第二皇妃の傘下である貴族たちである。彼らはエルネスティと言う言葉を聞けば青ざめ、話を逸らそうとする。彼らの行動はエルネスティと第二皇妃の繋がりを隠すためとも取れるが、彼らのそれは焦りと言うより恐怖である。もしもの時に庇ってくれる相手に対する感情ではない。一部の貴族はそう直感しているのだ。

そんな意見入り乱れるエルネスティが、この式典に参加する。普段未成年である彼が出席することはないのだが、皇帝が470周年という節目の年ということで、特別に未成年の皇族も参加させることにしたのだ。だから貴族たちは挙ってエルネスティの噂をし、真実をこの目で確かめんとしている。

「それでは皇族の皆様がご入場されます」

司会の言葉に人々の視線は会場入口に注がれる。まず第一に威厳ある皇帝陛下がご入場なさった。この国の貴族たちは跪いて頭を垂れる。皇帝が頭を上げるよう促された後、他の皇族たちも次々と入場して来た。

その中で一際目を引くのは、丁度社交界の注目の的である、第四皇子のエルネスティ殿下であった。

彼は異国情緒のある風変わりな装いであった。だがそれが彼の中性的で儚い容姿にとても合っている。ヒラヒラと揺れるマントは光を反射してキラキラと輝き、神聖な空気を醸し出していた。

そして優しく微笑む姿は正に天使。その姿を見て、誰が『天使の皮を被った悪魔』だと言うだろうか。彼になら騙されても良い。そう思ってしまうような圧倒的な存在感があった。

そんな彼をエスコートしている騎士もまた一線を画していた。黒髪で翡翠色の瞳の精悍な顔つきは誰が見ても口を揃えて『顔が良い』と称すだろう。かっしりとした彼の身体は、まるで天使を護る守護者ガーディアンのように無駄のない動きで天使を導いていた。そんな彼を誰が変人だと思うだろうか。騎士団の奴らの目は節穴なのではないか。その場にいる貴族の誰もがそう思った。

彼らを包む洗練された空気は先程まで繰り返されていたエルネスティに対する非難を全て払拭していまうような、思わず平伏してしまいそうな感覚に陥れるものであった。

会場中が息を呑む音で満たされた。

噂なんて、どうでもいい。

彼は天使である。

普通であれば笑われそうな言葉であるが、その場にいる何人たりとも、そう断言して笑う者はいないだろう。

だが彼らは知らない。我々は忘れてはいけない。

彼らがどうしようもなく変人である、ということを。
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