前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

サルメライネン伯爵領へ

そんなこんなでサルメライネン伯爵領に向けて出発する日になった。俺は玉座の間で父上に勅命を承りにいってきますの挨拶に来ていた。今回のこれは皇帝父上の公式な命令だからね。形だけでもちゃんとしないといけないんだ、

俺は帝国我が国の重鎮たちに囲まれ居心地が悪いなと感じつつも、父上の前で膝をついて頭を垂れた。

「……これを以て我が国第四皇子、エルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララに命令を下す。サルメライネン伯爵領にてパロメロ皇国大使と面会し、我が国とパロメロ皇国の友好をより強固なものにせよ」

「はっ!皇帝陛下の仰せのままに」

父上は皇帝の紋章があしらわれたバッチを掲げてそう宣言すると、枢長にそのバッチを渡した。枢長は丁寧に白い布を乗せた両の手のひらでそれを受け取ると、俺の前までゆっくりとした足取りでやって来て、俺の前で膝をついてバッチを差し出す。その間に立ち上がった俺は、一礼してそのバッチを受け取った。

先程はこのバッチを持った状態で命令を下すことで、このバッチが勅命執行中を示す目印にしたのだ。つまりこれを使えば有名なあの『この紋所が目に入らぬかー!?』ってヤツが出来るって訳。まあしないけど。

俺は落とさないよう細心の注意を払いながらそのバッチを俺の左胸につけた。傾いていないか枢長に目配せして確認し、枢長が頷いたので俺は威勢を正して父上に向き直った。

「……不肖エルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララ、勅命を承りてサルメライネン伯爵領へ行って参ります」

「うむ。旅路には気をつけるように」

「はっ!」

俺は腹から声を出してビシッと最敬礼をした。父上は満足気に頷く声が聞こえる。

「これにて勅命式は終了とする。我はエルネスティと2人で話しておきたいことがある。皆は速やかに退出せよ」

「「「かしこまりました」」」

国のお偉いさんたちは一斉に最敬礼をして、ピシッと声を揃えた。そして身分の高い者から順々に退出していく。

……凄いなコーラスってか軍隊みたいだな。父上ってやっぱり皇帝偉い人なんだなって思う。いや知ってたけどさ。なんかいつもの変人コレクター俺限定過保護の印象が。

「エルネスティよ。よもや失礼なことを考えてはおらぬな?」

軽率に俺の考えを言い当てないでくれるかな心臓に悪い!


* * *


「……さて、皆も出て行ったことだ。堅苦しいものは抜きにしよう」

「……出発する前から疲れました」

俺は凝った肩を回した。堅苦しくて重苦しいあの場の空気は慣れない。手元が狂わないかヒヤヒヤした。

「皇族たるもの、これからこのような場に出席することは増えるだろう。今のうちに慣れておけ」

「……ですよね……はあ」

「そう落ち込むな。初めてにしてはサマになっていたぞ」

「本当ですか?ありがとうございます」

父上に褒められて、俺はちょっぴり舞い上がった。だって父上からはいつも呆れ面白がられてばっかりだもん。いやそれは俺の普段の行いが問題なんだけどさ。

「そんなお前に良い知らせと暗い知らせの2つがある。どちらから聞きたい?」

「……悪い知らせではなく、暗い知らせ、ですか?」

「ああ。悪いかどうかはお前の捉え方次第だ」

俺はいきなりテンプレ選択肢を突きつけられてキョトンとした。良い知らせと暗い知らせ。これから旅に出るのに、重い気分で出発したくないな。なら暗い話からか。

「では暗い知らせからお願いします」

「うむ。……魔法を誤発したアムレアン王国の騎士の処罰が決まった」

「……早いですね」

「まあ国交問題にもなる事案だからな。処罰は……奴隷階級への身分の降格だ」

父上の言葉に俺は頭が真っ白になった。えっ……奴隷階級……?そこまで重罰になったの……?それともこれは、殺されなくて良かったって言うべきなの……?

「正確には犯罪奴隷階級だな。奴隷の中でも最も身分の低い階級だ」

「……何故、そんな……」

「他国の皇族の、しかも皇帝のお気に入りを殺害しようとしたのだ。死刑でないだけまだ軽い」

「ですが!彼は故意にではなく!」

「我々はそう判断したが、王国側は殺意があったと判断したようだ」

「そんな……」

俺は激しく後悔した。俺があの時何らかの処罰をしていれば、もしかしたら彼は奴隷にならなくて済んだかもしれない。彼は俺から何も奪っていない。なのに俺は、彼から自由と騎士と言う身分を奪ってしまった。

騎士の身分はもう返せない。なら俺はどうするべきか。

「……父上。我が国で奴隷の売買は禁止されていますか?」

「……その奴隷を買うつもりか?」

「はい。彼からあらゆるものを奪ってしまった、せめてもの贖罪です」

せめて俺の元で、自由を返してあげないと。

父上はじっと俺を見つめた後、やれやれと言った様子で溜息をついた。

「お前ならそう言うと思っていたぞ。……だがしかし、我が国では奴隷の売買は禁止されている。それは皇族も同じだ」

「……そう、ですか」

「だが例外はある。その奴隷が我が国で罪を犯した者であれば、我が国の法で裁くために買い取ることが可能だ」

「本当ですか!?」

気落ちしていた俺は縋り付く思いで顔を上げた。父上は厳粛に頷く。

「ああ。丁度アムレアン王国側も、彼の所在に困っているようだ。王国では犯罪奴隷は被害者かその家族、関係者の元へ送られるのだが、王国にはお前も、お前の関係者もいないからな。使者が貰い受けてくれないかと言っていた」

「ええ。貰います。いえ、帝国の法に則って、私のお金で買います」

「わかった。お前が宮殿に帰って来る頃には売買の準備が整っているよう、手配しておく」

「ありがとうございます」

俺は胸を撫で下ろしながら礼を言った。俺の傍にいれば、最低限の自由を保障してやることが出来る。それに今は人手不足で困っていたんだ。渡りに船だ。

父上は安堵する俺に苦笑いして零した。

「……さて、重い知らせはこれくらいにして、良い知らせの方に移ろう」

「はい。一体なんでしょうか?」

「お前の旅路の友となる書物についてだ」

「……?図書館の書物ではないのですか?」

俺はキョトンとした。図書館の書物を持っていく予定で、旅の準備期間中図書館に篭って厳選したのだ。もう直ぐ全部読破するので、この旅路でそれを達成しようと計画してたけど、駄目なのか?

「当たり前だ。宮殿図書館の本は基本的に持ち出し禁止だ。お前だけ例外には出来ん」

「えっ!?なら約束はどうなるのですか!?」

「落ち着け。我が用意しておる」

焦る俺を父上は窘めて、枢長に目配せをした。枢長はどこからか本を一冊取り出して、俺の前に差し出す。

「良い本が手に入った。それはそのうちの一冊であるが、それの関連書などを大量に用意しておる。それで文句はないだろう?」

俺は見慣れない文字の題名に目を瞬かせながらも、それがどこの言語か考えた。多分これは……多分ベル文字。つまりベル語、ベイエル王国が第二公用語としている言語だ。

俺は遠い昔に嗜んだベル語学の記憶を引っ張り出しながら、題名を翻訳していく。ええっと、古代、魔法、陣、研究……。

「……こっ!これは!」

俺は目を丸くしながら、そして爛々と輝かせながらがばりと顔を上げ、父上を凝視する。そんな俺に父上は悪どい笑みを浮かべ、「満足だろう?」と尋ねるのであった。




* * * * * * * * *




2020/08/24
一部誤字を修正しました。
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